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祭り警備対策本部に着くと、リュウは台湾支部の二人を仮眠スペースに横たえ、
そのそばにある黒い長椅子に、棍を床に突き立てたまま腰を下ろした。
その前に雪男と燐と玲薇の三人が立つ。
本部に戻ってきていた塾生たちも、遠巻きにこちらをうかがっている。
「話してください」
雪男がうながす。リュウは感情のうかがいがたい視線を、
棍を持つ己の両手のあたりに据えると、己の祖先が封じた悪魔について淡々と語り始めた。
「アイツは人間の心の中にあるわずかなほころびから、
人間の欲につけこみ心を滅ぼす能力を持つ・・・。
だが、アイツに悪意はないように見えたらしい」
「無自覚ということですか?」
雪男の問いにリュウが言いよどむ。
軽くかぶりを振った。
「わからん。悪魔特有の狡猾(こうかつ)な芝居かもしれん。
だが、祖先の目にはアイツは無害で人懐っこい悪魔に映ったようだ」
「・・・・・・・」
「だからこそ、祖先はアイツを祓わず、村人と交わるのを許した。
悪魔にくだらん情けをかけたんだ・・・そのために、村は滅んだ」
「ですが、祓魔師が村に到着したのは村人が堕落した後でしたよね?」
眉をひそめる雪男。
(確かにそうだ・・・)
玲薇もまた、雪男の言葉で絵本の内容を思い出していく。
リュウは皮肉な笑みを浮かべた。
「お前らの知っている話は都合よく歪められている」
「!」
「悪魔を祓う祓魔師は、常に英雄でなければならないということだろう。
たとえ、本当の歴史がどうであれな」
「・・・・・・」
(改竄(かいざん)されたということか・・・)
雪男が苦い表情になる。
祓魔師が判断を誤ったことで村が滅んでしまったとなれば、
人々の祓魔師に対する信頼は地に落ちる。だから、事実は歪められた。
あまつさえ、その祓魔師は英雄として祀り上げられ、
いびつな物語と祭りが後世に伝えられた。
だからこそ、この男はそれを嫌悪し『ふざけた祭り』と言ったのだ。
確かに、真実を知る身からすれば、英雄と化した"年男"が、
兎の悪魔を模した張りぼて相手に大立ちまわりを演じ、
最後に人々の歓声に包まれ止めを刺す・・・あの芝居は、道化以外の何ものでもないだろう。
(だから、この人はこれほどまでにストイックに悪魔を祓おうとするんだろうか?)
一族の犯した過ちに囚われ、こうあらねばという理想でがんじがらめになっているのだろうか?
それは、すんなりくるようで、何か違うようにも思えた。
兄があの悪魔の少年をかばい、馴れ合うことに、
ほとんど憎悪と言ってもいい感情を露にしたリュウ。
あの時の彼の様子は、そういった類いのものではない気がした。
うまく言えないが、もっと彼の深層心理に関わる根深い理由があるように思える。
あの時、彼の中にあったのは、本当に憎悪だけなのだろうか・・・。
雪男が黙考していると、リュウが自嘲的な笑みを消し、話の先を続けた。
「己の甘さを悔やんだ祖先により、ユウトウは封印されたが、
その祠のありかはいつしか村とともに忘れ去られてしまった」
「それが・・・あそこに」
鉄橋から落下した幽霊列車がビルを倒壊させた際に、その巻き添えになった。
封印は解かれ、ユウトウは長い眠りから解き放たれてしまった・・・。
「お前がしていることは」
リュウが顎を上げ、燐を見すえる。
「かつて、俺の祖先が犯した過ちと同じことだ。
アイツを放っておけばどうなるかは、いくらお前でもわかるだろう」
リュウの両目が燐を容赦なく捉える。
「お前はこの街を滅ぼすつもりか」
「・・・!」
「悪魔に情けをかけるな。それができないなら、祓魔師になどなるな」
切りつけるようにリュウが告げる。
突きつけられる言葉の重さに、燐が唇を噛みしめる。
唇が、握りしめた拳が、わなわな小さく震えている。燐は何も言わない。
(燐・・・)
だが、雪男にはわかった。
兄が決して、リュウの言っていることに納得しているわけではないと。
その心はまだあの悪魔を案じ、どうにかできぬか考えているのだと。
(お願いだから、これ以上、余計なことはしないでくれ・・・!!)
