第二十五話 答え
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メフィストに言われ見ると、確かにバルコニーの内側に鍵穴がある。この先、自分が何を望み秘めているか・・・。
燐は小さく息を吐き、"神隠しの鍵"を使い再びドアを開ける――。
「えっ」
思わず、声が出た。燐の目の前に広がるここは、思入れがたくさん詰まっている修道院の台所だったから。
『やっと帰ってきたか』
『おかえりなさ・・・ぃ』
燐の姿を見た小さな女の子は、目を丸くしている。
『誰?お兄ちゃん誰??』
「え、あっ」
『誰だ?』
この小さな女の子は玲薇だ。調理中の男の人は間違いなく獅郎。燐はハッと我に返り、慌てて頭を確認した。
(しまった、フード被るの忘れてた・・・!!)
迷彩の効果を発揮するフードが外れたのは、あの一度戻った時だ。
「いや、その・・・!」
オドオドしている間に、獅郎の後ろに隠れてしまう玲薇。小さい子供の動きは、素早い。
『ハハ、そんな怖がっちゃ可哀想だぞ、玲薇』
後ろにいる玲薇の頭を、獅郎が優しく撫でている。
『・・・だって・・・』
『あぁ、まぁ座れ』
「え!?」
『これ喰ってみてくれよ』
そう言われ、食卓に出されたのは、子供の頃よく食べていた、あの懐かしいおにぎりだ。
(これ、おかかバター醤油焼きおにぎり・・・!子供の頃、ジジイがよくつくってくれた)
『初めてつくったからさ、味見してくれ』
「あ、は・・・はぁ」
『玲薇も食べる!』
「!」
『アチィから気をつけろよー』
燐と小さな玲薇が椅子に座り、一緒におにぎりを頬張る。懐かしい味に、燐は涙を堪えていた。
「(う・・・んンめぇ〜〜・・・)うまいっす・・・ちょっと薄いかも」
『だな』
『おいちいよ』
『アハハ!』
「・・・・・・・・・」
もう、元に戻れない、懐かしい光景。玲薇との違う反応に、燐は戸惑う。
「す、スミマセン・・・」
『いいや、謝ることねぇさ。友達につくってもらったのを思い出してみたんだが』
すると、燐のお腹が盛大に鳴った。
『ハッハッハッ!』
楽しそうに笑う獅郎につられて玲薇も笑った。
『いっぱいあるから喰え喰え!』
「あ、あざす・・・」
『顔色悪りィぞ、ちゃんと喰ってんのか?』
『喰ってんのか!?』
『特務の若造が、使いっ走りやらされてかわいそうに。悪いが、ラドン祓魔隊の指揮は辞退させてくれ。
ルーシーの代わりに最近四大騎士入りしたあいつ・・・えーと、エー・・・エンジェル?あいつにやらせとけ、めちゃくちゃ強いんだし。
本当いうと、父親業が忙しくてな。上層部には適当に言っといてくんねーか』
「・・・父親って・・・大変ですか」
『さぁなァ。俺は"父親"ってのがよくわかんねーからさ』
すると、玲薇が欠伸をする。ご飯を食べてお腹がいっぱいになり、さすがに眠くなってきたのだろう。
察した獅郎が、安心させるように彼女を抱き上げ、膝の上で寝かしつけをさせるようだ。大人の二人の会話は、
小さい子供にとって子守唄とて同然のようで。
『玲薇も、少し寝とけ』
『ん・・・』
膝の上でモゾモゾ動く玲薇を見る獅郎の目は、優しい。
そしてふと、燐はあの液体の中にいた細胞の頃の玲薇を思い出す。あれは今でも吐き気がする。
ちゃんとした母親の身体から生まれた自分達とは、玲薇の生まれはとても違う。
「・・・あの・・・その子と、手を繋いでも、いいですか・・・?」
震える声。でも、いまとてもその存在を確かめたかった。メフィストからのお咎めもなく、二人は驚き顔を合わせる。
玲薇は獅郎の顔を見て、言った。
『・・・お兄ちゃん、怖くないね』
『そうか。いいぞ』
小さな玲薇が、とてとてと燐に近付く。
「・・・ありがとう。必ず、守るから・・・」
泣きそうになるのを、必死に堪える。本当は抱き上げたいけれど、怖がらせるだけだろう。
『?』
『・・・子供は不思議だよな』
燐と握手を交わした玲薇は、獅郎にしがみついている。
『ホラ、あそこで寝てる兄弟・・・メガネで涎たらしてる方』
獅郎の視線の先には、ソファの上で二人でぐっすり眠っている子供達がいた。
