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『だったら、お前、いい奴じゃん』
『コイツは俺が引き取って弟にする』
『だから、俺たちは今日から四人兄弟だ』
彼がくれたやさしい言葉の数々が耳に蘇る。
あの時、頬をこぼれ落ちた涙のあたたかさが、
頭を撫でてくれた手のぬくもりが、うさ麻呂の心をこのうえもなくやさしく、
だからこそ切なく埋め尽くしていく。
嫌だ、と思った。燐が悲しむのは嫌だ。
でも・・・。
『約束してくれ。もう人の記憶を喰わない・・・その力を二度と使わないって』
記憶の中の燐の真剣な顔に、びくっとなる。
だが、それを振り払うようにぐっと下唇を噛みしめると、
しえみの手のひらの中から自分の手を抜き取った。
街の様子を一心に眺めていたしえみはそれに気づかない。
「うさ麻呂くん。ここも危ないから、奥へ行こうか・・・」
そう言い、となりにいるはずのうさ麻呂へと視線を下げる。
しかし、その時にすでに、うさ麻呂の身体は鉄柵の上に飛び乗っていた。
二人の視線がすれ違う。
「・・・・・うさ・・・麻呂、くん?」
虚空を睨むうさ麻呂の険しい表情に、
その真意に気づいたしえみが笑顔を凍りつかせる。
「!ダメッ!!」
自分に向かって伸ばされた細い腕に背を向け、
うさ麻呂がとなりの建物の屋根へ跳び移る。
幸運にも、燐の向かった陸橋から、まだそれほど離れていなかった。
コールタールに染められた街を屋根づたいに駆ける。
「お願い!うさ麻呂くん!!戻ってきて・・・!!」
しえみの悲鳴のような声が、人々のざわめきが、徐徐に遠くなっていく。
その両目には無数のコールタールで埋め尽くされた空も、街も、
コールタールが群がって出来た巨大な集合体も、入ってはいなかった。
「・・・りん・・・!!」
吹き付ける強風にあおられながら、力強く、その名を呼ぶ。
暗闇の中にいた自分に、再び光をくれた人の名前を・・・。
コールタールの大群に襲われていた三人の子供、
まだ幼い三人兄弟を助けた燐と雪男と玲薇は、
陸橋の端にある塔の形をした階段をひたすら上っていた。
地上へ降りる階段はすでにコールタールで黒くふさがれており、他に選択肢はない。
リニュウの背中に乗せ、空を飛べばとも思ったのだが、きっと地上と同じだろう。
燐が弟を背負い、兄を片腕でかばいながら螺旋状の階段を小走りに上がる。
そんな燐の後ろを、女の子を背負った玲薇は銃を抜き、
雪男のとなりで執拗に追いすがるコールタールに向け、
絶え間なく発砲しながら続く。
「・・・おねーちゃん・・・」
「大丈夫。ちゃんと耳を塞いでて。怖かったら、目をつぶってればいいの。
お姉ちゃんたちに任せれば、何も怖いことないからね」
「う、うん・・・」
そう。私には、頼れる二人がそばにいてくれてる。
それだけで、強くなろうと必死になれる。
「玲薇、無理しないでいいよ」
「平気。雪男だけじゃ、この数大変でしょ」
「・・・竜騎士、教えない方がよかったかな」
「そんなことないって」
塔の壁に銃声が反響し、そのたびに背中の少年が身を小さく震わせる。
ずり落ちてくる痩せた身体を幾度も背負い直しながら、
燐が壁に空いた四角い窓から外を見やる。そして、思わず息を呑んだ。
「なっ・・・」
銃声に引かれたのか、まるで光に集まる我のように、
大量のコールタールがこの塔に向かって集まっている。
先ほどまで少年たちがいた橋に、集まったコールタールが黒く鈴なりになっていた。
瞬きをするごとに、黒い橋がもぞもぞと蠢く。
「ヤベーぞ!雪男!!玲薇!!」
「っ・・・!!」
「・・・ともかく、屋上に出よう」
どうにか屋上に出ると、凄まじい強風だった。
