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戦闘民族メメメ人

怒鳴ったそばから、ウジャウジャとした不快感が腹の中に渦巻きだした。
これ以上、天津飯に真をついて欲しくないという拒絶感だった。
この男の言うことは、確かに真をついているのだ。
人造人間の事を、忘れていた訳では無いけれども、己の修行に対する打ち込みかたは天津飯に比べればだらしないモノなのだろうと思う。
砂漠の熱波にダレてしまって、ゴロゴロしながらテレビなんか見てる姿は天津飯には見せられない姿だと思うし、それを思うと武闘家として堂々とこの男に対峙する自信というのが、イマイチ自分の中には見つけられないのだ。

そして、あの夜、変わり果てたベジータが訪ねてきて以来。
自分がずーっと頭をいっぱいにしているのは、他者の事ばかりだ。
そこに、己の修行の事とか人類の未来の事とか、つけいる隙もないぐらいに他人事ばかりに懸命になって、切り捨てる度胸も無いまま振り回されたあげくに、全く無関係の天津飯にすがりついている、この情けない様である。

天津飯に比べると、自分はなんと半端な武道者なのだろう……

「ああ、お前は凄いヤツだよ!オレなんかにゃ一生追いつけねえ立派な求道者だよ!」

けれども、認められない、認めるわけにはいかなかった。
ヤムチャは頭に血を上らせながら、なおも怒鳴った。
界王星での修行が無駄などと言う……
あの特殊な環境の中で見せていた最高の姿だけを自分の全てだと勘違いされ、今の自分を無価値と断じて〝却下〟されるなど、そんな残酷な審判だけは受けたくはなかったのだ。
だからヤムチャは怒鳴ってしまった。
「でもオレにだって、大事なモノはあるし、それを守ってやりたいと思う気持ちは、バカにはされたくねえんだよ!お前は餃子と二人っきりで、孤高な感じで修行が出来るだろうけどなあ!オレは違うんだよ!オレはお前と違って、下界にはたくさんの人間関係を抱えてるんだ!そのどれもがオレにとっては大切なもので、お前みたいに単純に物事が運ぶようには出来てねえんだ!そういう事も知らねえで、偉そうに説教してくんじゃねえよ!」
ヤムチャは、腹の中にあるもの全てを、からっぽになるまで怒鳴りきった。
脳裏にはブルマや、CCの面々や古くからの仲間たちの顔ぶれがよぎっていった。
どれもかけがえのない、大切なものだった。
幽幻ともいえるほどの、冷たい濃霧の中を自分の声が彼方まで響き渡るのを聞いた。
天津飯がどう思うのかなんて事は、頭に無かった。
ただ、この男に、女にフラフラまどわされるだけの軽薄な人間だと誤解されるのだけは絶対に避けたかった。

