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夢小説設定
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中央の広場では、年男による大立ちまわりがいよいよ大詰めを迎えていた。
かじりついて離れないうさ麻呂を連れ、空きビルの屋根に上った燐は、
軽やかに宙を舞ったエンジェルがカリバーンを大兎の額に突き立てる瞬間を、
特等席から見物した。
刃先を突き立てた箇所から、悪魔の血の代わりに真っ赤な紙吹雪が吹き出す。
観客たちの歓声が響く中、紙吹雪はまるで雪のようにひらひらと宙を舞った。
観衆たちは誰もが、紙吹雪を取ろうと、天に向かって大きく腕を伸ばしている。
「よっ、と」
燐が風に乗って飛ばされてきた紙吹雪を器用につかみ取る。そして、ポケットの中にしまった。
そんな紙吹雪を、何につかうのだろうか。
「・・・誰かにやるのか?」
首をかしげうさ麻呂がそう聞けば、明るい笑顔が返ってきた。
「玲薇にだ。あいつ、来てねぇみたいだからさ。何やってんだろうな」
どこか遠くをみるその眼は、やさしく和らいでいる。
「この紙吹雪を持ってると、次の祭りまで健やかに過ごせるって、
験担(げんかつ)ぎみてえなのがあるらしいんだ。ホラよ」
もう一枚、燐はうさ麻呂に手渡す。
真っ赤な紙片には、正十字騎士團の紋章が刻まれている。
うさ麻呂は黙って、紙片を握りしめた。
「つぎのまつりか・・・」
ボツリとつぶやく。
「・・・でも、このまつりが終わったら・・・うさマロは、
また・・・とじこめられるのじゃろう?」
「!!」
うさ麻呂の声は小さく、ともすれば風の音にすらかき消されてしまいそうなほど弱々しかった。
だが、燐の心臓を震わせるには充分だった。とっさに言葉が出ない。
自分でも、自分の顔が歪んでいるのがわかる。
うさ麻呂は何も言わない。
その横顔は泣くのを必死にこらえているようでも、
とっくの昔に、何もかもを諦めてしまったようにも見えた。
思わず眉間にしわを寄せた燐が、ふぅっと息を吐き出し、明るい笑顔を作る。
「まかせとけ、俺がなんとかしてやる!」
「!!」
どんと自分の胸を叩いてみせる燐に、うさ麻呂の小さな横顔が震えた。
何も言わず、ぎゅっと燐の上着の裾をつかんでくる。
その手もまた震えていた。
真っ赤な紙の雪が闇夜にキラキラと降り注いで、
まるで夢の中のように美しかった。
屋台で兎のお面を買ってやると、うさ麻呂は喜びいさんでそれを被った。
そのまま小さな身体を肩車し、屋台の立ち並ぶ通りを歩く。
ここは特に子供の姿が多く、綿あめやヨーヨーを手に走りまわっている。
幼い兄が幼い弟の手を引き、背後を歩く娘を抱いた父親に向かって手招きしている。
「はやく、はやく!!こっちだよ~!!」
「お父さん、わたしもう足大丈夫」
「お、そうか?」
娘をおろしてやり、彼女は小さな足を二人のもとへ一生懸命走らせる。
その姿に、燐がそっと目を細める。
幼い兄弟が自分と雪男と玲薇に、
若い父親が亡き養父と重なった。
「懐かしいな・・・」
思わずつぶやいてしまった言葉。
「まえにもきたことがあるのか?」
頭の上からうさ麻呂が無邪気に尋ねてくる。
「ああ、十一年前にな」
あの時もすごい雑踏で、うさ麻呂と同じように、雪男が迷子になってしまったのだ。
養父と玲薇と燐の三人で雪男の名前を呼び、このあたりを必死に探したのを覚えている。
「結局、アイツ、神社の境内で、一人めそめそ泣いててさ・・・」
そう言いながら、燐が境内に続く石段を上る。小さな神社だ。
普段から参拝客はほとんどおらず、今も下の通りの賑わいが嘘のように閑散としていた。
ぼんぼりの灯りで石段が赤く染まっているさまは、静けさとともに妖しい美しさがあった。
上りきった先の境内にも、人の姿はなかった。燐が社殿に続く石畳の前で立ち止まる。
そう、ちょうどあのあたりだ。賽銭箱に痩せた背中を預けるように、しくしくと泣いていた雪男・・・。
『ゆきおー!!』
そう叫んで駆け寄ると、弟は涙で濡れた頬を上げ、顔をくしゃくしゃにした。
「アイツ、俺とジジイと玲薇の顔見たとたん、
今度は安心して、わんわん泣き出しやがってさ・・・」
目を凝らすと、あの日の自分たちが見えるようだった。
泣きじゃくる幼い雪男を必死でなだめる養父の幻に、
燐の胸が懐かしさと切なさでいっぱいになる。
