第五話 A組
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疲れはてたように眠る緑谷を障子が背負い、皆で雄英に戻る。
雄英バリアを発動させているため、外では13号先生が待っていてくれた。
「・・・俺はここに残る」
そう言い出したのは、轟だった。皆の視線が、後ろにいる轟に集まる。緑谷の事であれだけ必死だったのに。
「てめェ・・・」
突っ掛かる爆豪に、ヒヤヒヤだ。それでも、轟は冷静に答えた。
「先ずは緑谷の事を休ませるのがさきだから。中はまだ騒がしい、轟家の人間も入って、ややこしくしたくねぇ」
現段階で、プロヒーローであるエンデヴァーの在り方に疑問を持つ者も少なくないだろう。
荼毘にもエンデヴァーにも、SNSで調べれば批判の声はたくさん上がっていた。
「それに、親父にも言いてぇことがある」
緑谷を連れ戻すために、何かと今回は手をかしてくれた。
それから、あんな風に動画を流されては、轟の知らないところでも、一般市民から痛い視線は受けてしまうだろう。
「ゆ、雄英・・・?」
起きて目を開けた緑谷が、目の前の建物を見て驚いている。葉隠たちが雄英バリアの事を話してくれている。
「行こう、爆豪くん」
轟と目を合わせないように、歌恋が爆豪の背中を押す。
「・・・・・・」
彼らは、何も言わない。
「・・・轟くんは?」
障子に背負われたまま、緑谷が歌恋に問いかける。
「家の事情で、入らないって。入れないって・・・」
「・・・そっか・・・」
一緒にいれないことがもどかしい。顔を下に向けてしまった歌恋を見て、緑谷もこれ以上聞けなかった。
(轟くんも遠慮してるのに・・・)
A組の皆の想いには応えたい。でも――。
「戻るのは・・・ダメなんだ・・・」
ポツリと呟いた声は、届かない。
「その少年を、雄英に入れるなーー!!」
騒がしいなかで、罵声が飛ぶ。目を瞑って、逃げたくなる。
「噂されてる「死柄木が狙った少年」って、そいつだろ!!」
「おい、校長の説明があったじゃないか。我々の安全は、保証されるって・・・」
「納得できるか!!できたのか!?安全だと言われたから家を空けて避難してきたのに!
何故、爆弾を入れるんだ!!雄英じゃなくていいだろ!!匿うなら他でやれ!」
罵声を聞いた緑谷が、後ろを振り向いてしまう。
「あ・・・」
歌恋が気付いた時には、麗日が優しく緑谷の手を握っていた。
驚く緑谷に、麗日が伝える。
「大丈夫」
飯田くんたちが紡いだ。爆豪くんが紡いだ。私たちはもう君を離さない、離されない。
ヒーローが辛い時、誰が、ヒーローを守ってあげられるだろう。
緑谷の気持ちも理解しての今回の行動。そして、校長の力で真価を遂げた雄英バリア。
強化時、校長独自の改修を加えたという動くシステム。有事の際には区画ごと地下に潜るシェルター付き。
周辺地下には、計三千層の強化防壁に、それらが異常を検知すると迎撃システムが発動。
支柱がアンロックされ、防壁も独立可動。どんな攻撃でも到達を遅らせられる。
その間に、シェルターは安全なルートを辿り、雄英と同等の警備システムを持ち、
"入れ替わり事件"を契機に連携を強化した、士傑高校を筆頭に、いくつものヒーロー科高校へと逃げられる。
雄英に避難してきた人達を守るシステムはある。その中で、理解を示してくれる人もいた。
だが、全員が全員納得出来るわけじゃない。批判する人達に、ベストジーニストも説明してくれる。
ヴィランに先手とられる前に、緑谷を囮に居場所を探したが充分な捜査網を得られなかったこと。
緑谷はヴィランに狙われている一方、ヒーロー側の最高戦力の一角でもあること。
これ以上の摩耗は、致命的な損失になること。
「確かに最善ではない!!次善に他ならない!不安因子を快く思わない事は承知の上で、
この最も安全な場所で彼を休ませてほしい!いつでも戦えるように、彼には万全でいてもらわねばならないのです」
静かになる現場。だが、返ってきた言葉に、押し潰されそうになる。
「あんたら、失敗したから・・・そもそも今、日本は無法になっちまったんだぞ」
「んで、また失敗したから、しわ寄せを受け入れろって、あんた、そう言ってんだぞ・・・!?」
「「ふざけるな!!」」
「それでヒーローのつもりなのか!!」
「勘弁してくれ!!」
不安が伝播して、爆発する。
「俺たちはただ、安心して眠らせてほしいだけだ!!!」
麗日が、プレゼント・マイクがもっていた拡声器を取りながら、学校の屋根まで飛び乗った。
「ウラビティ!!?」
「お茶子ちゃん・・・」
拡声器から流れる、訴え。
「デ・・・緑谷出久は、特別な力を持っています・・・!!」
「だから、そんな奴が休みたいからって、ここに来るなよって、話だろうが」
「違う!迷惑かけないよう、雄英を出て行ったんです!!連れ戻したのは、私たちです!
