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夢小説設定
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ただでさえ精密さが要求される作業だ。
こうもひっきりなしに邪魔をされながら、
それでも一定以上の集中力を保つというのは、
口で言うほど簡単なものではない。
しかも、詠唱中はまるで無防備になる。そこを狙われたら終わりだ。
シュラが二の足を踏んでいる間に、換気用のダクト穴から大量のコールタールがなだれこんできた。
寄り集まり、集合体となったそれが、逃げ惑う詠唱隊を飲みこむ。
「あ・・・え・・・詠唱・・・隊が・・・」
梯子の上のスタッフが愕然とその光景を見つめ、かすれた声をもらす。
「チッ」
荒々しく舌打ちしたシュラが覚悟を決め、瞑目した。
大きく柏手を打ち、詠唱を始める。
そんなシュラを脅すように、集合体となったコールタールが、
巨大な海坊主のような姿で前後左右から台座へと迫る。
「ひっ・・・シュ・・・シュラさん・・・っ!!」
鉄梯子の上のスタッフは完全に腰を引けてしまっている。
もともと期待はしていないが、このぶんでは援護は無理だろう。
だが、詠唱は始まったばかりだ。
(ヤベーな・・・さすがに)
プレッシャーから、シュラの額を冷たい汗が滴り落ちる。
それでも、集中力をとぎれさせぬよう懸命に詠唱を続ける。
その鼻先まで迫ったコールタールの集合体を、突如、
坑道内を照らした閃光が切り裂き、吹き飛ばした。
続いて軽やかに台座へと降り立った人物に、シュラが片方のまぶたを持ち上げる。
そして、肉厚な唇の端にふうっと皮肉な笑みを浮かべた。
「遅ぇぞ。ハゲ」
「ハゲではない。アーサー・A・エンジェルだ」
部下の暴言に、白い歯をキランと光らせたエンジェルがさわやかな笑みで応じる。
その利き手に握られた魔剣カリバーンにて、台座に襲いかかるコールタールの群れを次々となぎ払っていく。
「ここは俺が喰いとめる。お前はさっさと詠唱を続けろ、シュラ」
「うっせー!いちいちカッコつけんな!!このクソバカハゲ!」
上司を上司とも思わぬ口調でそう罵ると、
シュラが再びまぶたを閉じ、とぎれていた詠唱を再開する。
依然、コールタールは増え続けていたが、
もうその額を冷や汗が伝わることはなく、
唇には余裕の笑みさえ浮かんでいた・・・。
同時刻、高台にそびえる建物の屋上では、逃げそこねた人々が十人ほど、
不安げに街を眺めていた。その中にしえみとうさ麻呂の姿もある。
あの後、二人だけで本部に戻ろうとしたのだが、
コールタールに行く手をふさがれてしまいどうにもならなくなり、
人々の流れに呑まれるようにここに辿り着いた。
二人は人々から離れ、屋上をぐるりと張り巡らされた鉄柵越しに街を見下ろしていた。
無数のコールタールによってすっぽりと覆われた街は暗く、一片の灯りすら見えない。
まるで死んだ街のようだった。
しえみが自分のものをはずして巻いてくれた赤いマフラーに、うさ麻呂が小さな顎を埋める。
となりに立っているしえみの手をぎゅっと握りしめると、すぐに握り返してくれた。
血の気が引いているのか、指先が氷のように冷たい。
その手のひらが小さく震えているのがわかり、うさ麻呂の胸がチクリと痛んだ。
迫りくるコールタールを怖れているのか、三人の安否を気遣っているのか・・・。
血の気の失せた顔で、それでもうさ麻呂を不安にさせまいと精一杯気丈に振る舞っているしえみの姿に、
罪悪感がこみ上げてくる。
(うさマロの・・・うさマロのせいじゃ・・・)
仕事がなくなれば祭りに参加できる。皆で楽しく遊べる。街中の皆がそれを望んでいる。
・・・自分がよかれと思ってやったことが、逆に皆を苦しめ、傷つけているのだという事実が、
うさ麻呂の小さな胸に重くのしかかる。これでは、あの時と同じだ。なくなってしまったというあの村と。
この街もなくなってしまうのだろうか?自分のせいで。
(・・・りん・・・)