やがて、怒気を孕んだ自分のこだまが完全に消え失せたとき。
見ると、天津飯は目をまるくして、黙りこくってこちらを凝視していた。
少し、気圧されているような様子だった。
こういう心情を、怒気を込めて、ここまで本気で叫んだ事は今までに無かったと思う。
二人の間には、重苦しい沈黙が横たわっていた。
これに気づいたヤムチャは、今度はザワザワと不安な気持ちに襲われてしまった。
ちょっと言い過ぎたような気がする。
「…………」
何か喋らないとヤバい。
ごくりと唾を飲み込んだ。
焦りが生じてきた。
でも焦るほどに、喉が塞ぎ込み、緊迫してしまった。
天津飯の顔色が、冷たく凍てついているように見えたからだ。
界王星での修行は、困難を極めた。
その中でこの男と育んだ友情や絆は、そうそう簡単に崩れないものである。
でももしかしたら。
今の自分の心ない言動によって、傷が入ってしまったのではないか……?
こちらは、そんな事は望んでいないのだ。
何か喋らないと。
早く空気を変えるような事を喋らないと……
そのように焦るのだが、怒鳴った勢いで思考力も何もかもどこかへ吹き飛んでしまったように頭は空っぽになっていた。
「……すまない」
先に謝ってきたのは天津飯だった。
遠慮の混じった、弱い声だった。
「……決して、お前を傷つけるつもりは……」
そう言いかけて、天津飯は申し訳なさそうに視線を落とし、静かに目を伏せてしまった。
なんと、額の目まで閉じられていた。
それを見たヤムチャは、あわわわ!と焦って、手を振りながら言葉を探し始めた。
しかし、狼狽にのまれて、まるで台詞が出てこなかった。
天津飯は、眠る以外に額の目を閉じる事など、ほとんど無いのだ。
三つの目を全て伏せている天津飯を見ていると、ヤムチャは泣きそうになってきた。
「て、天、違うんだ、今のは、その、」
「そうだな、お前の事情など何も知らずに、上から物を言いすぎてしまったな」
「いやその……、正しいっ!お前は正しいぞ?お前の言うことはもっともな事で、駄目なのはだらしないオレの方なんだよな!うん!」
ヤムチャは頑張って爽やかな笑顔を作ってみるのだが、全く出来てる自信がなかった。
今の自分の顔を鏡でみたら、情けなくて死にそうなぐらいに格好の悪いゴマすり面になってるのではないか……?
オレを嫌わないでくれ。
という一心。
ただその一心である。
天津飯は大切な友人なのだ。
変にこじれて、関係が暗く悪化し、この先爽やかな笑顔を振り撒けなくなる事だけは避けたい。
青空の下で爽やかな笑顔を交わし合える、この男との関係を失いたくないのだ。
絶対に、失いたくない。
「ははは、あの子に振り回されて困っちまってさ、頼れる者と言ったらお前しか思い当たらなくてさ〜。オレって、お前に甘えすぎだよなあ~」
ははははと笑いながら、いつものように脳天気に頭を掻いて見せた。
けれども天津飯の沈んだ表情は変わらないままだった。
薄く開いた瞼から、暗くのぞいた黒い双眸が、まっすぐに地面に落ちているのだ。
うわああヤベえーーーこいつはヤバいような気がするぞーーーとヤムチャは心の中で焦り狂った。
天津飯が、ゆっくりと口を開いた。
「……確かにオレは、偉そうに言える人間ではない」
天津飯は、ちょっと言いにくそうにして言葉を切ると、わずかに下唇を噛んだ。
ヤムチャは手を上げたままの不格好で動きを止めていた。
銃を向けられた犯罪者の格好にそっくりだった。

「ヤムチャ、オレがあの者を立ち入らせたくないのは、……ただ邪な雰囲気を、嫌っているだけではなく……」

天津飯は、何か諦観したように顔を上げると、まっすぐにヤムチャを見つめてきた。
ヤムチャは動きを止めたまま、天津飯の言葉に耳を傾けた。
なにかを真摯に伝えようとする意向が、天津飯の両目に宿っているように見えたからだ。
天津飯は、ふっとさみしそうな笑みを見せてきた。
「なぜだか、思い出してしまってな。……お前も知ってる事だが、オレは過去に悪に加担していたことがある……。そういう過去を、あの者を見ていると……なぜだか思い出してしまって心が落ち着かんのだ。そんなものはとうに払拭し、揺るがないほどに正しい自分を築けたものと思っていたが、まだ揺さぶられてしまうとはな……。このオレもまだまだ、修行が足りていないという事かな?」
そう言って、天津飯は、ふーとひとつため息をした。
ヤムチャは何も言えなくなってしまった。
天津飯は自分が敵わないぐらいに真面目で立派な武闘家だ。
己を磨き抜くことに一切の妥協をしない男だった。
それに比例して武闘家としては高いプライドを持っているはずなのに、それが弱々しく、こうして胸の内を吐露してくるとは。
もしかして、未熟なこちらに合わせて、プライドを曲げてくれたのだろうか。
仲違いを避けるために……?
天津飯も、こちらに気を遣ってくれているのだろうか?

