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夢小説設定

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玲薇
風美夜

薄暗い街の中をうさ麻呂はがむしゃらに走っていた。
辛い記憶を喰ってあげようとした時の燐の・・・あの悲鳴のような叫びが、
拒絶の言葉が、うさ麻呂の胸を容赦なく切り裂いていく。
自分を見つめた燐の悲しげな目が、頭から離れない。

(なぜじゃ、どうしてなんじゃ・・・)
胸の中で何度もそう叫びながら、夜の街をひた走る。
地下鉄の入口で警備をしていた二人の祓魔師が、
いきなり現れた小さな兎に面食らったような顔を向けた。
「え・・・兎?」
「オイ。ダメだぞ、こっから先に入っちゃ・・・」
そう言ってしっしっと追い払おうとする。

カッとなったうさ麻呂が、邪魔をするな、と伸ばした尻尾で両者を払いのける。
二人の男は呆気なく気を失った。そのまま、コンクリートがむき出しになった階段を駆け下りていく。
駆け下りながら、脳裏に浮かぶ燐の苦しげな顔に、ぎゅっと歯を食いしばる。

(なぜじゃ・・・どうして、そんなカオをするのじゃ・・・!)
脳裏に浮かぶ燐の顔はやがて、記憶の中の一人の少年へと変わった。
(みんな、イヤなことをわすれてしあわせになったのに・・・なぜじゃ・・・!?)
ホールから路線へと飛び下り、暗いトンネルの中を駆け抜けながら、
うさ麻呂が胸の奥で叫び続ける。

ずっと、淋しかった。ひとりぼっちで、淋しかった。
身体の中が空っぽで、力がまるで出なくて、
森から出てすぐのところに倒れていたら、一人の少年がのぞきこんできた。
小さくちぎってくれたお団子を口に入れてもらうと、
ふんわりと灯がともったように胸の奥があたたかくなった。

拒絶されるのが怖くて震えながら伸ばした手を、少年は握り返してくれた。
あたたかな手だった。思わず、涙がこぼれそうになった。
やわらかな少年の腕に抱かれて向かった村には、たくさんの人がいた。
男も女も老人も子供も、赤ん坊もいた。村人たちはイヤな顔もせず、
行き倒れの小さな悪魔を受け入れてくれた。貧しいけれど、心やさしい人たちだった。

ある日、少年が大切な器を壊してしまい、膝を抱えてすすり泣いていた。
寄り添って、その記憶を喰ってやる。少年は笑顔になった。
うさ麻呂も笑顔になる。

また別の日、村に偉そうな男たちがやって来た。
『やくにん』という名前のその男たちは、横柄な態度で米を出せと命じた。
だが、日照り続きで稲は痩せ、村人たちが食べるぶんもなかった。
堪忍してくれと頭を下げる村の男たちを足蹴にすると、
何日後にまた来ると告げ、やくにんたちは去っていった。

その晩、村は沈んでいた。皆が嘆き悲しみ、少年も青白い顔で嗚咽をこらえていた。
だから、皆の記憶を喰ってやった。辛い記憶を残さず喰ってやった。
悲しまなくていい。苦しまなくていい。皆、自分が喰ってやる。

村の皆はイヤなことを忘れ、笑顔になった。
楽しく踊ったり歌ったりの毎日が過ぎていく。
皆の笑顔がうれしかった。少年の笑顔がうれしかった。
ここには自分の居場所がある。もう、ひとりぼっちじゃない。
もう淋しくなんかない。なのに・・・。

いつの間にか、皆の顔から笑顔が消えていた。
少年の顔からさえも・・・。皆が責めるように自分を見つめている。
冷たい目で睨んでいる。そこには怯えと畏れに混じって、確かな憎悪があった。
アイツのせいだ・・・。アイツが来たから・・・。
後から後から浴びせれる呪詛のような言葉に、耳を覆いたくなった。

なんで、こんなことになった?
どうして、こんな風になってしまったんだろう?
自分はただ、皆と楽しく、シアワセに暮らしたかっただけなのに。

『ちがう・・・これは、なにかのまちがいじゃ!!』
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