第ニ十二話 行先
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雪男の腕が治るまで、玲薇は志摩と一緒に帰りを待つ。
「「・・・・・・・・・・」」
この沈黙が、妙に心地良いのかなんなのか複雑な気持ちだけど、知らない人と一緒じゃなくてよかった。
自分の出生を知りたいなんて、欲を出せば結果こんなもんだ。でも逆に、スッキリしたかもしれない。
あとは、燐が自分を受け入れてくれればいいなんて、そんな都合のいい事なんてないよな。
「・・・志摩くんは、気付いてたの?私の事も、雪男の事も」
ふと、何となく聞いてみる。
「んー?俺もさっき聞いたんで初めてや」
「そっか・・・。なーんか、色んな事がどーでもよくなっちゃった・・・」
いまここにいる場所は薄暗く、僅かに見える光の色に、眩しくなさすぎず落ち着く。そう、例えば映画館のような明るさだ。
ボケーッと、何もすることなく、ただ、過ぎていく時間。一人でも、好きな人といるわけでもない、不思議な時間。
そういえば、志摩にイルミナティに来ないかと誘われた時、自分の事は何とも思ってないのかと聞かれたっけ。
こんな誰もいない場所に、しかも二人なのに、彼から手を出してこない。普段のふざけた様子もない。
「志摩くん」
「はは、玲薇ちゃんからやけに話かけてきはるね」
「・・・志摩くんは、実験体だと知った私を、いまも好き?」
「っ・・・!!」
薄暗い明るさは、人の表情は容易く見えて、目元も口元も笑ってない。ただ、虚ろのような表情を、彼女は向けてくる。
背筋に冷たいものが流れる感覚に、答える口がギュッと閉じてしまい何も言えなくなる。
たまに見せていたこの表情は、悪魔に見えなくない。
「はは・・・俺に好かれても、玲薇ちゃん嬉しないやん」
「・・・(違う、いま欲しいのはそういうんじゃない・・・)」
以前、思いっきり拒否したのは自分だけど、いつもの明るいムードメーカーの存在が欲しくて。
もっとふざけてよ、笑わせてよ。優しく跳ね除けされてるんだ。そんな深い意味合いではないかもしれないけど。
自分も、志摩にはいつも素直な態度でいてやれなくて。
「そう、だよね・・・」
もっと会話を広げられる言葉があるハズなのに、あげられない。
「・・・坊でも奥村くんでもなくて、悪いやなーなんてな」
「・・・ううん・・・」
気まずい雰囲気に、シャーとドアの開く小さな音が響く。振り向けば雪男が、ルシフェルらと戻ってきた。
「・・・どうしたの?」
なんとも言い難い雰囲気に、雪男が問いかける。
「何もないよ。ね?」
玲薇は首を横に振り、志摩に同意を求める。
「せや、なんもあらへん」
「そう」
雪男は支えられている腕をみて、玲薇に言った。
「僕も実験成功したよ」
「っ~・・・」
言葉が出ない玲薇は、ただただ雪男に寄り添う。彼は自由な右手でそっと玲薇の背中に手をやった。
「今日はこれで終わりです。あとは自由にして下さい」
三人はここの場所を後にし、部屋に戻る為に廊下を歩く。
「こない至れり尽くせりされて・・・なんやエゲツない見返り求められそうで怖ないです?」
「そうですね。たが、貰える物は貰う」
何とも言い難い雰囲気の中、突如志摩が声を荒らげる。
「あッ」
「「!!」」
志摩が急にデカい声を出すものだから、思わず驚く二人。
「アブナ!!俺、先生に伝えなアカン事が・・・思い出してよかったわ~!ちょお耳貸して下さい!」
「え!?」
もの凄い嫌な顔をする雪男。
「エライ嫌な顔しますやん。そんなとってくいやしませんって」
そして構わず、雪男の耳元で小さく話す志摩。
「こしょこしょのこしょ~」
二人の秘密裏に、玲薇は眉間に皺を寄せる。
(何話してるのかな・・・)
数秒後。
