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夢小説設定
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「だから、何を・・・?」
不思議そうに首をかしげる二人の両目を交互に見つめる。
心の底からわけがわからないというその目に、
燐は弾かれたように部屋から飛び出す。
「な・・・兄さん!?」
困惑したような雪男の声を背後に聞きながら、
廊下を走り抜け、階段を駆け下り、寮の外へ飛び出す。
鼻先に冷たい雪が当たった。
(うさ麻呂・・・っ)
雪の街を傘もささずにひた走る。
坂の上からぐるりとあたりを見回していると、
坂道のずっと下に勝呂たちの姿が見えた。
全速力で坂を駆け下りてくる燐に勝呂が片眉を上げる。
「奥村、どないした?そない慌てて」
「っ!!お前らは憶えてるのか・・・!?」
三人の前で足を止め、燐が尋ねる。
勝呂の脇で志摩と子猫丸がそろって首を傾げた。
志摩が尋ね返してくる。
「憶えてるて、何を?」
「何って、うさ麻呂のことだよ」
のんびりした問いに燐が焦れる。両手でバットを握る真似をする。
「ホラ、一緒に野球しただろ!?風呂も入ったし・・・それに祭りだって皆で」
「うさまろ?誰のことですか?それ」
「!!」
不思議そうに尋ねる子猫丸に、燐の動きが止まる。
同じだ。雪男と玲薇と同じで、やはりこの三人も憶えていないのだ。
このぶんでは、しえみや出雲、クロも同じだろう。
消えてしまったのだ。皆の中から、うさ麻呂の記憶が・・・。
「どないしたんや?顔色悪いで?」
「・・・いや・・・なんでもない・・・」
うわ言のようにそう言って、再び走り出す。
「オイ、奥村ァ?」
「奥村くん?」
「どないしたんやろ?」
三人の反応が、燐の心をより追いつめ、追いこんでいく。
「うさ麻呂ーっ!!」
大声で名を呼び、通りを、路地裏をショーウインドーの前を、
商店街の雑踏を、橋の下を、歩道橋の上を・・・あらゆる場所をその姿を探して駆けまわる。
だが、どこにも見つからなかった。
真っ白に染まったこの街のどこにも、うさ麻呂の姿はない。
いつの間にかうさ麻呂と初めて出会った川べりに来ていた。
河川敷全体が雪に覆われ、あの日、燐が幽霊列車とともに落ちた川面にも、
はらはらと雪が舞い降りている。
(ここに・・・ここに、倒れてたんだ)
燐がぎゅっと両の拳を握りしめる。
と、編み笠を被った人物の色鮮やかな後ろ姿が視界に入った。
ビルとビルの間に建てられた小さな祠の前に、一人、たたずんでいる。
燐が近づくと、その人物が静かに振り返った。
「!お前は・・・」
「・・・・・・」
台湾から来た祓魔師は無言で燐から顔を逸らすと、
そのまま燐の脇を通ってその場から立ち去ろうとした。
燐が古びた祠とリュウの背中を交互に見比べ、たまらず声をかける。
「もしかして、お前は憶えてるのか・・・」
あるいは、すがるような声になっていたのかもしれない。
リュウの足が止まる。
しばらく、ためらうような間があった後、異国の男は小さくつぶやいた。
「俺にも、昔、仲よくなった悪魔がいた」
「・・・・・・?」
話の意図がわからず、燐が眉をひそめる。
リュウは静かに先を続けた。
「俺は祖父の命に従い、友を祓った」
「・・・・・・」
「・・・なぜ、今、こんなことを思い出すのかわからんが・・・あの時、
アイツを祓わないという選択があったのかもしれんな・・・」
思いのほか真摯なその声に燐が言葉を失っていると、
肩越しにこちらを振り返ったリュウが、唇の端をゆるめ、
少しだけ微笑んでみせた。初めて見る彼の笑顔は、