「ケンカよくない」

ふいに子供の声が割り込んだ。
ヤムチャははっとして声の方を見下ろした。
いつのまにか天津飯の後ろに餃子がくっついていて、半身を隠しながらヤムチャのほうを無表情で見上げていた。
「餃子」
ヤムチャはたちまちに罪悪感に襲われてしまった。
天津飯の相棒、餃子。
年齢は未だに謎だが、見かけは完全に子どもであった
この子に見つめられると、大人として成熟した態度を問われているような気がしてきて、ヤムチャは申し訳ない気分になってくる。
「ご、ごめん、カッとなっちまって……、オレも大人げなかったよな」
弱ったように笑いながら、ヤムチャはペコッと頭を下げた。
「あのー……。オレの言ったこと、全部忘れてくれよ」
それはずいぶん都合の良い台詞だったが、ヤムチャにはそれしか思いつかなかった。
笑顔を向けて言うと、天津飯は少し困ったように眉尻を下げた。
言い争いが云々ではなく、この先の自分の事を心配されているような気がした。
ヤムチャは胸を張って、天津飯と餃子に明るい表情を振りまいた。
「大丈夫だよ、なんとかなるさ!……そうだ、ブルマに相談してみようかなあ?オレ、あいつにフラれちまってさあ、顔合わす勇気が無くて今まで避けてたんだよな、ははは。あいつなら、あの子の事なんとかしてくれるかもな、同じ女なんだし」
なるべくあっけらかんと笑いながら、何事も無かった風にして、ゆっくりと退いた。
「じゃあ行くよ。ごめんな、変な話しちまって」
「ヤムチャ」
きびすを返した瞬間に、天津飯の声が追ってきた。
ヤムチャはなるべく軽い感じで振り向いた。
「なんだよ」
「またいつでもたずねてこい」
天津飯は真面目な顔で、まっすぐにこちらを見つめていた。
ちょっと心配そうな顔色も混じっていた。
天津飯の真摯なまなざしは、二人の友情の関係が傷つくことなく、ちゃんと保たれている証明のようにも見えてくる。
ヤムチャは安堵して、明るい感じで片手をあげてこたえた。
「ああ、また来るよ」

バギーに駆けていき、軽快な動作で乗り込むと、霧に立つふたつの人影にクラクションを二度鳴らしてから、もときた山道を急いで下り始めた。
隣に座っているベジータはそっぽを向いたまま何も語ることなく、黙り続けていた。



「てめえは一体何がしたかったんだ」

ヤムチャは帰り道の山中、頭の中で天津飯との会話を反芻していた。
久々に会った友人の言葉は、ヤムチャにとっては、悪いことだろうが良いことだろうが、一つもとりこぼしたくない大切なものであった。
だから、何度も反芻しながら記憶に強く刻みたくなる。
ヤムチャが一言も喋らないので、ベジータは退屈でもしたのだろうか。
バギーの助手席で偉そうにふんぞり返りながら、先に沈黙を破ってきた。

「何がやりたくて山奥の三つ目をたずねたんだ」

同様の言葉を繰り返してきた。
ヤムチャから返答を引きずりだそうとしている。
天津飯とのやりとりに思いを馳せていたヤムチャは、邪魔されたくなかったので、そこは適当な感じで、
「だから、涼しくて静かな環境に行けば、何か好転するかと思って訪ねたんだよ。でも駄目だな。邪悪な気を持つお前が一緒じゃ、あの〝神聖な〟寺院には、立ち入りが許されんようだ」
と、ナチュラルな感じで答えた。

「………………」

ベジータはそれきり押し黙った。
何も言い返せないようであった。
自分が〝悪〟だという事を自覚しているからだろうか?
ちらっと顔を見やると、やはりベジータはそっぽを向いていて何を考えているのか分からない。
しかし、まるっこいほっぺが、少しだけ膨れているように見えるのは気のせいだろうか……。
機嫌直せよ、もう~ と言いながらそれを突っつきたくなるのをヤムチャは必死に我慢した。

