No.1になる為に

##NAME2##の"個性"について、A組の連中は何も思っていなかった。 
彼女自身、自分の"個性"が好きそうだったから。ヒーロー科でわざわざ"個性"を否定する者はいないから。
でも、"個性"について心を閉ざしていたと知ったのは、一緒にヴィラン連合に捉えられた神野事件だ。
ヴィラン連合の奴らに、彼女の技である桜は血のようだと。
ヒーローが記者会見で謝罪している時に、メディアも言っていた。
『そして##NAME2##さんですが、爆豪くん程の目立った成績は見受けられませんが、
体育祭では女子の成績でいえば高い評価を受け、それから・・・見る者による"個性"への賛否』
どういう事だろうと、耳を傾けてしまう。話を聞いていけば、〈不吉な桜〉という言葉が出た。
ちらりと隣にいる##NAME2##を見た時のなんとも言い難い暗い表情。そんな顔、して欲しくなくて。

この時、彼女が自分の居場所を見付けたいといっていた理由がわかったような気がした。
ただただ、自分と同じく、ヴィラン連合の仲間になんかなるまいと必死だった。
彼女をそちら側にやってはダメだと。あの笑顔が見れなくなると、本気で察したから。
でも、直接彼女から聞けた訳じゃない。"個性"である桜を、本当はどう思っているのか。
聞いちゃいけないような気がした。それよりも、あんな暗い表情をもう見たくなかった。
「爆豪くん、ありがとう」
「あ?」
だから、その笑顔がみれて、よかった。
「あの場所に、爆豪くんが一緒にいてくれてよかった」
「それは・・・まぁ、俺も・・・(コイツは・・・違う。好きな奴が、俺じゃない・・・)」
告白なんて、しようと思えば出来るのに、この時からもう彼女は轟を選んでいて。
「また学校で」
「あぁ」
だから無事に皆の所に戻って、##NAME1##が誰を好きになろうが、目を瞑ろうとしたのに。

寮になって、たまたま皆とみていた時に流れた、エンデヴァーとハイエンドの戦い。
そこにはホークスもいて、No.1もNo.2もそろってるんだ、負けるはずないと見ていたが、エンデヴァーが大怪我をおった。
エンデヴァーが轟の親父であることは、この頃もう皆知っていて、自然と轟を心配する。
##NAME1##も、例外じゃない。だけど、この時轟は、彼女を突き放した。
辛い現場を見ているいま、寄り添ってくれる温もりなんて大事なはずなのに。
少し前に忠告しただろう、泣かすなよって。お前はまた繰り返すのか。
エンデヴァーの息子という重圧に、押し負けてるのは奴本人だ。それを##NAME1##はよく理解しているよ。
だからお前を助けようとしたんだろう。

【・・・エンデヴァー、戦っています。身をよじり・・・足掻きながら!!】

響くアナウンサーの声が、耳障りだ。気付いた瞬間、声が出そうになった。
「――っ!」
「!」
小さく上がる轟の炎。火が苦手な彼女の手を巻き込んでいる。
それなのに、彼女は離そうとしない。
「親父・・・っ、見てるぞ!!!」

ハイエンドに勝ったエンデヴァー。 

相澤先生と話している隙を見て、##NAME1##を連れ出す。追ってくる気配のない轟のことは、知らない。
「爆豪くん・・・!」
驚いている##NAME1##は、何度も俺の名前を呼ぶ。クラスの何人かにも引き止められそうだったが、もう我慢の限界だ。
初めて好きになった奴が、こんなにボロボロになる姿は、見たくない。 
どうして俺じゃない。No.1になるのは俺だ、俺ならあんな半分野郎みたいにいつも泣かせはしないのに。 
優しいだけで手に入らないのなら、強引に奪ってやる。もとより俺はそっちの方があってるだろう。
そんな中、彼女を連れ出したのは寮の外。外壁に、背中を叩きつる。
「っ――!!」
逃げられないように、逃げ場をなくす。

「・・・右手、火傷になりかけてんじゃねぇか。なんで離さなかったんだ。
ンで、あいつなんだよ・・・なんで俺じゃねぇんだよ」
本当はこんな横取りなんてカッコ悪い姿だってわかってる。

「それ、は・・・」
何か言いたげに口ごもる彼女。なにをそんなに、半分野郎に惹かれるのか。
壁に背中をやられ、動けない##NAME1##の右手を取った俺は、火傷になりかけのその傷に舌を這わす。
「やっ・・・待って、爆豪くんっ」
たまらず出た、彼女の甘い声に脳が刺激される。
「待てねぇ。俺は随分待ったぞ、あいつは突き放しただろ」
本人に直接好きだと伝えたことはない。それでも、いつも手を貸してやったのは、好きだからに決まってんだろ。
好きな人にあんな突き放されれば嫌いになると思っていたのに。彼女は構わず、奴の名前を呼ぶ。
「あれは、きっと違うよ。焦凍はああいうの、周りくどっぽくしちゃうけど守ろうとしてくれたんだよ」
呼ぶな、奴の名前を。俺の名前を呼んで欲しいのに。

「俺の前で焦凍焦凍言うんじゃねぇ。腹立つんだよ、ムカつくんだよ。俺だってなぁ・・・あんたが好きなんだよ・・・」
我慢ならずに出た言葉。言わないでおこうとしていたのに、言ってしまった言葉。
「――!ばく、ごうくん・・・?」
衝動はもう、抑えらんなくて。僅かに聞いたあの##NAME1##の甘い声。もう一度・・・。

「いいよな、もう」
「え?」
答えを聞く前に、その柔らかな唇を、唇で塞いでやる。あぁ、あいつはいつも、こうしてやっていたのかって。
「まっ・・・!!」
声を出そうと口を開けた瞬間、強引に舌を入れた。止められない。
「っ・・・はふっ、くっ・・・」
初めて聞く可愛い声。このまま忘れさせてやる、ナニもかも。俺の事、好きになって欲しい。
少し荒くしてやると、彼女は必死にもがく。もしかしてこんな強引にされるのは初めてか。
いつも優しくしてもらってるのか。嫌らしい音が耳に心地よく響く。
キスだけじゃ物足りない。もう轟と経験してんなら、俺も受け入れろ。
服越しから、そっと彼女の胸に触れてみる。
「あっ・・・!やめて!!!」
「!」
いままで聞いたことない、##NAME1##の声。繋がっていた唇からは、溢れるようにだらしなく唾が流れ出る。
「ごめんなさい・・・まだ、彼とちゃんと別れたわけじゃないから・・・ごめんなさい・・・」

気付かなかった、泣いていた##NAME1##の顔。逃げ出すようにこの場を離れた彼女の背中に、舌打ちした。
「・・・・・・・・・・チッ」
こんな風になりたいわけじゃないのに。唇に残った、彼女の感覚。そこにそっと、手を当てる。
「・・・俺は・・・」

寮に戻れば、そこには怒ってる緑谷がいた。あぁ、コイツ聞いてたのか。
「##NAME2##さん、泣いてたよ。なにをしたの・・・?」
隠してもしょうがない。いつかバレるし、後回しにすれば面倒なだけだし、
とりわけコイツが様子をみに来たのは、俺と幼なじみだからだろう。
「キスした、好きだから」
もう、いまは頭もボーッとしてるみたいだ。もう一片キスしたいなどと、変に欲が出る。
「キ、スっ・・・!?わっ」
中学時代にいつもやっていた。緑谷を殴り飛ばす。嫌なこと、全部スッキリする。
たぶん俺が嫌われる理由は、こういったことだろう。

俺も彼女に、もっと早くみて欲しかった。
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