大切な時間

不思議だったのは、##NAME1##の態度。オールマイトのその授業が終わってから。
##NAME1##の"個性"を借りて、一瞬で勝利を手にしてみせたけど、嬉しそうじゃなかった。
逆に俺から距離を取ってるように、女子の輪の中に入っていってしまう。
そんな中に起こったUSJ事件。きっと俺の実力を知った##NAME1##は、俺の隣にいれば大丈夫だと思っていただろう。
けど、突き放した。周りを巻き込む氷結の技じゃ、彼女がいると足手まといだと思ったから。
でも、結果はどうだ。無事戻ってきた尾白と、その背中にぐったりとしている##NAME1##。
(・・・俺の・・・俺のせいで・・・)
足が動かなかった。取り返しがつかないことをしてしまったのではないかと恐怖だった。

『##NAME2##さん、炎が、火が苦手なんだって。最後まで一緒に粘ってくれたけど、煙にやられたんだと思う』
意識はある、大丈夫。そう心配する皆に答えている尾白。彼女はそのまま、リカバリーガールがいる保健室にすぐに運ばれた。
『炎が、火が苦手』
その言葉に、俺は方針状態だ。そんなこと、知らなかった。
じゃあ、俺の出す炎の"個性"も、彼女を怖がらせるだけかもしれない。桜=木。理由なんて、それだけで十分だ。
ガキの頃から決めていた。そしてより、確実なものになった。絶対左の炎は使わないと。

だけどせめて、彼女には知っていてもらっておいた方がいいと自分の中で結論が出た。

中々教室に戻らない##NAME1##を心配しているうちに、どうやら眠ってしまったらしい。
彼女に起こされ、すぐ謝罪すると、彼女ははにかみながら言ってくれた。よかれと思ってやってくれたんだと。
でも、やっぱりヒーローになるんなら、どんな状況でも守らなければならなかったんだ。
「お父さんもお母さんも心配してるでしょ?そろそろ行こうよ」
だいぶ遅くなってしまった時間。普通の両親ならそうだろう。でも、普通じゃない。
その事に、##NAME1##を、クラスメートすら守れなかった自分の腹いせにぶつけてしまう。
「・・・明日、休みになっただろ?俺のあともう一つの"個性"について話ておきたい事がある。時間取らせても大丈夫か・・・?」

あんな、許されないことをして。嫌われようとして。
エンデヴァーから授かった炎で、巻き込みたくなかった。
でも、優しい##NAME1##は、俺を探してくれた。一人の力で無理なことでも。
オールマイトに目を向けられていた緑谷にもイライラしてぶつけたのに。
二人で、力の解放を忘れていた、思いのままに炎を使ってもいいのだと指し示してくれた。

##NAME1##の苦手な炎。けど、俺の炎に怯える姿は体育祭以降みられない。
よかったと、安心した。寄り添ってくれる大切な存在。だからこそ、もう傷つけたくない。
あの時の告白も、驚いた顔も、笑った顔も、全部俺のもんだ。爆豪にも夜嵐にも、誰にも渡さない。

ヴィラン連合の連中の仲間になんて、尚更させない。何が桜は血の色だ。

「イメージとしては、いまの桜吹雪は攻撃がないから、刃物みたいになんないかなとおもって。
ほら、普通の葉っぱでも、あの端っこで手切れたりするでしょ?それをザバァッて、雨みたいにしてみたい」
何てことを言い出すんだと思った。なんでか分からないけど、その技で彼女自身に使う場面が、
脳にイメージさせられてしまった。その技を使い、血の海に横たわる##NAME1##の姿。
本人がどれ程ヴィラン連合の言葉に傷ついたのか、オールマイトを終わらせたという思いが締め付けたのか。
俺の考えを遥かに越えていたのかもしれない。

でもその技は、B組対抗戦で見せつけられた。立派な技となって。ちゃんとものにして。

初めて##NAME1##を姉さんとお母さんに会わせて。忙しない1年だ、本当に。
そんな中、一緒に過ごしたクリスマス。クラスメートと過ごす前に出た二人だけの買い出し。
「ねぇ、焦凍は何が欲しい?」
二人の想いを確認し、お互い手を繋いで店内を見回す。
「そうだな・・・身につけられるようなネックレスとかは、俺の"個性"だと無理がある。
何かの拍子に無くしても嫌だしな。だからと言って、部屋に置きっぱなしにしても、
インターンとか行ってる時とか、意味ないよな」
「じゃあ・・・やっぱりキーホルダーかな。スマホとか、カバンとかにつけられるやつ」
「いいんじゃないか?」

たくさん並ぶ、オシャレできらびやかなキーホルダー。
あーでもない、これも違うと言いながら、##NAME1##の視線が止まった。
その先を見れば、桜のキーホルダーだ。ピンクと白と、二種類あるようで。
「・・・これか?」
「え!?あ、ううんっ。桜じゃなくていいよ!いつも桜だもんね、ごめん」
慌てて否定する彼女。だけど、本音はきっとこれがいいハズだ。
何で"個性"が桜だったのか、この自分の"個性"嫌いだと嘆き訴えた時もあった。
でも、根本からやっぱり桜が好きなのだ。好きなものは、そんなすぐ嫌いになれない。
いくらヴィランに、桜は血だと言われようと、##NAME1##のは違う。
どこまでも高く高く、自由に飛んでいく。ヒラヒラと可愛らしく舞う桜。

俺はそのピンクの色のした桜の方を手にして、##NAME1##の左耳にあてがってみた。
まるでイヤリングのように。咄嗟に反応する##NAME1##は、顔を赤くしている。
「似合ってる」
「もう・・・やることなす事、ズルいなぁ・・・」
「じゃあ、俺がこっち買う。##NAME1##は、白」
「え?」
まさか逆の色を選んでくるとは思ってなかったのだろう。
「ピンクの桜は、##NAME1##だから。##NAME1##の方がいい。白は、俺だな」
赤毛じゃない、白銀の髪の毛を指さして。お互い、おかしくなって笑い合って。

「じゃあ、交換したいから、私ピンク買う!焦凍は白」
「お、そうか」
たかがキーホルダー。されどキーホルダー。皆に見せつけてやろう。

俺の特別で、大事なもの。
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