この街がなくなってしまったら、燐はどうするのだろう。
嘆くだろうか、悲しむだろうか。また、あんな辛そうな顔をするのだろうか。
こうもひっきりなしに邪魔をされながら、
それでも一定以上の集中力を保つというのは、
口で言うほど簡単なものではない。
しかも、詠唱中はまるで無防備になる。そこを狙われたら終わりだ。
シュラが二の足を踏んでいる間に、換気用のダクト穴から大量のコールタールがなだれこんできた。
寄り集まり、集合体となったそれが、逃げ惑う詠唱隊を飲みこむ。
「あ・・・え・・・詠唱・・・隊が・・・」
梯子の上のスタッフが愕然とその光景を見つめ、かすれた声をもらす。
「チッ」
荒々しく舌打ちしたシュラが覚悟を決め、瞑目した。
大きく柏手を打ち、詠唱を始める。
そんなシュラを脅すように、集合体となったコールタールが、
巨大な海坊主のような姿で前後左右から台座へと迫る。
「ひっ・・・シュ・・・シュラさん・・・っ!!」
鉄梯子の上のスタッフは完全に腰を引けてしまっている。
もともと期待はしていないが、このぶんでは援護は無理だろう。
だが、詠唱は始まったばかりだ。
(ヤベーな・・・さすがに)
プレッシャーから、シュラの額を冷たい汗が滴り落ちる。
それでも、集中力をとぎれさせぬよう懸命に詠唱を続ける。
その鼻先まで迫ったコールタールの集合体を、突如、
坑道内を照らした閃光が切り裂き、吹き飛ばした。
続いて軽やかに台座へと降り立った人物に、シュラが片方のまぶたを持ち上げる。
そして、肉厚な唇の端にふうっと皮肉な笑みを浮かべた。
「遅ぇぞ。ハゲ」
「ハゲではない。アーサー・A・エンジェルだ」
部下の暴言に、白い歯をキランと光らせたエンジェルがさわやかな笑みで応じる。
その利き手に握られた魔剣カリバーンにて、台座に襲いかかるコールタールの群れを次々となぎ払っていく。
「ここは俺が喰いとめる。お前はさっさと詠唱を続けろ、シュラ」
「うっせー!いちいちカッコつけんな!!このクソバカハゲ!」
上司を上司とも思わぬ口調でそう罵ると、
シュラが再びまぶたを閉じ、とぎれていた詠唱を再開する。
依然、コールタールは増え続けていたが、
もうその額を冷や汗が伝わることはなく、
唇には余裕の笑みさえ浮かんでいた・・・。
同時刻、高台にそびえる建物の屋上では、逃げそこねた人々が十人ほど、
不安げに街を眺めていた。その中にしえみとうさ麻呂の姿もある。
あの後、二人だけで本部に戻ろうとしたのだが、
コールタールに行く手をふさがれてしまいどうにもならなくなり、
人々の流れに呑まれるようにここに辿り着いた。
二人は人々から離れ、屋上をぐるりと張り巡らされた鉄柵越しに街を見下ろしていた。
無数のコールタールによってすっぽりと覆われた街は暗く、一片の灯りすら見えない。
まるで死んだ街のようだった。
しえみが自分のものをはずして巻いてくれた赤いマフラーに、うさ麻呂が小さな顎を埋める。
となりに立っているしえみの手をぎゅっと握りしめると、すぐに握り返してくれた。
血の気が引いているのか、指先が氷のように冷たい。
その手のひらが小さく震えているのがわかり、うさ麻呂の胸がチクリと痛んだ。
迫りくるコールタールを怖れているのか、三人の安否を気遣っているのか・・・。
血の気の失せた顔で、それでもうさ麻呂を不安にさせまいと精一杯気丈に振る舞っているしえみの姿に、
罪悪感がこみ上げてくる。
(うさマロの・・・うさマロのせいじゃ・・・)
仕事がなくなれば祭りに参加できる。皆で楽しく遊べる。街中の皆がそれを望んでいる。
・・・自分がよかれと思ってやったことが、逆に皆を苦しめ、傷つけているのだという事実が、
うさ麻呂の小さな胸に重くのしかかる。これでは、あの時と同じだ。なくなってしまったというあの村と。
この街もなくなってしまうのだろうか?自分のせいで。
(・・・りん・・・)
この街がなくなってしまったら、燐はどうするのだろう。
嘆くだろうか、悲しむだろうか。また、あんな辛そうな顔をするのだろうか。