『雪男はおおらかでやさしい努力家だが、身体弱いわ食も細いわ悪魔が見えるわで常にビクビクしてる。
とにかく自分に自信がないのが心配でな、何とかしたくて「強くなって俺と祓魔師やるか」って聞いたら、
「兄さんを守れるくらい強くなりたい」って言うもんで、俺も祓魔塾の講師の口探してもらったんだ。
唯一俺が教えられることだし、なるべく俺が教えたいからな。その下の、半ケツで涎たらしてる方。
燐も家族思いで悪いヤツじゃないんだが、一度キレると暴力的で力の加減が出来ねぇのも問題だ。何より、敵をつくりすぎる。
雪男と一緒に祓魔師として戦い方を教えてやるべきか、けっこー長いこと悩んでたんだが・・・やめた。
燐には、料理を教えてやろうと思ってな、なるべく俺が教えたくて練習してたんだが・・・こっちの方は一緒に勉強していくことになりそーだ』
「な、なんで・・・」
言いかけて、燐はハッとした。いまや料理上手で認知されている燐だが、教わっていた当初はよく食材をばら撒き、道具を壊していたのだ。
『料理は頭と体力を使う。力加減も覚えなきゃならんし、つくる相手の事も考えなきゃならん。何より「雪男に喰わせたい」って言うからさ。
燐を怖がらない雪男は、救いだ』
いつの間にか玲薇は、獅郎に抱かれ眠っている。
『ま、女の子は昔からどう扱っていーかわかんねーけど、アイツラのやる気の源ってところか』
小さく楽しそうに笑う獅郎に、心当たりがある現在の燐は赤面する。あながち間違っていないから。玲薇を真ん中にしないと、二人で気がすまなかったから。
『それに、塾講師もクッキングパパも間違ってるかも。正直何が正解かさっぱり解んねーし、忙しいし、大変っちゃー大変なんだろうが、
あいつら見てると、そーゆー悩みはどーでもよくなるぜ』
「・・・ほんと、すね」
いままで聞けなかった、獅郎の本音だろう。
「俺、そろそろ行きます」
『おっ、スマン。つい、ムダ話しちまって。ほれ、残りもってけ』
「えっあ、ありがとうございます」
『こっちこそ、上層部に伝言頼む』
「は、はい。失礼します」
『おう』
鍵を使い、ドアノブに手をかける燐。出て行く前に。
「父さん」
『ん?』
「ありがとう」
精一杯のお礼を込めて。
『なぁに、大したこたぁしてねぇよ』
燐は小さく息を吐き、"神隠しの鍵"を使い再びドアを開ける――。
「えっ」
思わず、声が出た。燐の目の前に広がるここは、思入れがたくさん詰まっている修道院の台所だったから。
『やっと帰ってきたか』
『おかえりなさ・・・ぃ』
燐の姿を見た小さな女の子は、目を丸くしている。
『誰?お兄ちゃん誰??』
「え、あっ」
『誰だ?』
この小さな女の子は玲薇だ。調理中の男の人は間違いなく獅郎。燐はハッと我に返り、慌てて頭を確認した。
(しまった、フード被るの忘れてた・・・!!)
迷彩の効果を発揮するフードが外れたのは、あの一度戻った時だ。
「いや、その・・・!」
オドオドしている間に、獅郎の後ろに隠れてしまう玲薇。小さい子供の動きは、素早い。
『ハハ、そんな怖がっちゃ可哀想だぞ、玲薇』
後ろにいる玲薇の頭を、獅郎が優しく撫でている。
『・・・だって・・・』
『あぁ、まぁ座れ』
「え!?」
『これ喰ってみてくれよ』
そう言われ、食卓に出されたのは、子供の頃よく食べていた、あの懐かしいおにぎりだ。
(これ、おかかバター醤油焼きおにぎり・・・!子供の頃、ジジイがよくつくってくれた)
『初めてつくったからさ、味見してくれ』
「あ、は・・・はぁ」
『玲薇も食べる!』
「!」
『アチィから気をつけろよー』
燐と小さな玲薇が椅子に座り、一緒におにぎりを頬張る。懐かしい味に、燐は涙を堪えていた。
「(う・・・んンめぇ〜〜・・・)うまいっす・・・ちょっと薄いかも」
『だな』
『おいちいよ』
『アハハ!』
「・・・・・・・・・」
もう、元に戻れない、懐かしい光景。玲薇との違う反応に、燐は戸惑う。
「す、スミマセン・・・」
『いいや、謝ることねぇさ。友達につくってもらったのを思い出してみたんだが』
すると、燐のお腹が盛大に鳴った。
『ハッハッハッ!』
楽しそうに笑う獅郎につられて玲薇も笑った。
『いっぱいあるから喰え喰え!』
「あ、あざす・・・」