「伝えましたんで、後は先生のお好きに♪」
「君は・・・どっちだ」
「?」
雪男の問いかけに、玲薇は首をかしげる。そんな雪男に、志摩はケロッと笑った。
「えー、ハハハ。さあ。先生こそ、どっちですか?」
志摩と別れて、玲薇が聞く。
「雪男、何を言われたの?」
「・・・・・・・・玲薇がここに来た理由は何だっけ?」
質問を質問で返され、どうしようと考えたが素直に答える。
「自分の出生と力の秘密が知りたくて。それに、サタン復活にその力が必要だとしても貸してやる気はさらさらない。
イルミナティの仲間になんてなる気はない。このまま私が生きて、大好きな皆を危険に晒すくらいなら・・・」
いま脳裏に浮かぶのは、大好きな仲間たち。
一番大好きな、燐の姿。
「雪男がいまもおもってくれてるならいいよ、一緒に死のう?」
驚く雪男の表情。『一緒に死んでみる?』かつてそう聞いた言葉の返しが、ここできた。
あの時は軽くはぐらかされたのに。心境が変わったのだろう。
「っ・・・ハッ、ハハハ」
可笑しいわけじゃないのに、馬鹿げて笑いが出る。彼女の必死で真面目なその顔に申し訳ないけれど。
「死ねる手段が、僕たちにあればだけどね」
「・・・(確かに)」
今更恥ずかしくなり、雪男から顔を背ける。
「でも、いいよ。僕を頼ってくれるのは、素直に嬉しいから」
雪男が近付き、先程志摩に言われた言葉を、そのまま玲薇に話してくれた。
「・・・・・・!!それって、雪男、やっぱり・・・!」
「シー」
焦る玲薇の口元に人差し指をあて、雪男は静かに言った。
「大丈夫」
静かな一人の部屋で、玲薇は息を吐く。
(モリナスの契約書・・・)
やっぱり雪男はサインしてたんだ。でも、志摩の伝言の意味がよく理解出来ない。
(・・・雪男が大丈夫だって言ってるから、大丈夫だよね・・・)
「・・・・・・・会いたいよぉ、燐・・・・・」
自分の秘密を知って、燐が自分を受け入れてくれるか判らないけれど。
不思議と、自然と涙が溢れ出た。
部屋に戻った雪男はシャワーを浴びながら、左腕にしてあったギブスを取り外す。
完全に治った腕は、傷一つなく、違和感すら感じなかった。
「・・・ふ、はは」
不敵に笑みが溢れ出る。
雪男がギブスを外した腕を見せてくれたのは翌日の事。
「・・・治ってる・・・」
「違和感とか、ないんすか?」
唖然とする玲薇と志摩。
「ないですね」
「ほんまぁ??知りませんよ、後で目と口生えて喋り出しても」
「変なこと言わないで」
「今日僕らは何をするんですか?」
「再生部分の運動テストが終わったら自由です」
「アルムマヘル銃の試し撃ちは、まだできないのか・・・」
「それが急に重要な実験が決まって、実験棟全体が閉鎖されちゃったんですよね」
「実験・・・」
「「・・・・・・・」」
思わず言葉に出ていたらしい。玲薇は二人の視線に、『あっ』と我にかえる。
「玲薇ちゃんやあらへんて。あ、今日も総帥会いたいそーですよ。体調よくて、機嫌ええみたいで」
玲薇をみて、ふと思う。同じ実験体だった彼女は自我があり、こうやって普通に生活している。
だが、ルシフェルが見せてくれたクローンは、姿もルシフェルにそっくりなわけで。
「・・・しかし、いくらそっくりそのままのクローン体があったとしても、自我が同等でなければ、
憑依体にはなり得ないんじゃないのか?玲薇みたいに、感情はあるハズだろ?」
「・・・ああ」
成程な、と雪男の言葉に納得する。
けど、ここは流石スパイというなだけある志摩が答える。
「ここだけの話、すげ換えてるらしいですよ」
「え!?」
「!??」
「人体の部分再生や完全なクローン体の製造技術とかは、結社創設初期に完成してたんですが、
悪魔の憑依体のクローン造るのは難しくて、成功したんはつい一ヶ月前って話です。
