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祭りの最後を飾るべく、会場になる広場ではこの祝祭最大のイベントが催されていた。
両脇を見物人たちによって埋め尽くされた運河を舟山車が華々しく、
しかし、荘厳(そうごん)に進んでいく。まるで艦隊のように連なった舟山車は、
運河の先に作られた人工湖へと進み、中央の広場に次々と着岸した。
直後、一帯に煙幕が張られ、灰色の煙の後ろから、
とりわけ大きな兎の紙人形を乗せた巨大舟山車が湖畔(こはん)に上陸すると、
観衆の間からわっと歓声が湧き起こった。
続いて、巨大兎の後ろから、二まわり以上小ぶりな兎の紙人形を乗せた舟山車が、上ってくる。
「大兎の御登場だぞ!!」
「年男はどこだ!?」
むせ返るような観衆の熱気を受け、広場の真ん中に大きく取られた花道を、仇役の大兎が進む。
それを花道の先で迎え撃つのは、主役を乗せたきらびやかな山車。
背後には、猛々しい龍の紙人形を乗せた雄々しい山車が主役の山車を守るように続く。
やがて、主役の山車が大兎を乗せた舟山車と向かい合う。
山車の台座に立った年男・エンジェルが、朗々と名乗りを上げる。
「やぁやぁ、我こそは伝説の祓魔師。待っていたぞ、大兎」
そこで大きく魔剣カリバーンを構える。
「いざ、尋常に勝負!!」
その台詞を盛り上げるかのように、大太鼓が一斉に打ち鳴らされ、
山車のまわりに立つ人々が手にした纏(まとい)を勇ましく振り上げる。
どっと歓声が上がる。まるで怒号だ。
観衆の興奮は一気に最高潮に達した。
騒がしいそれに、耳がキンキンする。慣れぬ人ごみで前の人の後を追うのは、精一杯だった。
「っ・・・」
誰かにぶつかれば、謝罪する。その繰り返し。
「あ、待って!待って、雪男!」
かすかに呼ばれる名前。
「玲薇!」
はぐれそうだった二人は、互いに手を伸ばし掴んだ。
「ごめんなさい」
「しっかりついてきて」
先導してくれる彼の手は大きくて、まるで全ての不安を和らいでくれるようだった。
玲薇がちゃんといるか、ちょくちょく後ろを確認してくれる。
雪男の、いつもとかわらぬ優しさに、ちょっぴり胸が痛む。
目線をあちこちに向け、目当ての人物を捜していく。
「アレ・・・兄、さん・・・?」
「え?」
雪男が視線を向けている方へ、玲薇も向けた。
捜していた人が、そこにいた。
謹慎中のはずの燐は祭りのはっぴを着て、
小ぶりな山車の台座に乗り、同じく子供用のはっぴを着た悪魔の少年を、
威勢よく放り上げている。
舞い散る紙吹雪の中、少年の小さな身体がジャグリングのボールのように宙に浮かぶ。
「玲薇」
迷わず彼女に声をかける。
「燐・・・そうだ。燐がね、皆もいるって言ってたんだけど・・・」
「みんな?」
「勝呂くんたち」
「・・・何言ってるの?勝呂くんたちは、今日は任務のはずじゃ・・・」
「そうなんだよね。やっぱり、そうだよね・・・」
でも、だって燐が言ってたんだ。
「あ、いた」
玲薇が示す場所に、この祭り特有の兎の仮装に身を包んだ勝呂、志摩、子猫丸が太鼓を叩いていた。
「なっ・・・」
脇に同じく兎の仮装をしたしえみと出雲が、周囲の掛け声に合わせて纏を振り上げている。
(まさか・・・)
それだけでも充分、悪夢だというのに、本部に詰めているはずの祓魔師たちが、祭囃子に参加していた。
それも一人や二人ではない。どうりで本部の電話に誰も出ないはずだ。
(何なんだ、これは・・・一体、何が・・・起こったんだ?)
