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うさ麻呂の顔を見やる。うさ麻呂はじっと燐を見つめていた。
風もないのに雪洞の灯りがすうっと消え、周囲が薄暗い闇に覆われる。
なぜか、背筋がぞくっとした。
「つらいことなのか?」
「何、言ってんだ?つらいわけ・・・」
そこで燐が言葉を止める。ふと、その両目が虚ろになった。
絵本を読んでくれた養父。
肋骨が折れているのに笑顔で抱きしめてくれた養父。
燐の作った失敗作を美味そうに食べてくれた養父。
ネクタイを結んでくれた後で、子供の頃のように髪をくしゃりとかきまぜて。
『くやしかったら、少しは俺に成長のほどを見せてみろ!』
そう言って陽気に笑った養父。
サタンに身体を乗っ取られながらも、燐を自分の息子だと告げ、自ら命を絶った養父。
『二度と父親ぶんな!!』
(俺が・・・あんなこと言ったから・・・あんな、ひでーこと)
『兄さんが神父さんを殺したんだ』
(俺の・・・俺のせいで・・・)
真っ暗になった視界に、あの日の自分と養父の姿が見える。
降魔剣を握りしめ、養父の死体の前で哭く自分の姿に、
あの日、頬を流れた涙が、今、この瞬間にも頬を伝っているかのような錯覚に陥る。
胸の奥がねじきれそうなほど痛くて、身体がバラバラになりそうなほど悲しかった。
悔しくて、情けなくて、淋しくて、苦しくて・・・しかたない。
(俺のせいで・・・父さんは・・・)
腹の底から震えがこみ上げてくる。そんな燐の頭の隅で、やさしい声がした。
《・・・大丈夫じゃ》
労り、守り、慈(いつく)しむような声だった。
《もう、かなしむでない》
(うさ・・・麻呂・・・?)
燐が薄く開いた両目で宙を見すえる。
闇の中で、兎の面からわずかにのぞく少年の顔が、にぃっと笑っている。
《うさマロがみんな" "やるから》
(お前・・・何、言って・・・)
次の瞬間、ほの暗い光が燐の視界を覆った。
暗く赤いその光に、胸の痛みが麻痺していく。
続いて、黒い靄(もや)のようなものが身体を覆った。
何かが、自分の内側から奪われていくのがわかった。
ぽっかりと空いた穴。それがひどく寒々しい。
(アレ・・・?今、俺・・・誰のこと考えてたんだ?)
思い出せない。たじろぐ燐の前に一人の男が座っている。
(なんだ、これ・・・?)
いつの間にか、夜の神社ではなく夕暮れ時の室内にいた。
しかも、この造りは燐と弟と玲薇が幼少期を過ごした修道院の食堂だ。
常服姿のその男は、夕焼けに背を向け、絵本を読んでいる。
色素の薄い髪はすっきりとした短髪で目尻に小さなしわがある。
薄いチタンフレームの眼鏡をかけたその顔は、若いというほど若くはなく、
年老いているというほど年老いてはいない。
(アレ・・・は・・・)
どうしても思い出せない。たしか、自分にとって大事な人であったはずなのに。
思い出そうとすると、頭の奥に靄がかかったような状態になる。
燐が所在なげにその場にたたずんでいると、
タタタタ・・・と子供が廊下を走るような音が耳の後ろで聞こえた。
男が絵本から顔を上げる。
『誰かいるのか?』
思わずビクッとする燐。
「いや、あの・・・その・・・」
うろたえるも、ほどなくそれが自分に向けられたものではないとわかった。
燐の背後から現れた幼い三人が男へ駆け寄り、男の膝によじ登ろうとしている。
幼い自分たちの顔はとてもうれしそうだった。男を信頼しきっていて全力で甘えている。
男もまた、ひどくやさしい目で幼い自分たちを見つめていた。
(そうだ・・・)
大切な人だった。
かけがえのない人だった。
なのに、どうしても思い出せない。
思い出そうとすると、そこから先が真っ暗な空洞になっている。
苛立ちと焦燥を胸に男を見つめる燐の前で、
幼い自分が絵本を指さして何事か言った。
すると、男が幼い自分を見やった。
『どうした?燐』
そのやさしい笑顔に、慈しむような声音に、
胸の奥が悲鳴のような音を立てる。
(・・・ジジ、イ・・・?)
