第一話 学園のはじまり
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朝。
第一渋谷高校へ向かう道には、これから一日を始める生徒たちの姿が増えていた。
その中を、一人の少年が歩いている。
一瀬グレン。
その少し後ろには、花依小百合と雪見時雨。
そして、もう一人。
水森トワがいた。
「……眠い」
トワが小さく呟く。
「朝からそれ言います?」
小百合が振り返った。
「だって早い」
「学生なんだから普通ですよ」
「普通って何」
「そこから!?」
時雨が苦笑する。
その少し前を歩いていたグレンが、三人の会話を聞きながら面倒そうに振り返った。
「うるせぇな。朝から」
「グレンが一番うるさい」
「なんで俺なんだよ」
「今しゃべったから」
「……」
グレンが黙る。
トワはそんなグレンを見て、ほんの少しだけ笑った。
いつもの朝だった。
――少なくとも、表面上は。
グレンとトワは、周囲から見ればただの仲間だった。
同じ学校へ通い、同じ時間を過ごし、時々くだらないことで言い合う。
それだけ。
二人の間にある、もう一つの関係を知っている人間は限られている。
許嫁。
だが、それを知っている二人自身が、その関係を特別なものとして扱っていなかった。
親が勝手に決めただけ。
それが二人の共通認識だった。
だから――
「今日、帰りどうする?」
トワが聞く。
「知らねぇ」
「じゃあ先帰る」
「おう」
それだけだった。
恋人らしい空気など、どこにもない。
むしろ普通の友人よりも淡白なくらいだった。
小百合はそんな二人を見ながら、ため息をつく。
「……本当に許嫁なんですよね?」
「そうだけど?」
トワは何でもないことのように答えた。
「親が勝手に決めただけだし」
「……グレン様も?」
「俺も同じ」
グレンが即答する。
「だから何だってんだよ」
小百合は頭を抱えた。
「いや、普通もうちょっと何か……」
「何かって?」
トワが首を傾げる。
「……何でもありません」
時雨が小さく笑った。
そんなやり取りをしているうちに、学校が見えてくる。
第一渋谷高校。
今日から始まる、学生としての日々。
「……人、多いね」
トワが周囲を見渡す。
「入学初日だからな」
グレンは興味なさそうに答えた。
「グレン様、本日は遅刻なさらないようお気をつけくださいね」
小百合が声をかける。
「わかってるって」
「本当ですか?」
「…なんで疑うんだよ」
「グレン様ですので」
「おい」
時雨が小さく笑う。
四人が校門へ向かって歩いていく。その時だった。
ひゅっ、と何かが空を切った。
「……?」
グレンの顔のすぐ横を、缶が通り過ぎる。
ドンッ!
後ろの壁にぶつかり、地面へ転がった。
「……」
一瞬、周囲が静かになった。
缶から、わずかに泡が漏れている。
トワが缶を見る。
「……コーラ?」
「みたいですね」
小百合も目を向ける。
グレンは何事もなかったかのように缶から視線を外した。
「行くぞ」
「え?」
「何してんだよ」
「いや……」
トワはグレンを見る。
「今、危なかったよね?」
「そうか?」
「そうだよ」
「当たってねぇだろ」
「……」
確かに。
当たってはいない。
けれど。
トワは知っている。
グレンが、ただ運よく避けたわけではないことを。
ほんの一瞬、缶が飛んできた瞬間。
グレンの身体がわずかに動いた。
まるで、最初からそこに飛んでくることが分かっていたかのように。
「グレン様……」
小百合が心配そうに声をかける。
「大丈夫だって」
グレンは笑った。
その笑顔は、少し情けないくらいだった。
「俺なんか狙っても、面白くねぇだろ」
その言葉に、遠くから笑い声が上がる。
グレンは何も言わない。
ただ、肩をすくめるだけ。
まるで自分には何もできないとでもいうように。
トワは黙ってグレンを見る。
――まただ。
いつものグレン。
自分の力を隠す時の顔。
「……」
トワは何も言わなかった。
言ってしまえば、グレンがわざと弱く見せていることを周囲に気づかせてしまう。
だから。
「行こう」
トワはそう言って歩き出した。
「おう」
グレンも続く。
小百合と時雨も、その後を追った。
「……本当に大丈夫なんですか?」
時雨が小声で尋ねる。
「大丈夫だ」
グレンが答える。
「グレン様なら、避けられましたよね」
小百合も小声で続ける。
「……」
グレンが二人を見る。
「お前ら、余計なこと言うなよ」
「申し訳ありません」
小百合は素直に頭を下げる。
時雨も苦笑した。
その隣で、トワが小さく息を吐く。
「まあ、いつものことだし」
「お前まで言うなよ」
「だって本当でしょ」
「……」
グレンは何も返さなかった。
ただ、ほんの少しだけ口元を緩める。
四人はそのまま校舎へ向かっていく。
新入生たちが行き交う校内、これから始まる学校生活。
その途中で。
グレンはふと、前方にいる一人の少年へ目を向けた。
こちらを見ている。
どこか余裕のある表情。
明るい雰囲気をまとっているのに、妙に目を引く。
グレンと目が合う。
