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夢小説設定
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「ここじゃ!」
碁盤を見つけ、なりゆきで子猫丸とうさ麻呂が碁で対決をし始めた頃。
「あ!そこは・・・、待った!!」
「子猫さん、勝負に『待った』はなしですよ」
「ほう・・・なかなかやるやないか」
「うむ。さすが俺の教えた弟子だ」
「なんや、弟子って。お前はそもそも打てへんやろ」
「うさ麻呂くんは、すぐになんでも出来ちゃうもんね」
「ねー!」
玲薇と顔を合わせ、仕草を真似事した後うさ麻呂は彼女の胸元に飛び込む。
この光景にも、すっかり馴染んでしまった。
燐は遠くでそんな二人を、優しい眼で見守る。
雪男には、うさ麻呂は自分たちとは違うとハッキリ言われてしまった。
でも、なかなかそんな風に思えなくなってきてしまっている。
皆が笑えば、うさ麻呂だって声を上げて笑う。
すねたり、怒ったり、喜んだり、ベソかいたり・・・、
うさ麻呂の表情がコロコロと変化していく。
まるで普通の人間の子供のように。
疑うべきはずの想いが、薄れていく・・・だからこそ、気づかなかった。
寮の食堂でゴキブリを危うく踏み潰しそうになった志摩が、
卒倒するのを目撃したうさ麻呂が『ムシがこわいのか?』と尋ねた時、
その両目が赤黒く光っていたことに・・・。
胸の奥底に重石のように沈んでいた幽霊列車の一件が、
いつの間にか消え失せていることに・・・。
気づかず、ただそれらの時間を無邪気に楽しんでいた。
まるで、絵本の中で何もかも忘れ、歌い、踊っていた村人たちのように・・・。
そして、瞬く間に時は流れ、祭りは最終日を迎えた。
その日、結界場の水位はかなり上昇していた。すでに相当な高さまで水没している。
ドボドボと立坑に流れこむ汚水は徐々に勢いを増しているかのように見えた。
坑道全体の空気が澱んでいる。
「ドブくさっ」
シュラが鼻の頭にしわを寄せてうめく。
結界場に配置されている本部スタッフの一人が、申し訳なさそうな顔で謝る。
「すみません。ポンプの調子がよくないみたいで・・・」
「さっきより水位が上がってきてるけど、大丈夫なのかよ?」
濁った水のたまった立坑に顔をしかめつつ、シュラが尋ねる。
スタッフが拝むようなポーズをしてみせた。
「なんで、完全に水没する前に結界の強化、終わらせちゃってください」
「はぁ?なんだよそりゃ・・・ったく」
ぼやいたシュラが、祭壇に架けられた鉄製の橋をわたる。
台座の上にシュラを残して戻っていく梯子を横目で見やりながら、
自分の頭をガシガシと乱暴にかきむしる。
鼻孔を突く腐った水の臭いに、いまいましげに目尻を細めた。
「メフィストの野郎、適当な管理しやがって・・・」
「また、肉片だけの空振りか」
ガード下に貼りついた幽霊列車の肉片に、リュウがため息をつく。
ここ数日の間、幽霊列車の目撃情報があるたびに現場に赴いているが、
こういった肉片だけで、いまだ本体は見つかっていない。
いい加減、焦れているのだろう。亀裂から湧き出るコールタールも、この五日の間で相当な数になっている。
早くなんとかしなければと雪男も焦ってはいるが、肝心の本体が見つからないのではどうしようもない。
この徒労のような鬼ごっこは、まだ続くようだ。
リュウが台湾支部の祓魔師に『やれ』というように視線を投げる。
視線を受けた祓魔師の一人が、小型の火炎放射器を構え、ピクピクと痙攣する肉片に向けた。
周囲に黒々とたかったコールタールごと、高熱で焼き払う。
断末魔の叫び声こそ上げぬものの、炎に焼かれた悪魔の肉片が時折、苦しげに蠢く。
その様子をリュウのとなりで見守っていた雪男の制服のポケットから、
場違いなほど陽気な音楽がもれる。
以前、シュラにメールの着信音をイタズラされたままであることに気づき、
思わず眉をしかめた雪男は素早くメールを確認し、制服のポケットにしまった。
となりでガードを見上げるリュウに声をかける。
「ちょっと行ってきます」
「なんだ?」
「兄が監視中の悪魔が封印されていた祠まわりの瓦礫撤去が終わるそうなので、立ち会ってきます」
炎に包まれる肉片に視線を戻しつつ、雪男が答える。
リュウも雪男からそちらに視線を戻すと、おそらく、
