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「いやー。終わった、終わった」
水門から桟橋に戻ったシュラが、両腕を大きく伸ばした。
「やっぱり、二人いると早くていいねぇ~」
脇を歩く男は、鮮やかな赤い布で一つに縛った長い髪を胸の前でゆらしながら、
相変わらず寡黙に構えている。シュラが首だけを男の方に向けて、
ニヤニヤしながら言った。
「お前、暇だったら明日からもつき合えよ」
「俺に頼らずとも、日本支部は人材豊富だろう」
男が平板な口調で答える。
「冗談」
と、応じるシュラ。
男は淡々と言葉を続ける。
「例の双子と女の子・・・」
編み笠の下で茶色の双眸(そうぼう)が静かに、となりを歩くシュラを見つめる。
「双子の兄の方は、サタンを脅かすほどの力と聞いているぞ」
真偽を探るような男の眼差しに、シュラがふんと鼻で笑う。
「ずいぶんな噂だな。大したことねーよ」
と、大仰に片腕を振ってみせる。
「まだエクスワイアだ」
「エクスワイア?」
男の眼差しが、険しさを増す。
「そんな奴がまだ、エクスワイアなのか?」
ふっと笑ったシュラが、嘯く(うそぶ)ように言う。
「会ってから驚けよ」
そして、桟橋の先端に横づけてある船に向かった。
「近くにいい店、見つけたんだ。おごるぜ?」
男に言った後で、後ろを歩いているスタッフへ声をかける。
「なぁ、三丁目まで船で乗せてってく」
その時、異様なほどに大きな走行音が、はるか頭上で鳴り響いた。
「何だぁ?」
シュラがかったるそうな視線を向ける。男も顎を上げた。
両者の視界に、鉄橋の上を暴走する幽霊列車の姿が映る。
シュラが片眉を上げる。瞬時に真面目な表情になり、
背後のスタッフへ、オイ、と問う。
「アレの担当者は!?」
「お、奥村先生とエクスワイアが三名・・・」
スタッフの男が慌てた様子で答える。シュラが頭を抱えた。
「・・・・・何、やってんだよ。アイツら」
「オクムラ・・・」
編み笠を持ち上げて幽霊列車を見すえていた男が、つぶやく。
そして、その目つきを鋭くした。
「アレが、例の・・・」
よりいっそうまがまがしい外見となった幽霊列車がひた走る鉄橋の下には、
正十字学園町きってのプラント地帯が広がっている。
灰色の工場群は、頭上で繰り広げられる乱闘とは無縁の静寂をたたえていた。
「っ・・・!」
雪男が弾切れになった銃に舌打ちし、手早くマガジンチェンジを行う。
その間、燐は袋に入ったままの剣で、襲いかかる触手をなぎ払っていた。
二人の身を案じつつ、リニュウの背中にいるままの玲薇。
そんな三人のもとに、下からしえみの声が届いた。
「燐!雪ちゃん!風美夜さん!」
雪男が銃を構えたまま振り返ると、
彼らのいる先頭車両と第二車両の連結部分に、
鬼灯を抱えたしえみの姿があった。
吹きつける風に、髪をなぶられている。
「こっちは終わったよー!」
懸命に走りまわったのだろう。頬を真っ赤に染め、肩で息をしていた。
幽霊列車の注意が、新たに現れた彼女へと移る。
それに気づいた雪男が、鋭い声で叫んだ。
「しえみさん・・・!下がって!!」
ほぼ同時に、屋根から伸ばされた触手がしえみに襲いかかった。
「あ!」
玲薇もそれに気づき、声を上げる。
雪男が素早く対処するため、銃弾を撃ちこんだ。
彼はそのまま連結部に飛び下り、銃で威嚇しつつ、
しえみをうながし第二車両に駆けこんだ。
「雪ちゃん!」
「非常事態です。トロッコまで急ぎましょう」
険しい顔でしえみに指示した後、いまだ先頭車両の屋根にいる兄と、
リニュウの背中に乗って空にいる玲薇に向かって叫んだ。
「兄さんも急いで!玲薇もトロッコの方まで戻って!!」
叫びながら、再びマガジンチェンジを行った雪男がしえみを振り返る。
しえみは、まだそこに立ちすくんでいた。
「何をしているんですか!?走って」
そこで言葉を止めた雪男が、自身もしえみの視線を追い、両目を開いた。
古いブラウン菅テレビの映像のように視界が、ジジッ、とぶれたかと思うと、
吊革がまるで意思を持ったように不規則にゆれ始めた。
やがて、鋭い牙を生やした吊革が大きな口を開き、
だらだらと涎を垂れ流した。涎からきつい酸の臭いがする。
「くっ・・・!」
思った以上に、急速に悪魔化が進んでいる。
奥歯を噛みしめた雪男がしえみをかばい、
襲いかかる吊革を順に撃ち落としていく。
その間にも、悪魔の肉と化した壁が、彼らの入ってきた扉を呑みこんでしまう。
「・・・さぁ。早く、トロッコ車両へ」
玲薇は、大丈夫だろう。しかし、兄は残してきてしまった。
兄へ、わずかに案ずる視線を向けた雪男が、それを振り払うように、
しえみをうながしつつ後部車両へと素早く移動する。