自然と、顎のあたりが強張った。
「・・・かなしいことか」
「え?」
唐突に頭の上でうさ麻呂の声が聞こえ、燐が現実に立ち返る。
「なんだって?」
かじりついて離れないうさ麻呂を連れ、空きビルの屋根に上った燐は、
軽やかに宙を舞ったエンジェルがカリバーンを大兎の額に突き立てる瞬間を、
特等席から見物した。
刃先を突き立てた箇所から、悪魔の血の代わりに真っ赤な紙吹雪が吹き出す。
観客たちの歓声が響く中、紙吹雪はまるで雪のようにひらひらと宙を舞った。
観衆たちは誰もが、紙吹雪を取ろうと、天に向かって大きく腕を伸ばしている。
「よっ、と」
燐が風に乗って飛ばされてきた紙吹雪を器用につかみ取る。そして、ポケットの中にしまった。
そんな紙吹雪を、何につかうのだろうか。
「・・・誰かにやるのか?」
首をかしげうさ麻呂がそう聞けば、明るい笑顔が返ってきた。
「玲薇にだ。あいつ、来てねぇみたいだからさ。何やってんだろうな」
どこか遠くをみるその眼は、やさしく和らいでいる。
「この紙吹雪を持ってると、次の祭りまで健やかに過ごせるって、
験担(げんかつ)ぎみてえなのがあるらしいんだ。ホラよ」
もう一枚、燐はうさ麻呂に手渡す。
真っ赤な紙片には、正十字騎士團の紋章が刻まれている。
うさ麻呂は黙って、紙片を握りしめた。
「つぎのまつりか・・・」
ボツリとつぶやく。
「・・・でも、このまつりが終わったら・・・うさマロは、
また・・・とじこめられるのじゃろう?」
「!!」
うさ麻呂の声は小さく、ともすれば風の音にすらかき消されてしまいそうなほど弱々しかった。
だが、燐の心臓を震わせるには充分だった。とっさに言葉が出ない。
自分でも、自分の顔が歪んでいるのがわかる。
うさ麻呂は何も言わない。
その横顔は泣くのを必死にこらえているようでも、
とっくの昔に、何もかもを諦めてしまったようにも見えた。
思わず眉間にしわを寄せた燐が、ふぅっと息を吐き出し、明るい笑顔を作る。
「まかせとけ、俺がなんとかしてやる!」
「!!」
どんと自分の胸を叩いてみせる燐に、うさ麻呂の小さな横顔が震えた。
何も言わず、ぎゅっと燐の上着の裾をつかんでくる。
その手もまた震えていた。
真っ赤な紙の雪が闇夜にキラキラと降り注いで、
まるで夢の中のように美しかった。
屋台で兎のお面を買ってやると、うさ麻呂は喜びいさんでそれを被った。
そのまま小さな身体を肩車し、屋台の立ち並ぶ通りを歩く。
ここは特に子供の姿が多く、綿あめやヨーヨーを手に走りまわっている。
幼い兄が幼い弟の手を引き、背後を歩く娘を抱いた父親に向かって手招きしている。
「はやく、はやく!!こっちだよ~!!」
「お父さん、わたしもう足大丈夫」
「お、そうか?」
娘をおろしてやり、彼女は小さな足を二人のもとへ一生懸命走らせる。
その姿に、燐がそっと目を細める。
幼い兄弟が自分と雪男と玲薇に、
若い父親が亡き養父と重なった。
「懐かしいな・・・」
思わずつぶやいてしまった言葉。
「まえにもきたことがあるのか?」
頭の上からうさ麻呂が無邪気に尋ねてくる。
「ああ、十一年前にな」
あの時もすごい雑踏で、うさ麻呂と同じように、雪男が迷子になってしまったのだ。
養父と玲薇と燐の三人で雪男の名前を呼び、このあたりを必死に探したのを覚えている。
「結局、アイツ、神社の境内で、一人めそめそ泣いててさ・・・」
そう言いながら、燐が境内に続く石段を上る。小さな神社だ。
普段から参拝客はほとんどおらず、今も下の通りの賑わいが嘘のように閑散としていた。
ぼんぼりの灯りで石段が赤く染まっているさまは、静けさとともに妖しい美しさがあった。
上りきった先の境内にも、人の姿はなかった。燐が社殿に続く石畳の前で立ち止まる。
そう、ちょうどあのあたりだ。賽銭箱に痩せた背中を預けるように、しくしくと泣いていた雪男・・・。
『ゆきおー!!』
そう叫んで駆け寄ると、弟は涙で濡れた頬を上げ、顔をくしゃくしゃにした。
「アイツ、俺とジジイと玲薇の顔見たとたん、
今度は安心して、わんわん泣き出しやがってさ・・・」
目を凝らすと、あの日の自分たちが見えるようだった。
泣きじゃくる幼い雪男を必死でなだめる養父の幻に、
燐の胸が懐かしさと切なさでいっぱいになる。
自然と、顎のあたりが強張った。
「・・・かなしいことか」
「え?」
唐突に頭の上でうさ麻呂の声が聞こえ、燐が現実に立ち返る。
「なんだって?」