風もないのに雪洞の灯りがすうっと消え、周囲が薄暗い闇に覆われる。
なぜか、背筋がぞくっとした。
「つらいことなのか?」
「何、言ってんだ?つらいわけ・・・」
そこで燐が言葉を止める。ふと、その両目が虚ろになった。
絵本を読んでくれた養父。
肋骨が折れているのに笑顔で抱きしめてくれた養父。
燐の作った失敗作を美味そうに食べてくれた養父。
ネクタイを結んでくれた後で、子供の頃のように髪をくしゃりとかきまぜて。
『くやしかったら、少しは俺に成長のほどを見せてみろ!』
そう言って陽気に笑った養父。
サタンに身体を乗っ取られながらも、燐を自分の息子だと告げ、自ら命を絶った養父。
『二度と父親ぶんな!!』
(俺が・・・あんなこと言ったから・・・あんな、ひでーこと)
『兄さんが神父さんを殺したんだ』
(俺の・・・俺のせいで・・・)
真っ暗になった視界に、あの日の自分と養父の姿が見える。
降魔剣を握りしめ、養父の死体の前で哭く自分の姿に、
あの日、頬を流れた涙が、今、この瞬間にも頬を伝っているかのような錯覚に陥る。
胸の奥がねじきれそうなほど痛くて、身体がバラバラになりそうなほど悲しかった。
悔しくて、情けなくて、淋しくて、苦しくて・・・しかたない。
(俺のせいで・・・父さんは・・・)
腹の底から震えがこみ上げてくる。そんな燐の頭の隅で、やさしい声がした。
《・・・大丈夫じゃ》
労り、守り、慈(いつく)しむような声だった。
《もう、かなしむでない》
(うさ・・・麻呂・・・?)
燐が薄く開いた両目で宙を見すえる。
闇の中で、兎の面からわずかにのぞく少年の顔が、にぃっと笑っている。
《うさマロがみんな" "やるから》
(お前・・・何、言って・・・)
次の瞬間、ほの暗い光が燐の視界を覆った。
暗く赤いその光に、胸の痛みが麻痺していく。
続いて、黒い靄(もや)のようなものが身体を覆った。
何かが、自分の内側から奪われていくのがわかった。
ぽっかりと空いた穴。それがひどく寒々しい。
(アレ・・・?今、俺・・・誰のこと考えてたんだ?)
思い出せない。たじろぐ燐の前に一人の男が座っている。
(なんだ、これ・・・?)
いつの間にか、夜の神社ではなく夕暮れ時の室内にいた。
しかも、この造りは燐と弟と玲薇が幼少期を過ごした修道院の食堂だ。
常服姿のその男は、夕焼けに背を向け、絵本を読んでいる。
色素の薄い髪はすっきりとした短髪で目尻に小さなしわがある。
薄いチタンフレームの眼鏡をかけたその顔は、若いというほど若くはなく、
年老いているというほど年老いてはいない。
(アレ・・・は・・・)
どうしても思い出せない。たしか、自分にとって大事な人であったはずなのに。
思い出そうとすると、頭の奥に靄がかかったような状態になる。
燐が所在なげにその場にたたずんでいると、
タタタタ・・・と子供が廊下を走るような音が耳の後ろで聞こえた。
男が絵本から顔を上げる。
『誰かいるのか?』
思わずビクッとする燐。
「いや、あの・・・その・・・」
うろたえるも、ほどなくそれが自分に向けられたものではないとわかった。
燐の背後から現れた幼い三人が男へ駆け寄り、男の膝によじ登ろうとしている。
幼い自分たちの顔はとてもうれしそうだった。男を信頼しきっていて全力で甘えている。
男もまた、ひどくやさしい目で幼い自分たちを見つめていた。
(そうだ・・・)
大切な人だった。
かけがえのない人だった。
なのに、どうしても思い出せない。
思い出そうとすると、そこから先が真っ暗な空洞になっている。
苛立ちと焦燥を胸に男を見つめる燐の前で、
幼い自分が絵本を指さして何事か言った。
すると、男が幼い自分を見やった。
『どうした?燐』
そのやさしい笑顔に、慈しむような声音に、
胸の奥が悲鳴のような音を立てる。
(・・・ジジ、イ・・・?)