とある少女の物語【過去編】





 青い少年に出会ったのは、良く晴れた暑い夏の日だった。放課後、日直の仕事で花壇に水やりをしている時、偶然通りかかった彼に私から声をかけた。


「こんにちは。今日はいい天気ですね。」


 今思えば、不要な挨拶だったと思う。見知らぬ人間にそこまで愛想良くする必要など無かったと思う。でもその時の私は皆から好かれるのに必死で、とにかく色んな人に媚を売っていた。


「…ああ、そうだな。」


 その少年は、少し間を置いてそう答えた。彼の表情からは驚きと戸惑いが読み取れ、自分と違い素直な人間なのだろうと思った記憶がある。
 そして彼は暫く私の顔を見ていたが、突然あるひとことを発した。そのひとことは、当時私が一番言われたくない言葉だった。


「なんかお前、可哀想。」


 それを聞いた時、何かに打たれた様な感覚を覚えた。それと同時に、ふつふつと怒りが湧いてくるのを感じていた。


「…は?可哀想?この私が?」


 この時の私の表情はかなり酷かったらしく、後に彼は「悪魔みたいな顔してた」と語った。


「面白いこと言いますね。私が可哀想だなんて、貴方の目はどうかしてるわ。」


 私は学校では確かな立ち位置を築いていたと思っていたので、彼のひとことでプライドを傷つけられ、怒りを隠すことが出来なかった。
 何か言いかけた彼の肩に自分の肩をぶつけると、私はその場を後にした。






 私は、同情されるのが一番嫌だった。自分が惨めなのは分かっているし、他人の顔色を伺い自分の居場所を確立していく方法でしかやっていけない哀れな人間だと思う。でも、分かっているからこそ、他人に同情されるのはあの時の私にとって耐え難い屈辱だった。


「何を偉そうに。馬鹿にするなよ…!」


 1人になってからも苛立ちは収まらず、私は二度と彼を視界に入れまいと固く誓った。
 しかし運命とは皮肉なもので、私は数日後彼と再び遭遇することになる。








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