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夢小説設定
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「燐」
戸惑いがちに、しえみが声をかけてきた。
「どうした?しえみ」
「霊が中に乗ってるの・・・。雪ちゃんには時間がないからって、言われたんだけど」
ためらうように口ごもるしえみに、燐が凶暴なドアノブモンスターに注意しつつ、
扉の上部にはめこまれた長方形の窓をのぞきこむ。
そして、乗客の姿に顔をしかめた。
「・・・助けて、あげられないかな?」
意を決したように尋ねてくるしえみを振り返りながら、燐が逆に尋ねる。
「助けるって、方法はあんのかよ?」
しえみは肩に乗せたニーちゃんに視線を向ける。
「たぶん、鬼灯を使えば。鬼灯には、霊を呼び集める力があるから・・・。
やってみなくちゃ、わからないけど」
「・・・・・・」
目を細めた燐が、再び車内をのぞきこみ、
それからしえみに向けて二ッと笑ってみせた。
「わかった。俺に任せろ」
雲っていたしえみの顔が、ぱあっと明るくなる。
その肩の上で、主人の喜びが伝わったのか、
緑男の妖生がうれしそうな声を上げて飛び跳ねた。
「ニー」
「よし!」
改めて気合いを入れ直した燐が車両に向き直り、
ドアノブモンスターごと一気に扉を蹴り破る。
「行くぞ!しえみ」
「うん!!」
緊張した面持ちでうなずいたしえみが、燐の後に続く。
実際に中に入ると、車内は普通の電車と比べ、わずかに薄暗かった。
電球が赤いせいか、妙にレトロな雰囲気がある。
吊革につかまって船を漕ぎ出しているサラリーマン風の男性や、
無邪気に走りまわる子供たち。ベビーカーを前後にゆらして、
赤ん坊をあやしている若い母親。楽しげに会話をしている老人たち。
その間を縫うように車両の中ほどまで歩く。
燐が足を止め、しえみを振り返る。
「やれるか?」
「うん。ニーちゃん、お願い」
力強くうなずいたしえみが、肩の上のニーちゃんに声をかける。
「ニー」
と、応じた緑男の妖生が、両腕をぐっと前に付き出す。
小さな顔を強張らせて力を注ぐと、そこから鬼灯の細い茎がにょきにょきと伸びた。
最後にふっくらとした実を幾重にも生らせた鬼灯の束を、
しえみが両腕にしっかりと抱きかかえる。
「この色と形、それから香りが霊を呼び寄せるんだって、おばあちゃんが・・・」
故人を愛おしむようにささやいたしえみが、
一変して真剣な表情になると、鬼灯の束を図上に掲げた。
すると、朱色の鬼灯が一斉に明滅し始めた。
反対に、車両からすうっと光が消える。車内が仄暗い闇に包まれた。
やがて、乗客たちの輪郭が淡くぼやけ、
まるで幻のようにうっすらと、半透明になっていった。
彼らの中心に、ゆらゆらと何かが浮かんでいる。
(ひと・・・だま・・・?)
瞳を凝らす燐の前で、子供の握り拳ほどの大きさになった霊たちは、
しえみの掲げた鬼灯に吸い寄せられるように集まってきた。
それぞれの実にそっと寄り添うようにして、
朱色のふくらみの中へと入っていく。
霊の宿った鬼灯は、まるで祭りに飾られるボンボリのように、淡い光を放つ。
その美しくも切ない光景を、燐は瞬きもせずにじっと見つめた。
立坑の深いところにある結界場には、
周囲に細く渡された足場にずらりと立ち並んだ詠唱部隊が、
隊長の指揮のもと、詠唱効果を持つ楽器を奏でていた。
ゴングシンバルの重厚な音がひときわ大きく、坑道内に響きわたる。
坑の中央に、祭壇らしき円柱型の台が三つ、おのおの独立して立っている。
周囲の壁をぐるりと囲んだ足場から伸ばされた鉄製の梯子から、
台座にわたったシュラと編み笠の男が、それぞれ持ち場につく。
「そんじゃあ、打ち合わせ通りに頼むわ」
「了解した」
気軽な調子で片手を上げてみせるシュラに、男が短く答える。
そして、男の手には朱色の長い棒、棍(こん)が握られている。
男は台の上に描かれた魔法陣の中心まで歩いていくと、
そこでピタリと立ち止まった。
棍をくるりとまわし、それを魔法陣に対して垂直に構える。
淡々とした声音で新たな結界を生むための詠唱を口ずさむと、
男はその場で流れるような棍術演式をみせた。
最後に陣の中央に片膝を立ててひざまずき、棍の先端で床を強く突く。
棍で突かれた箇所から、陣の四方へと赤い光が広がる。
