自分自身

自己紹介も終わり、午前中のパトロールは済ませてあるので今度は書類と睨めっこ。
事務仕事は退屈で、どうしてもはかどらない。やっぱり自分は大空を自由に飛んでいたい。
「・・・ヒーローが暇をもて余す世の中、絶対手に入れてやる」
「はは。それ、もう口癖ですね」
「言葉にすれば願いも叶いやすくなるでしょ。こんなにヒーローがいるのに、世の中よくならない」
「どっちが正しいのか、たまに分からなくなりますよ、俺。けど、よく彼女を受け入れましたね。
てっきり断ると思ってました。ヴィラン連合の動きも探って、いまこちらより公安の方が忙しいでしょうに」
「使える駒は多い方がいい。それに彼女、連合の連中に会ってるからね。話は聞かせてもらう予定」
「成る程・・・」
サイドキックの彼が頷くと、部屋を案内し終えた彼らがコスチュームに着替えて執務室に入ってくる。

「なかなか様になってるじゃない。じゃ、何から話を聞かせてもらおうかな」
意気揚々に二人を受け入れると、改まって口を開いたのは##NAME1##だった。
「あの・・・今回インターン許可してくださり、ありがとうございます」
ペコリと頭を下げて。急に真面目な態度になるものだから、なんとなくきいてみる。
「俺が君を選んだ理由は、ツクヨミから聞いてる?」
職場体験で常闇を選んだ理由の一つは、USJ事件の話を聞きたかったから。
そして今回##NAME1##を選んだ理由の一つは、神野事件の話を聞きたかったから。
すると、彼女の目付きが、先ほどみせたキラキラなものと違って態度にあった真っ直ぐ前を向く目に変わる。

「はい。だから、その代わり一つお願いがあります。"個性"の使い方、教えて下さい」
「・・・は?」
思わず間抜けな声が出てしまった。"個性"の使い方なんて、あの雄英で必要以上に教わっているのでは?と思ったから。
「私の"個性"は、ホークスの"個性"と似ているから参考になると、先生に言ってもらいました。
桜の"個性"の技のバリエーションをもっと増やしたくて、羽の一つ一つの動きを近くで見させてほしいんです」
「・・・俺が教えることは何もないって言ったら?ここは授業じゃない、実践だ。
ヒーロー活動は、一瞬の気の緩みで被害が大きくなってしまう。俺ね、平和の象徴みたいになろうとか思ってない。
俺の出せる最高速度で、ヒーローが暇をもて余す世の中にしようとしてる人間だよ。
それでもついてくる気、ある?」
意地悪な質問だとも思ったけど、緩い方針のまま表舞台には立たせてやれない。
だって俺は、君たちより何十・・・いや、何百という残忍な仕事をしているから。
君たちの年齢から、ずっと、ずっと。俺は・・・。

あんなキラキラな目を見たのは、いつぶりだろう。
いつから、こんな重苦しい仕事になってしまったのだろう。
本当に君たちをこの世界に引き入れていいのだろうか。

「はい。私は、いまよりもっと強くなりたいんです。ならなくちゃいけないんです」
「なんの為に?」
「大好きな、私の事を受け入れてくれた人達を、私の手で守りたいから。目先の目標かもしれません、それでも」
「・・・いいよ。話を聞いて今日は特別にのんびりしようと思ってたけど、パトロールいこうか。
常闇くんはもとより、君の実力は俺知らないからね。教えようにも教えてあげられない。
んじゃ、じっくり歩いていこう。街を案内してあげる」

日々、ヴィランや裏の仕事で楽しい事を忘れていたのかもしれない。

二人は、お互い自分なりに必死に考え俺に食らい付いてくる。それを嬉しいと思ったのは、なんでだろう。
あーではない、こーではないと話合う二人をみて、不思議と俺もその輪の中に入りたいと思わされて。
俺が自然となくしていた気持ち・・・それに二人から気付かされていってるのか。 
楽しそうな学校生活の話。夢見るヒーローとしての話。自分の"個性"の話。笑顔で、俺に話してくれる。
・・・忘れていたのかなぁ。いや、俺の知らない世界・・・。

『ヴィラン連合に取り入れ、ホークス』

せっかくこれから雄英インターン二人と、楽しいことがあると思ってた矢先だったんだ。
俺自身、楽しいを求めちゃいけない。それが裏の仕事もする公安に拾われた奴の末路。
決して逆らえない、公安の仕事。だからか分からない。ちょっとした欲が俺の心を乱した。
(日付かわる前に帰れたけど・・・ん?)

「大丈夫だよ。九州に無事に着いたし、ホークスの事務所にもクラスメイトの常闇くんとちゃんと行けたよ。
何も送ってくれなくて平気だよ、うん、ちゃんと食べてる。食べないと"個性"使えなくなっちゃうし。
うん、うん、大丈夫だよお母さん。あんまり心配しないで、強くなって帰るからさ。おやすみ」

部屋から聞こえた声に、羽根を使う必要なくドアを背に盗み聞きしてしまった。
(・・・お母さん・・・)
そう、羽根を使う気なんてなかったのに。癖で、鍵をガチャリと開けてしまったのだ。

「!!」
「あっ・・・ごめんね、##NAME2##ちゃん」
ドアが全部開いてしまう前に、慌ててドアの自由を手で止める。
「ほ、ホークス・・・!?」
声で分かってくれたのか、彼女の驚いた声がした。こちらに歩いてくる気配。
ドアから少し顔をのぞかせて、普段つけてるゴーグルを外してある俺の顔を見る##NAME1##。
「仕事・・・まだしてたんですか?先に休んでしまって、すみません」
「いや、気にしないで。違う、俺が先に上がっていったばい。いやぁ、ハハハ」
この状況で正直どうしたらいいのかわからなかった。勝手に鍵を開けて驚かせて。しかも女の子の部屋を。
『お母さん』
その言葉のせいだ・・・。

どうしたらいいのかわからないのは彼女も同じようで、不思議そうに首を傾げている。
「・・・勝手に鍵開けて、怒ってない・・・?」
「ビックリしましたけど、急用かなって・・・何もないならよかったです」
俺の心配をしてくれる、優しい子・・・。勝手に手がのびて、彼女の頭を撫でていた。
「・・・?」
「心配してくれるお母さんがいるのに、離れるの寂しくなかった?」
「・・・言われましたよ、なんで雄英なんだって。でも、私の居場所を見つけたかったんです。
桜の"個性"をバカにしていた子たちを、もしかしたら見返してやりたかったからかもしれないですけど。
本気でヒーローを目指してるクラスメイトからも言われちゃってます。遊びに来てるんじゃないんだって。
でも、私は雄英で大事な仲間が出来ました。強くなりたい理由も、そこにあります。
私の大切な人は、私の手で守りたいんです。お母さんも、お父さんも。ありがとうって。
ホークスはどうして公安に入ったんですか?やっぱり、強いから?」

「・・・俺は・・・」
彼女は迷いながらも、自分から答えを見つけたんだろう。俺のことも興味本位なのかもしれないけど。
「そう、強いから」
しれっと、そう答えた。
「わー、やっぱり・・・!私も頑張らないとですね!」
「その分怖い思いも沢山させてしまうかもしれない。髪の毛の案も、勝手にごめんね?」
「謝らないで下さい。結構気に入ってますから」

「ありがとう」
俺はいま、ちゃんと笑えているだろうか。
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