どこか淋しげで、けれどあれほど全身からにじみ出ていた険が、
憎悪が消えていた。まるで、降りしきる雪が洗い流してくれたように・・・。
不思議そうに首をかしげる二人の両目を交互に見つめる。
心の底からわけがわからないというその目に、
燐は弾かれたように部屋から飛び出す。
「な・・・兄さん!?」
困惑したような雪男の声を背後に聞きながら、
廊下を走り抜け、階段を駆け下り、寮の外へ飛び出す。
鼻先に冷たい雪が当たった。
(うさ麻呂・・・っ)
雪の街を傘もささずにひた走る。
坂の上からぐるりとあたりを見回していると、
坂道のずっと下に勝呂たちの姿が見えた。
全速力で坂を駆け下りてくる燐に勝呂が片眉を上げる。
「奥村、どないした?そない慌てて」
「っ!!お前らは憶えてるのか・・・!?」
三人の前で足を止め、燐が尋ねる。
勝呂の脇で志摩と子猫丸がそろって首を傾げた。
志摩が尋ね返してくる。
「憶えてるて、何を?」
「何って、うさ麻呂のことだよ」
のんびりした問いに燐が焦れる。両手でバットを握る真似をする。
「ホラ、一緒に野球しただろ!?風呂も入ったし・・・それに祭りだって皆で」
「うさまろ?誰のことですか?それ」
「!!」
不思議そうに尋ねる子猫丸に、燐の動きが止まる。
同じだ。雪男と玲薇と同じで、やはりこの三人も憶えていないのだ。
このぶんでは、しえみや出雲、クロも同じだろう。
消えてしまったのだ。皆の中から、うさ麻呂の記憶が・・・。
「どないしたんや?顔色悪いで?」
「・・・いや・・・なんでもない・・・」
うわ言のようにそう言って、再び走り出す。
「オイ、奥村ァ?」
「奥村くん?」
「どないしたんやろ?」
三人の反応が、燐の心をより追いつめ、追いこんでいく。
「うさ麻呂ーっ!!」
大声で名を呼び、通りを、路地裏をショーウインドーの前を、
商店街の雑踏を、橋の下を、歩道橋の上を・・・あらゆる場所をその姿を探して駆けまわる。
だが、どこにも見つからなかった。
真っ白に染まったこの街のどこにも、うさ麻呂の姿はない。
いつの間にかうさ麻呂と初めて出会った川べりに来ていた。
河川敷全体が雪に覆われ、あの日、燐が幽霊列車とともに落ちた川面にも、
はらはらと雪が舞い降りている。
(ここに・・・ここに、倒れてたんだ)
燐がぎゅっと両の拳を握りしめる。
と、編み笠を被った人物の色鮮やかな後ろ姿が視界に入った。
ビルとビルの間に建てられた小さな祠の前に、一人、たたずんでいる。
燐が近づくと、その人物が静かに振り返った。
「!お前は・・・」
「・・・・・・」
台湾から来た祓魔師は無言で燐から顔を逸らすと、
そのまま燐の脇を通ってその場から立ち去ろうとした。
燐が古びた祠とリュウの背中を交互に見比べ、たまらず声をかける。
「もしかして、お前は憶えてるのか・・・」
あるいは、すがるような声になっていたのかもしれない。
リュウの足が止まる。
しばらく、ためらうような間があった後、異国の男は小さくつぶやいた。
「俺にも、昔、仲よくなった悪魔がいた」
「・・・・・・?」
話の意図がわからず、燐が眉をひそめる。
リュウは静かに先を続けた。
「俺は祖父の命に従い、友を祓った」
「・・・・・・」
「・・・なぜ、今、こんなことを思い出すのかわからんが・・・あの時、
アイツを祓わないという選択があったのかもしれんな・・・」
思いのほか真摯なその声に燐が言葉を失っていると、
肩越しにこちらを振り返ったリュウが、唇の端をゆるめ、
少しだけ微笑んでみせた。初めて見る彼の笑顔は、
どこか淋しげで、けれどあれほど全身からにじみ出ていた険が、
憎悪が消えていた。まるで、降りしきる雪が洗い流してくれたように・・・。