12
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
だが、それは消えなかった。より鮮明に視界に宿る。
高くそびえる時計台の上に立つ小さい影は、まぎれもなく、
先ほど別れたばかりのうさ麻呂だった。
燐が着せてやったブレザーと、首に巻かれた赤いマフラーが黒い風にひらひらとゆれている。
あのマフラーは、おそらくしえみのだ。
大方、寒そうなうさ麻呂の姿を見て、
自分のものを巻いてやったのだろう。だが・・・。
(なんで、アイツがあんなところにいるんだ?しえみは?)
次々と疑問が浮かび上がる。考えの半ばで、気づけば叫んでいた。
「うさ麻呂ー!!」
闇を貫いたその叫びに、うさ麻呂の小さな背中がゆっくりと振り返る。
燐と目が合うと、一瞬、泣き出しそうな顔になり、すぐににっこりと微笑んでみせた。
そして、目を逸らせ、周囲をとり囲む巨大な海蛇の群れをねめつける。
まるで、戦いに挑む戦士のような眼差しで・・・。
嫌な予感がした。わけもなく、素手で心臓をつかまれたような不快感が、
腹の底からこみ上げる。たまらず叫ぶ。
「うさ麻呂、何やってんだ!?」
「・・・・・・・」
「戻れ!!危ねーぞ!!」
かすかにうつむいたうさ麻呂の唇が小さく動いた。
"ごめんなさい"、と。
この距離では決して聞こえるはずのない声が、
かすれたようなささやきが・・・しかし、確かに燐の耳に届いていた。
「やくそく、まもれなくて」
「・・・なっ・・・」
思いもよらぬ贖罪(しょくざい)の言葉に燐が両目を見開く。
その先の言葉を見失う燐の視線の先で、うさ麻呂がキッと顔を上げる。
あの黒くもじゃもじゃとした尻尾が、
目にも止まらぬほどの速さで四方八方に伸び始めた。
「何を・・・何をするつもりなんだ・・・?」
燐の腕の下で雪男が呆然とつぶやく。
「うさ麻呂くん・・・」
子供たちを抱きしめながら、玲薇も名を呼んだ。
突如、うさ麻呂が天を仰いで雄叫びを上げた。
「うわああぁぁああーーーっ!!」
その叫びに呼応するかのように、大きく広がった尻尾が、
コールタールの集合体を次々に呑みこみ、建物を人を、
街全体を包みこんでいく。時計台の針がぐるぐると逆まわりを始め、
幾度となく世界が歪んだ。雷のようなものが、何度も視界を分断する。
「・・・まさか・・・記憶だけじゃなく、時空そのものを喰おうとしているのか・・・?」
「!!」
雪男の戸惑ったようなつぶやきに、我に返った燐が、
苦しげな表情のうさ麻呂を見やる。そのこめかみを大粒の汗が伝っている。
全身の毛が逆立ち、握りしめた両手がぶるぶると震えている。
明らかな過剰出力だ。
今にもオーバーヒートを起こしそうなその小さな身体に、
燐が唇を噛みしめる。
「ッ!うさ麻呂おぉぉぉおお!!!」
悲痛な叫びが、黒くゆらいだ世界に響きわたる。
己の名を呼ぶその声に、うさ麻呂の身体が一瞬だけ、びくっと震えた。
やわらかなカーブを描いた頬に一雫の涙がこぼれ落ちる。
直後、街をすっぽり覆うほどに広がった尻尾が光を孕んだ。
あたたかい光がすべてを包む。
塔の壁に宙吊りになった燐と雪男を、
屋根の上で身を寄り添う三兄弟と玲薇を、
避難する人々を守りながら、先導していたリュウを、
本部のモニター越しに現状を見守っていた勝呂、志摩、子猫丸を、
本部に運ばれた怪我人の手当てを手伝っていた出雲を、
高台で不安げにたたずむしえみを、
街の片隅の居酒屋で酔いつぶれるメフィストとアマイモンを、
結界場で最後の結界を張り直したシュラを、
それを援護していたエンジェルを・・・。
正十字学園町に存在するすべての人を、ものを、やさしく包みこむ。
血を吐くような燐の叫び声も・・・いつしか、その光の中に呑みこまれていった。
高くそびえる時計台の上に立つ小さい影は、まぎれもなく、
先ほど別れたばかりのうさ麻呂だった。
燐が着せてやったブレザーと、首に巻かれた赤いマフラーが黒い風にひらひらとゆれている。
あのマフラーは、おそらくしえみのだ。
大方、寒そうなうさ麻呂の姿を見て、
自分のものを巻いてやったのだろう。だが・・・。
(なんで、アイツがあんなところにいるんだ?しえみは?)
