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幽霊列車による事故から、約三時間半後。
正十字学園内にある審問室では、法衣を着た審問官が、
報告書の文面を重々しく読み上げていた。
「・・・・・三キロメートル区間の路線破壊。建物十五棟、車内十五台。
再建工事中のビル三棟、クレーン一基、工事用重機三台、
取り逃がした幽霊列車は依然、逃走中」
審問官の右脇にはシュラが、左脇には正十字騎士團日本支部長にして、
正十字学園理事長のメフィスト・フェレスがともに起立した姿勢で、
下段の被告人席に立つ雪男と、そのさらに下段にたたずむ燐と玲薇を見つめている。
シュラは苦々しい表情を、メフィストは面白がっているような表情を、
それぞれ浮かべている。
「幸い身内の怪我人二名で済みましたが、
一歩間違えれば大惨事にもつながりかねない、
重大な過失であったことは、いかんともしがたい事実です」
荘厳(そうごん)な法廷内に、審問官のしゃがれた声が響きわたる。
審問官の視線が、右腕を布で吊った雪男に注がれる。
「奥村先生。管理責任者として貴方がついていながら・・・」
「申し訳ありません」
雪男が神妙な面持ちで、深く頭を垂れる。
「すべて僕の責任です」
「「!」」
雪男だけが、悪いんじゃないのに。
「違う!それは俺が」
弟の言葉にカッと両目を見開いた燐が、先に声を出し一歩前に出る。
が、振り向いた雪男に強い口調でたしなめられた。
「兄さんは、黙ってて」
「・・・・・・」
今、ここで何を言っても雪男は耳をかさないだろう。
さらに、雪男ばかりに悪い評判がいってしまう。
このまま黙っていた方が、懸命な判断か・・・。
審問官は、静粛に、と兄弟に告げた後で脇のメフィストに水を向けた。
「フェレス卿。彼らの処分を」
「そうですねぇ・・・」
顎先に手をやったメフィストがニヤニヤと笑いながら、
チラリとシュラを見つめ、審問官と何やら小声で話し始めた。
審問官は無言でうなずくと、カンカン、と審問台に置かれた板を小槌で打った。
「処分を言いわたす。奥村雪男を戒告処分。
奥村燐、風美夜玲薇、並びに杜山しえみは、
五日間の謹慎処分とする。
なお、この件に関する始末書を明日までに提出のこと。以上」
戒告処分という耳慣れぬ言葉に、燐が案ずるように弟の顔を見やる。
雪男はまっすぐ審問台を見つめている。その横顔には、
何の動揺も浮かんでいない。どこまでも静かだった。
静かすぎて、逆に不安になる。
立ち上がった審問官が下段の雪男へ視線を向け、静かに呼びかけた。
「奥村先生、貴方のキャリアに傷を残す結果となり、大いに残念です」
雪男が無言で頭を下げる。
それを見届けることなく、初老の審問官はメフィストとともに退席した。
後に残ったシュラは無言で三人を見つめると、審問官とメフィストの後を追って、
審問台の奥にある重々しい扉の向こうに姿を消した。
審問室に重苦しい沈黙が落ちる。
硬い足音を響かせ被告人席から降りてきた弟に、
燐がためらいがちに声をかけた。
「雪男・・・」
「人を助けるのが祓魔師の仕事なんだろう」
雪男は低い声でそう言うと、わずかに首をひねり、
その厳しい眼差しを兄に向けた。
「霊を助けるために、生きている人を危険にさらしてどうするんだい?」
「!!」
何も言えない玲薇は、オロオロするばかり。
どちらの味方になればいいのかも、分からない。
なお、鋭い刃物のような雪男の言葉は、続いた。
「いつまでもエクスワイアではいられないんだ。
このまま祓魔師になっても、兄さんのやり方は通用しないよ。
行こう、玲薇。始末書、書かなくちゃ」
そう言うと、強引に彼女の手首を引っ張っていってしまう。
「ちょっと待てよ!」
「雪男!?痛い」
