「実質、それの争奪戦だ！！」
「ハッハッハッ！！緑谷くん、いっただくよー！！」
Ｂ組の一組と、葉隠のチームが一斉に向かってくる。

「登坂さん！」
「うん！」
緑谷の合図で、脚を幹にする。今まで手しかやってないけど、片手だけじゃ跳躍不足。
「お茶子ちゃん！」
「はい！」
歌恋の勢いつけたジャンプに麗日が体重を軽くする。
「いっけー！」
髪の毛が段々、千切れる部分がなくなってきたけど、桜吹雪の勢いで飛び上がった。

「耳郞ちゃん！！」
葉隠が耳郞に叫ぶが、既に耳郞は攻撃体勢だ。
「わってる」
「ヤバい･･･！」
伸びる耳郞のイヤホンを弾き返したのは、常闇のダークシャドウだった。
「常闇くん！」
「いいぞ、ダークシャドウ。常に俺たちの死角を見張れ」
「アイヨ！！」
常闇の"個性"に、緑谷も声が上がる。
「すごいよ、かっこいい！！」
「着地するよ！」
麗日の合図で、着地が無事成功する。

「歌恋ちゃん、ミディアムからショートヘアになっとる！」
「ご、ごめん！緑谷くん、桜吹雪はあと一回が限界かも！」
「･･･っ、わかった！」
「次、来るぞ！」
常闇の声がけに、体勢を保つ。

「アハハハ！奪い合い･･･？違うぜこれは･･･一方的な略奪よぉ！！」
「障子くん！？アレ！？一人！？騎馬戦だよ！？」
「一旦距離を取れ！とにかく複数相手に立ち止まってはいかん！」
「！？」
だが、急に足が動かなくなる。峰田のあの、頭にあるのが足にくっついている。
「いつの間に！やられたっ」
踏ん張るが、歌恋は動けない。

「ここからだよ、緑谷ぁ･･･」
ぬっと現れた峰田は、障子の閉じた触手のような中から顔を出す。
「なァア！？それアリィ！！？」
驚く緑谷に、次は舌が伸びてきた。
「わっ！！？」
間一髪、緑谷がよける。
「さすがね、緑谷ちゃん･･･！」
「蛙吹さんもか！！すごいな、障子くん！！」
「梅雨ちゃんと呼んで」

「緑谷くん、爆風起こせる！？」
「へ！？う、うん･･･！」
「逃げるよ！」
歌恋は片手で、いつもよりサイズの小さい葉っぱを作り出す。
「そうか･･･！(障害物競走で魅せられたあのやり方･･･！仕方ない･･･！少し、少しの威力があれば･･･！)」
緑谷のスマッシュの威力に、歌恋の葉っぱで上手くあの張り付く玉を回避出来た。

「！！」
だが、敵は次から次へとやってくる。次は、恐れていた爆豪だ。
「調子乗ってんじゃねぇぞ、クソが！なんで登坂と組んだ！？あっ！？」
「！！？」
「(かっちゃん！？)常闇くんっ！！」
常闇が、ダークシャドウで爆豪の爆破を防いでくれる。
騎馬から飛んでやってきた爆豪は、瀬呂のテープで元に戻った。
どうやら、足が地面につかなければセーフのようだ。

「やはり狙われまくる一位と、猛追をしかけるＡ組の面々共に実力者揃い！
現在の保持ポイントは、どうなってるのか･･･７分経過した現在のランクを見てみよう！」
プレゼント･マイクの声に反応するように、掲示板にチームのポイントが表示されるが。
観客の反応が、イマイチ薄い。
「･･･あら！？ちょっと待てよ、コレ･･･！Ａ組、緑谷以外パッとしねぇ･･･ってか、爆豪あれ･･･！？」

