ボーッと、目を開く燐。その隣で、傷の手当てをしてあるクロを見て安心した。
「クロ･･･」
クロは今もぐっすり、眠っている。
(ここ･･･勝呂ん家の旅館かな･･･あっち～)
ふと、顔を横に向けるとぐっすり眠っているしえみがいた。
むにゃむにゃと口を動かすしえみに、目を離すことなく見ている。

「ん･･･あ、りん･･･。目が覚めたんだね･･･よかったぁ」
「お前、何で、こっ、こんなとこで寝てんだよ！どっかケガしてんのか？」
「してないよ。ちょっとここで点滴打ってもらうつもりだったのに･･･燐の顔見てたらいつの間にか寝ちゃった。
昨日は徹夜だったから･･･燐、お疲れさま･･･大活躍だったって、勝呂くんたちが」
いつの間にか、二人の世界に入り込んでる。

「ああ･･･いや、実はちょっとヤバかったんだけどな。みんなのお陰で何とかなったんだ。
･･･おっ、お前のことも思い出した。それがすげー励みになったんだ」
「えっ？」
「あ･･･ありがとな･･･！」
もちろん、最後は玲薇だけど･･･あれ、ちょっと待て。なんで俺、目の前のしえみにドギマギしてるんだ？
でも、お礼は言えた。

「ほんと？」
お礼を言っただけのつもりだったのに、しえみは起き上がる。
「はっ？」
「私･･･燐の役に立ったの？」
「え？うん･･･たったよ、助かった」
「･･･ああ･･･！わ、わ私･･･！」
しえみはゴンとおもいっきり畳みにオデコを叩く。
「？どーした」

「嬉しい･･･！燐！」
迷うことなく握られる手に、ビクッと体が揺れた。玲薇とはこんなことないのに、玲薇とは･･･。
「お、おい･･･」
「あのね、聞いて･･･！私、これから何があってもずっと･･･私は燐の友達だよ！」
「？」
思わず目を点にする燐。これは･･･胸を張って言うことだろうか。てっきり･･･。

「ずっと、ずーっと友達だからね･･･！」

ず、ずっと、友達宣言かよ！！

内心モテてると思っていた。が、いや、これはこれで好都合？
「･･･ブファッ」
と、どこからか不潔な笑い声。
「プックックククク･･･！！す、すまん、我慢できへんかった･･･！」
「志摩！？げえっ、ななな何でお前ここに！！」
「いや、実家戻りたなくって、塾生寝る場所ないゆーて虎屋の番頭部屋に押し込まれてんや」
「･･･ちなみに、私もいるわよ！！」
「出雲！？と、腹話術！！いたの？」
「坊と子猫さんは自室持ったはるさかい、そっちで休んではるけど」

「てかあんた、杜山しえみに対してそんな態度とって玲薇のことどうするのよ！？」
出雲にビシッと言われ、どうもこうもない。
「男としてはときたま、一人の女の子独占だけじゃ欲求不満やろな」
にやにやの志摩は変わらず。
「ち、ちげーよ！！俺はただ･･･て、玲薇はどこだ？？」
「今更気づくなんて、ホント玲薇可哀想」

「くそー･･･志摩、玲薇は！？玲薇どこだよ！？」
「えー･･･そない必死になる理由、おるん？」
「ある！！」

「仕方ないのー。玲薇ちゃんなら･･･」

－－－－－

「はぁはぁ･･･たく、この旅館広すぎだろ･･･！」
焦っていた。玲薇だけ、なんで雪男の部屋と一緒なんだよ･･･！
話を聞くと、自分が倒れてから玲薇もいてくれたみたいだが、番頭部屋にも人数に限りがあった。
その為、雪男と話したいことがあるからと玲薇は名乗り出たらしい。
まぁ、正直しえみとの会話を聞かれてなくて安心してるし･･･いや、それはそれで拗ねたところを見たかったけど。
雪男とどんな話をしているのか、それが気がきでなかった。