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むかしむかし、ある村のはずれに悪魔があらわれました。
元気がないようだったので、村の少年が食べ物を与えてやりました。
元気になった悪魔は少年と遊んで、そのまま村についてしまいました。
村人たちは悪魔のせいで働くことを忘れ、遊び続けました。
そこに、祓魔師があらわれ、悪魔を封じこめました。
悪魔はいなくなりましたが、村人たちは村のことも忘れてしまっていたので、
村はあれはて、なくなっていました。
「やがて人々はこの村のことを忘れてしまわないように、
悪魔を祭って、十一年に一度、お祭りをするようになりました。
おしまい」
そう言って、若き日の養父(ようふ)がパタンと絵本を閉じる。
「忘れんぼうの村と悪魔」と書かれたその絵本を、
養父の手から受け取った四歳の奥村燐は、
興奮した様子で表紙を眺めている。
玲薇は眠たそうな顔をこらえるように、
コクンコクンと頭を動かせば、養父が自身の側に寄せ寄り掛からせた。
兄の横で、雪男は絵本から養父・藤本獅郎に視線を移す。
四人がいる南十字男子修道院の食堂は、窓から差し込む夕日に赤く染まっている。
「これが、はじまりなの?」
雪男の問いに、獅郎はにっこり微笑む。
「・・・ああ。千年前から伝わる話だそうだ」
その微笑みは、三人が大好きな笑い方だった。
そして、逆に問いかける。
「もし、この絵本の悪魔に出会ったら・・・その時、お前らならどうする?」
うたた寝しそうだった玲薇も目を開ければ、
三人はお互い交互に顔を合わせ、それから目を瞬かせて養父の顔を見上げた。
優しく笑う養父の顔もまた、夕焼けに赤く染まっていた。
ーーーーー
東京の某地(ぼうち)にある正十字学園町は、
いよいよ明日に迫った十一年に一度の祝祭に備え、
どこもかしこもお祭りムードだった。
兎を模した巨大なアドバルーンが街の要所に上がり、
通りをずらりと飾る提灯の華々しさに、大人も子供も皆、浮きだっている。
誰もが祭りの話題に花を咲かせ、やれ今年の"年男"は誰だ、
祭りの見どころは何だと、とりとめなく話している。
そんな街の中で、漆黒の制服に身を包んだ一団だけは異彩を放っていた。
正十字騎士團、世に祓魔師と呼ばれる彼らは、
人々を悪魔から守り、祭りをつつがなくとり行うため、
世俗の喧騒から離れ、日夜任務に明け暮れているのだ。
彼女、霧隠シュラもその一人である。
街を巡る運河を切るように進むボートの甲板で、
まだ年若い彼女は、華やいだ街の様子に悪態をついた。
「ったくよぉ、こっちは仕事だってのに・・・浮かれやがって」
「シュラさーん、頭、気をつけてください」
操舵のスタッフが席から身を乗り出すようにして、注意をうながしてくる。
「あ?」
と、かったるそうに前を向いたシュラが、頭上に迫った橋に気づく。
「おっと」
ギリギリで頭を下げ、眉をひそめた。
「危ねーな、なんだこりゃ?ずいぶん低いな」
「祭りの期間中、水門がすべて閉まるので、水位がだいぶ上がっているんです」
橋を抜けたところで、シュラが曲げていた首を戻す。
そして、目の前に見えてきた巨大な建造物。
「これか・・・」
「正十字学園第一号水門です」
独り言のつもりだったが、操舵席のスタッフが律儀に応じた。
シュラは眼前にそびえる水門を見つめると、
自身の背後に立つ編み笠を被った痩身の男に、軽く顎をしゃくった。
「せっかく来たんだ。お前も手伝え」
「・・・・・・」
男は無言で水門を見つめている。
減速したボートは、右手奥に浮かぶ桟橋(さんばし)へと、
そのシャープな船体を寄せていった。
元気がないようだったので、村の少年が食べ物を与えてやりました。
元気になった悪魔は少年と遊んで、そのまま村についてしまいました。
村人たちは悪魔のせいで働くことを忘れ、遊び続けました。
そこに、祓魔師があらわれ、悪魔を封じこめました。
悪魔はいなくなりましたが、村人たちは村のことも忘れてしまっていたので、
村はあれはて、なくなっていました。
「やがて人々はこの村のことを忘れてしまわないように、
悪魔を祭って、十一年に一度、お祭りをするようになりました。
おしまい」
そう言って、若き日の養父(ようふ)がパタンと絵本を閉じる。
「忘れんぼうの村と悪魔」と書かれたその絵本を、
養父の手から受け取った四歳の奥村燐は、
興奮した様子で表紙を眺めている。
玲薇は眠たそうな顔をこらえるように、
コクンコクンと頭を動かせば、養父が自身の側に寄せ寄り掛からせた。
兄の横で、雪男は絵本から養父・藤本獅郎に視線を移す。
四人がいる南十字男子修道院の食堂は、窓から差し込む夕日に赤く染まっている。
「これが、はじまりなの?」
雪男の問いに、獅郎はにっこり微笑む。
「・・・ああ。千年前から伝わる話だそうだ」
その微笑みは、三人が大好きな笑い方だった。
そして、逆に問いかける。
「もし、この絵本の悪魔に出会ったら・・・その時、お前らならどうする?」
うたた寝しそうだった玲薇も目を開ければ、
三人はお互い交互に顔を合わせ、それから目を瞬かせて養父の顔を見上げた。
優しく笑う養父の顔もまた、夕焼けに赤く染まっていた。
ーーーーー
東京の某地(ぼうち)にある正十字学園町は、
いよいよ明日に迫った十一年に一度の祝祭に備え、
どこもかしこもお祭りムードだった。
兎を模した巨大なアドバルーンが街の要所に上がり、
通りをずらりと飾る提灯の華々しさに、大人も子供も皆、浮きだっている。
誰もが祭りの話題に花を咲かせ、やれ今年の"年男"は誰だ、
祭りの見どころは何だと、とりとめなく話している。
そんな街の中で、漆黒の制服に身を包んだ一団だけは異彩を放っていた。
正十字騎士團、世に祓魔師と呼ばれる彼らは、
人々を悪魔から守り、祭りをつつがなくとり行うため、
世俗の喧騒から離れ、日夜任務に明け暮れているのだ。
彼女、霧隠シュラもその一人である。
街を巡る運河を切るように進むボートの甲板で、
まだ年若い彼女は、華やいだ街の様子に悪態をついた。
「ったくよぉ、こっちは仕事だってのに・・・浮かれやがって」
「シュラさーん、頭、気をつけてください」
操舵のスタッフが席から身を乗り出すようにして、注意をうながしてくる。
「あ?」
と、かったるそうに前を向いたシュラが、頭上に迫った橋に気づく。
「おっと」
ギリギリで頭を下げ、眉をひそめた。
「危ねーな、なんだこりゃ?ずいぶん低いな」
「祭りの期間中、水門がすべて閉まるので、水位がだいぶ上がっているんです」
橋を抜けたところで、シュラが曲げていた首を戻す。
そして、目の前に見えてきた巨大な建造物。
「これか・・・」
「正十字学園第一号水門です」
独り言のつもりだったが、操舵席のスタッフが律儀に応じた。
シュラは眼前にそびえる水門を見つめると、
自身の背後に立つ編み笠を被った痩身の男に、軽く顎をしゃくった。
「せっかく来たんだ。お前も手伝え」
「・・・・・・」
男は無言で水門を見つめている。
減速したボートは、右手奥に浮かぶ桟橋(さんばし)へと、
そのシャープな船体を寄せていった。
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