その一ヶ月の間にあの人、少なくとも三回は首から下取り換えてるんですってよ!?ホラーじゃありません?」
「「・・・・・・・・・・」」
この沈黙が、妙に心地良いのかなんなのか複雑な気持ちだけど、知らない人と一緒じゃなくてよかった。
自分の出生を知りたいなんて、欲を出せば結果こんなもんだ。でも逆に、スッキリしたかもしれない。
あとは、燐が自分を受け入れてくれればいいなんて、そんな都合のいい事なんてないよな。
「・・・志摩くんは、気付いてたの?私の事も、雪男の事も」
ふと、何となく聞いてみる。
「んー?俺もさっき聞いたんで初めてや」
「そっか・・・。なーんか、色んな事がどーでもよくなっちゃった・・・」
いまここにいる場所は薄暗く、僅かに見える光の色に、眩しくなさすぎず落ち着く。そう、例えば映画館のような明るさだ。
ボケーッと、何もすることなく、ただ、過ぎていく時間。一人でも、好きな人といるわけでもない、不思議な時間。
そういえば、志摩にイルミナティに来ないかと誘われた時、自分の事は何とも思ってないのかと聞かれたっけ。
こんな誰もいない場所に、しかも二人なのに、彼から手を出してこない。普段のふざけた様子もない。
「志摩くん」
「はは、玲薇ちゃんからやけに話かけてきはるね」
「・・・志摩くんは、実験体だと知った私を、いまも好き?」
「っ・・・!!」
薄暗い明るさは、人の表情は容易く見えて、目元も口元も笑ってない。ただ、虚ろのような表情を、彼女は向けてくる。
背筋に冷たいものが流れる感覚に、答える口がギュッと閉じてしまい何も言えなくなる。
たまに見せていたこの表情は、悪魔に見えなくない。
「はは・・・俺に好かれても、玲薇ちゃん嬉しないやん」
「・・・(違う、いま欲しいのはそういうんじゃない・・・)」
以前、思いっきり拒否したのは自分だけど、いつもの明るいムードメーカーの存在が欲しくて。
もっとふざけてよ、笑わせてよ。優しく跳ね除けされてるんだ。そんな深い意味合いではないかもしれないけど。
自分も、志摩にはいつも素直な態度でいてやれなくて。
「そう、だよね・・・」
もっと会話を広げられる言葉があるハズなのに、あげられない。
「・・・坊でも奥村くんでもなくて、悪いやなーなんてな」
「・・・ううん・・・」
気まずい雰囲気に、シャーとドアの開く小さな音が響く。振り向けば雪男が、ルシフェルらと戻ってきた。
「・・・どうしたの?」
なんとも言い難い雰囲気に、雪男が問いかける。
「何もないよ。ね?」
玲薇は首を横に振り、志摩に同意を求める。
「せや、なんもあらへん」
「そう」
雪男は支えられている腕をみて、玲薇に言った。
「僕も実験成功したよ」
「っ~・・・」
言葉が出ない玲薇は、ただただ雪男に寄り添う。彼は自由な右手でそっと玲薇の背中に手をやった。
「今日はこれで終わりです。あとは自由にして下さい」
三人はここの場所を後にし、部屋に戻る為に廊下を歩く。
「こない至れり尽くせりされて・・・なんやエゲツない見返り求められそうで怖ないです?」
「そうですね。たが、貰える物は貰う」
何とも言い難い雰囲気の中、突如志摩が声を荒らげる。
「あッ」
「「!!」」
志摩が急にデカい声を出すものだから、思わず驚く二人。
「アブナ!!俺、先生に伝えなアカン事が・・・思い出してよかったわ~!ちょお耳貸して下さい!」
「え!?」
もの凄い嫌な顔をする雪男。
「エライ嫌な顔しますやん。そんなとってくいやしませんって」
そして構わず、雪男の耳元で小さく話す志摩。
「こしょこしょのこしょ~」
二人の秘密裏に、玲薇は眉間に皺を寄せる。
(何話してるのかな・・・)
数秒後。
「伝えましたんで、後は先生のお好きに♪」
「君は・・・どっちだ」
「?」
