向日葵
⭐︎ ⭐︎ ⭐︎
日本の夏は暑い。昼間は太陽がじりじりと照りつけ、肌を焦がしていく。それだけならまだ良いのだが、湿気のせいでじめじめとした嫌な感覚を覚え、冴花は羽織っていた薄手のパーカーを脱ぎ腰に巻き付けた。
露わになった彼女の白い肩にも、日差しは容赦なく照りつける。しかし、その肌には心地の良い風が当たり幾分か涼しく感じるのだった。
「こんな暑い日には、かき氷が食べたくなるね。」
冴花は後ろを振り向くと、同じく暑そうな顔をしていたフロイに声を掛けた。フロイは、ノースリーブで前を歩いていた彼女の顔を見つめる。少し無防備ではないかと思いつつ、顔を滴っていく汗を拭った。
「カキゴオリ?何だい、それは。」
不思議そうな顔をする彼を見て、冴花は「ああ、そうか」と声を漏らした。
「ロシアには氷を食べる習慣が無いんだよね。…うん、折角だから食べていこう!」
彼女はそう言うと、フロイの手を握って歩き出した。
気温が高すぎる為だろうか、彼女の手がひんやりと冷たく感じる。それが心地良くて、彼女の指に自分の指を絡ませた。細っそりとしているけど、女の子らしい柔らかさもある小さな手が愛おしかった。
「あ、見て!向日葵畑!」
ぱっと顔を輝かせた冴花の視線の先には、背の高い無数の向日葵が咲き誇っていた。太陽の光を浴びて輝くその姿は凛々しく美しい。
「ヒマワリ…。綺麗だね。」
フロイは目を細めてそう言った。ロシアの国花でもあるその花は、彼にとって思い入れのある物だった。
「あなただけを見つめる。」
唐突な彼の言葉に、冴花は不思議そうな顔をした。それが向日葵の花言葉であると気付くまで、数秒かかった。
「君へ贈る言葉だよ。昔からずっと…。」
愛おしそうに見つめてくるフロイに、ぎゅっと胸が締め付けられる様な感覚を覚えた。唯でさえ熱を帯びていた頬が余計に熱くなる。
彼が、どれだけの時間をどの様な思いで過ごしてきたのか、想像するだけで泣きそうになる。
「…私も、あなただけを見つめる。これからはずっと。」
嘗て充に向いていた想いは確かにフロイへと向いている。いや、そうではない。彼に気持ちが向いてから、充への想いを知ったのだ。
フロイは、泣き笑いの様な顔をしている冴花の額にそっと口付けると、彼女の手を引き歩き出した。先程まで冷たかった彼女の手から、ほんのりと熱が伝わってくる。
「フロイくん、クイズです。アイスクリームみたいに、冷たくて甘いスイーツのこと日本語で何ていうでしょうか?」
照れ隠しなのか、突然そんなことを口走る彼女に苦笑しつつ、フロイは「分からないなぁ」と首を傾げた。
「"氷菓"っていうんだよ。あんな字を書くの。」
彼女が指差した先には小さな小屋があり、『氷菓』と書かれた旗が立て掛けてあった。
「あそこでかき氷食べよう。美味しいんだよ。…それに、そろそろ影で休みたいしね。余計に暑くなっちゃった、誰かさんのせいで。」
ペロリと舌を出して悪戯っぽく笑った冴花を見て、少年の頬が赤く染まった。
fin.
日本の夏は暑い。昼間は太陽がじりじりと照りつけ、肌を焦がしていく。それだけならまだ良いのだが、湿気のせいでじめじめとした嫌な感覚を覚え、冴花は羽織っていた薄手のパーカーを脱ぎ腰に巻き付けた。
露わになった彼女の白い肩にも、日差しは容赦なく照りつける。しかし、その肌には心地の良い風が当たり幾分か涼しく感じるのだった。
「こんな暑い日には、かき氷が食べたくなるね。」
冴花は後ろを振り向くと、同じく暑そうな顔をしていたフロイに声を掛けた。フロイは、ノースリーブで前を歩いていた彼女の顔を見つめる。少し無防備ではないかと思いつつ、顔を滴っていく汗を拭った。
「カキゴオリ?何だい、それは。」
不思議そうな顔をする彼を見て、冴花は「ああ、そうか」と声を漏らした。
「ロシアには氷を食べる習慣が無いんだよね。…うん、折角だから食べていこう!」
彼女はそう言うと、フロイの手を握って歩き出した。
気温が高すぎる為だろうか、彼女の手がひんやりと冷たく感じる。それが心地良くて、彼女の指に自分の指を絡ませた。細っそりとしているけど、女の子らしい柔らかさもある小さな手が愛おしかった。
「あ、見て!向日葵畑!」
ぱっと顔を輝かせた冴花の視線の先には、背の高い無数の向日葵が咲き誇っていた。太陽の光を浴びて輝くその姿は凛々しく美しい。
「ヒマワリ…。綺麗だね。」
フロイは目を細めてそう言った。ロシアの国花でもあるその花は、彼にとって思い入れのある物だった。
「あなただけを見つめる。」
唐突な彼の言葉に、冴花は不思議そうな顔をした。それが向日葵の花言葉であると気付くまで、数秒かかった。
「君へ贈る言葉だよ。昔からずっと…。」
愛おしそうに見つめてくるフロイに、ぎゅっと胸が締め付けられる様な感覚を覚えた。唯でさえ熱を帯びていた頬が余計に熱くなる。
彼が、どれだけの時間をどの様な思いで過ごしてきたのか、想像するだけで泣きそうになる。
「…私も、あなただけを見つめる。これからはずっと。」
嘗て充に向いていた想いは確かにフロイへと向いている。いや、そうではない。彼に気持ちが向いてから、充への想いを知ったのだ。
フロイは、泣き笑いの様な顔をしている冴花の額にそっと口付けると、彼女の手を引き歩き出した。先程まで冷たかった彼女の手から、ほんのりと熱が伝わってくる。
「フロイくん、クイズです。アイスクリームみたいに、冷たくて甘いスイーツのこと日本語で何ていうでしょうか?」
照れ隠しなのか、突然そんなことを口走る彼女に苦笑しつつ、フロイは「分からないなぁ」と首を傾げた。
「"氷菓"っていうんだよ。あんな字を書くの。」
彼女が指差した先には小さな小屋があり、『氷菓』と書かれた旗が立て掛けてあった。
「あそこでかき氷食べよう。美味しいんだよ。…それに、そろそろ影で休みたいしね。余計に暑くなっちゃった、誰かさんのせいで。」
ペロリと舌を出して悪戯っぽく笑った冴花を見て、少年の頬が赤く染まった。
fin.