静かにみんなが見守る中、燐は決心したようだ。
「･･･ウン。いや、悪ぃけど、初対面の死んだオカマとチューはムリだ」
だって、自分にはもう玲薇がいるもの。
「ゴメンナサイ」

(真正面に断ったー！！！)
心の中で、燐は勝呂たちに再び突っ込まれる。
「もう少しオブラートにつつめんのか」
「やっぱ志摩さんを囮にした方が良かったんじゃ」
「子猫さん、やめて！！」

燐にキスを断られた白無垢は、涙に身体を震わせている。
《キイイ！！ハッキリ言うじゃない･･･！！アタイ･･･アンタみたいな正直ボーイ、好きよ。
･･･でも、アタイは運命の相手を見つけるまで･･･絶対諦めないわ～！！》
どうやら燐の断りに、逆に白無垢に更に火をつけたようだ。
白無垢の次の刃は、京都の３人に向けられる。

《ンまぁあ♡♡あんな所にも、若くてカワイイボーイ達がいっぱいじゃない！！
今行くわァァ！！ボーイ達ィイ！！チューしてあげる！！》
「ま、待てッ」
標的を変えられ、燐は慌てて後を追う。
「ひえ！？」
志摩は鬼のような血相をして襲いかかってくる白無垢に、青白い顔をしている。
子猫丸も１歩引いているような中、勝呂が冷静に２人に指示を出す。

「志摩は念仏や！簡単やろ、猫は法華から始め！」
「あ･･･はい！」
「俺は神前式の祝詞から始めて、経に合流する！！奥村！！」
「ま、かせろおッ！！」
ここで白無垢を通すわけにはいかないと、燐は飛ぶように前に出て降魔剣を引き抜く。
「お前、いい加減にしろよ！！」
《ぎゃあああ》
燐が白無垢を切り裂く。だが、目の前の白無垢は煙と化した。
「え！？」
まるで、切った手応えがない。

「霊は」
物陰に隠れて見守っている雪男が、不意に口を開く。
「気体に近い粒子で構成されている。一瞬で身体を分散させたり、集合させる。物理攻撃は不利です」

「うわわ、まじか！？」
いままで、剣が効かない悪魔なんて会ったことがなかったのに。
白無垢は何事もなかったように･･･ただ、燐に怒りながら突っ走る。
《急に何すんの！？キライよ、アンタなんか！！》

「燐の降魔剣でも歯が立たないなんて、初めてみた」
実戦に赴くことはなくても、こうやってみんなの戦い方をゆっくり見る機会などいままでなかった。
「炎は有効だが、分散されると燃やす対象が絞りにくい」
隣に雪男がいてくれてるお陰で、勉強にもなる。

ただ･･･あの白無垢の男への執念、キスへの執着が激しすぎて彼らにとっては迫り来る恐怖だろう。
《チューすれば、運命の相手かすぐ判るわ！！さぁ、チューよ、チュー！！》
志摩はそれでも、必死に念仏を唱えていた。しかし、もう恐怖に耐えられない。
ファーストキスを、こんな霊に奪われたくない。そんな拒絶反応に、念仏がとまった。

(アカン、噛んだ･･･)
もうムリだ、再び念仏を唱えるなんて。
(念仏噛むて、志摩さん･･･！？)
子猫丸の心配を他所に、志摩は向きをかえて走り出す。
「坊、子猫さん！堪忍･･･！！！」
(志摩！？)
(志摩さん！？)
駆け出す志摩を捕まえたい衝動にかられるが、ここで詠唱をやめるわけにいかない。
効果アリかナシかなんて判らないけど、中途半端に投げ出す訳にはいかないのだ。

だから、心の中で子猫丸と勝呂はそれぞれ誓う。
(･･･志摩さん、アンタにはほんま絶句やで･･･！！)
(後で覚えとれぁ、志摩ぁあ！！)