第十九話 過去へ
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燐を見送ったメフィストは、重たい腰を上げる。
「・・・さて、と」
すると、ここへアマイモンが飛んできた。
「アマイモン」
「・・・・・・・」
どこか揺らりと揺れるアマイモンの身体。
「今回は忍耐力のないお前にしてはよくやった、ごほうぶ!?」
大胆に胸ぐらを掴まれ、アマイモンに首を激しく揺らされた。
「あの女は何者だ!!」
「あ?ああ・・・杜山しえみくんの事か・・・ハハハ、アマイモン。今さら何を」
今度睨みつけるのはメフィストだ。
「むしろ、今までよく気付かなかったな。世界がこうなった以上、戦いは避けられない。
お前の自由時間も、あと僅かということだ」
「よくも・・・よくも今まで黙ってたな、兄上なんか嫌いだ!!」
再び逃げるように飛んでいったアマイモンに、メフィストは視線を向ける。
「・・・"嫌い"か。まるで人間のような事を」
すると今度は、燐が過去へ行く為に使われた閉ざされていたバルコニーのドアが再び開かれた。
「おやぁ?次から次へと」
姿を現したのは、ネイガウスだ。
「・・・完成したぞ」
「なんと!思ったより早い!流石ですねぇ、ネイガウス博士」
「フン。私は、約束を守った。貴様は悠長に何をやっている。世界は破滅に向かっているが」
「安心しろ。駒は各々の役目を全うすべく動き始めた。仮初の平穏に、別れを告げて」
ーーーーーー
扉を開けて燐が向かった先の過去。外は雪が降りしきり、吐く息は真っ白だ。
「・・・・・・ここが、過去なのか・・・?」
あまりにも到着が呆気なさすぎて変に不安になる。辺りを見回し、後ろを振り返ると子供がいた。
燐が出てきた屋上にある小さな建物の、小さな屋根の上に少年がいる。
彼と目が合った・・・そう思った矢先、少年はギョッと目を見開いた。
「何なんだ・・・?」
驚いた少年は、そのまま姿を消してしまう。
「彼はのちの藤本獅郎神父ですよ」
そう声をかけられ、燐は振り向く。
「メフィスト!?」
突如現れた人物に声をあらげてしまった。
「ついて来たのか!?」
「いいえ。私は貴方のいた時間から遡ること40年前の私です」
「40年前・・・?ウソだろ、40年後とほとんど変わんねーけど?」
「悪魔の憑依体は劣化はすれども、老化はしないんですよ。それに、私は時の王。
肉体はさておき、その"自我"は常に不変です。貴方がいつの時間へ行こうとね。なので、ヒマな時はガイドしますよ」
言いながら、子犬の姿に変身するメフィストに、燐は小さくため息をつく。
そんな燐に、メフィストは釘をさすよう改めて言い切った。
「この旅が、悲劇の旅になるということを忘れないように」
「・・・ああ」
燐が最初に訪れた場所は、正十字学園町北低価格住宅区域。
40年前は廃墟が多く、ホームレスや犯罪者が住みついて危険なエリアだったとメフィストが話す。
そこで出会ったのは、後に燐と雪男の母親となるユリ・エギンの子供の姿だ。彼女とも目線があい、
感づかれたと慌てるが、どうやら燐の姿は見えないようで安心した。それを気に、過去の人物と関わるなとメフィストが言う。
心を落ち着かせたところで、再び燐はユリを捜す。彼女はどうやら、三人の大人と一緒に幸せに暮らしていた。
鍵を使い、翌日に進む。まだ友達のいないユリは、ひとりで遊んでいた。
『きゃ』
ガラクタ置き場で、使い捨てられていた缶を並べていると、突然缶が弾ける。ビックリするものの、確か話は聞いていた。
青い火の玉のようなもの、彼女たちはそれを"りんか"と呼び、その炎の正体はサタンのもの。
しかし、この時はまだサタンというものは知られていない。サタンもまだ自我などなく、
脈絡なくアッシャーに現れては消えるだけの存在だった。遊んでいる自覚があるのかも謎。
少なくとも初めての"知的交流"が、サタンがりんかと呼ばれていた頃、ユリとの出会いだった。
だが、ユリのその幸せは続かない。
「熱・・・何だ・・・」
次に燐が見たものは、燃え上がる赤い炎。
『火事だ!!』