先日の運動場での光景を思い出したのだろう。
険を帯びた表情になった。
「俺も立ち会おう」
悪魔の肉片はほどなく、黒い灰になった。
碁盤を見つけ、なりゆきで子猫丸とうさ麻呂が碁で対決をし始めた頃。
「あ!そこは・・・、待った!!」
「子猫さん、勝負に『待った』はなしですよ」
「ほう・・・なかなかやるやないか」
「うむ。さすが俺の教えた弟子だ」
「なんや、弟子って。お前はそもそも打てへんやろ」
「うさ麻呂くんは、すぐになんでも出来ちゃうもんね」
「ねー!」
玲薇と顔を合わせ、仕草を真似事した後うさ麻呂は彼女の胸元に飛び込む。
この光景にも、すっかり馴染んでしまった。
燐は遠くでそんな二人を、優しい眼で見守る。
雪男には、うさ麻呂は自分たちとは違うとハッキリ言われてしまった。
でも、なかなかそんな風に思えなくなってきてしまっている。
皆が笑えば、うさ麻呂だって声を上げて笑う。
すねたり、怒ったり、喜んだり、ベソかいたり・・・、
うさ麻呂の表情がコロコロと変化していく。
まるで普通の人間の子供のように。
疑うべきはずの想いが、薄れていく・・・だからこそ、気づかなかった。
寮の食堂でゴキブリを危うく踏み潰しそうになった志摩が、
卒倒するのを目撃したうさ麻呂が『ムシがこわいのか?』と尋ねた時、
その両目が赤黒く光っていたことに・・・。
胸の奥底に重石のように沈んでいた幽霊列車の一件が、
いつの間にか消え失せていることに・・・。
気づかず、ただそれらの時間を無邪気に楽しんでいた。
まるで、絵本の中で何もかも忘れ、歌い、踊っていた村人たちのように・・・。
そして、瞬く間に時は流れ、祭りは最終日を迎えた。
その日、結界場の水位はかなり上昇していた。すでに相当な高さまで水没している。
ドボドボと立坑に流れこむ汚水は徐々に勢いを増しているかのように見えた。
坑道全体の空気が澱んでいる。
「ドブくさっ」
シュラが鼻の頭にしわを寄せてうめく。
結界場に配置されている本部スタッフの一人が、申し訳なさそうな顔で謝る。
「すみません。ポンプの調子がよくないみたいで・・・」
「さっきより水位が上がってきてるけど、大丈夫なのかよ?」
濁った水のたまった立坑に顔をしかめつつ、シュラが尋ねる。
スタッフが拝むようなポーズをしてみせた。
「なんで、完全に水没する前に結界の強化、終わらせちゃってください」
「はぁ?なんだよそりゃ・・・ったく」
ぼやいたシュラが、祭壇に架けられた鉄製の橋をわたる。
台座の上にシュラを残して戻っていく梯子を横目で見やりながら、
自分の頭をガシガシと乱暴にかきむしる。
鼻孔を突く腐った水の臭いに、いまいましげに目尻を細めた。
「メフィストの野郎、適当な管理しやがって・・・」
「また、肉片だけの空振りか」
ガード下に貼りついた幽霊列車の肉片に、リュウがため息をつく。
ここ数日の間、幽霊列車の目撃情報があるたびに現場に赴いているが、
こういった肉片だけで、いまだ本体は見つかっていない。
いい加減、焦れているのだろう。亀裂から湧き出るコールタールも、この五日の間で相当な数になっている。
早くなんとかしなければと雪男も焦ってはいるが、肝心の本体が見つからないのではどうしようもない。
この徒労のような鬼ごっこは、まだ続くようだ。
リュウが台湾支部の祓魔師に『やれ』というように視線を投げる。
視線を受けた祓魔師の一人が、小型の火炎放射器を構え、ピクピクと痙攣する肉片に向けた。
周囲に黒々とたかったコールタールごと、高熱で焼き払う。
断末魔の叫び声こそ上げぬものの、炎に焼かれた悪魔の肉片が時折、苦しげに蠢く。
その様子をリュウのとなりで見守っていた雪男の制服のポケットから、
場違いなほど陽気な音楽がもれる。
以前、シュラにメールの着信音をイタズラされたままであることに気づき、
思わず眉をしかめた雪男は素早くメールを確認し、制服のポケットにしまった。
となりでガードを見上げるリュウに声をかける。
「ちょっと行ってきます」
「なんだ?」
「兄が監視中の悪魔が封印されていた祠まわりの瓦礫撤去が終わるそうなので、立ち会ってきます」
炎に包まれる肉片に視線を戻しつつ、雪男が答える。
リュウも雪男からそちらに視線を戻すと、おそらく、
先日の運動場での光景を思い出したのだろう。
険を帯びた表情になった。
「俺も立ち会おう」
悪魔の肉片はほどなく、黒い灰になった。