「やっぱり、おかしいよね?」
謹慎中の燐はともかく、彼らまで祭りに参加するなんて。
くらくらする頭を抱える雪男に、おずおず聞く。
「行こう」
繋いだ手はそのままに、雪男が人ごみをかきわける。
人々の熱気で立っているだけで汗が吹き出してくる。
今が冬だということを忘れそうな暑さだ。
「皆さん、何をやっているんですか!?」
どうにか山車のそばまで来たところで雪男が怒鳴る。
「え?何て・・・」
「若先生。何を怒ってはるんですか?」
首を傾げる勝呂の脇で、志摩が目を瞬かせる。
子猫丸もきょとんとしている。
今日任務があると話してくれたのは、覚えているのに。
三人の顔にまるで罪悪感がないことが、雪男を苛立たせた。
「勝手に持ち場を離れて、任務はどうしたんです!!」
「任務?」
勝呂が一瞬、ぽかんとした顔になる。
「任務て、これのことですか?」
手にした太鼓をドーンと叩いてみせる。
「違う!!」
そのおどけた様子に、雪男はカッとなり叫んだ。
「警備の任務があるはずだ!!それをほったらかして、
こんなところで祭りを楽しむなんて、どうかしてる!!」
普段の丁寧な口調など、これっぽっちもない。
両脇を見物人たちによって埋め尽くされた運河を舟山車が華々しく、
しかし、荘厳(そうごん)に進んでいく。まるで艦隊のように連なった舟山車は、
運河の先に作られた人工湖へと進み、中央の広場に次々と着岸した。
直後、一帯に煙幕が張られ、灰色の煙の後ろから、
とりわけ大きな兎の紙人形を乗せた巨大舟山車が湖畔(こはん)に上陸すると、
観衆の間からわっと歓声が湧き起こった。
続いて、巨大兎の後ろから、二まわり以上小ぶりな兎の紙人形を乗せた舟山車が、上ってくる。
「大兎の御登場だぞ!!」
「年男はどこだ!?」
むせ返るような観衆の熱気を受け、広場の真ん中に大きく取られた花道を、仇役の大兎が進む。
それを花道の先で迎え撃つのは、主役を乗せたきらびやかな山車。
背後には、猛々しい龍の紙人形を乗せた雄々しい山車が主役の山車を守るように続く。
やがて、主役の山車が大兎を乗せた舟山車と向かい合う。
山車の台座に立った年男・エンジェルが、朗々と名乗りを上げる。
「やぁやぁ、我こそは伝説の祓魔師。待っていたぞ、大兎」
そこで大きく魔剣カリバーンを構える。
「いざ、尋常に勝負!!」
その台詞を盛り上げるかのように、大太鼓が一斉に打ち鳴らされ、
山車のまわりに立つ人々が手にした纏(まとい)を勇ましく振り上げる。
どっと歓声が上がる。まるで怒号だ。
観衆の興奮は一気に最高潮に達した。
騒がしいそれに、耳がキンキンする。慣れぬ人ごみで前の人の後を追うのは、精一杯だった。
「っ・・・」
誰かにぶつかれば、謝罪する。その繰り返し。
「あ、待って!待って、雪男!」
かすかに呼ばれる名前。
「玲薇!」
はぐれそうだった二人は、互いに手を伸ばし掴んだ。
「ごめんなさい」
「しっかりついてきて」
先導してくれる彼の手は大きくて、まるで全ての不安を和らいでくれるようだった。
玲薇がちゃんといるか、ちょくちょく後ろを確認してくれる。
雪男の、いつもとかわらぬ優しさに、ちょっぴり胸が痛む。
目線をあちこちに向け、目当ての人物を捜していく。
「アレ・・・兄、さん・・・?」
「え?」
雪男が視線を向けている方へ、玲薇も向けた。
捜していた人が、そこにいた。
謹慎中のはずの燐は祭りのはっぴを着て、
小ぶりな山車の台座に乗り、同じく子供用のはっぴを着た悪魔の少年を、
威勢よく放り上げている。
舞い散る紙吹雪の中、少年の小さな身体がジャグリングのボールのように宙に浮かぶ。
「玲薇」
迷わず彼女に声をかける。
「燐・・・そうだ。燐がね、皆もいるって言ってたんだけど・・・」
「みんな?」
「勝呂くんたち」
「・・・何言ってるの?勝呂くんたちは、今日は任務のはずじゃ・・・」
「そうなんだよね。やっぱり、そうだよね・・・」
でも、だって燐が言ってたんだ。
「あ、いた」
玲薇が示す場所に、この祭り特有の兎の仮装に身を包んだ勝呂、志摩、子猫丸が太鼓を叩いていた。
「なっ・・・」
脇に同じく兎の仮装をしたしえみと出雲が、周囲の掛け声に合わせて纏を振り上げている。
(まさか・・・)
それだけでも充分、悪夢だというのに、本部に詰めているはずの祓魔師たちが、祭囃子に参加していた。
それも一人や二人ではない。どうりで本部の電話に誰も出ないはずだ。
(何なんだ、これは・・・一体、何が・・・起こったんだ?)
「やっぱり、おかしいよね?」
謹慎中の燐はともかく、彼らまで祭りに参加するなんて。
くらくらする頭を抱える雪男に、おずおず聞く。
「行こう」
繋いだ手はそのままに、雪男が人ごみをかきわける。
人々の熱気で立っているだけで汗が吹き出してくる。
今が冬だということを忘れそうな暑さだ。
「皆さん、何をやっているんですか!?」
どうにか山車のそばまで来たところで雪男が怒鳴る。
「え?何て・・・」
「若先生。何を怒ってはるんですか?」
首を傾げる勝呂の脇で、志摩が目を瞬かせる。
子猫丸もきょとんとしている。
今日任務があると話してくれたのは、覚えているのに。
三人の顔にまるで罪悪感がないことが、雪男を苛立たせた。
「勝手に持ち場を離れて、任務はどうしたんです!!」
「任務?」
勝呂が一瞬、ぽかんとした顔になる。
「任務て、これのことですか?」
手にした太鼓をドーンと叩いてみせる。
「違う!!」
そのおどけた様子に、雪男はカッとなり叫んだ。
「警備の任務があるはずだ!!それをほったらかして、
こんなところで祭りを楽しむなんて、どうかしてる!!」
普段の丁寧な口調など、これっぽっちもない。