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夢小説設定
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街中を駆け抜ける兎を追跡する雪男の行く手を、祭りの帰りの人々を乗せた路面電車が阻む。
苛立ちながら電車が通り過ぎるのを待ち、再び兎を追う。だが、兎の姿はすでにどこにも見当たらなかった。
(リニュウに追わせるようには、言えない、か・・・。一体、どっちに向かったんだ・・・!?)
銃を左手に構えた雪男が、暗闇に目を凝らす。
すると、いつの間にかおびただしい数のコールタールが闇夜をさらに黒々と染め上げていた。
雪男がその眼差しを険しくする・・・と、さほど離れていない場所から銃声が聞こえた。
ゆるんだ結界から侵入した悪魔と少人数の部隊が対峙している。
ジャカルタからやって来た面々は、慣れぬ土地に加え、
悪魔の巨大さに苦戦を強いられているようだ。
「応援はどうしたんだ!?」
「クソ!!本部は何をやってる!!」
異国の祓魔師たちが苛立たしげに叫ぶ声が、風に乗って雪男にまで届く。
やはり、本部がもぬけの殻でまともに機能していないのだ。
劣勢を強いられている彼らを助勢したい気持ちを抑え、ひとまず神社へと踵を返す。
正体がわかったと言い、走り出したリュウ。
彼を探し出すと、兄が助けた少年らしき悪魔がそこにいた。
ちっぽけな兎の姿で。
(兎の・・・悪魔・・・?)
働くことを忘れ、滅んでしまった村。
兄や塾生、講師たちの不可解な言動。
「・・・まさか」
雪男が顔をしかめる。しかし安易な断定は避け、足を速める。
神社に戻ると、兄とリュウが気絶した台湾支部の二人をそれぞれ担いで、
神社の石段を降りてくるところだった。
険しい顔でむっつりと黙りこくったリュウの隣から、
やはり浮かない表情の燐がついている。
彼らの後ろには、ちゃんと玲薇もいた。
「・・・・・・・」
雪男に気づいた前の二人が立ち止まり、下に向いていた玲薇の顔が上がる。
「雪男・・・」
ぼそりとつぶやく。
燐は雪男が一人で立っていることがわかると、眉を寄せ、ぐっと唇を結んだ。
その何とも言いがたい表情は、おそらく、
弟が件の悪魔の子供を連れていないことに対しての安堵と不安がないまぜになった代物だろう。
「リニュウ、ありがとう。もういいよ」
「うん」
玲薇がリニュウを自分につけたのは、心配だから。
でも、それはもう大丈夫。彼女はリニュウをもとに戻した。
「雪男、うさ麻呂は・・・」
一連を見届けてから、燐が口を挟む。
「何者なんです。あの兎は」
しかし、言いかけた兄を無視して、雪男がリュウを正面から見すえる。
落ち着いた声を出せたはずだ。だが、もしかすると、
わずかに苛立ちが透けてしまったかもしれない。
無言で雪男を見つめ返したリュウが、重い口を開いた。
「・・・アイツは時の王・サマエルの眷属だ。時を操り、人の記憶を喰らう。
かつて、我が祖先が封じた悪魔だ」
「やっぱり」
と、雪男がつぶやく。リュウが苦い声で先を続けた。
「その折に、我が祖先は重大な過ちを犯した」
「過ち・・・?」
「あるいは、罪と言ってもいいかもしれんな」
「!?」
思いもよらない言葉に、雪男だけでなく、
玲薇も燐もぎょっとした顔つきになってリュウを見つめている。
「どういうことですか?」
「・・・・・・」
さらに問うと、リュウはかすかに目を伏せた。
「この先は、本部で話す」
そう言い、部下の一人を担ぎ直すと、再び歩き出した。
異国から来た祓魔師の横顔は、あらゆる感情を押し殺そうとしているかのように見えた。
苛立ちながら電車が通り過ぎるのを待ち、再び兎を追う。だが、兎の姿はすでにどこにも見当たらなかった。
(リニュウに追わせるようには、言えない、か・・・。一体、どっちに向かったんだ・・・!?)
銃を左手に構えた雪男が、暗闇に目を凝らす。
すると、いつの間にかおびただしい数のコールタールが闇夜をさらに黒々と染め上げていた。
雪男がその眼差しを険しくする・・・と、さほど離れていない場所から銃声が聞こえた。
ゆるんだ結界から侵入した悪魔と少人数の部隊が対峙している。
ジャカルタからやって来た面々は、慣れぬ土地に加え、
悪魔の巨大さに苦戦を強いられているようだ。
「応援はどうしたんだ!?」
「クソ!!本部は何をやってる!!」
異国の祓魔師たちが苛立たしげに叫ぶ声が、風に乗って雪男にまで届く。
やはり、本部がもぬけの殻でまともに機能していないのだ。
劣勢を強いられている彼らを助勢したい気持ちを抑え、ひとまず神社へと踵を返す。
正体がわかったと言い、走り出したリュウ。
彼を探し出すと、兄が助けた少年らしき悪魔がそこにいた。
ちっぽけな兎の姿で。
(兎の・・・悪魔・・・?)
働くことを忘れ、滅んでしまった村。
兄や塾生、講師たちの不可解な言動。
「・・・まさか」
雪男が顔をしかめる。しかし安易な断定は避け、足を速める。
神社に戻ると、兄とリュウが気絶した台湾支部の二人をそれぞれ担いで、
神社の石段を降りてくるところだった。
険しい顔でむっつりと黙りこくったリュウの隣から、
やはり浮かない表情の燐がついている。
彼らの後ろには、ちゃんと玲薇もいた。
「・・・・・・・」
雪男に気づいた前の二人が立ち止まり、下に向いていた玲薇の顔が上がる。
「雪男・・・」
ぼそりとつぶやく。
燐は雪男が一人で立っていることがわかると、眉を寄せ、ぐっと唇を結んだ。
その何とも言いがたい表情は、おそらく、
弟が件の悪魔の子供を連れていないことに対しての安堵と不安がないまぜになった代物だろう。
「リニュウ、ありがとう。もういいよ」
「うん」
玲薇がリニュウを自分につけたのは、心配だから。
でも、それはもう大丈夫。彼女はリニュウをもとに戻した。
「雪男、うさ麻呂は・・・」
一連を見届けてから、燐が口を挟む。
「何者なんです。あの兎は」
しかし、言いかけた兄を無視して、雪男がリュウを正面から見すえる。
落ち着いた声を出せたはずだ。だが、もしかすると、
わずかに苛立ちが透けてしまったかもしれない。
無言で雪男を見つめ返したリュウが、重い口を開いた。
「・・・アイツは時の王・サマエルの眷属だ。時を操り、人の記憶を喰らう。
かつて、我が祖先が封じた悪魔だ」
「やっぱり」
と、雪男がつぶやく。リュウが苦い声で先を続けた。
「その折に、我が祖先は重大な過ちを犯した」
「過ち・・・?」
「あるいは、罪と言ってもいいかもしれんな」
「!?」
思いもよらない言葉に、雪男だけでなく、
玲薇も燐もぎょっとした顔つきになってリュウを見つめている。
「どういうことですか?」
「・・・・・・」
さらに問うと、リュウはかすかに目を伏せた。
「この先は、本部で話す」
そう言い、部下の一人を担ぎ直すと、再び歩き出した。
異国から来た祓魔師の横顔は、あらゆる感情を押し殺そうとしているかのように見えた。