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(アイツだ・・・)
この男を救ったのは、うさ麻呂だ。
なぜか、そう思った。
たとえ憶えていなくても、忘れてしまったとしても、
たった一人で街を、人を救ったうさ麻呂の姿が、
この男の心を動かしたのだ。こんな顔で笑えるまでに。
立ち去っていくリュウの背中をしばし見つめた後、
一人取り残された燐は、参拝者の消えた祠へと向かった。
脇に小さな兎の人形が落ちていた。
祠に祀られていたものが何かの拍子に落ちたのだろうか。
拾い上げ、丁寧に汚れを拭ってやる。
すると、キレイになった兎の顔が小さく微笑んだ。
あるいは、そんな気がしただけなのかもしれない・・・。
やさしい手つきで祠の中に戻す。
そして、降り積もる雪の音だけが聞こえる静かな世界に、そっとつぶやく。
「うさ麻呂・・・」
涙で濡れた声は、しかし力強い響きを孕んでいた。
「俺は忘れない」
お前がいたことを。
お前と過ごした時間を。
お前が皆を救ってくれたことを。
「ずっと憶えてる」
己に誓うようにつぶやいた燐の頬をあたたかい雫が伝う。
それを無理やり呑み込み、涙まじりの目元でニッと笑ってみせた。
街中の人を、燐(ともだち)を幸せにしたいと願ったやさしい悪魔のために・・・。
五日間にわたる祝祭が無事、終わりを告げ、
各国から集められた祓魔師たちが続々と帰国していく中、
街には祭りのあと特有の淋しさが漂っていた。
「今度はお前が台湾へ来い」
「はい」
「ビシビシ鍛えてやる」
「慎んで、辞退します」
自国に戻るリュウを笑顔で見送った帰り路、
男子寮旧館の奥から物音がすることに気づいた雪男は、
寮の裏手にある広場に足を伸ばした。
「!?」
と、一面の雪景色の中に塾生たちの姿があった。
燐と志摩、勝呂と子猫丸と宝の二手に分かれ、雪合戦をしている。
二対三とはいえ、宝はもともとやる気がないらしく、
実質的には二対二の好勝負だ。
そこからやや離れた場所では、しえみと出雲と玲薇が雪だるまを作っている。
頬を上気させうれしそうなしえみとは対照的に、
出雲は相変わらずの仏頂面だが、玲薇と話す度では明るい声だ。
それに、出雲の雪だるまは、無駄に可愛らしく細工を施されているようだった。
雪に洗われた空は青く、どこまでも澄みわたっている。
「まったく・・・皆してこんなところで遊んで・・・」
講師の立場からため息をつくも、すぐに苦笑いへと変わる。
どうも最近、兄の様子がおかしいように思っていたが、
このぶんだと取り越し苦労だったのかもしれない。
犬は喜び・・・ではないが、ひときわ元気に雪の中を駆けまわっている。
雪男に気づくと大きく腕を振ってきた。呆れるほどいつもの兄だ。
「おー、雪男!お前も入れ!!」
「そんなことやっている暇があったら、少しは勉強したら?兄さん」
腰に手をやった雪男が、はぁ、とことさら大げさなため息をついてみせる。
「冬休みの宿題は終わったの?」
だが、こんなことで諦める燐ではない。
ほれ、ほれ、と大量の雪玉を投げつけてくる。
そのうちの一つが雪男の眼鏡に当たった。
「・・・・・・・」
雪男が無表情のまま、黙々と眼鏡についた雪を拭う。
皆が息を呑む中、燐が無邪気に命中を喜ぶ。
「やったぜ!ウルトラスーパーメガネヒット!!」
「・・・ッ!!このヤロー!!」
ブチッと理性の切れた雪男が、兄に雪玉を投げ返す。
猿のように身軽によける燐に、やっきになって雪玉を投げつけているうちに、
いつの間にか、しえみや出雲、玲薇を含む皆で雪玉を投げ合っていた。
真っ白な運動場に明るい笑い声が響く中、燐がふと広場の隅を見やった。
一瞬だけ、その両目をまぶしげに細め、小さく誰かの名を呼んだ。
ささやくような、とてもやさしい声で。
「?」
よく聞き取れなかったそれに、雪男と玲薇は顔を合わせ、燐の視線を追う。
そこには、誰かが作った小さな雪兎があった。
椿の葉の耳をそばだて、南天の実の両目でこちらを見つめている。
「雪兎・・・?」
アレがどうしたのだろうか、と雪男は雪兎から兄へと視線を戻す。
再び、顔を上げた兄は、いつものように明るい笑顔を浮かべていた。
だが、いつも通りのはずのその笑顔は、どこか、少し大人びて見えた・・・。
