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向日葵

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 日本の夏は暑い。昼間は太陽がじりじりと照りつけ、肌を焦がしていく。それだけならまだ良いのだが、湿気のせいでじめじめとした嫌な感覚を覚え、冴花は羽織っていた薄手のパーカーを脱ぎ腰に巻き付けた。
 露わになった彼女の白い肩にも、日差しは容赦なく照りつける。しかし、その肌には心地の良い風が当たり幾分か涼しく感じるのだった。


「こんな暑い日には、かき氷が食べたくなるね。」


 冴花は後ろを振り向くと、同じく暑そうな顔をしていたフロイに声を掛けた。フロイは、ノースリーブで前を歩いていた彼女の顔を見つめる。少し無防備ではないかと思いつつ、顔を滴っていく汗を拭った。


「カキゴオリ?何だい、それは。」


 不思議そうな顔をする彼を見て、冴花は「ああ、そうか」と声を漏らした。


「ロシアには氷を食べる習慣が無いんだよね。…うん、折角だから食べていこう!」


 彼女はそう言うと、フロイの手を握って歩き出した。
 気温が高すぎる為だろうか、彼女の手がひんやりと冷たく感じる。それが心地良くて、彼女の指に自分の指を絡ませた。細っそりとしているけど、女の子らしい柔らかさもある小さな手が愛おしかった。


「あ、見て!向日葵畑!」


 ぱっと顔を輝かせた冴花の視線の先には、背の高い無数の向日葵が咲き誇っていた。太陽の光を浴びて輝くその姿は凛々しく美しい。


「ヒマワリ…。綺麗だね。」


 フロイは目を細めてそう言った。ロシアの国花でもあるその花は、彼にとって思い入れのある物だった。


「あなただけを見つめる。」


 唐突な彼の言葉に、冴花は不思議そうな顔をした。それが向日葵の花言葉であると気付くまで、数秒かかった。


「君へ贈る言葉だよ。昔からずっと…。」


 愛おしそうに見つめてくるフロイに、ぎゅっと胸が締め付けられる様な感覚を覚えた。唯でさえ熱を帯びていた頬が余計に熱くなる。
 彼が、どれだけの時間をどの様な思いで過ごしてきたのか、想像するだけで泣きそうになる。


「…私も、あなただけを見つめる。これからはずっと。」


 嘗て充に向いていた想いは確かにフロイへと向いている。いや、そうではない。彼に気持ちが向いてから、充への想いを知ったのだ。
 フロイは、泣き笑いの様な顔をしている冴花の額にそっと口付けると、彼女の手を引き歩き出した。先程まで冷たかった彼女の手から、ほんのりと熱が伝わってくる。


「フロイくん、クイズです。アイスクリームみたいに、冷たくて甘いスイーツのこと日本語で何ていうでしょうか?」


 照れ隠しなのか、突然そんなことを口走る彼女に苦笑しつつ、フロイは「分からないなぁ」と首を傾げた。


「"氷菓"っていうんだよ。あんな字を書くの。」


 彼女が指差した先には小さな小屋があり、『氷菓』と書かれた旗が立て掛けてあった。


「あそこでかき氷食べよう。美味しいんだよ。…それに、そろそろ影で休みたいしね。余計に暑くなっちゃった、誰かさんのせいで。」


 ペロリと舌を出して悪戯っぽく笑った冴花を見て、少年の頬が赤く染まった。





fin.
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