ふと立ち止まったかと思うと、雪男の眼差しは冷たいものだった。
「もう、兄さんに玲薇は任せられない」
正十字学園内にある審問室では、法衣を着た審問官が、
報告書の文面を重々しく読み上げていた。
「・・・・・三キロメートル区間の路線破壊。建物十五棟、車内十五台。
再建工事中のビル三棟、クレーン一基、工事用重機三台、
取り逃がした幽霊列車は依然、逃走中」
審問官の右脇にはシュラが、左脇には正十字騎士團日本支部長にして、
正十字学園理事長のメフィスト・フェレスがともに起立した姿勢で、
下段の被告人席に立つ雪男と、そのさらに下段にたたずむ燐と玲薇を見つめている。
シュラは苦々しい表情を、メフィストは面白がっているような表情を、
それぞれ浮かべている。
「幸い身内の怪我人二名で済みましたが、
一歩間違えれば大惨事にもつながりかねない、
重大な過失であったことは、いかんともしがたい事実です」
荘厳(そうごん)な法廷内に、審問官のしゃがれた声が響きわたる。
審問官の視線が、右腕を布で吊った雪男に注がれる。
「奥村先生。管理責任者として貴方がついていながら・・・」
「申し訳ありません」
雪男が神妙な面持ちで、深く頭を垂れる。
「すべて僕の責任です」
「「!」」
雪男だけが、悪いんじゃないのに。
「違う!それは俺が」
弟の言葉にカッと両目を見開いた燐が、先に声を出し一歩前に出る。
が、振り向いた雪男に強い口調でたしなめられた。
「兄さんは、黙ってて」
「・・・・・・」
今、ここで何を言っても雪男は耳をかさないだろう。
さらに、雪男ばかりに悪い評判がいってしまう。
このまま黙っていた方が、懸命な判断か・・・。
審問官は、静粛に、と兄弟に告げた後で脇のメフィストに水を向けた。
「フェレス卿。彼らの処分を」
「そうですねぇ・・・」
顎先に手をやったメフィストがニヤニヤと笑いながら、
チラリとシュラを見つめ、審問官と何やら小声で話し始めた。
審問官は無言でうなずくと、カンカン、と審問台に置かれた板を小槌で打った。
「処分を言いわたす。奥村雪男を戒告処分。
奥村燐、風美夜玲薇、並びに杜山しえみは、
五日間の謹慎処分とする。
なお、この件に関する始末書を明日までに提出のこと。以上」
戒告処分という耳慣れぬ言葉に、燐が案ずるように弟の顔を見やる。
雪男はまっすぐ審問台を見つめている。その横顔には、
何の動揺も浮かんでいない。どこまでも静かだった。
静かすぎて、逆に不安になる。
立ち上がった審問官が下段の雪男へ視線を向け、静かに呼びかけた。
「奥村先生、貴方のキャリアに傷を残す結果となり、大いに残念です」
雪男が無言で頭を下げる。
それを見届けることなく、初老の審問官はメフィストとともに退席した。
後に残ったシュラは無言で三人を見つめると、審問官とメフィストの後を追って、
審問台の奥にある重々しい扉の向こうに姿を消した。
審問室に重苦しい沈黙が落ちる。
硬い足音を響かせ被告人席から降りてきた弟に、
燐がためらいがちに声をかけた。
「雪男・・・」
「人を助けるのが祓魔師の仕事なんだろう」
雪男は低い声でそう言うと、わずかに首をひねり、
その厳しい眼差しを兄に向けた。
「霊を助けるために、生きている人を危険にさらしてどうするんだい?」
「!!」
何も言えない玲薇は、オロオロするばかり。
どちらの味方になればいいのかも、分からない。
なお、鋭い刃物のような雪男の言葉は、続いた。
「いつまでもエクスワイアではいられないんだ。
このまま祓魔師になっても、兄さんのやり方は通用しないよ。
行こう、玲薇。始末書、書かなくちゃ」
そう言うと、強引に彼女の手首を引っ張っていってしまう。
「ちょっと待てよ!」
「雪男!?痛い」
ふと立ち止まったかと思うと、雪男の眼差しは冷たいものだった。
「もう、兄さんに玲薇は任せられない」