この男を救ったのは、うさ麻呂だ。
なぜか、そう思った。
たとえ憶えていなくても、忘れてしまったとしても、
たった一人で街を、人を救ったうさ麻呂の姿が、
この男の心を動かしたのだ。こんな顔で笑えるまでに。
立ち去っていくリュウの背中をしばし見つめた後、
一人取り残された燐は、参拝者の消えた祠へと向かった。
脇に小さな兎の人形が落ちていた。
祠に祀られていたものが何かの拍子に落ちたのだろうか。
拾い上げ、丁寧に汚れを拭ってやる。
すると、キレイになった兎の顔が小さく微笑んだ。
あるいは、そんな気がしただけなのかもしれない・・・。
やさしい手つきで祠の中に戻す。
そして、降り積もる雪の音だけが聞こえる静かな世界に、そっとつぶやく。
「うさ麻呂・・・」
涙で濡れた声は、しかし力強い響きを孕んでいた。
「俺は忘れない」
お前がいたことを。
お前と過ごした時間を。
お前が皆を救ってくれたことを。
「ずっと憶えてる」
己に誓うようにつぶやいた燐の頬をあたたかい雫が伝う。
それを無理やり呑み込み、涙まじりの目元でニッと笑ってみせた。
街中の人を、燐(ともだち)を幸せにしたいと願ったやさしい悪魔のために・・・。
五日間にわたる祝祭が無事、終わりを告げ、
各国から集められた祓魔師たちが続々と帰国していく中、
街には祭りのあと特有の淋しさが漂っていた。
「今度はお前が台湾へ来い」
「はい」
「ビシビシ鍛えてやる」
「慎んで、辞退します」
自国に戻るリュウを笑顔で見送った帰り路、
男子寮旧館の奥から物音がすることに気づいた雪男は、
寮の裏手にある広場に足を伸ばした。
「!?」
と、一面の雪景色の中に塾生たちの姿があった。
燐と志摩、勝呂と子猫丸と宝の二手に分かれ、雪合戦をしている。
二対三とはいえ、宝はもともとやる気がないらしく、
実質的には二対二の好勝負だ。
そこからやや離れた場所では、しえみと出雲と玲薇が雪だるまを作っている。
頬を上気させうれしそうなしえみとは対照的に、
出雲は相変わらずの仏頂面だが、玲薇と話す度では明るい声だ。
それに、出雲の雪だるまは、無駄に可愛らしく細工を施されているようだった。
雪に洗われた空は青く、どこまでも澄みわたっている。
「まったく・・・皆してこんなところで遊んで・・・」
講師の立場からため息をつくも、すぐに苦笑いへと変わる。
どうも最近、兄の様子がおかしいように思っていたが、
このぶんだと取り越し苦労だったのかもしれない。
犬は喜び・・・ではないが、ひときわ元気に雪の中を駆けまわっている。
雪男に気づくと大きく腕を振ってきた。呆れるほどいつもの兄だ。
「おー、雪男!お前も入れ!!」
「そんなことやっている暇があったら、少しは勉強したら?兄さん」
腰に手をやった雪男が、はぁ、とことさら大げさなため息をついてみせる。
「冬休みの宿題は終わったの?」
だが、こんなことで諦める燐ではない。
ほれ、ほれ、と大量の雪玉を投げつけてくる。
そのうちの一つが雪男の眼鏡に当たった。
「・・・・・・・」
雪男が無表情のまま、黙々と眼鏡についた雪を拭う。
皆が息を呑む中、燐が無邪気に命中を喜ぶ。
「やったぜ!ウルトラスーパーメガネヒット!!」
「・・・ッ!!このヤロー!!」
ブチッと理性の切れた雪男が、兄に雪玉を投げ返す。
猿のように身軽によける燐に、やっきになって雪玉を投げつけているうちに、
いつの間にか、しえみや出雲、玲薇を含む皆で雪玉を投げ合っていた。
真っ白な運動場に明るい笑い声が響く中、燐がふと広場の隅を見やった。
一瞬だけ、その両目をまぶしげに細め、小さく誰かの名を呼んだ。
ささやくような、とてもやさしい声で。
「?」
よく聞き取れなかったそれに、雪男と玲薇は顔を合わせ、燐の視線を追う。
そこには、誰かが作った小さな雪兎があった。
椿の葉の耳をそばだて、南天の実の両目でこちらを見つめている。
「雪兎・・・?」
アレがどうしたのだろうか、と雪男は雪兎から兄へと視線を戻す。
再び、顔を上げた兄は、いつものように明るい笑顔を浮かべていた。
だが、いつも通りのはずのその笑顔は、どこか、少し大人びて見えた・・・。
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