雪男と燐の二人がかりで塔と屋上をつなぐ唯一の出入口を閉める。
これですぐには追ってこられないだろう。
『コイツは俺が引き取って弟にする』
『だから、俺たちは今日から四人兄弟だ』
彼がくれたやさしい言葉の数々が耳に蘇る。
あの時、頬をこぼれ落ちた涙のあたたかさが、
頭を撫でてくれた手のぬくもりが、うさ麻呂の心をこのうえもなくやさしく、
だからこそ切なく埋め尽くしていく。
嫌だ、と思った。燐が悲しむのは嫌だ。
でも・・・。
『約束してくれ。もう人の記憶を喰わない・・・その力を二度と使わないって』
記憶の中の燐の真剣な顔に、びくっとなる。
だが、それを振り払うようにぐっと下唇を噛みしめると、
しえみの手のひらの中から自分の手を抜き取った。
街の様子を一心に眺めていたしえみはそれに気づかない。
「うさ麻呂くん。ここも危ないから、奥へ行こうか・・・」
そう言い、となりにいるはずのうさ麻呂へと視線を下げる。
しかし、その時にすでに、うさ麻呂の身体は鉄柵の上に飛び乗っていた。
二人の視線がすれ違う。
「・・・・・うさ・・・麻呂、くん?」
虚空を睨むうさ麻呂の険しい表情に、
その真意に気づいたしえみが笑顔を凍りつかせる。
「!ダメッ!!」
自分に向かって伸ばされた細い腕に背を向け、
うさ麻呂がとなりの建物の屋根へ跳び移る。
幸運にも、燐の向かった陸橋から、まだそれほど離れていなかった。
コールタールに染められた街を屋根づたいに駆ける。
「お願い!うさ麻呂くん!!戻ってきて・・・!!」
しえみの悲鳴のような声が、人々のざわめきが、徐徐に遠くなっていく。
その両目には無数のコールタールで埋め尽くされた空も、街も、
コールタールが群がって出来た巨大な集合体も、入ってはいなかった。
「・・・りん・・・!!」
吹き付ける強風にあおられながら、力強く、その名を呼ぶ。
暗闇の中にいた自分に、再び光をくれた人の名前を・・・。
コールタールの大群に襲われていた三人の子供、
まだ幼い三人兄弟を助けた燐と雪男と玲薇は、
陸橋の端にある塔の形をした階段をひたすら上っていた。
地上へ降りる階段はすでにコールタールで黒くふさがれており、他に選択肢はない。
リニュウの背中に乗せ、空を飛べばとも思ったのだが、きっと地上と同じだろう。
燐が弟を背負い、兄を片腕でかばいながら螺旋状の階段を小走りに上がる。
そんな燐の後ろを、女の子を背負った玲薇は銃を抜き、
雪男のとなりで執拗に追いすがるコールタールに向け、
絶え間なく発砲しながら続く。
「・・・おねーちゃん・・・」
「大丈夫。ちゃんと耳を塞いでて。怖かったら、目をつぶってればいいの。
お姉ちゃんたちに任せれば、何も怖いことないからね」
「う、うん・・・」
そう。私には、頼れる二人がそばにいてくれてる。
それだけで、強くなろうと必死になれる。
「玲薇、無理しないでいいよ」
「平気。雪男だけじゃ、この数大変でしょ」
「・・・竜騎士、教えない方がよかったかな」
「そんなことないって」
塔の壁に銃声が反響し、そのたびに背中の少年が身を小さく震わせる。
ずり落ちてくる痩せた身体を幾度も背負い直しながら、
燐が壁に空いた四角い窓から外を見やる。そして、思わず息を呑んだ。
「なっ・・・」
銃声に引かれたのか、まるで光に集まる我のように、
大量のコールタールがこの塔に向かって集まっている。
先ほどまで少年たちがいた橋に、集まったコールタールが黒く鈴なりになっていた。
瞬きをするごとに、黒い橋がもぞもぞと蠢く。
「ヤベーぞ!雪男!!玲薇!!」
「っ・・・!!」
「・・・ともかく、屋上に出よう」
どうにか屋上に出ると、凄まじい強風だった。
雪男と燐の二人がかりで塔と屋上をつなぐ唯一の出入口を閉める。
これですぐには追ってこられないだろう。