それは紛れもない。ユリが家族と住んでいた工場だ。ユリは呆然と立ち尽くす。
『オクちゃん!ニコちゃん!オババ!!』
駆け出すユリだが、消防隊に止められ、ただただ、燃える炎を眺めるしか出来なかった。
『三人、黒コゲの死体が出てきたってよ。どうせホームレスの火の不始末だろ』
『カンベンしろよ』
何もなくなってしまったユリに、手を貸してくれるものは誰もいない。
『なんだあのガキ、気持ち悪ィな』
『ほっとけ』
外はまだ寒くて、冷たい冷たい雪も降っている。
「悲しすぎるだろ・・・!」
彼女の現状にいたたまれなく、燐が歩み寄ろうとするも、メフィストに阻止された。
「コレ、手を貸すんじゃありませんよ」
お腹の空いたユリは、美味しそうな匂いに誘われて屋台が並ぶ街道を歩く。ご飯を分けてくれとお願いするも、
お金がなければダメだと、やはりここでも頼れる人などいなかった。途方に暮れながら、行くあてもなく歩く。
すると、小さな隠れ家を見つけた。ユリがまだ小さいお陰か、隠されているようなその場所はすんなり入れてしまう。
『おうちだ・・・!』
ここには暖かなふとんも、本の山も。
『あっ』
ユリの目の前には、お菓子の袋が沢山あった。お腹を空かせている彼女は我慢出来ず、ひと袋開けた。
『すみません、すみません・・・』
誰がいる訳でもないが、勝手に手をつけてしまった罪悪感とともに、食べる手は止まらない。
けれど少し落ち着くと、うとうとと眠くなり横になってしまった。
ユリが眠りについてどれだけ経っただろう。ふと目を覚ました彼女の目の前に、白銀の男の子がいた。
『てめェ・・・なに人の住み処に潜り込んでんだ、殺すぞ』
ユリの目の前の男の子に、燐は見覚えがある。最初に出会った、メフィストが言っていた。
その子は確か、獅郎だ。
『すみません・・・わたし、ユリです。かぞくがみんなしんじゃったから、いくとこがなくて・・・』
『知らねー。同情ひく気ならムダだ、殺される前に出てけ』
ふと、獅郎の目に、ユリが食べたお菓子の袋が飛び込む。
『あっ、一袋くいやがったな!チッ』
『でも、いまそとでたらさむくてしんじゃうかも・・・』
『じゃあ死ねよ、俺に関係ない』
なんて冷たくて意地悪な男なのだ。
『ゆ・・・ゆゆ、雪男(ゆきおとこ)!!!』
『はぁ!?』
『オババがいってた、雪男はまーっしろでおーっきくてつめたーくて、こわいって!
あんたにそっくり!!ゆきがやむまでおいてくれてもいいのに、いじわる!!』
『俺に何の"得"があるんだよ。ここは俺が一人でつくった隠れ家だ!他人をおいとくヨユーなんてねー!!』
『とく・・・?』
ハッと閃いたユリは、先程本の山で見つけた例の本を拾い上げる。
『じゃあ、このいやらしい』
『うわおーー!!!』
エロい女の人が映っている、エロい本。
『見んじゃねー!!』
獅郎は顔を真っ赤にしながらひったくる。
『すきなんでしょ』
『うるせー!!』
『わたし、いやらしいほんがたくさんすててあるとこしってるよ』
『!?』
『ゆきがやんで、あさになったらつれてってあげるから・・・それまでここにおいて!ねー、とくがあるはなしでしょ、どーお?』
『・・・チッ、判った。朝まで置いてやる。雪も、朝にはやむだろうからつれてけ。ちゃんと巨乳の本はあんだろーな!?』
『きょにゅう?』
そんなやり取りをひっそり見ていた燐。
(親父・・・この頃から巨乳好きか・・・)
何だかんだで、玲薇は聞いていなくてよかった気がする。
ふと、いつの間にか燐のそばに、メフィストがいなくなっていた。
獅郎は適当な場所に腰をおろし、冷たい身体を温めるように手を擦る。その様子を見ていたユリは、獅郎にくっついた。
『なんだ、それ!?』
予想外の行動に、獅郎は目を丸くする。
『くっついたらあったかいんだよ、しらないの?雪男(ゆきおとこ)だからあったかくならないの?』
『誰が雪男だよ、なんだよこいつまじで・・・いや、雪男みてーなもんかもな。人間でもねーし』
『あっ、あったかい・・・!雪男でもあったかいよ』
(母ちゃん、ちょいちょいしえみとカブってくるな。フ・・・フクザツだ)
燐は人知れず、長いため息をつく。そして、空を仰ぎ見た。