幽霊列車の車内に、乾いた発砲音が続けざまに響きわたった。
水門から桟橋に戻ったシュラが、両腕を大きく伸ばした。
「やっぱり、二人いると早くていいねぇ~」
脇を歩く男は、鮮やかな赤い布で一つに縛った長い髪を胸の前でゆらしながら、
相変わらず寡黙に構えている。シュラが首だけを男の方に向けて、
ニヤニヤしながら言った。
「お前、暇だったら明日からもつき合えよ」
「俺に頼らずとも、日本支部は人材豊富だろう」
男が平板な口調で答える。
「冗談」
と、応じるシュラ。
男は淡々と言葉を続ける。
「例の双子と女の子・・・」
編み笠の下で茶色の双眸(そうぼう)が静かに、となりを歩くシュラを見つめる。
「双子の兄の方は、サタンを脅かすほどの力と聞いているぞ」
真偽を探るような男の眼差しに、シュラがふんと鼻で笑う。
「ずいぶんな噂だな。大したことねーよ」
と、大仰に片腕を振ってみせる。
「まだエクスワイアだ」
「エクスワイア?」
男の眼差しが、険しさを増す。
「そんな奴がまだ、エクスワイアなのか?」
ふっと笑ったシュラが、嘯く(うそぶ)ように言う。
「会ってから驚けよ」
そして、桟橋の先端に横づけてある船に向かった。
「近くにいい店、見つけたんだ。おごるぜ?」
男に言った後で、後ろを歩いているスタッフへ声をかける。
「なぁ、三丁目まで船で乗せてってく」
その時、異様なほどに大きな走行音が、はるか頭上で鳴り響いた。
「何だぁ?」
シュラがかったるそうな視線を向ける。男も顎を上げた。
両者の視界に、鉄橋の上を暴走する幽霊列車の姿が映る。
シュラが片眉を上げる。瞬時に真面目な表情になり、
背後のスタッフへ、オイ、と問う。
「アレの担当者は!?」
「お、奥村先生とエクスワイアが三名・・・」
スタッフの男が慌てた様子で答える。シュラが頭を抱えた。
「・・・・・何、やってんだよ。アイツら」
「オクムラ・・・」
編み笠を持ち上げて幽霊列車を見すえていた男が、つぶやく。
そして、その目つきを鋭くした。
「アレが、例の・・・」
よりいっそうまがまがしい外見となった幽霊列車がひた走る鉄橋の下には、
正十字学園町きってのプラント地帯が広がっている。
灰色の工場群は、頭上で繰り広げられる乱闘とは無縁の静寂をたたえていた。
「っ・・・!」
雪男が弾切れになった銃に舌打ちし、手早くマガジンチェンジを行う。
その間、燐は袋に入ったままの剣で、襲いかかる触手をなぎ払っていた。
二人の身を案じつつ、リニュウの背中にいるままの玲薇。
そんな三人のもとに、下からしえみの声が届いた。
「燐!雪ちゃん!風美夜さん!」
雪男が銃を構えたまま振り返ると、
彼らのいる先頭車両と第二車両の連結部分に、
鬼灯を抱えたしえみの姿があった。
吹きつける風に、髪をなぶられている。
「こっちは終わったよー!」
懸命に走りまわったのだろう。頬を真っ赤に染め、肩で息をしていた。
幽霊列車の注意が、新たに現れた彼女へと移る。
それに気づいた雪男が、鋭い声で叫んだ。
「しえみさん・・・!下がって!!」
ほぼ同時に、屋根から伸ばされた触手がしえみに襲いかかった。
「あ!」
玲薇もそれに気づき、声を上げる。
雪男が素早く対処するため、銃弾を撃ちこんだ。
彼はそのまま連結部に飛び下り、銃で威嚇しつつ、
しえみをうながし第二車両に駆けこんだ。
「雪ちゃん!」
「非常事態です。トロッコまで急ぎましょう」
険しい顔でしえみに指示した後、いまだ先頭車両の屋根にいる兄と、
リニュウの背中に乗って空にいる玲薇に向かって叫んだ。
「兄さんも急いで!玲薇もトロッコの方まで戻って!!」
叫びながら、再びマガジンチェンジを行った雪男がしえみを振り返る。
しえみは、まだそこに立ちすくんでいた。
「何をしているんですか!?走って」
そこで言葉を止めた雪男が、自身もしえみの視線を追い、両目を開いた。
古いブラウン菅テレビの映像のように視界が、ジジッ、とぶれたかと思うと、
吊革がまるで意思を持ったように不規則にゆれ始めた。
やがて、鋭い牙を生やした吊革が大きな口を開き、
だらだらと涎を垂れ流した。涎からきつい酸の臭いがする。
「くっ・・・!」
思った以上に、急速に悪魔化が進んでいる。
奥歯を噛みしめた雪男がしえみをかばい、
襲いかかる吊革を順に撃ち落としていく。
その間にも、悪魔の肉と化した壁が、彼らの入ってきた扉を呑みこんでしまう。
「・・・さぁ。早く、トロッコ車両へ」
玲薇は、大丈夫だろう。しかし、兄は残してきてしまった。
兄へ、わずかに案ずる視線を向けた雪男が、それを振り払うように、
しえみをうながしつつ後部車両へと素早く移動する。
幽霊列車の車内に、乾いた発砲音が続けざまに響きわたった。