とある少年の苦悩
⭐︎ ⭐︎ ⭐︎
ユーリは必死だった。
日本に勝たなければ、自分の居場所は無くなってしまう。どんな手を使ってでも、勝たなければ。そんなことばかり考えていた。
⭐︎ ⭐︎ ⭐︎
こぼれ球を拾った日本チームの美少年に、ユーリは容赦なく電撃ショックを与えた。驚くマリクに、彼は冷徹な声で言い放つ。
「ベルナルド様の指示だ。」
マリクの葛藤する顔が目に映る。彼の気持ちは痛いほど分かるのだ。でも、やらなければならない。
ふと、脳裏にフロイの姿が浮かんだ。彼の、追い込まれても尚屈しない、意志の強い瞳を思い出す。
「…フロイ。俺は君のようにはなれない。」
どんな手を使ってでも、日本に勝たなければならない。
日本選手が次々と倒れ、ユーリはそのまま日本のゴールへと突き進む。ゴール前では、3人のDFが守りを固めていた。そして、その内の一人の少女と目が合った。
「ユーリ…!!」
その少女は、綺麗な顔を歪ませてこちらを睨みつけていた。怒りに満ち溢れたその顔は、彼の心を揺らした。
彼の脳裏には、かつて彼女が自分に向けてくれた、美しく優しい笑顔がはっきりと浮かび上がる。
昔、練習に疲れてグラウンドに座り込んでいた自分に手を差し伸べ、これでもかと云うくらい綺麗に笑ってくれた。
あの日の笑顔と、今自分に向けられた怒りの表情を比較し、彼は何とも言えぬ思いに苛まれた。
・
本当は、こんなことやりたくない。フロイと共に楽しいサッカーをしたかった。
でも、無理なのだ。もう、無理なのだ。
「必殺タクティクス、オーロラウェーブ!!」
賽は投げられた。どんなに後悔しても、もう遅い…。
・
試合終了のホイッスルが鳴り響いた。結果は3対2で、ロシアの逆転勝利だった。
「…ユーリ」
ゴール前に座り込み、目を押さえながら、蘇芳色の髪を持つ少女が彼の名前を呼ぶ。俯いていることもあり、その少女がどんな顔をしているのかは分からない。
「貴方なら分かってくれると、どこかで期待してた。」
その声は、怒りというよりも悲しみの色が強い。彼女はゆっくりと顔を上げ、ユーリを見上げた。そして、悲しそうな、咎めるかの様な何とも言えぬ笑顔を浮かべた。
「でも、私の思い違いだったみたい。…失望したわ」
その言葉が、その表情が、ユーリの心に突き刺さる。
_やめてくれ、そんな顔で見ないでくれ。
_君にそんな顔をされたら、俺はとても立っていられない。
でも、こうなることは分かっていた。きっともう、彼女が自分に大好きだったあの笑顔を見せてくれることはない。
ユーリは歯を食い縛り、ギュッと拳を握りしめた。
「…結構だよ。これが俺の覚悟だ」
彼女から目を逸らし、やっとの思いでそう言った。
グラウンドから立ち去る時、ユーリは言い表しようの無い喪失感に苛まれた。目的を果たし、満足いく結果のはずだった。なのに、張り裂けそうな程胸が痛い。
「…ああ。俺、大切な者を失くしてしまったんだな」
大切なチームメイトと、好きだった人の笑顔。自分の居場所と引き換えに、大切な者を2つも失くした。
金髪の美しい少年は、空を見上げ諦めた様な表情を浮かべた。
fin.
ユーリは必死だった。
日本に勝たなければ、自分の居場所は無くなってしまう。どんな手を使ってでも、勝たなければ。そんなことばかり考えていた。
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こぼれ球を拾った日本チームの美少年に、ユーリは容赦なく電撃ショックを与えた。驚くマリクに、彼は冷徹な声で言い放つ。
「ベルナルド様の指示だ。」
マリクの葛藤する顔が目に映る。彼の気持ちは痛いほど分かるのだ。でも、やらなければならない。
ふと、脳裏にフロイの姿が浮かんだ。彼の、追い込まれても尚屈しない、意志の強い瞳を思い出す。
「…フロイ。俺は君のようにはなれない。」
どんな手を使ってでも、日本に勝たなければならない。
日本選手が次々と倒れ、ユーリはそのまま日本のゴールへと突き進む。ゴール前では、3人のDFが守りを固めていた。そして、その内の一人の少女と目が合った。
「ユーリ…!!」
その少女は、綺麗な顔を歪ませてこちらを睨みつけていた。怒りに満ち溢れたその顔は、彼の心を揺らした。
彼の脳裏には、かつて彼女が自分に向けてくれた、美しく優しい笑顔がはっきりと浮かび上がる。
昔、練習に疲れてグラウンドに座り込んでいた自分に手を差し伸べ、これでもかと云うくらい綺麗に笑ってくれた。
あの日の笑顔と、今自分に向けられた怒りの表情を比較し、彼は何とも言えぬ思いに苛まれた。
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本当は、こんなことやりたくない。フロイと共に楽しいサッカーをしたかった。
でも、無理なのだ。もう、無理なのだ。
「必殺タクティクス、オーロラウェーブ!!」
賽は投げられた。どんなに後悔しても、もう遅い…。
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試合終了のホイッスルが鳴り響いた。結果は3対2で、ロシアの逆転勝利だった。
「…ユーリ」
ゴール前に座り込み、目を押さえながら、蘇芳色の髪を持つ少女が彼の名前を呼ぶ。俯いていることもあり、その少女がどんな顔をしているのかは分からない。
「貴方なら分かってくれると、どこかで期待してた。」
その声は、怒りというよりも悲しみの色が強い。彼女はゆっくりと顔を上げ、ユーリを見上げた。そして、悲しそうな、咎めるかの様な何とも言えぬ笑顔を浮かべた。
「でも、私の思い違いだったみたい。…失望したわ」
その言葉が、その表情が、ユーリの心に突き刺さる。
_やめてくれ、そんな顔で見ないでくれ。
_君にそんな顔をされたら、俺はとても立っていられない。
でも、こうなることは分かっていた。きっともう、彼女が自分に大好きだったあの笑顔を見せてくれることはない。
ユーリは歯を食い縛り、ギュッと拳を握りしめた。
「…結構だよ。これが俺の覚悟だ」
彼女から目を逸らし、やっとの思いでそう言った。
グラウンドから立ち去る時、ユーリは言い表しようの無い喪失感に苛まれた。目的を果たし、満足いく結果のはずだった。なのに、張り裂けそうな程胸が痛い。
「…ああ。俺、大切な者を失くしてしまったんだな」
大切なチームメイトと、好きだった人の笑顔。自分の居場所と引き換えに、大切な者を2つも失くした。
金髪の美しい少年は、空を見上げ諦めた様な表情を浮かべた。
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