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夢小説設定
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「こちらの水門はもともと、この地に埋もれていた古代遺跡を、
フェレス卿が復元したもので、同じものが街をとり囲むように二十八か所あります。
もっとも、遺跡自体は発掘されていないものも合わせると、
もう少し数があるのではないかと言われておりますが・・・」
桟橋に降りたシュラと男は、スタッフの説明を聞きながら、
水門の先にある縦に深い坑を下りていた。
かなり下ったところに、鉄板でできた足場が設置されている。
三人は今の今まで、水中に埋もれていたおぼしきそこに降り立った。
「ご存じの通り、正十字学園の結界は、
定期的にすべてを張り直すことで効力を保ち、
悪魔から街を守っています。ただ、二十八か所に及ぶ大がかりな結界ですので、
各国に応援要請がなされております」
「まあまあ、前置きはいいから」
シュラは遠慮なく大きなあくびをすると、スタッフの長々しい説明を遮った。
横に立つ編み笠の男へ、いかにも即席で作ったらしき棒クジをホレ、と差し出す。
「どっちが当たりかにゃ~?」
「・・・・・」
うりうりとクジを押しつけてくるシュラに、男が片方の棒を抜く。
男の選んだそれは、何の変哲もないただの棒だった。
「にゃはは。ヤリィ~」
人の悪い顔で笑ったシュラが、自分の手の中に残った棒を、
男の眼前でひらひらと見せびらかす。
棒の先に、赤い印がついていた。
「お前が"はり役"、あたしが"とき役"な」
"はり役"は文字通り新しい結界を張る役、
"とき役"が古い結界を解く役である。
もともとあるものを解く方が、まったく新たなものを張るより負担が少ない。
つまり、赤い方が当たりだ。もっとも、男が赤い方を引いていたら、
シュラは赤い方が"はり役"と言い張っただろうが・・・。
「さっさと終わらせて、呑みに行こうぜ」
軽い調子で言い、シュラがさらに下にある結界場へ続く階段を降りる。
途中、ふと足を止めると、自身の入ってきた水門の奥を見やり、
ひとりごちた。
「・・・アイツら、ちゃんとやってやがんだろうな」
男が編み笠の奥から、訝(いぶか)しげな視線を送ってくる。
「なんでもねぇよ」
そう薄く笑って錆びの浮いた階段を降りるシュラに、
男が無言で続く。彼の身につけている、
日本支部のものとは違う色鮮やかな制服の裾が、
湿気を帯びた風に、ひらりとたなびいた。
同時刻、正十字学園駅のホームでは、
正十字学園祓魔塾講師の奥村雪男と、
エクスワイアの杜山しえみが、まだ来ぬ二人のエクスワイア、
奥村燐と風美夜玲薇を、待ちわびていた。
「・・・遅い。いったい二人は、何やっているんだ」
若干ピリピリしながら左腕にはめた時計を確認する雪男の隣で、
しえみは先ほどから熱心に手帳をめくっている。
その肩では、彼女の召喚した緑男の妖精・二ーちゃんが、
主人の真似をして手帳をのぞきこんでいた。
「幽霊列車とは・・・ええっと、列車に憑依している悪魔で、
我々が住む物質界と悪魔が住む虚無界とを行き来しており、
別名"人喰い列車"と呼ばれ・・・」
「正確には"人の魂を喰う列車"です」
別人のようにやわらかな表情になった雪男が、
しえみの独り言に教師然とした訂正を入れる。
そして、にっこり微笑んだ。
「よく勉強していますね、しえみさん」
褒められ、かあっと赤くなったしえみがあわあわしていると、
ホームに汽笛が鳴り響いた。暗い路線の奥から列車が近づいてくる。
一見、ごく普通の列車の外見をしているそれに、
雪男がわずかに声を低くして告げた。
「来ました。あれが今回の討伐の対象、幽霊列車です」
目の前に停車した列車を見つめ、しえみが緊張した面持ちで、
ごくんと喉を鳴らす。今回彼らに与えられた任務は、
この付近で夜な夜な目撃されている幽霊列車の討伐である。
祭りが始まり、人が増える前に祓う必要があるのだ、という。