彼の力は・・・!あの・・・特別で!オール・フォー・ワンに討ち勝つ為の力です!
だから狙われる!だから行かなきゃいけない!!そうやって出て行った彼が今どんな姿か、見えていますか!?」
人々の視線が、麗日から緑谷へ移り変わる。
「この現状を一番どうにかしたいと願って、いつ襲われるかも分からない道を進む人間の姿を、見てくれませんか!?
特別な力はあっても!!特別な人なんて、いません!!」
「・・・・・・・」
「・・・ボロボロじゃん・・・」
「弱そう・・・」
皆の、怒りに満ちていた視線が、戸惑いの色をみせ始める。
「・・・・・・見たら・・・何だよ・・・!?まさか・・・俺たちまで泥にまみれろってのかぁ!?」
「泥にまみれるのはヒーローだけです!!泥を払う暇を下さい!!」
彼女の声が、届いて欲しい。
「緑谷くん」
緑谷の隣に、飯田が並ぶ。
「麗日くんは今、戦っている。君を含めた、全ての人の笑顔の為に」
「麗日さん!」
「今!この場で安心させる事は・・・ごめんなさいっできません!!私たちも、不安だからです!!
(余裕がなくて、必死に助ける彼を見てきたから思う)皆さんと同じ、隣人なんです!」
ヒーローが辛い時、ヒーローたちが辛い時。
子供の頃、街で見かけたヒーロー。助けてもらった人たちが、嬉しそうに笑っている。
それが嬉しくて、お茶子も一緒に笑顔になる。だけど、父親が不思議そうに聞いた。
『お茶子、どこ見とるん?ヒーロー、あっちやで!?』
『おーい、イールボーイ!!』
呼ばれた傷だらけのヒーローは、辛そうな表情を見せる。そんな彼に、人々は思いっきり笑顔を返した。
それに答えたヒーローに、お茶子はさらに笑顔になった。小さい頃の、大事な思い出。
人々の笑顔が好きになったきっかけ。
きっと今回だって。
「だからっ・・・!!力を貸して下さい!!共に明日を笑えるように」
だが、ふと麗日の脳裏に過った、トガヒミコが見せた涙。
彼女は、笑えてない・・・。言葉が一瞬、詰まる。
「・・・皆さんの力で!どうか!彼が隣でっ!休んで・・・備えることを、許してくれませんか!!
緑谷出久は、力の責任を全うしようとしてるだけの、まだ学ぶ事が沢山ある、普通の高校生なんです!!」
「・・・でも・・・」
「っ!!ここを!!彼の!!」
これは、僕が最高のヒーローになるまでの物語。
『でも、転んじゃったら縁起悪いもんね』
「ヒーローアカデミアでいさせて下さい!!!」
緑谷が泣き崩れる。あの時に出逢った麗日。助けてくれた、今回も必死に一緒にいてくれてる。
そして、みんなが最高のヒーローになるまでの物語。
泣き崩れる緑谷のもとへ、峰田が駆け寄ろうとしたのを飯田が止めていた。
「何だよ、飯田!」
「ここは、俺たちじゃない。(だよな、麗日くん)」
そんな緑谷に駆け寄ってくれたのは、いつしか助けた、初めて緑谷に一枚の手紙をくれた洸汰だった。
「緑谷兄ちゃん!!ごめんね・・・!僕っ・・・恐くて、動けなかったんだ!ごめんよ!ごめん!
でも!あのお姉ちゃんが頑張って話してて、僕、行かなきゃって・・・兄ちゃんみたいにならなきゃって・・・!!