「・・・「ゆきおとこでも、あったかいよ」だってさ・・・雪男(ゆきお)」
「・・・さて、と」
すると、ここへアマイモンが飛んできた。
「アマイモン」
「・・・・・・・」
どこか揺らりと揺れるアマイモンの身体。
「今回は忍耐力のないお前にしてはよくやった、ごほうぶ!?」
大胆に胸ぐらを掴まれ、アマイモンに首を激しく揺らされた。
「あの女は何者だ!!」
「あ?ああ・・・杜山しえみくんの事か・・・ハハハ、アマイモン。今さら何を」
今度睨みつけるのはメフィストだ。
「むしろ、今までよく気付かなかったな。世界がこうなった以上、戦いは避けられない。
お前の自由時間も、あと僅かということだ」
「よくも・・・よくも今まで黙ってたな、兄上なんか嫌いだ!!」
再び逃げるように飛んでいったアマイモンに、メフィストは視線を向ける。
「・・・"嫌い"か。まるで人間のような事を」
すると今度は、燐が過去へ行く為に使われた閉ざされていたバルコニーのドアが再び開かれた。
「おやぁ?次から次へと」
姿を現したのは、ネイガウスだ。
「・・・完成したぞ」
「なんと!思ったより早い!流石ですねぇ、ネイガウス博士」
「フン。私は、約束を守った。貴様は悠長に何をやっている。世界は破滅に向かっているが」
「安心しろ。駒は各々の役目を全うすべく動き始めた。仮初の平穏に、別れを告げて」
ーーーーーー
扉を開けて燐が向かった先の過去。外は雪が降りしきり、吐く息は真っ白だ。
「・・・・・・ここが、過去なのか・・・?」
あまりにも到着が呆気なさすぎて変に不安になる。辺りを見回し、後ろを振り返ると子供がいた。
燐が出てきた屋上にある小さな建物の、小さな屋根の上に少年がいる。
彼と目が合った・・・そう思った矢先、少年はギョッと目を見開いた。
「何なんだ・・・?」
驚いた少年は、そのまま姿を消してしまう。
「彼はのちの藤本獅郎神父ですよ」
そう声をかけられ、燐は振り向く。
「メフィスト!?」
突如現れた人物に声をあらげてしまった。
「ついて来たのか!?」
「いいえ。私は貴方のいた時間から遡ること40年前の私です」
「40年前・・・?ウソだろ、40年後とほとんど変わんねーけど?」
「悪魔の憑依体は劣化はすれども、老化はしないんですよ。それに、私は時の王。
肉体はさておき、その"自我"は常に不変です。貴方がいつの時間へ行こうとね。なので、ヒマな時はガイドしますよ」
言いながら、子犬の姿に変身するメフィストに、燐は小さくため息をつく。
そんな燐に、メフィストは釘をさすよう改めて言い切った。
「この旅が、悲劇の旅になるということを忘れないように」
「・・・ああ」
燐が最初に訪れた場所は、正十字学園町北低価格住宅区域。
40年前は廃墟が多く、ホームレスや犯罪者が住みついて危険なエリアだったとメフィストが話す。
そこで出会ったのは、後に燐と雪男の母親となるユリ・エギンの子供の姿だ。彼女とも目線があい、
感づかれたと慌てるが、どうやら燐の姿は見えないようで安心した。それを気に、過去の人物と関わるなとメフィストが言う。
心を落ち着かせたところで、再び燐はユリを捜す。彼女はどうやら、三人の大人と一緒に幸せに暮らしていた。
鍵を使い、翌日に進む。まだ友達のいないユリは、ひとりで遊んでいた。
『きゃ』
ガラクタ置き場で、使い捨てられていた缶を並べていると、突然缶が弾ける。ビックリするものの、確か話は聞いていた。
青い火の玉のようなもの、彼女たちはそれを"りんか"と呼び、その炎の正体はサタンのもの。
しかし、この時はまだサタンというものは知られていない。サタンもまだ自我などなく、
脈絡なくアッシャーに現れては消えるだけの存在だった。遊んでいる自覚があるのかも謎。
少なくとも初めての"知的交流"が、サタンがりんかと呼ばれていた頃、ユリとの出会いだった。
だが、ユリのその幸せは続かない。
「熱・・・何だ・・・」
次に燐が見たものは、燃え上がる赤い炎。
『火事だ!!』
それは紛れもない。ユリが家族と住んでいた工場だ。ユリは呆然と立ち尽くす。
『オクちゃん!ニコちゃん!オババ!!』
