中学時代

「俺との特訓に付き合って欲しい!」
そう言ってきた夜嵐に、目の前の##NAME1##は目をパチクリさせていた。 
「・・・なんで、私なの」
けれど彼女は、すぐに不機嫌な顔になってしまう。睨むように夜嵐に問うが、彼は笑顔を絶やさない。
「桜が目立つ!」
「目立ちたくない」
「あの先生にわかりやすくするにゃ、何か操らなきゃならん」
「他の人に頼んで」
「むむ・・・」

目立つ二人のやり取りは、クラスメートのいい標的だ。いままで静かに過ごしていたのに、水の泡だ。
「夜嵐、なんでよりによってこいつなんだよ?」
「同じ操るなら、別に羽とか、水とかでもよくね?」
「そうそう!」
「「私たちが協力してあげるわ」」
夜嵐だって、気付いてないわけじゃないだろうに。

ヒーローになる。彼の夢は、皆知っている。雄英高校を受けたいことも、目立ちたがりなことも。

「・・・なんで皆##NAME1##ちゃんをそんな否定するんすか?」
「!」
「「は??」」
「桜の"個性"なんて、ただただ不気味なだけじゃん」
「ヒーローは!!」
一際大きくなる、夜嵐の声。

「困ってる人を助ける!人々の笑顔を守る!だから俺は、みんなと仲良しがいい!
それは、ヒーロー依然の問題じゃないんすか!?」
「・・・・・・・・・・・」
「チッ、つまんねー」
「ねぇ、なんなのあれ」
「恥ずかしいぃ」
こそこそと、なにやら面白いことでも思い付いたのだろうか。女子たちが集まり、一人を邪険するのは。
「「「・・・・・・・・・・・・・・」」」
「・・・ヒーローは・・・」
##NAME1##は気付いた。夜嵐が握っている拳が、震えてることに。
ヒーローなんて所詮おとぎ話。選ばれた人しかなれないんだ。どうしてそこまでヒーローになるこだわりがあるのか。
ただの、彼の正義感か。

クラスの人が、自分が優位に立ちたいが為に誰かを傷つけるのは、常日頃どこでもある。
だからイジメとか、差別とか、そんな悲しい言葉が生まれるんだ。現に今、ここでもあるように。
見え隠れする皆の目が、あの頃のエンデヴァーの目と重なっていた。けど、##NAME1##はただ単に寂しすぎる。
「授業が始まるぞー」
教室に入ってきた先生の一言で、不穏な空気のまま。
「・・・なに、ただのヒーロー気取り・・・?」
"##NAME1##ちゃん"。あんな風に呼ばれたのは、いつぶりだろう。
("個性"なんて、いらないのに・・・)

いつものように、ため息をつきながら自宅に帰る。
「ただいまー」
「おかえり」
明るく優しい母は、ずっと変わらない。唯一安心できる場所。
「今日はどうだった?」
「んー?"個性"の授業やったよ。来週には正確に届け出が出来るって。お母さん、ヒーローってなんだろうね」
オールマイトは、平和の象徴といわれる程の誰もが憧れるヒーローだ。
オールマイトのようになりたいって、夢見る人はたくさん見てきた。
「・・・お母さんもお父さんも、オールマイトしかよく知らないからね・・・。
ここの治安はいい方だから、ヒーローにもそんなに会わないし」
「たまに空を見上げると、ホークスが飛んでるの見る時あるよ」
「ホークスは九州のヒーローでしょ?ビルボードチャートにもたまに出る人ね」
「うん、なんか東京の方に飛んでる」

オールマイトがテレビのバラエティーなんかに出るのはしょっちゅうだ。
ヒーロー活動もさながら、この人いつ寝てるんだろうと考える程。
ドキュメンタリー番組で初めて見たヒーローがいる。
「・・・シンリンカムイ・・・」
「初めて見るヒーローね」

[今日のゲストヒーローは、シンリンカムイさんです。よろしくお願いいたします]
全身樹木に被われた男の人が姿を見せる。このヒーロー化社会をどう見ているのか。
彼の悲惨な生い立ちも知る。シンリンカムイが産まれた当初はまだ"個性"を持つ子供が少なかった。
母親はシンリンカムイのことを気味悪がってしまった。その結果シンリンカムイは幼少期に母親に捨てられてしまっていました。
シンリンカムイの年齢は実は正式なものではなく、物心ついたときから自分の年齢を数え始めたので、
正確にいつ生まれて何歳なのかということがわかりません。でも彼は、いまヒーロー仲間も沢山いると。
彼の得意な必殺技も披露された。##NAME1##自身も彼女の父も、手足を樹木にすることは出来る。
それでもシンリンカムイの立派な、カッコいい必殺技に目を奪われた。

「・・・カッコいいね、お母さん・・・」
この人は、自分よりも過酷な人生を歩んできた。
「・・・ヒーロー・・・(もしかしたら私の居場所は、あそこじゃない・・・?)」
中学卒業して高校生になれば、また新しい生活がきっと待っているはず。
自分が変わらなければ結果同じだ。"個性"をひた隠すのは、きっとこの現代では無理があるだろう。
桜の"個性"を気味悪がる人たち。桜のピンクは、血を吸っているからとか、桜の木の下には屍がいるからとか。
そんな古典の授業や国語の授業である昔話を、面白おかしく話して他人を見下すのが好きな連中の集まりなら。
今、ここは自分の居場所じゃない。このシンリンカムイのように、過去に囚われず自分の存在に負けないように。
現状をはね除ける力が欲しい。

(雄英高校・・・)
言わずと知れた超有名で名門高校。ヒーローを志す者が集まる学校。
この高校なら、きっと様々な"個性"を持った人が集まるハズだ。プロヒーローになりたいとか思ってるわけじゃないけど。
仲間が、友達が欲しかった。本当は中学だって、皆と仲良くしたいのだ。だけど、根本から無理なのだ。
無個性の子もいれば、姿が動物のような子。はたまた腕に羽が生えてる子など様々な子の集まり。
だもの、いろんな偏見があって当たり前だ。でも雄英は、ヒーロー科は"個性"を持った子しかいないはず。

果たして自分は、そのヒーロー科の授業についていけるか謎だけど。
2/4ページ
スキ