天津飯には頼れなくなってしまった。
問題が山積みのままだ。
この状況をどうすればよいのだろうか。
ヤムチャは悩みながら、バギーを走らせた。

でこぼこの山道をタイヤが踏んで、ガタンガタンと揺れる音だけがしばらく続いた。
上が樹木の枝に覆われているものだから、あたりは暗かった。
ギャー、ギエーと、名も知らぬ鳥類の声がうるさく響き渡っていた。
他にも色々な生き物の鳴き声が聞こえてくる。きっとその中には肉食の猛獣や毒蛇もひそんでいるはずだ。
ヤムチャはタイヤの衝撃にかまわず、スピードを上げた。隣には無力な女体化ベジータが乗っている。
深い山を抜けて、岩肌をさらした山脈を見晴らせる土地まで降り、灰色の砂利道を越えて長閑な田園地帯にさしかかった頃には夕暮れが迫っていた。

「はあ、ちょっと休憩」

ヤムチャは道ばたにバギーを停めて、リクライニングを倒すと、うーんと伸びをした。
バギーの運転は久しぶりだから、体が結構緊張していた。
一般人レベルまで弱体した女体化ベジータを乗せている事もあって、山道の運転には気遣いも必要だったのだ。
道ばたには、赤い果実をたわわに実らせた大きな樹木があって、その枝でちょうど木陰になっていた。
ふいに、ベジータが喉が渇いたと訴えてきた。
「荷台に水があるぞ。飲むか?」
ヤムチャは目をさすりながらたずねてやったが、
「水は要らん」
とベジータは返してきた。
「コレは食えるのか?」
そう言って、頭上に垂れ下がっている赤い果実を指さすベジータ。
ヤムチャはソレに目をこらし、確か同じ果実がマーケットで売られていた事を思い出して「たぶん食える」と答えてやった。
「でも、勝手に採っていいものかな?このあたりの百姓が育ててる木かもしれないぞ?」
ヤムチャが忠告するのも無視して、ベジータは助手席のレザーマットの上に土足で立ち上がった。そして、背伸びをして、枝についている果実をブチブチ千切ってはバギーの中にどんどん放り投げてきた。
「いて、いてて……」
わざとなのか、偶然なのか分からないが、その全てがヤムチャの顔面に落ちてぶつかった。
「ちょ、いて……、痛えーって、ベジータ」
ベジータはガン無視しながら果実を落とし続けた。
そして20個ほど果実を落とすと助手席に座り直し、今度は採った果実をつぶさに検分し始めた。
傷がないか調べたり香りを嗅いでみたり、彼なりにチェックしているようである。
そうして気に入ったものだけ自分の膝の上に載せ、残りはヤムチャの方に放り投げてきた。
半分ぐらいが却下されていた。
まるでこちらをゴミ箱扱いである。
「……。もったいないし、持って帰るか」
ヤムチャは文句を言う気にもならず、その中のひとつを手にとってみた。
ベジータは黙々と果実を食べていた。
小さな口で柔らかい果肉をかじって、一生懸命モグモグしていた。
その水分補給には、必死な様子が見えてくる。
(……水があるのになあ)
ヤムチャは、手に持った果実に視線をうつした。
(ベジータは、水が一番好きなはずなんだけどなあ……)
不思議に思いながら、ヤムチャも果実に歯を立ててみた。
その途端、唾液腺から大量の唾が出て、こめかみが筋張るような強烈な違和感が走った。
「すっぱ!!!」
ヤムチャは囓りとった果実のかけらを、地面にぺっと吐き出した。
「なんだコレ、すっぱーーーー!!」
「ざまあみやがれ」
しらけた面でベジータが言ってきた。
ふふん、とせせら笑う声まで聞こえてきた。
ヤムチャは慌てて後ろの荷台から水を取り出すと、口の中を何度もゆすいだ。
「ど、どうやって、見分けてんだよ?」
自分が持っている果実と、ベジータのソレを見比べるヤムチャ。
……全く違いが分からなかった。
どちらも同じ赤い色だし、同じ熟度にしか見えなかった。
「匂いと感触で、そんな感じがしたのだ」
そう言って、ベジータは二つ目の果実を囓り始めた。
もぐもぐ食べる様子にはなんとなく、うれしそうな感情が見えてくる。
なんとなくだが、その余裕面にはこちらに対して〝してやったり〟みたいなほくそ笑みが浮かんでいるようにも見えた。
ヤムチャは目を丸くしてベジータを見つめ続けた。

