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正十字学園・男子寮旧館では、食事を終えた燐とうさ麻呂が、
六〇二号室に戻っていた。玲薇は離された隣の部屋に。
クロは食事を終えると、いつの間にか姿を消していた。
そこらへんの気ままさが猫又とはいえ、やはり猫だ。
「・・・さてと、そろそろ勉強すっかな」
几帳面な字でびっしりと書かれたスケジュール表を、
げんなりとした顔で見つめた燐が、観念して机に向かう。
せめてもの抵抗に表の余白部分に弟のしかめっ面を描き足し、
壁の見える位置に張った。
「よっしゃ」
気合いを入れ、山のように出された冬休みの宿題に取り組むが、
遅々として進まない。解らない所があれば、
隣に玲薇がいれば、訊けるのに。
部屋の隅では、すっかりなじんだうさ麻呂がベッドの上に座り、
燐の私物をひっかきまわしていた。
どうやら、遊べそうなものとそうでないものを、
せっせと選り分けているらしい。ガチャガチャという音がBGMのように聞こえてくる。
しばらく、そんな風に穏やかな時が過ぎた。
「えーっと・・・バリヨンはどのような特徴を持つか・・・。
まず、重いだな。重い、と」
燐がようやく設問に集中し始めた頃。
「おい!!」
「んー?」
うさ麻呂の呼びかけに、問題集に視線を走らせたまま燐が応じる。
「どうした?」
振り返らずに尋ねると、ベッドから降りたうさ麻呂がトコトコ脇にやって来て、
燐の肘を引っ張った。片腕に古びた絵本を大事そうに抱えている。
それを燐の顔の前に掲げてみせた。
「なんとかいてあるのじゃ?」
「おー、懐かしー」
『忘れんぼうの村と悪魔』と書かれたその絵本に、燐の顔がほころぶ。
「そういや、昔よくジジイに読んでもらったな・・・」
うさ麻呂から絵本を受け取った燐が、ペラペラと黄ばんだページをめくる。
懐かしいイラストについ夢中になっていると、うさ麻呂が膝の上によじ登ってきた。
ひょいと抱え上げ、膝の上にのせてやる。
少年の身体は湯たんぽみたいにあたたかかった。
クロを抱き上げた時の感じに似ているが、クロよりもずっと重たい。
まるで年の離れた弟が出来たようだった。
ふと、こそばゆいような気持ちが沸き上がってくる。
現実にも彼には雪男という弟がいるわけだが、
双子の悲しさで、まったく兄さんぶれない。
それでも幼い頃は『兄さん、兄さん』と、
泣きベソの顔で自分の後ばかり追ってくる可愛い弟だった。
それが今では、『兄さん』の後に『宿題やったの?』
『早く寝ないと明日起きられないよ』『いい加減、大人になったら?』
と、常に小言がついてまわるような、口うるさい弟になってしまった。
口を開けば説教ばかりだ。
(・・・ったく、いつからあんな口やかましくなっちまったんだ?)
自分のだらしなさをすっかり棚に上げた燐が、
弟の生意気さを嘆く。そして、ふと思った。
(玲薇ともキョウダイなら、俺らのたち位置ってどうなんだ?)