少年は――笑った。
第一渋谷高校へ向かう道には、これから一日を始める生徒たちの姿が増えていた。
その中を、一人の少年が歩いている。
一瀬グレン。
その少し後ろには、花依小百合と雪見時雨。
そして、もう一人。
水森トワがいた。
「……眠い」
トワが小さく呟く。
「朝からそれ言います?」
小百合が振り返った。
「だって早い」
「学生なんだから普通ですよ」
「普通って何」
「そこから!?」
時雨が苦笑する。
その少し前を歩いていたグレンが、三人の会話を聞きながら面倒そうに振り返った。
「うるせぇな。朝から」
「グレンが一番うるさい」
「なんで俺なんだよ」
「今しゃべったから」
「……」
グレンが黙る。
トワはそんなグレンを見て、ほんの少しだけ笑った。
いつもの朝だった。
――少なくとも、表面上は。
グレンとトワは、周囲から見ればただの仲間だった。
同じ学校へ通い、同じ時間を過ごし、時々くだらないことで言い合う。
それだけ。
二人の間にある、もう一つの関係を知っている人間は限られている。
許嫁。
だが、それを知っている二人自身が、その関係を特別なものとして扱っていなかった。
親が勝手に決めただけ。
それが二人の共通認識だった。
だから――
「今日、帰りどうする?」
トワが聞く。
「知らねぇ」
「じゃあ先帰る」
「おう」
それだけだった。
恋人らしい空気など、どこにもない。
むしろ普通の友人よりも淡白なくらいだった。
小百合はそんな二人を見ながら、ため息をつく。
「……本当に許嫁なんですよね?」
「そうだけど?」
トワは何でもないことのように答えた。
「親が勝手に決めただけだし」
「……グレン様も?」
「俺も同じ」
グレンが即答する。
「だから何だってんだよ」
小百合は頭を抱えた。
「いや、普通もうちょっと何か……」
「何かって?」
トワが首を傾げる。
「……何でもありません」
時雨が小さく笑った。
そんなやり取りをしているうちに、学校が見えてくる。
第一渋谷高校。
今日から始まる、学生としての日々。
「……人、多いね」
トワが周囲を見渡す。
「入学初日だからな」
グレンは興味なさそうに答えた。
「グレン様、本日は遅刻なさらないようお気をつけくださいね」
小百合が声をかける。
「わかってるって」
「本当ですか?」
「…なんで疑うんだよ」
「グレン様ですので」
「おい」
時雨が小さく笑う。
四人が校門へ向かって歩いていく。その時だった。
ひゅっ、と何かが空を切った。
「……?」
グレンの顔のすぐ横を、缶が通り過ぎる。
ドンッ!
後ろの壁にぶつかり、地面へ転がった。
「……」
一瞬、周囲が静かになった。
缶から、わずかに泡が漏れている。
トワが缶を見る。
「……コーラ?」
「みたいですね」
小百合も目を向ける。
グレンは何事もなかったかのように缶から視線を外した。
「行くぞ」
「え?」
「何してんだよ」
「いや……」
トワはグレンを見る。
「今、危なかったよね?」
「そうか?」
「そうだよ」
「当たってねぇだろ」
「……」
確かに。
当たってはいない。
けれど。
トワは知っている。
グレンが、ただ運よく避けたわけではないことを。
ほんの一瞬、缶が飛んできた瞬間。
グレンの身体がわずかに動いた。
まるで、最初からそこに飛んでくることが分かっていたかのように。
「グレン様……」
小百合が心配そうに声をかける。
「大丈夫だって」
グレンは笑った。
その笑顔は、少し情けないくらいだった。
「俺なんか狙っても、面白くねぇだろ」
その言葉に、遠くから笑い声が上がる。
グレンは何も言わない。
ただ、肩をすくめるだけ。
まるで自分には何もできないとでもいうように。
トワは黙ってグレンを見る。
――まただ。
いつものグレン。
自分の力を隠す時の顔。
「……」
トワは何も言わなかった。
言ってしまえば、グレンがわざと弱く見せていることを周囲に気づかせてしまう。
だから。
「行こう」
トワはそう言って歩き出した。
「おう」
グレンも続く。
小百合と時雨も、その後を追った。
「……本当に大丈夫なんですか?」
時雨が小声で尋ねる。
「大丈夫だ」
グレンが答える。
「グレン様なら、避けられましたよね」
小百合も小声で続ける。
「……」
グレンが二人を見る。
「お前ら、余計なこと言うなよ」
「申し訳ありません」
小百合は素直に頭を下げる。
時雨も苦笑した。
その隣で、トワが小さく息を吐く。
「まあ、いつものことだし」
「お前まで言うなよ」
「だって本当でしょ」
「……」
グレンは何も返さなかった。
ただ、ほんの少しだけ口元を緩める。
四人はそのまま校舎へ向かっていく。
新入生たちが行き交う校内、これから始まる学校生活。
その途中で。
グレンはふと、前方にいる一人の少年へ目を向けた。
こちらを見ている。
どこか余裕のある表情。
明るい雰囲気をまとっているのに、妙に目を引く。
グレンと目が合う。
少年は――笑った。
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