来たよ!だから、もうなかないで、大丈夫だよ!」
「洸・・・汰くん・・・!!」
「雄英の人だったんだね」
「お姉さん・・・!」
そしてもう一人、大きな体を持った女性が、緑谷を立たせた。
「異形は入れられないって・・・何ヵ所か避難所、断られちゃってね・・・。
結局、雄英がいいって事になったの。でも、また君に会えたからラッキーだ。
あの時はありがとう、泣き虫ヒーローさん」
お礼を言ってくれたお姉さんは、緑谷を優しく抱き締めた。
「ヒステリックに糾弾する前に、話ぐれぇ聞いてもいいんじゃねぇのか・・・?」
一人の男性が、麗日と言い合っていた青年に、傘を差し出しながら続けた。
「その兄ちゃんは、ここに常駐するって訳でもねぇんだろ!?物資も人材も足りねぇ今、
兄ちゃんがすり減る事なく休めるのが、雄英しかねぇってこったろ!? そういう説明だったよな、ヒーローさんよ!?」
校長が頷く。
「ええ」
「士傑じゃダメなのか!?同等の設備なんだろ!?」
「でも・・・そしたら士傑で同じ事が・・・」
「・・・・・・!」
青年に傘を貸した男性が続ける。
「俺ぁよう、こうなるまで気付かんかったよ。俺は"客"で、ヒーローたちは舞台の上の"演者"だった。
かつてオールマイトっつう不世出の男が、ヒーローを示したよ。皆そいつをなぞった!囃し立てた!
そうしていく内に、いつの間にか皆、そこに込められた魂を忘れちまってたんだ。
だが、舞台は取っ払われちまった。失敗を重ねて、金も名誉も望めねえ。ヒーローと呼ばれた大勢の人間が投げ出した。
そン中で今残って戦う連中は、何の為に戦ってるんだ?今戦ってる連中まで排斥していって、俺たちに何が残る!?
どうやってこれまで通り暮らす!?辛ぇのはわかる!けど、冷静になろうや!
俺たち、いつまで客でいるつもりだ?」
その言葉に後押しされたのか、考え、落ち着いてから青年は緑谷に向かって声を投げた。
「ふ、複数の"個性"を操る・・・ボロ切れのような男が噂になってる。ヴィランの煽動役とも、真のヒーローとも言われてる。
答えろよ。おまえがここで休んだら、俺たち元の暮らしに戻るのかよ?」
緑谷が迷いなく答える。
「皆が、一緒にいてくれるから・・・全部、取り戻します」
雄英バリアを発動させているため、外では13号先生が待っていてくれた。
「・・・俺はここに残る」
そう言い出したのは、轟だった。皆の視線が、後ろにいる轟に集まる。緑谷の事であれだけ必死だったのに。
「てめェ・・・」
突っ掛かる爆豪に、ヒヤヒヤだ。それでも、轟は冷静に答えた。
「先ずは緑谷の事を休ませるのがさきだから。中はまだ騒がしい、轟家の人間も入って、ややこしくしたくねぇ」
現段階で、プロヒーローであるエンデヴァーの在り方に疑問を持つ者も少なくないだろう。
荼毘にもエンデヴァーにも、SNSで調べれば批判の声はたくさん上がっていた。
「それに、親父にも言いてぇことがある」
緑谷を連れ戻すために、何かと今回は手をかしてくれた。
それから、あんな風に動画を流されては、轟の知らないところでも、一般市民から痛い視線は受けてしまうだろう。
「ゆ、雄英・・・?」
起きて目を開けた緑谷が、目の前の建物を見て驚いている。葉隠たちが雄英バリアの事を話してくれている。
「行こう、爆豪くん」
轟と目を合わせないように、歌恋が爆豪の背中を押す。
「・・・・・・」
彼らは、何も言わない。
「・・・轟くんは?」
障子に背負われたまま、緑谷が歌恋に問いかける。
「家の事情で、入らないって。入れないって・・・」
「・・・そっか・・・」
一緒にいれないことがもどかしい。顔を下に向けてしまった歌恋を見て、緑谷もこれ以上聞けなかった。
(轟くんも遠慮してるのに・・・)
A組の皆の想いには応えたい。でも――。
「戻るのは・・・ダメなんだ・・・」
ポツリと呟いた声は、届かない。
「その少年を、雄英に入れるなーー!!」
騒がしいなかで、罵声が飛ぶ。目を瞑って、逃げたくなる。
「噂されてる「死柄木が狙った少年」って、そいつだろ!!」
「おい、校長の説明があったじゃないか。我々の安全は、保証されるって・・・」
「納得できるか!!できたのか!?安全だと言われたから家を空けて避難してきたのに!
