とある少年の苦悩

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 ユーリは必死だった。
 日本に勝たなければ、自分の居場所は無くなってしまう。どんな手を使ってでも、勝たなければ。そんなことばかり考えていた。




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 こぼれ球を拾った日本チームの美少年に、ユーリは容赦なく電撃ショックを与えた。驚くマリクに、彼は冷徹な声で言い放つ。


「ベルナルド様の指示だ。」


 マリクの葛藤する顔が目に映る。彼の気持ちは痛いほど分かるのだ。でも、やらなければならない。
 ふと、脳裏にフロイの姿が浮かんだ。彼の、追い込まれても尚屈しない、意志の強い瞳を思い出す。


「…フロイ。俺は君のようにはなれない。」


 どんな手を使ってでも、日本に勝たなければならない。
 日本選手が次々と倒れ、ユーリはそのまま日本のゴールへと突き進む。ゴール前では、3人のDFが守りを固めていた。そして、その内の一人の少女と目が合った。


「ユーリ…!!」


 その少女は、綺麗な顔を歪ませてこちらを睨みつけていた。怒りに満ち溢れたその顔は、彼の心を揺らした。
 彼の脳裏には、かつて彼女が自分に向けてくれた、美しく優しい笑顔がはっきりと浮かび上がる。
 昔、練習に疲れてグラウンドに座り込んでいた自分に手を差し伸べ、これでもかと云うくらい綺麗に笑ってくれた。
 あの日の笑顔と、今自分に向けられた怒りの表情を比較し、彼は何とも言えぬ思いに苛まれた。











 本当は、こんなことやりたくない。フロイと共に楽しいサッカーをしたかった。
 でも、無理なのだ。もう、無理なのだ。


「必殺タクティクス、オーロラウェーブ!!」


 賽は投げられた。どんなに後悔しても、もう遅い…。










 試合終了のホイッスルが鳴り響いた。結果は3対2で、ロシアの逆転勝利だった。


「…ユーリ」


 ゴール前に座り込み、目を押さえながら、蘇芳色の髪を持つ少女が彼の名前を呼ぶ。俯いていることもあり、その少女がどんな顔をしているのかは分からない。


「貴方なら分かってくれると、どこかで期待してた。」


 その声は、怒りというよりも悲しみの色が強い。彼女はゆっくりと顔を上げ、ユーリを見上げた。そして、悲しそうな、咎めるかの様な何とも言えぬ笑顔を浮かべた。


「でも、私の思い違いだったみたい。…失望したわ」


 その言葉が、その表情が、ユーリの心に突き刺さる。


_やめてくれ、そんな顔で見ないでくれ。
_君にそんな顔をされたら、俺はとても立っていられない。


 でも、こうなることは分かっていた。きっともう、彼女が自分に大好きだったあの笑顔を見せてくれることはない。
 ユーリは歯を食い縛り、ギュッと拳を握りしめた。


「…結構だよ。これが俺の覚悟だ」


 彼女から目を逸らし、やっとの思いでそう言った。
グラウンドから立ち去る時、ユーリは言い表しようの無い喪失感に苛まれた。目的を果たし、満足いく結果のはずだった。なのに、張り裂けそうな程胸が痛い。


「…ああ。俺、大切な者を失くしてしまったんだな」


 大切なチームメイトと、好きだった人の笑顔。自分の居場所と引き換えに、大切な者を2つも失くした。
 金髪の美しい少年は、空を見上げ諦めた様な表情を浮かべた。





fin.
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