『顔色悪りィぞ、ちゃんと喰ってんのか?』
『喰ってんのか!?』
『特務の若造が、使いっ走りやらされてかわいそうに。悪いが、ラドン祓魔隊の指揮は辞退させてくれ。
ルーシーの代わりに最近四大騎士入りしたあいつ・・・えーと、エー・・・エンジェル?あいつにやらせとけ、めちゃくちゃ強いんだし。
本当いうと、父親業が忙しくてな。上層部には適当に言っといてくんねーか』
「・・・父親って・・・大変ですか」
『さぁなァ。俺は"父親"ってのがよくわかんねーからさ』
すると、玲薇が欠伸をする。ご飯を食べてお腹がいっぱいになり、さすがに眠くなってきたのだろう。
察した獅郎が、安心させるように彼女を抱き上げ、膝の上で寝かしつけをさせるようだ。大人の二人の会話は、
小さい子供にとって子守唄とて同然のようで。
『玲薇も、少し寝とけ』
『ん・・・』
膝の上でモゾモゾ動く玲薇を見る獅郎の目は、優しい。
そしてふと、燐はあの液体の中にいた細胞の頃の玲薇を思い出す。あれは今でも吐き気がする。
ちゃんとした母親の身体から生まれた自分達とは、玲薇の生まれはとても違う。
「・・・あの・・・その子と、手を繋いでも、いいですか・・・?」
震える声。でも、いまとてもその存在を確かめたかった。メフィストからのお咎めもなく、二人は驚き顔を合わせる。
玲薇は獅郎の顔を見て、言った。
『・・・お兄ちゃん、怖くないね』
『そうか。いいぞ』
小さな玲薇が、とてとてと燐に近付く。
「・・・ありがとう。必ず、守るから・・・」
泣きそうになるのを、必死に堪える。本当は抱き上げたいけれど、怖がらせるだけだろう。
『?』
『・・・子供は不思議だよな』
燐と握手を交わした玲薇は、獅郎にしがみついている。
『ホラ、あそこで寝てる兄弟・・・メガネで涎たらしてる方』
獅郎の視線の先には、ソファの上で二人でぐっすり眠っている子供達がいた。
『雪男はおおらかでやさしい努力家だが、身体弱いわ食も細いわ悪魔が見えるわで常にビクビクしてる。
とにかく自分に自信がないのが心配でな、何とかしたくて「強くなって俺と祓魔師やるか」って聞いたら、
「兄さんを守れるくらい強くなりたい」って言うもんで、俺も祓魔塾の講師の口探してもらったんだ。
唯一俺が教えられることだし、なるべく俺が教えたいからな。その下の、半ケツで涎たらしてる方。
燐も家族思いで悪いヤツじゃないんだが、一度キレると暴力的で力の加減が出来ねぇのも問題だ。何より、敵をつくりすぎる。
雪男と一緒に祓魔師として戦い方を教えてやるべきか、けっこー長いこと悩んでたんだが・・・やめた。
燐には、料理を教えてやろうと思ってな、なるべく俺が教えたくて練習してたんだが・・・こっちの方は一緒に勉強していくことになりそーだ』
「な、なんで・・・」
言いかけて、燐はハッとした。いまや料理上手で認知されている燐だが、教わっていた当初はよく食材をばら撒き、道具を壊していたのだ。
『料理は頭と体力を使う。力加減も覚えなきゃならんし、つくる相手の事も考えなきゃならん。何より「雪男に喰わせたい」って言うからさ。
燐を怖がらない雪男は、救いだ』
いつの間にか玲薇は、獅郎に抱かれ眠っている。
『ま、女の子は昔からどう扱っていーかわかんねーけど、アイツラのやる気の源ってところか』
小さく楽しそうに笑う獅郎に、心当たりがある現在の燐は赤面する。あながち間違っていないから。玲薇を真ん中にしないと、二人で気がすまなかったから。
『それに、塾講師もクッキングパパも間違ってるかも。正直何が正解かさっぱり解んねーし、忙しいし、大変っちゃー大変なんだろうが、
あいつら見てると、そーゆー悩みはどーでもよくなるぜ』
「・・・ほんと、すね」
いままで聞けなかった、獅郎の本音だろう。
「俺、そろそろ行きます」
『おっ、スマン。つい、ムダ話しちまって。ほれ、残りもってけ』
「えっあ、ありがとうございます」
『こっちこそ、上層部に伝言頼む』
「は、はい。失礼します」
『おう』
鍵を使い、ドアノブに手をかける燐。出て行く前に。
「父さん」
『ん?』
「ありがとう」
精一杯のお礼を込めて。
『なぁに、大したこたぁしてねぇよ』