何故、爆弾を入れるんだ!!雄英じゃなくていいだろ!!匿うなら他でやれ!」
罵声を聞いた緑谷が、後ろを振り向いてしまう。
「あ・・・」
歌恋が気付いた時には、麗日が優しく緑谷の手を握っていた。
驚く緑谷に、麗日が伝える。
「大丈夫」
飯田くんたちが紡いだ。爆豪くんが紡いだ。私たちはもう君を離さない、離されない。
ヒーローが辛い時、誰が、ヒーローを守ってあげられるだろう。
緑谷の気持ちも理解しての今回の行動。そして、校長の力で真価を遂げた雄英バリア。
強化時、校長独自の改修を加えたという動くシステム。有事の際には区画ごと地下に潜るシェルター付き。
周辺地下には、計三千層の強化防壁に、それらが異常を検知すると迎撃システムが発動。
支柱がアンロックされ、防壁も独立可動。どんな攻撃でも到達を遅らせられる。
その間に、シェルターは安全なルートを辿り、雄英と同等の警備システムを持ち、
"入れ替わり事件"を契機に連携を強化した、士傑高校を筆頭に、いくつものヒーロー科高校へと逃げられる。
雄英に避難してきた人達を守るシステムはある。その中で、理解を示してくれる人もいた。
だが、全員が全員納得出来るわけじゃない。批判する人達に、ベストジーニストも説明してくれる。
ヴィランに先手とられる前に、緑谷を囮に居場所を探したが充分な捜査網を得られなかったこと。
緑谷はヴィランに狙われている一方、ヒーロー側の最高戦力の一角でもあること。
これ以上の摩耗は、致命的な損失になること。
「確かに最善ではない!!次善に他ならない!不安因子を快く思わない事は承知の上で、
この最も安全な場所で彼を休ませてほしい!いつでも戦えるように、彼には万全でいてもらわねばならないのです」
静かになる現場。だが、返ってきた言葉に、押し潰されそうになる。
「あんたら、失敗したから・・・そもそも今、日本は無法になっちまったんだぞ」
「んで、また失敗したから、しわ寄せを受け入れろって、あんた、そう言ってんだぞ・・・!?」
「「ふざけるな!!」」
「それでヒーローのつもりなのか!!」
「勘弁してくれ!!」
不安が伝播して、爆発する。
「俺たちはただ、安心して眠らせてほしいだけだ!!!」
麗日が、プレゼント・マイクがもっていた拡声器を取りながら、学校の屋根まで飛び乗った。
「ウラビティ!!?」
「お茶子ちゃん・・・」
拡声器から流れる、訴え。
「デ・・・緑谷出久は、特別な力を持っています・・・!!」
「だから、そんな奴が休みたいからって、ここに来るなよって、話だろうが」
「違う!迷惑かけないよう、雄英を出て行ったんです!!連れ戻したのは、私たちです!
彼の力は・・・!あの・・・特別で!オール・フォー・ワンに討ち勝つ為の力です!
だから狙われる!だから行かなきゃいけない!!そうやって出て行った彼が今どんな姿か、見えていますか!?」
人々の視線が、麗日から緑谷へ移り変わる。
「この現状を一番どうにかしたいと願って、いつ襲われるかも分からない道を進む人間の姿を、見てくれませんか!?
特別な力はあっても!!特別な人なんて、いません!!」
「・・・・・・・」
「・・・ボロボロじゃん・・・」
「弱そう・・・」
皆の、怒りに満ちていた視線が、戸惑いの色をみせ始める。
「・・・・・・見たら・・・何だよ・・・!?まさか・・・俺たちまで泥にまみれろってのかぁ!?」
「泥にまみれるのはヒーローだけです!!泥を払う暇を下さい!!」
彼女の声が、届いて欲しい。
「緑谷くん」
緑谷の隣に、飯田が並ぶ。
「麗日くんは今、戦っている。君を含めた、全ての人の笑顔の為に」
「麗日さん!」
「今!この場で安心させる事は・・・ごめんなさいっできません!!私たちも、不安だからです!!