光は魔法陣の紋様に添って床を這い、やがておのおの、
紋様の先端にあるまがまがしい印へと吸収され、さらなる光を放った。
戸惑いがちに、しえみが声をかけてきた。
「どうした?しえみ」
「霊が中に乗ってるの・・・。雪ちゃんには時間がないからって、言われたんだけど」
ためらうように口ごもるしえみに、燐が凶暴なドアノブモンスターに注意しつつ、
扉の上部にはめこまれた長方形の窓をのぞきこむ。
そして、乗客の姿に顔をしかめた。
「・・・助けて、あげられないかな?」
意を決したように尋ねてくるしえみを振り返りながら、燐が逆に尋ねる。
「助けるって、方法はあんのかよ?」
しえみは肩に乗せたニーちゃんに視線を向ける。
「たぶん、鬼灯を使えば。鬼灯には、霊を呼び集める力があるから・・・。
やってみなくちゃ、わからないけど」
「・・・・・・」
目を細めた燐が、再び車内をのぞきこみ、
それからしえみに向けて二ッと笑ってみせた。
「わかった。俺に任せろ」
雲っていたしえみの顔が、ぱあっと明るくなる。
その肩の上で、主人の喜びが伝わったのか、
緑男の妖生がうれしそうな声を上げて飛び跳ねた。
「ニー」
「よし!」
改めて気合いを入れ直した燐が車両に向き直り、
ドアノブモンスターごと一気に扉を蹴り破る。
「行くぞ!しえみ」
「うん!!」
緊張した面持ちでうなずいたしえみが、燐の後に続く。
実際に中に入ると、車内は普通の電車と比べ、わずかに薄暗かった。
電球が赤いせいか、妙にレトロな雰囲気がある。
吊革につかまって船を漕ぎ出しているサラリーマン風の男性や、
無邪気に走りまわる子供たち。ベビーカーを前後にゆらして、
赤ん坊をあやしている若い母親。楽しげに会話をしている老人たち。
その間を縫うように車両の中ほどまで歩く。
燐が足を止め、しえみを振り返る。
「やれるか?」
「うん。ニーちゃん、お願い」
力強くうなずいたしえみが、肩の上のニーちゃんに声をかける。
「ニー」
と、応じた緑男の妖生が、両腕をぐっと前に付き出す。
小さな顔を強張らせて力を注ぐと、そこから鬼灯の細い茎がにょきにょきと伸びた。
最後にふっくらとした実を幾重にも生らせた鬼灯の束を、
しえみが両腕にしっかりと抱きかかえる。
「この色と形、それから香りが霊を呼び寄せるんだって、おばあちゃんが・・・」
故人を愛おしむようにささやいたしえみが、
一変して真剣な表情になると、鬼灯の束を図上に掲げた。
すると、朱色の鬼灯が一斉に明滅し始めた。
反対に、車両からすうっと光が消える。車内が仄暗い闇に包まれた。
やがて、乗客たちの輪郭が淡くぼやけ、
まるで幻のようにうっすらと、半透明になっていった。
彼らの中心に、ゆらゆらと何かが浮かんでいる。
(ひと・・・だま・・・?)
瞳を凝らす燐の前で、子供の握り拳ほどの大きさになった霊たちは、
しえみの掲げた鬼灯に吸い寄せられるように集まってきた。
それぞれの実にそっと寄り添うようにして、
朱色のふくらみの中へと入っていく。
霊の宿った鬼灯は、まるで祭りに飾られるボンボリのように、淡い光を放つ。
その美しくも切ない光景を、燐は瞬きもせずにじっと見つめた。
立坑の深いところにある結界場には、
周囲に細く渡された足場にずらりと立ち並んだ詠唱部隊が、
隊長の指揮のもと、詠唱効果を持つ楽器を奏でていた。
ゴングシンバルの重厚な音がひときわ大きく、坑道内に響きわたる。
坑の中央に、祭壇らしき円柱型の台が三つ、おのおの独立して立っている。
周囲の壁をぐるりと囲んだ足場から伸ばされた鉄製の梯子から、
台座にわたったシュラと編み笠の男が、それぞれ持ち場につく。
「そんじゃあ、打ち合わせ通りに頼むわ」
「了解した」
気軽な調子で片手を上げてみせるシュラに、男が短く答える。
そして、男の手には朱色の長い棒、棍(こん)が握られている。
男は台の上に描かれた魔法陣の中心まで歩いていくと、
そこでピタリと立ち止まった。
棍をくるりとまわし、それを魔法陣に対して垂直に構える。
淡々とした声音で新たな結界を生むための詠唱を口ずさむと、
男はその場で流れるような棍術演式をみせた。
最後に陣の中央に片膝を立ててひざまずき、棍の先端で床を強く突く。
棍で突かれた箇所から、陣の四方へと赤い光が広がる。
光は魔法陣の紋様に添って床を這い、やがておのおの、
紋様の先端にあるまがまがしい印へと吸収され、さらなる光を放った。