「単純なんだよ、Ａ組」
Ｂ組に、爆豪のハチマキが取られていた。
「やられた！」
「んだてめェコラ、返せ殺すぞ！！」

だが爆豪からハチマキを奪ったＢ組の彼は冷静だ。
「ミッドナイトが"第一種目"と言った時点で、予選段階から極端に数を減らすとは考えにくいと思わない？
だからおおよその目安を仮定し、その順位以下にならないよう予選を走ってさ。
後方からライバルになる者たちの"個性"や性格を観察させてもらった。
その場限りの優位に執着したって、仕方ないだろう？」
切島が言う。
「クラスぐるみか･･･！」
「まぁ、全員の総意ってわけじゃないけど。良い案だろ？人参ぶら下げた馬みたいに、
仮初めの頂点を狙うよりさ。あ、あとついでに君、有名人だよね？
「ヘドロ事件」の被害者！今度参考に聞かせてよ。年に一度ヴィランに襲われる気持ちってのをさ」

爆豪の怒りが、完全に頂点に達した。

「切島･･･予定変更だ。デクの前に、こいつら全員殺そう･･･！！」
いや、爆豪から出てるあのオーラ。もうどっちが悪役なんて分からないよ。

麗日に言われた。
「爆豪くん、歌恋ちゃんと組みたかったのかな？」
「え、まさかぁ」
「(いや、多分麗日さんの言う通りだよ)皆、逃げ切りがやりやす･･･」
一難去って、また一難。歌恋は目の前の彼に息を呑む。緑谷も、深呼吸して言った。
「そう上手くは･･･いかないか」

「そろそろ、奪るぞ」
轟チームと、相対だ。

「もう少々終盤で相対するのではと踏んでいたが･･･随分買われたな緑谷」
たぶん、今この緑谷チームで一番冷静でいれてるのは常闇かもしれない。
ふと、轟だけではなく、誰もが歌恋の髪の異変に気付く。
その状況に、環境に少し緑谷に嫉妬する。それだけ、彼女は頑張っていることに。
「飯田、前進」
「ああ」
「時間はもう半分！足止めないでね！仕掛けてくるのは･･･」

「八百万、ガードと伝導を準備」
「ええ！」
「上鳴は･･･」
「いいよ、わかってる！！しっかり防げよ･･･」

「一組だけじゃない！」
四方八方、上鳴の技、無差別放電130万Vが炸裂。

歌恋の葉っぱと、常闇のダークシャドウで上鳴の放電をガード。
他、上鳴の放電をガード出来なかった周りの騎馬は痺れて動けない。
その隙を作り出した轟は、氷でさらに動きを封じる。
「残り６分弱、後は引かねぇ。悪いが我慢しろ」
凍った矢先にハチマキも一応奪う轟。

「ハァハァ」
息が激しい、お腹が鳴る。手が先ほどの上鳴のせいで痺れてる。
「み、緑谷くん･･･もう限界かも･･･」
最初から、彼女を飛ばさせすぎた。
ダークシャドウがポイントを、轟のハチマキに手を伸ばすが八百万の"創造"に邪魔される。

爆豪は爆豪で、Ｂ組の連中とやりあっている。残り時間も少ない。警戒するべきは、もう轟チームだけ。
轟の手によって氷の壁をつくられ、狭い空間をいかし上手く轟との距離を保って逃げている。
轟が動けば、こちらも動く。一瞬の隙でも、相手はクラス最強。油断出来ない。

「皆、残り一分弱･･･この後は、俺は使えなくなる。頼んだぞ」
「飯田？」
「しっかり掴まっていろ。奪れよ、轟くん！」
「！」
ハッと、轟は目の前の緑谷のハチマキに視線を凝らす。
「トルクオーバー！レシプロバースト！」

一瞬だ。本当に、一瞬だ。
「は？」
緑谷のハチマキが、轟の手のなかにある。
「うそ･･･」
呟く歌恋。あんなに頑張ったのに、どう足掻いてもどうにもならないこともある。

「飯田！何だ、今の･･･」
轟が問いかける。誰もこんな、飯田の必殺技を知らない。
「トルクと回転数を無理矢理上げ、爆発力を生んだのだ。反動でしばらくするとエンストするがな。
クラスメートにはまだ教えてない裏技さ。言ったろ、緑谷くん。君に挑戦すると！！」