とある少年の告白

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 この少女は、自分が彼に向けている気持ちの正体を知らない。僕にとっては充も光も同じだが、昔から彼らを知っている彼女にとっては違うのだろう。


 彼女は、一星充に特別な感情を抱いていた。そして、その想いに気づかぬまま彼と別れを迎えたのだ。
 彼女は今、自分がどんな顔をしているか分かっているのだろうか。愛おしそうに夜空を見上げている彼女の横顔はこの世の者とは思えないほど儚く美しい。
 自分の気持ちに気付く事なく居ない人を想う哀れな少女に、僕は何が出来るだろう。彼の代わりになんてなれる訳がない。きっと、彼女の心は永遠に彼の物だろう。
 それでも、少しでも良いからこちらを見て欲しい。ずっと心の奥底に閉じ込めているこの想いは、絶対彼女に伝えないと決めていた。彼女が僕に望むのは、親友だから。
 いつだったか、彼女が僕に言った親友という2文字は、残酷ではあるが嬉しい言葉でもあった。どんな形であれ、この少女の特別になれるならそれで十分だと思った。
 行き場のない想いを抱えているのは僕だけじゃない。目の前の少女も、一生叶うことのない想いを抱えてこの先生きていくのだろう。


「僕にしなよ。」


 そう言えたらどんなに良いだろう。でも、言えない。もし自分が冴花じゃない他の誰かから同じことを言われたとしても、そんなの慰みにもならない。恐らく彼女も同じだろう。
 綺麗ごとなんかじゃなくて、僕は心から冴花と充が結ばれることを祈っていた。好きの意味は違えど、僕は充のことも大好きだった。だから、大好きな2人が結ばれて欲しいと思っていたし、彼らほどお互いのことを想っている人たちは見たことがなかった。
 だから彼女への想いを自覚してからも、敵う訳がないとその恋心に蓋をした。そしてこれから先も蓋を開けることはない。


「冷えて来たし、そろそろ帰ろうか。」


 彼女がこちらを向いて微笑んだ。
 僕はこの子の笑顔が好きだった。花の様に可憐で、優しく包み込んでくれる様な彼女の笑顔が大好きだ。この笑顔が誰にでも向けられる物ではないと分かっている。それだけが救いだった。


「そうだね。…送ってくよ。」


 僕がそう言うと、彼女はへらっと笑った。


「大丈夫だよ。私強いから、不審者なんて撃退できるさ。」


 何とも彼女らしい言葉だ。冴花は昔から、よく分からない所に自信を持っていた。


「送らせてよ…。少しでも一緒に居たいんだ。」


 これくらいなら、許してくれるだろう。勘の良い彼女なら、もしかしたら気付くかもしれない。でも、それで良いのだ。彼女が側にいるうちに、少しでも良いから爪痕を残したい。


「…不思議な事を言うね。いつでも会えるだろうに。」


 眉を八の字にして微笑む彼女は、敢えてそれ以上言わなかったのだろう。きっとこの子は、僕の気持ちに気付かぬふりをしてくれる。
 僕は、冴花のそういう所が憎らしくて愛しくて、大好きだった。





fin.
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