(余裕がなくて、必死に助ける彼を見てきたから思う)皆さんと同じ、隣人なんです!」
ヒーローが辛い時、ヒーローたちが辛い時。
子供の頃、街で見かけたヒーロー。助けてもらった人たちが、嬉しそうに笑っている。
それが嬉しくて、お茶子も一緒に笑顔になる。だけど、父親が不思議そうに聞いた。
『お茶子、どこ見とるん?ヒーロー、あっちやで!?』
『おーい、イールボーイ!!』
呼ばれた傷だらけのヒーローは、辛そうな表情を見せる。そんな彼に、人々は思いっきり笑顔を返した。
それに答えたヒーローに、お茶子はさらに笑顔になった。小さい頃の、大事な思い出。
人々の笑顔が好きになったきっかけ。
きっと今回だって。
「だからっ・・・!!力を貸して下さい!!共に明日を笑えるように」
だが、ふと麗日の脳裏に過った、トガヒミコが見せた涙。
彼女は、笑えてない・・・。言葉が一瞬、詰まる。
「・・・皆さんの力で!どうか!彼が隣でっ!休んで・・・備えることを、許してくれませんか!!
緑谷出久は、力の責任を全うしようとしてるだけの、まだ学ぶ事が沢山ある、普通の高校生なんです!!」
「・・・でも・・・」
「っ!!ここを!!彼の!!」
これは、僕が最高のヒーローになるまでの物語。
『でも、転んじゃったら縁起悪いもんね』
「ヒーローアカデミアでいさせて下さい!!!」
緑谷が泣き崩れる。あの時に出逢った麗日。助けてくれた、今回も必死に一緒にいてくれてる。
そして、みんなが最高のヒーローになるまでの物語。
泣き崩れる緑谷のもとへ、峰田が駆け寄ろうとしたのを飯田が止めていた。
「何だよ、飯田!」
「ここは、俺たちじゃない。(だよな、麗日くん)」
そんな緑谷に駆け寄ってくれたのは、いつしか助けた、初めて緑谷に一枚の手紙をくれた洸汰だった。
「緑谷兄ちゃん!!ごめんね・・・!僕っ・・・恐くて、動けなかったんだ!ごめんよ!ごめん!
でも!あのお姉ちゃんが頑張って話してて、僕、行かなきゃって・・・兄ちゃんみたいにならなきゃって・・・!!
来たよ!だから、もうなかないで、大丈夫だよ!」
「洸・・・汰くん・・・!!」
「雄英の人だったんだね」
「お姉さん・・・!」
そしてもう一人、大きな体を持った女性が、緑谷を立たせた。
「異形は入れられないって・・・何ヵ所か避難所、断られちゃってね・・・。
結局、雄英がいいって事になったの。でも、また君に会えたからラッキーだ。
あの時はありがとう、泣き虫ヒーローさん」
お礼を言ってくれたお姉さんは、緑谷を優しく抱き締めた。
「ヒステリックに糾弾する前に、話ぐれぇ聞いてもいいんじゃねぇのか・・・?」
一人の男性が、麗日と言い合っていた青年に、傘を差し出しながら続けた。
「その兄ちゃんは、ここに常駐するって訳でもねぇんだろ!?物資も人材も足りねぇ今、
兄ちゃんがすり減る事なく休めるのが、雄英しかねぇってこったろ!? そういう説明だったよな、ヒーローさんよ!?」
校長が頷く。
「ええ」
「士傑じゃダメなのか!?同等の設備なんだろ!?」
「でも・・・そしたら士傑で同じ事が・・・」
「・・・・・・!」
青年に傘を貸した男性が続ける。
「俺ぁよう、こうなるまで気付かんかったよ。俺は"客"で、ヒーローたちは舞台の上の"演者"だった。
かつてオールマイトっつう不世出の男が、ヒーローを示したよ。皆そいつをなぞった!囃し立てた!
そうしていく内に、いつの間にか皆、そこに込められた魂を忘れちまってたんだ。
だが、舞台は取っ払われちまった。失敗を重ねて、金も名誉も望めねえ。ヒーローと呼ばれた大勢の人間が投げ出した。
そン中で今残って戦う連中は、何の為に戦ってるんだ?今戦ってる連中まで排斥していって、俺たちに何が残る!?
どうやってこれまで通り暮らす!?辛ぇのはわかる!けど、冷静になろうや!
俺たち、いつまで客でいるつもりだ?」
その言葉に後押しされたのか、考え、落ち着いてから青年は緑谷に向かって声を投げた。
「ふ、複数の"個性"を操る・・・ボロ切れのような男が噂になってる。ヴィランの煽動役とも、真のヒーローとも言われてる。
答えろよ。おまえがここで休んだら、俺たち元の暮らしに戻るのかよ?」
緑谷が迷いなく答える。
「皆が、一緒にいてくれるから・・・全部、取り戻します」