次々と疑問が浮かび上がる。考えの半ばで、気づけば叫んでいた。
「うさ麻呂ー!!」
闇を貫いたその叫びに、うさ麻呂の小さな背中がゆっくりと振り返る。
燐と目が合うと、一瞬、泣き出しそうな顔になり、すぐににっこりと微笑んでみせた。
そして、目を逸らせ、周囲をとり囲む巨大な海蛇の群れをねめつける。
まるで、戦いに挑む戦士のような眼差しで・・・。
嫌な予感がした。わけもなく、素手で心臓をつかまれたような不快感が、
腹の底からこみ上げる。たまらず叫ぶ。
「うさ麻呂、何やってんだ!?」
「・・・・・・・」
「戻れ!!危ねーぞ!!」
かすかにうつむいたうさ麻呂の唇が小さく動いた。
"ごめんなさい"、と。
この距離では決して聞こえるはずのない声が、
かすれたようなささやきが・・・しかし、確かに燐の耳に届いていた。
「やくそく、まもれなくて」
「・・・なっ・・・」
思いもよらぬ贖罪(しょくざい)の言葉に燐が両目を見開く。
その先の言葉を見失う燐の視線の先で、うさ麻呂がキッと顔を上げる。
あの黒くもじゃもじゃとした尻尾が、
目にも止まらぬほどの速さで四方八方に伸び始めた。
「何を・・・何をするつもりなんだ・・・?」
燐の腕の下で雪男が呆然とつぶやく。
「うさ麻呂くん・・・」
子供たちを抱きしめながら、玲薇も名を呼んだ。
突如、うさ麻呂が天を仰いで雄叫びを上げた。
「うわああぁぁああーーーっ!!」
その叫びに呼応するかのように、大きく広がった尻尾が、
コールタールの集合体を次々に呑みこみ、建物を人を、
街全体を包みこんでいく。時計台の針がぐるぐると逆まわりを始め、
幾度となく世界が歪んだ。雷のようなものが、何度も視界を分断する。
「・・・まさか・・・記憶だけじゃなく、時空そのものを喰おうとしているのか・・・?」
「!!」
雪男の戸惑ったようなつぶやきに、我に返った燐が、
苦しげな表情のうさ麻呂を見やる。そのこめかみを大粒の汗が伝っている。
全身の毛が逆立ち、握りしめた両手がぶるぶると震えている。
明らかな過剰出力だ。
今にもオーバーヒートを起こしそうなその小さな身体に、
燐が唇を噛みしめる。
「ッ!うさ麻呂おぉぉぉおお!!!」
悲痛な叫びが、黒くゆらいだ世界に響きわたる。
己の名を呼ぶその声に、うさ麻呂の身体が一瞬だけ、びくっと震えた。
やわらかなカーブを描いた頬に一雫の涙がこぼれ落ちる。
直後、街をすっぽり覆うほどに広がった尻尾が光を孕んだ。
あたたかい光がすべてを包む。
塔の壁に宙吊りになった燐と雪男を、
屋根の上で身を寄り添う三兄弟と玲薇を、
避難する人々を守りながら、先導していたリュウを、
本部のモニター越しに現状を見守っていた勝呂、志摩、子猫丸を、
本部に運ばれた怪我人の手当てを手伝っていた出雲を、
高台で不安げにたたずむしえみを、
街の片隅の居酒屋で酔いつぶれるメフィストとアマイモンを、
結界場で最後の結界を張り直したシュラを、
それを援護していたエンジェルを・・・。
正十字学園町に存在するすべての人を、ものを、やさしく包みこむ。
血を吐くような燐の叫び声も・・・いつしか、その光の中に呑みこまれていった。