第十九話 酔いどれ息子
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あの頃は、何もかんも楽しかった。
まだ、自分たちは幼く、夏の暑い日。
自分家の畑に実っているきゅうりに、そろーっと手が伸びる。
せっかくばれないで採れたんだ、わざわざ大声で叫ばなくてよいものを。
子供の遊びの一貫か、言ってることと行動が正反対だ。
『八百造!きゅうりもろてくわ~』
ダッと、連れの二人と一緒に逃げ出す。
『あっ、コラ坊!!八百造はそないなコソ泥に育てた覚えはありません!!』
しかし、みるみる内に子供たちの背中は遠くなる。
『ええやんか。ウチの寺、貧乏なんやさかい。おやつ代わりにあげとき』
まんまと採れた野菜を、大きな岩の上に三人で座り、
採れたての野菜をしゃくしゃく口に頬張る。
けれど、勝呂だけは一口もかじることなく、岩から下りたのだ。
『よっと』
それを不思議に思った子猫丸が聞いてきた。
『坊、どこいかはるん?』
『ないしょや』
そう二人に言い残し、一人で向かったのは寺だった。
足音を立てないように忍び足で目的の部屋に向かう。
扉越しからでも聞こえてきた、坊さんの長い長いお経を詠む声。
そーっと扉を開け、その大きな背中を目に焼き付ける。
『竜士』
『!!』
お経が詠み終わったのかと思いきや、案の定名前を呼ばれドキッとした。
『・・・ここに来たらアカンて、言うてるやろ』
『ほっ、仏さんにおそなえもんもってきたんや。
・・・せやから、またおとんの経きいててもええ?』
小さなため息が聞こえる。今回ばかりは、本当にダメなのだろうか。
そわそわしながら待っていれば、父親は優しい笑顔で振り向き言ってくれた。
『・・・しょうのない子やなぁ。こっちおいで』
パァーと、勝呂の顔に笑みが浮かぶ。
扉を閉め、父親の背中を見るようにきゅうりを目の前において、
正座をし、再び耳に入ってくるお経に目を閉じてそっとそばたてる。
(素直に、おとんの詠む経が好きやった)
ーーーーー
京都について、仕事にこき使われてからどれぐらい時間が経ったのだろうか。
明るかった空の色が、いつの間にか夕暮れの色に染まっている。
昔からの親友の二人と一緒に束ねた段ボールを紐できつく縛りながら、
その空の色を見て、ため息を吐いた。
「はぁ・・・暗なってきたし~、一日中力仕事でもうしんどいわ~」
嘆く志摩に、子猫丸が励ます。
「もう少しふんばりや、志摩さん」
「竜士!」
すると、のれんをくぐって女将さんが声をかけてきた。
勝呂を見つけると同時に、男子が揃っているのを見て、
疲れていた表情から一変、柔らかい表現へと変わる。
「あら、男の子達も・・・丁度よかったわ。こっち、手伝ってくれる?」
「ああ~ん、まだ終わらへんのか~」
目にうっすらと涙を浮かべる志摩を、みんなは知ってか知らずか、
素直に女将さんの後へとついていくのだった。
「うおお、うっまそおお~!!」
女将さんの後について連れられた場所は、厨房。
そこの机に並べられた弁当の中身を見るなり、
半ば放心状態だった燐はパッと覚醒した雰囲気だ。
女将さんは、風呂敷に包まれている大量の弁当に手を添えながら、申しわけなさそうに言った。
「ここにある仕出し・・・みんなで出張所の詰め所まで運んでくれへん?