雪男の問いかけに、玲薇は首をかしげる。そんな雪男に、志摩はケロッと笑った。
「えー、ハハハ。さあ。先生こそ、どっちですか?」
志摩と別れて、玲薇が聞く。
「雪男、何を言われたの?」
「・・・・・・・・玲薇がここに来た理由は何だっけ?」
質問を質問で返され、どうしようと考えたが素直に答える。
「自分の出生と力の秘密が知りたくて。それに、サタン復活にその力が必要だとしても貸してやる気はさらさらない。
イルミナティの仲間になんてなる気はない。このまま私が生きて、大好きな皆を危険に晒すくらいなら・・・」
いま脳裏に浮かぶのは、大好きな仲間たち。
一番大好きな、燐の姿。
「雪男がいまもおもってくれてるならいいよ、一緒に死のう?」
驚く雪男の表情。『一緒に死んでみる?』かつてそう聞いた言葉の返しが、ここできた。
あの時は軽くはぐらかされたのに。心境が変わったのだろう。
「っ・・・ハッ、ハハハ」
可笑しいわけじゃないのに、馬鹿げて笑いが出る。彼女の必死で真面目なその顔に申し訳ないけれど。
「死ねる手段が、僕たちにあればだけどね」
「・・・(確かに)」
今更恥ずかしくなり、雪男から顔を背ける。
「でも、いいよ。僕を頼ってくれるのは、素直に嬉しいから」
雪男が近付き、先程志摩に言われた言葉を、そのまま玲薇に話してくれた。
「・・・・・・!!それって、雪男、やっぱり・・・!」
「シー」
焦る玲薇の口元に人差し指をあて、雪男は静かに言った。
「大丈夫」
静かな一人の部屋で、玲薇は息を吐く。
(モリナスの契約書・・・)
やっぱり雪男はサインしてたんだ。でも、志摩の伝言の意味がよく理解出来ない。
(・・・雪男が大丈夫だって言ってるから、大丈夫だよね・・・)
「・・・・・・・会いたいよぉ、燐・・・・・」
自分の秘密を知って、燐が自分を受け入れてくれるか判らないけれど。
不思議と、自然と涙が溢れ出た。
部屋に戻った雪男はシャワーを浴びながら、左腕にしてあったギブスを取り外す。
完全に治った腕は、傷一つなく、違和感すら感じなかった。
「・・・ふ、はは」
不敵に笑みが溢れ出る。
雪男がギブスを外した腕を見せてくれたのは翌日の事。
「・・・治ってる・・・」
「違和感とか、ないんすか?」
唖然とする玲薇と志摩。
「ないですね」
「ほんまぁ??知りませんよ、後で目と口生えて喋り出しても」
「変なこと言わないで」
「今日僕らは何をするんですか?」
「再生部分の運動テストが終わったら自由です」
「アルムマヘル銃の試し撃ちは、まだできないのか・・・」
「それが急に重要な実験が決まって、実験棟全体が閉鎖されちゃったんですよね」
「実験・・・」
「「・・・・・・・」」
思わず言葉に出ていたらしい。玲薇は二人の視線に、『あっ』と我にかえる。
「玲薇ちゃんやあらへんて。あ、今日も総帥会いたいそーですよ。体調よくて、機嫌ええみたいで」
玲薇をみて、ふと思う。同じ実験体だった彼女は自我があり、こうやって普通に生活している。
だが、ルシフェルが見せてくれたクローンは、姿もルシフェルにそっくりなわけで。
「・・・しかし、いくらそっくりそのままのクローン体があったとしても、自我が同等でなければ、
憑依体にはなり得ないんじゃないのか?玲薇みたいに、感情はあるハズだろ?」
「・・・ああ」
成程な、と雪男の言葉に納得する。
けど、ここは流石スパイというなだけある志摩が答える。
「ここだけの話、すげ換えてるらしいですよ」
「え!?」
「!??」
「人体の部分再生や完全なクローン体の製造技術とかは、結社創設初期に完成してたんですが、
悪魔の憑依体のクローン造るのは難しくて、成功したんはつい一ヶ月前って話です。
その一ヶ月の間にあの人、少なくとも三回は首から下取り換えてるんですってよ!?ホラーじゃありません?」