駆け出すユリだが、消防隊に止められ、ただただ、燃える炎を眺めるしか出来なかった。
『三人、黒コゲの死体が出てきたってよ。どうせホームレスの火の不始末だろ』
『カンベンしろよ』
何もなくなってしまったユリに、手を貸してくれるものは誰もいない。
『なんだあのガキ、気持ち悪ィな』
『ほっとけ』
外はまだ寒くて、冷たい冷たい雪も降っている。
「悲しすぎるだろ・・・!」
彼女の現状にいたたまれなく、燐が歩み寄ろうとするも、メフィストに阻止された。
「コレ、手を貸すんじゃありませんよ」
お腹の空いたユリは、美味しそうな匂いに誘われて屋台が並ぶ街道を歩く。ご飯を分けてくれとお願いするも、
お金がなければダメだと、やはりここでも頼れる人などいなかった。途方に暮れながら、行くあてもなく歩く。
すると、小さな隠れ家を見つけた。ユリがまだ小さいお陰か、隠されているようなその場所はすんなり入れてしまう。
『おうちだ・・・!』
ここには暖かなふとんも、本の山も。
『あっ』
ユリの目の前には、お菓子の袋が沢山あった。お腹を空かせている彼女は我慢出来ず、ひと袋開けた。
『すみません、すみません・・・』
誰がいる訳でもないが、勝手に手をつけてしまった罪悪感とともに、食べる手は止まらない。
けれど少し落ち着くと、うとうとと眠くなり横になってしまった。
ユリが眠りについてどれだけ経っただろう。ふと目を覚ました彼女の目の前に、白銀の男の子がいた。
『てめェ・・・なに人の住み処に潜り込んでんだ、殺すぞ』
ユリの目の前の男の子に、燐は見覚えがある。最初に出会った、メフィストが言っていた。
その子は確か、獅郎だ。
『すみません・・・わたし、ユリです。かぞくがみんなしんじゃったから、いくとこがなくて・・・』
『知らねー。同情ひく気ならムダだ、殺される前に出てけ』
ふと、獅郎の目に、ユリが食べたお菓子の袋が飛び込む。
『あっ、一袋くいやがったな!チッ』
『でも、いまそとでたらさむくてしんじゃうかも・・・』
『じゃあ死ねよ、俺に関係ない』
なんて冷たくて意地悪な男なのだ。
『ゆ・・・ゆゆ、雪男(ゆきおとこ)!!!』
『はぁ!?』
『オババがいってた、雪男はまーっしろでおーっきくてつめたーくて、こわいって!
あんたにそっくり!!ゆきがやむまでおいてくれてもいいのに、いじわる!!』
『俺に何の"得"があるんだよ。ここは俺が一人でつくった隠れ家だ!他人をおいとくヨユーなんてねー!!』
『とく・・・?』
ハッと閃いたユリは、先程本の山で見つけた例の本を拾い上げる。
『じゃあ、このいやらしい』
『うわおーー!!!』
エロい女の人が映っている、エロい本。
『見んじゃねー!!』
獅郎は顔を真っ赤にしながらひったくる。
『すきなんでしょ』
『うるせー!!』
『わたし、いやらしいほんがたくさんすててあるとこしってるよ』
『!?』
『ゆきがやんで、あさになったらつれてってあげるから・・・それまでここにおいて!ねー、とくがあるはなしでしょ、どーお?』
『・・・チッ、判った。朝まで置いてやる。雪も、朝にはやむだろうからつれてけ。ちゃんと巨乳の本はあんだろーな!?』
『きょにゅう?』
そんなやり取りをひっそり見ていた燐。
(親父・・・この頃から巨乳好きか・・・)
何だかんだで、玲薇は聞いていなくてよかった気がする。
ふと、いつの間にか燐のそばに、メフィストがいなくなっていた。
獅郎は適当な場所に腰をおろし、冷たい身体を温めるように手を擦る。その様子を見ていたユリは、獅郎にくっついた。
『なんだ、それ!?』
予想外の行動に、獅郎は目を丸くする。
『くっついたらあったかいんだよ、しらないの?雪男(ゆきおとこ)だからあったかくならないの?』
『誰が雪男だよ、なんだよこいつまじで・・・いや、雪男みてーなもんかもな。人間でもねーし』
『あっ、あったかい・・・!雪男でもあったかいよ』
(母ちゃん、ちょいちょいしえみとカブってくるな。フ・・・フクザツだ)
燐は人知れず、長いため息をつく。そして、空を仰ぎ見た。
「・・・「ゆきおとこでも、あったかいよ」だってさ・・・雪男(ゆきお)」