「とはいえ、胃袋さえ満たされていればおとなしい悪魔です。
この任務は、手順さえ守れば難しい任務じゃありません。
僕の言うことを、絶対守ってください」
「はいっ!」
フェレス卿が復元したもので、同じものが街をとり囲むように二十八か所あります。
もっとも、遺跡自体は発掘されていないものも合わせると、
もう少し数があるのではないかと言われておりますが・・・」
桟橋に降りたシュラと男は、スタッフの説明を聞きながら、
水門の先にある縦に深い坑を下りていた。
かなり下ったところに、鉄板でできた足場が設置されている。
三人は今の今まで、水中に埋もれていたおぼしきそこに降り立った。
「ご存じの通り、正十字学園の結界は、
定期的にすべてを張り直すことで効力を保ち、
悪魔から街を守っています。ただ、二十八か所に及ぶ大がかりな結界ですので、
各国に応援要請がなされております」
「まあまあ、前置きはいいから」
シュラは遠慮なく大きなあくびをすると、スタッフの長々しい説明を遮った。
横に立つ編み笠の男へ、いかにも即席で作ったらしき棒クジをホレ、と差し出す。
「どっちが当たりかにゃ~?」
「・・・・・」
うりうりとクジを押しつけてくるシュラに、男が片方の棒を抜く。
男の選んだそれは、何の変哲もないただの棒だった。
「にゃはは。ヤリィ~」
人の悪い顔で笑ったシュラが、自分の手の中に残った棒を、
男の眼前でひらひらと見せびらかす。
棒の先に、赤い印がついていた。
「お前が"はり役"、あたしが"とき役"な」
"はり役"は文字通り新しい結界を張る役、
"とき役"が古い結界を解く役である。
もともとあるものを解く方が、まったく新たなものを張るより負担が少ない。
つまり、赤い方が当たりだ。もっとも、男が赤い方を引いていたら、
シュラは赤い方が"はり役"と言い張っただろうが・・・。
「さっさと終わらせて、呑みに行こうぜ」
軽い調子で言い、シュラがさらに下にある結界場へ続く階段を降りる。
途中、ふと足を止めると、自身の入ってきた水門の奥を見やり、
ひとりごちた。
「・・・アイツら、ちゃんとやってやがんだろうな」
男が編み笠の奥から、訝(いぶか)しげな視線を送ってくる。
「なんでもねぇよ」
そう薄く笑って錆びの浮いた階段を降りるシュラに、
男が無言で続く。彼の身につけている、
日本支部のものとは違う色鮮やかな制服の裾が、
湿気を帯びた風に、ひらりとたなびいた。
同時刻、正十字学園駅のホームでは、
正十字学園祓魔塾講師の奥村雪男と、
エクスワイアの杜山しえみが、まだ来ぬ二人のエクスワイア、
奥村燐と風美夜玲薇を、待ちわびていた。
「・・・遅い。いったい二人は、何やっているんだ」
若干ピリピリしながら左腕にはめた時計を確認する雪男の隣で、
しえみは先ほどから熱心に手帳をめくっている。
その肩では、彼女の召喚した緑男の妖精・二ーちゃんが、
主人の真似をして手帳をのぞきこんでいた。
「幽霊列車とは・・・ええっと、列車に憑依している悪魔で、
我々が住む物質界と悪魔が住む虚無界とを行き来しており、
別名"人喰い列車"と呼ばれ・・・」
「正確には"人の魂を喰う列車"です」
別人のようにやわらかな表情になった雪男が、
しえみの独り言に教師然とした訂正を入れる。
そして、にっこり微笑んだ。
「よく勉強していますね、しえみさん」
褒められ、かあっと赤くなったしえみがあわあわしていると、
ホームに汽笛が鳴り響いた。暗い路線の奥から列車が近づいてくる。
一見、ごく普通の列車の外見をしているそれに、
雪男がわずかに声を低くして告げた。
「来ました。あれが今回の討伐の対象、幽霊列車です」
目の前に停車した列車を見つめ、しえみが緊張した面持ちで、
ごくんと喉を鳴らす。今回彼らに与えられた任務は、
この付近で夜な夜な目撃されている幽霊列車の討伐である。
祭りが始まり、人が増える前に祓う必要があるのだ、という。
「とはいえ、胃袋さえ満たされていればおとなしい悪魔です。
この任務は、手順さえ守れば難しい任務じゃありません。
僕の言うことを、絶対守ってください」
「はいっ!」