『情報通りだな。危うく逃がすところだった』
『ど、どうして･･･私達を行かせてください！！人里から離れて静かに暮らします、お願いです！！』
『魔女め！』
『すっかりサタンに色ボケてやがる。これだから女は･･･』
『獅郎！？』
警備する人間の中に、獅郎の姿を見つけた。あの時は見逃してくれたのに。

『お願い、見逃して！！ッ、うっ･･･』
『！？』
突然うずくまるユリ。
『･･･ッ、おえ･･･』
『？？ユリ！！』
ユリを支えるサタン。その情をみせることなく、言い放つ。
『チャンスだ、サタンに向かって一斉射撃』
『な、待ってくれ！！』
『撃て！！』

四方八方から飛び交う弾丸。それを弾き返そうと、サタンの青い炎が地を張っていく。
『うわぁああ！？』
ガードしたことで、人までは死ななかったけれど。
サタンがもう一度攻撃しようとした瞬間、体調のよくなかったサタンは、ユリと一緒に倒れ込んだ。
『確保！！』
『やめて！！』
獅郎に引っ張っられるユリは必死にもがく。
『ユリ！来い！』
『私、約束したの･･･そばにいるって･･･サタン！！！』

引き離された二人。

ユリのお腹には、双子の赤ちゃんを妊娠していると聞かされた獅郎。
サタンの無事を心配するユリに、獅郎は告げる。
まだ生きてはいるが、憑依体の本格的な劣化が始まり、脳を損傷し身動きが取れなく、表向きは死んだことになっていると。
騎士團は今回の件を、全部ユリ一人の責任にする気のようだ。お腹の中の赤ちゃんは、祓魔される可能性が高い。
それにかかわらず、ユリの母親としての意志は強かった。

『お前、まさか産みたいなんて考えてないよな･･･！？サタンの仔だぞ！』
『ごめんね、獅郎･･･！』

『赤子は、サタンと同じく青い炎を纏って生まれる可能性が高い。そこで作戦名は、
"青い稲妻作戦"に決定しました！』
メフィストの命令に、本気なのかおふざけなのか判らない態度に、獅郎は返す言葉がない。
『貴方、降魔剣をご存知ですか？』
明王陀羅尼宗の本尊として伝わる魔剣で、またの名を倶利伽羅。
今は蛻の殻だが、かつて多くの炎の悪魔を降ろしてきた為、非常に炎と親和する剣。
『どうです、貴方』
『行く』
話を遮ってまで帰ってきた返事。
『ついでに、そのフザケた作戦に俺も加えとけ！！』

『獅郎！！』
姿を見つけたリックが、前を歩く獅郎の後を追う。
『ユリが魔女だなんて噂されてるんだ、おかしいだろ！ジェニも黙っていなくなった･･･。
ユリも･･･お前、何か知ってるんだろ！？何なんだ･･･騎士團は何を隠してるんだよ･･･！？』
欲しい答えを、獅郎が答えてくれるハズなくて。
シュラを修道院に預け、部隊までも獅郎は解散してしまう。

子供の頃のように、また一人に自ら逆戻りにして。

降魔剣を手にした獅郎。
『･･･ッろす、ころす、ブッ殺す！！！』
何もかもが、めちゃくちゃだ。

燐の目の前には、どんどん衰弱していくユリの姿。
『違うよ。大丈夫･･･安心して。あなた達だけでも守ってみせる』
直接母親のユリに会ったことはない。けれど、思った。
こんなに大事にされて自分は産まれてきた。自分は、ユリが思い描いていた子供になれていたろうか。
『･･････････』
これから自分はどうすればいいのだろう。ユリの事、獅郎の事、雪男の事、玲薇の事。
玲薇は創られた、実験体だった。獅郎と同じように。違うのは、まだ生きてる事。
自分を好きになってくれたこと。笑って泣いて怒って、自らの感情を見せてくれること。
全然実験体なんかじゃない。成功して野放しに成長させていたとしても、アイツは、アイツだ。

サタンの息子として生きて、ただ、人を好きになっただけ。
でも･･･もし、サタンと同じようなことをして、玲薇と一つになったら。
同じ事をまた繰り返してしまうだけかもしれない。薄々わかってた。だから彼女はあんなに拒否してた。
ユリみたいに苦しい思いまでして、彼女を手放してまで子供を作りたいとか考えてない。
それでも、その先が怖いから･･･自分たちに恋の進展もなにも出来ないんだ。

普通の人間だったら。よく口にしてた、玲薇の口癖は、いま、痛い程理解してしまう。

「よくぞここまで逃げず暴れず、過去を見届けましたね」
メフィストが乾いた拍手をおくる。
「心中お察しできませんが、貴方にとってはさぞや大変だったでしょう」
軽い調子のメフィストに、燐は睨みつけてやる。
「ワァ、コワイ。ククク、本番はこれからです。覚悟はいいですか？」
「ああ･･･！」

ユリは予定日から４週過ぎて、ようやく破水した。
双子で、H胎は生きているが発育不全で弱々く、M胎は巨大児で先に生まれるが、要注意だった。
何が起こるか全く未知だが、とうとう始まる、青い稲妻作戦が。

『ユリ、俺がお前を救ってやる！』
降魔剣を手にしていた獅郎も、出産に立ち会う。