人間の両親は違うとしても、とりついた悪魔は同じサタンだ。
炎は雪男と同じく受け継がれなかったが、サタンでは共通している。
「・・・・・・」
まぁ、いいか。難しい事は考えない。
現に彼女のことをキョウダイなどと一度も考えちゃいない。
自分と兄弟としての弟は、雪男だけなのだから。
玲薇は腐れ縁で幼馴染みで、
一番大事な、俺の・・・。
「おい!」
黙ってしまったためか、再びうさ麻呂に声をかけられる。
「!」
我に返り、うさ麻呂に、視線を戻す。
「悪ィ悪ィ」
軽く謝ってから、絵本の最初のページを開く。
そして、字の読めないうさ麻呂のために、
かつて養父が自分たちにしてくれたように、
声に出して読んでやった。
六〇二号室に戻っていた。玲薇は離された隣の部屋に。
クロは食事を終えると、いつの間にか姿を消していた。
そこらへんの気ままさが猫又とはいえ、やはり猫だ。
「・・・さてと、そろそろ勉強すっかな」
几帳面な字でびっしりと書かれたスケジュール表を、
げんなりとした顔で見つめた燐が、観念して机に向かう。
せめてもの抵抗に表の余白部分に弟のしかめっ面を描き足し、
壁の見える位置に張った。
「よっしゃ」
気合いを入れ、山のように出された冬休みの宿題に取り組むが、
遅々として進まない。解らない所があれば、
隣に玲薇がいれば、訊けるのに。
部屋の隅では、すっかりなじんだうさ麻呂がベッドの上に座り、
燐の私物をひっかきまわしていた。
どうやら、遊べそうなものとそうでないものを、
せっせと選り分けているらしい。ガチャガチャという音がBGMのように聞こえてくる。
しばらく、そんな風に穏やかな時が過ぎた。
「えーっと・・・バリヨンはどのような特徴を持つか・・・。
まず、重いだな。重い、と」
燐がようやく設問に集中し始めた頃。
「おい!!」
「んー?」
うさ麻呂の呼びかけに、問題集に視線を走らせたまま燐が応じる。
「どうした?」
振り返らずに尋ねると、ベッドから降りたうさ麻呂がトコトコ脇にやって来て、
燐の肘を引っ張った。片腕に古びた絵本を大事そうに抱えている。
それを燐の顔の前に掲げてみせた。
「なんとかいてあるのじゃ?」
「おー、懐かしー」
『忘れんぼうの村と悪魔』と書かれたその絵本に、燐の顔がほころぶ。
「そういや、昔よくジジイに読んでもらったな・・・」
うさ麻呂から絵本を受け取った燐が、ペラペラと黄ばんだページをめくる。
懐かしいイラストについ夢中になっていると、うさ麻呂が膝の上によじ登ってきた。
ひょいと抱え上げ、膝の上にのせてやる。
少年の身体は湯たんぽみたいにあたたかかった。
クロを抱き上げた時の感じに似ているが、クロよりもずっと重たい。
まるで年の離れた弟が出来たようだった。
ふと、こそばゆいような気持ちが沸き上がってくる。
現実にも彼には雪男という弟がいるわけだが、
双子の悲しさで、まったく兄さんぶれない。
それでも幼い頃は『兄さん、兄さん』と、
泣きベソの顔で自分の後ばかり追ってくる可愛い弟だった。
それが今では、『兄さん』の後に『宿題やったの?』
『早く寝ないと明日起きられないよ』『いい加減、大人になったら?』
と、常に小言がついてまわるような、口うるさい弟になってしまった。
口を開けば説教ばかりだ。
(・・・ったく、いつからあんな口やかましくなっちまったんだ?)
自分のだらしなさをすっかり棚に上げた燐が、
弟の生意気さを嘆く。そして、ふと思った。
(玲薇ともキョウダイなら、俺らのたち位置ってどうなんだ?)
人間の両親は違うとしても、とりついた悪魔は同じサタンだ。
炎は雪男と同じく受け継がれなかったが、サタンでは共通している。
「・・・・・・」
まぁ、いいか。難しい事は考えない。
現に彼女のことをキョウダイなどと一度も考えちゃいない。
自分と兄弟としての弟は、雪男だけなのだから。
玲薇は腐れ縁で幼馴染みで、
一番大事な、俺の・・・。
「おい!」
黙ってしまったためか、再びうさ麻呂に声をかけられる。
「!」
我に返り、うさ麻呂に、視線を戻す。
「悪ィ悪ィ」
軽く謝ってから、絵本の最初のページを開く。
そして、字の読めないうさ麻呂のために、
かつて養父が自分たちにしてくれたように、
声に出して読んでやった。