ぎょうさんあって、てんてこまいなんや」
その話にさっそくのったのは、燐だった。
「力仕事はまかせてください!!」
きゅるる~と、小さな腹の音を鳴らして。
「ほんま・・・みんなよう働いてくれて大助かりやわ!ありがとう」
二つ、風呂敷で幾つも重ねられている弁当を、燐は軽々と持ち上げる。
その力の有り様を見て、女将の声も明るくなった。
「あらっ、えらい力持ちやなぁ!」
「・・・・・・」
そして、呆然と立ちすくむ実の息子に、カッと女将さんは怒鳴る。
「ホレ、竜士!アンタも働かんかい!!」
「意外に重い・・・」
バカ力を持ち合わせている燐とは違い、常人の力しか持ち合わせていない志摩たちは、
この大量の弁当を運ぶには、一つが限界だ。
前を悠々と歩く燐を見て、ゴクリと恐れるように志摩は唾を呑む。
「なんや、アレ。ようあんな持てるな・・・!!」
「お願いなぁ」
と、女将さんの声を聞きながら、部屋を出る為にドアに向かう。
途中でふと、燐はしえみの姿に気づき足を止める。随分と、彼女と喋っていない・・・。
「重い!早く進んで!!」
「おっ、スマン」
しえみが、燐の後ろ姿を見た時のことは、彼は知らない。
まだ、自分たちは幼く、夏の暑い日。
自分家の畑に実っているきゅうりに、そろーっと手が伸びる。
せっかくばれないで採れたんだ、わざわざ大声で叫ばなくてよいものを。
子供の遊びの一貫か、言ってることと行動が正反対だ。
『八百造!きゅうりもろてくわ~』
ダッと、連れの二人と一緒に逃げ出す。
『あっ、コラ坊!!八百造はそないなコソ泥に育てた覚えはありません!!』
しかし、みるみる内に子供たちの背中は遠くなる。
『ええやんか。ウチの寺、貧乏なんやさかい。おやつ代わりにあげとき』
まんまと採れた野菜を、大きな岩の上に三人で座り、
採れたての野菜をしゃくしゃく口に頬張る。
けれど、勝呂だけは一口もかじることなく、岩から下りたのだ。
『よっと』
それを不思議に思った子猫丸が聞いてきた。
『坊、どこいかはるん?』
『ないしょや』
そう二人に言い残し、一人で向かったのは寺だった。
足音を立てないように忍び足で目的の部屋に向かう。
扉越しからでも聞こえてきた、坊さんの長い長いお経を詠む声。
そーっと扉を開け、その大きな背中を目に焼き付ける。
『竜士』
『!!』
お経が詠み終わったのかと思いきや、案の定名前を呼ばれドキッとした。
『・・・ここに来たらアカンて、言うてるやろ』
『ほっ、仏さんにおそなえもんもってきたんや。
・・・せやから、またおとんの経きいててもええ?』
小さなため息が聞こえる。今回ばかりは、本当にダメなのだろうか。
そわそわしながら待っていれば、父親は優しい笑顔で振り向き言ってくれた。
『・・・しょうのない子やなぁ。こっちおいで』
パァーと、勝呂の顔に笑みが浮かぶ。
扉を閉め、父親の背中を見るようにきゅうりを目の前において、
正座をし、再び耳に入ってくるお経に目を閉じてそっとそばたてる。
(素直に、おとんの詠む経が好きやった)
ーーーーー
京都について、仕事にこき使われてからどれぐらい時間が経ったのだろうか。
明るかった空の色が、いつの間にか夕暮れの色に染まっている。
昔からの親友の二人と一緒に束ねた段ボールを紐できつく縛りながら、
その空の色を見て、ため息を吐いた。
「はぁ・・・暗なってきたし~、一日中力仕事でもうしんどいわ~」
嘆く志摩に、子猫丸が励ます。
「もう少しふんばりや、志摩さん」
「竜士!」
すると、のれんをくぐって女将さんが声をかけてきた。
勝呂を見つけると同時に、男子が揃っているのを見て、
疲れていた表情から一変、柔らかい表現へと変わる。
「あら、男の子達も・・・丁度よかったわ。こっち、手伝ってくれる?」
「ああ~ん、まだ終わらへんのか~」
目にうっすらと涙を浮かべる志摩を、みんなは知ってか知らずか、
素直に女将さんの後へとついていくのだった。
「うおお、うっまそおお~!!」
女将さんの後について連れられた場所は、厨房。
そこの机に並べられた弁当の中身を見るなり、
半ば放心状態だった燐はパッと覚醒した雰囲気だ。
女将さんは、風呂敷に包まれている大量の弁当に手を添えながら、申しわけなさそうに言った。
「ここにある仕出し・・・みんなで出張所の詰め所まで運んでくれへん?
ぎょうさんあって、てんてこまいなんや」
その話にさっそくのったのは、燐だった。
「力仕事はまかせてください!!」
きゅるる~と、小さな腹の音を鳴らして。
「ほんま・・・みんなよう働いてくれて大助かりやわ!ありがとう」
二つ、風呂敷で幾つも重ねられている弁当を、燐は軽々と持ち上げる。
その力の有り様を見て、女将の声も明るくなった。
「あらっ、えらい力持ちやなぁ!」
「・・・・・・」
そして、呆然と立ちすくむ実の息子に、カッと女将さんは怒鳴る。
「ホレ、竜士!アンタも働かんかい!!」
「意外に重い・・・」
バカ力を持ち合わせている燐とは違い、常人の力しか持ち合わせていない志摩たちは、
この大量の弁当を運ぶには、一つが限界だ。
前を悠々と歩く燐を見て、ゴクリと恐れるように志摩は唾を呑む。
「なんや、アレ。ようあんな持てるな・・・!!」
「お願いなぁ」
と、女将さんの声を聞きながら、部屋を出る為にドアに向かう。
途中でふと、燐はしえみの姿に気づき足を止める。随分と、彼女と喋っていない・・・。
「重い!早く進んで!!」
「おっ、スマン」
しえみが、燐の後ろ姿を見た時のことは、彼は知らない。