となりに立つ兄に向かってそう叫びたい気持ちを懸命にこらえる。
言ったところで素直に聞き入れるような兄ではない。
痛いほどにそれはわかっていた。だから、何も言わなかった。
否・・・言えなかった。
そのそばにある黒い長椅子に、棍を床に突き立てたまま腰を下ろした。
その前に雪男と燐と玲薇の三人が立つ。
本部に戻ってきていた塾生たちも、遠巻きにこちらをうかがっている。
「話してください」
雪男がうながす。リュウは感情のうかがいがたい視線を、
棍を持つ己の両手のあたりに据えると、己の祖先が封じた悪魔について淡々と語り始めた。
「アイツは人間の心の中にあるわずかなほころびから、
人間の欲につけこみ心を滅ぼす能力を持つ・・・。
だが、アイツに悪意はないように見えたらしい」
「無自覚ということですか?」
雪男の問いにリュウが言いよどむ。
軽くかぶりを振った。
「わからん。悪魔特有の狡猾(こうかつ)な芝居かもしれん。
だが、祖先の目にはアイツは無害で人懐っこい悪魔に映ったようだ」
「・・・・・・・」
「だからこそ、祖先はアイツを祓わず、村人と交わるのを許した。
悪魔にくだらん情けをかけたんだ・・・そのために、村は滅んだ」
「ですが、祓魔師が村に到着したのは村人が堕落した後でしたよね?」
眉をひそめる雪男。
(確かにそうだ・・・)
玲薇もまた、雪男の言葉で絵本の内容を思い出していく。
リュウは皮肉な笑みを浮かべた。
「お前らの知っている話は都合よく歪められている」
「!」
「悪魔を祓う祓魔師は、常に英雄でなければならないということだろう。
たとえ、本当の歴史がどうであれな」
「・・・・・・」
(改竄(かいざん)されたということか・・・)
雪男が苦い表情になる。
祓魔師が判断を誤ったことで村が滅んでしまったとなれば、
人々の祓魔師に対する信頼は地に落ちる。だから、事実は歪められた。
あまつさえ、その祓魔師は英雄として祀り上げられ、
いびつな物語と祭りが後世に伝えられた。
だからこそ、この男はそれを嫌悪し『ふざけた祭り』と言ったのだ。
確かに、真実を知る身からすれば、英雄と化した"年男"が、
兎の悪魔を模した張りぼて相手に大立ちまわりを演じ、
最後に人々の歓声に包まれ止めを刺す・・・あの芝居は、道化以外の何ものでもないだろう。
(だから、この人はこれほどまでにストイックに悪魔を祓おうとするんだろうか?)
一族の犯した過ちに囚われ、こうあらねばという理想でがんじがらめになっているのだろうか?
それは、すんなりくるようで、何か違うようにも思えた。
兄があの悪魔の少年をかばい、馴れ合うことに、
ほとんど憎悪と言ってもいい感情を露にしたリュウ。
あの時の彼の様子は、そういった類いのものではない気がした。
うまく言えないが、もっと彼の深層心理に関わる根深い理由があるように思える。
あの時、彼の中にあったのは、本当に憎悪だけなのだろうか・・・。
雪男が黙考していると、リュウが自嘲的な笑みを消し、話の先を続けた。
「己の甘さを悔やんだ祖先により、ユウトウは封印されたが、
その祠のありかはいつしか村とともに忘れ去られてしまった」
「それが・・・あそこに」
鉄橋から落下した幽霊列車がビルを倒壊させた際に、その巻き添えになった。
封印は解かれ、ユウトウは長い眠りから解き放たれてしまった・・・。
「お前がしていることは」
リュウが顎を上げ、燐を見すえる。
「かつて、俺の祖先が犯した過ちと同じことだ。
アイツを放っておけばどうなるかは、いくらお前でもわかるだろう」
リュウの両目が燐を容赦なく捉える。
「お前はこの街を滅ぼすつもりか」
「・・・!」
「悪魔に情けをかけるな。それができないなら、祓魔師になどなるな」
切りつけるようにリュウが告げる。
突きつけられる言葉の重さに、燐が唇を噛みしめる。
唇が、握りしめた拳が、わなわな小さく震えている。燐は何も言わない。
(燐・・・)
だが、雪男にはわかった。
兄が決して、リュウの言っていることに納得しているわけではないと。
その心はまだあの悪魔を案じ、どうにかできぬか考えているのだと。
(お願いだから、これ以上、余計なことはしないでくれ・・・!!)
となりに立つ兄に向かってそう叫びたい気持ちを懸命にこらえる。
言ったところで素直に聞き入れるような兄ではない。
痛いほどにそれはわかっていた。だから、何も言わなかった。
否・・・言えなかった。