……さっきこちらが、ベジータを悪人呼ばわりしたから、まさか、これはその腹いせにやっているのだろうか……?
ベジータは、そんなヤツだっただろうか?
そんなちっぽけな事で、こんな女みたいな陰湿な仕返しをしてくるような、チマチマした男であっただろうか……。

「あんたら、旅行者かね?」
斜め後方から、のんきな老人の声が聞こえてきた。
ヤムチャはハッとして後ろを振り向いた。
バギーから6メートルほど後方の道ばたに、木箱を椅子にして煙草を吹かしている百姓風の老人がこちらを見ていた。
「……あ!す、すみません!」
ヤムチャは背を伸ばして声を張った。
いつから老人がそこに居たのか、全然気づけなかった。
きっと、ベジータが果実を採って食っているのを見られてしまったから、咎められているのだと思った。
「勝手に果物採っちゃって、すみません!えーと、代金!果物の代金はお支払いしますんで」
ヤムチャはペコペコしながら、ベジータが採った果実の数を正確に数え始めた。
すると老人はのんきな声のまま、
「あー。要らんよ。その木の持ち主は、去年おっ死んじまってなあ。好きなだけ持っていくがええよ」
ぷかーっと煙草をふかしながら、夕風を楽しむみたいに老人は目を細めていた。
「よう見分けられるのお~」
老人は、面白いものでも鑑賞するかのように、今度はベジータに視線を向けてくる。
言われたベジータが振り向きもせずに果実を食い続けているので、かわりにヤムチャが相手をした。
「今オレが食ったのは凄く酸っぱかったですけど、どれも同じ色に見えますね……」
ヤムチャが低姿勢で語りかけると、老人はうんうんと優しくうなずいてくれた。
「その果物はなあ、熟したヤツを選別するのが難しくてなあ、経験をつんだ目利きにしか出来ん仕事なんだぁ~。だから高級フルーツだっつってなあ~、ええ価格で西の都の百貨店が引き取ってくれるんだなぁ~」
「あ、あのー、やっぱ代金を……」
「あーー要らん要らん」
老人は虫を払うような仕草でめんどくさそうに手を振った。
「それよりあんたら、早よう宿にいきなされよ。このあたりは夜に野犬が出るからのぉ~、お嬢さんが心配じゃあ」
老人はのんびりとした声で言うと、煙草の吸い殻を地面に落とした。
「よっこいしょ」と言って立ち上がり、「ほんじゃの」と言って木の陰に停めてあった小型のスカイカーに乗ってどこかへ飛んで行ってしまった。
スカイカーとは、田舎者にしてはなかなか洒落た高級車を持っている。
高級果物を売っているから、もしかしたら意外と金持ちなのかもしれなかった。
陽が傾き、あたりの田園には藍色を含んだ夕風が吹いていた。
その風に老人の残した煙草のにおいが乗って、ヤムチャに吹きかかってくる。

「あ……」
そのとき、ヤムチャは脳内のどこかで、何かが光るのを感じた。
老人が椅子代わりにしていた木箱を見ると、忘れ物なのか、新聞が置きっぱなしになっていた。
「そうだ、その手があったんだ……」
ヤムチャは呆然としながら独りつぶやいた。
「なんで今まで気づけなかったんだ。解決方法なら、すぐ近くにあったんじゃないか」
あまりにも、あっけなく解決方法が浮かんできたので、ヤムチャは夢でも見ているんじゃないかと思ったほどだった。

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