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補足*喪失の小神殿

2020/01/11 02:56
補足
 ベスの部屋が無説明でした。

 今回は生殖や性行、妊娠出産を扱うのでグロい内容がポンポン置いてあります。苦手な人は読まなくて大丈夫な程度の補足です。



 ◆喪失の小神殿 にて、セトと前世ヒロインが宰相達にブチ込まれてる「ベスの寝室」(ベス神の小神殿)は、古代エジプトにおいて不妊の夫婦がセックスをするための部屋(しかも扱いとしては神殿)でした。

 《ベス》は多神教である古代エジプトにおいて、言わば在来種ではなく“外来種の神様”です。その起源はヌビア民に帰属しており、古王国時代にエジプトへ伝わりました。

 (アテム、セトが統治したのは第18王朝という新王朝時代なので、この頃にはベス神の信仰は定着していたと想定されます。
  セトのモデルにしているトトメス1世の娘・ハトシェプスト女王の時代には、既に《ベス神の小神殿》が存在していました。ハトシェプスト女王自身が産まれたのもこの《ベス神の小神殿》だと墓に書かせています。
  セトと前世ヒロインが結ばれて、王女を出産したのもこの《ベス神の小神殿》だったかもしれないですね。)

 (ここでもヌビア人の影響がチラ見えします。アテムのモデルであるアメンホテプ1世の母親、ネフェリタリはヌビア人でした。
  セトと前世ヒロインが、アテムの血のアイデンティティに関係している民族の神に頼る……エッッッッッッ)(嗚咽)


 当時のエジプト人の平均寿命は25〜30歳くらいでした。王家や貴族階級の、比較的恵まれた環境に暮らしていても、その生涯は現代人からしたら大変短いものだったわけです。

 女性の死因の多くは、《出産》でした。

 ベス神は本来羊飼いの守護神でしたが、古代エジプトでのベス神は手に楽器や子供をあやすおもちゃを握った姿でしばしば描かれます。
 当時古代エジプトにおいて、王家や身分の高い女性が出産する場では、巫女や女性神官、踊り子などが産褥中の女性を囲み、鈴やコイン型の金属をたくさん付けて踊り、その音によって《死の陰》や《悪霊》を打ち払い、お産をしている女性の周りを聖域とする事で命を守ることができると信じられていました。
 (このコイン型の金属をたくさん付けて踊る、という形式は“ベリーダンス”の源流に近いものがあったとされています)
 (当時は出産後も苦難は続き、乳幼児の死亡率も非常に高いものでした。ベス神が持つ《楽器》は母体を、《おもちゃ》は乳幼児を守護する意味合いだったのです。)

 (『セトナとミイラのロマンス』という話しにも、ベスの部屋は登場します。王が妻(娘)の妊娠を知って喜びながらも不安に思い、母体と産まれてくる赤ん坊のために《ベス神の小神殿(出産のための小部屋)》を用意させる、というシーンがあります。※まあこの話はアテムとセト達第18王朝より後の、ギリシャ・ローマ時代のものですが。)

 (じゃあ古いものはどうかと言うと、古王朝時代に編纂された《ウエストカー・パピルス》の空想上の王子の誕生の話しがあります。空想上でありかなり神話的デフォルメがされているとはいえ、当時の実際の出産を示した資料としてはかなり読む価値があります。
  掻い摘んでご紹介すると
  イシス、ネフティス、メスケネト、ヘカトの女神達が、クヌム神と共に産室へ入って踊り子の姿になって母親を囲んで踊ります。
  イシスが母胎から子供を取り上げ、その子供の名前を呼ぶ。胎盤が出て、子供が綺麗に洗われるまで臍の緒は切りません。
  メスケネトによって、その子供がエジプトの王となる事が宣言されます。
  その後母親は14日間、子供と隔離されて体を休めて清めます。このとき母親である女性は、胸飾りと腰帯以外のものを身に付ける事が許されません。

  ちなみにアテム、セトの時代である新王朝時代に書かれた物語『2人の兄弟の物語り』によれば
  「王妃が出産すると、子供には乳母と子守がつき、王妃には隔離期間が与えられた。これは、身分の高い女性全てに共通する習慣であった(※超ざっくり要約)」
  とされています。)

 ベス神はまさしく妊娠中の女性や出産を守護している事を表しており、ひいては出産に至るまでの《生殖》も守護するようになりました。

 ベス神の小神殿は、王族や貴族階級だけでなく、一般の民にも一晩貸し出された、という説もあるそうです。それだけ、生殖は神聖で重要なものだったんですね。

 ところで《生殖》の神は、古代エジプト神話の“在来種”が存在します。
 生殖の神、《ミン》です。

 ミンはファルス的シンボルを全面に押し出した姿をしており、雄々しく勃起したペニスを持ったミイラの姿で描かれます。
 (その露骨な姿から、古代エジプト遺構の発掘をしていた英国人などに、しばしばペニスの先を削りとられるなどの“修正”被害を受けました。絶許案件。)
 しかしミンはあくまで“男の生殖”らしさを前面に出した神であり、ベスのような“死が直結する女の生殖”を守護するものには向いていなかったのかもしれません。


 ……まあ、どちらにせよファラオの妻、つまり《神の妻》である王妃の妊娠は、中世ヨーロッパのお伽話のように両手を上げて喜べるものではなかったのです。

 王妃の妊娠は、現代人である我々が思うよりもずっと重要で、常に王家の血の喪失と隣り合わせだった事を、是非とも覚えていて下さい。
 (それでいて尚も後継者を何人も産まなくてはいけない王家の人間…… まさしく《生け贄》ですね。生きながらにして常に死と隣り合わせで、その地位を与えられているんですから。)





 追伸
 ◆青い時間 において、セトは第2王妃を迎えている設定を加えています。

 これはあくまで創作上の都合で第2王妃程度に留めて済ませただけであり、ファラオには実際もっと多くの妻がいました。
 それを現代の価値観に染まった我々が夢小説として読むために純愛仕立てにしているだけで、本当は10人くらい女が居てもおかしくはなかったところを2人の妻で済ませる私の忖度があったのを、頭のどっかに置いておいてくれると嬉しいです。

 (たぶんガチの古代エジプトの価値観でやってたら、アテムは10歳くらいで割礼を受けて下手すれば人格歪んでたし腹違い妹程度ならバンバン近親相姦子作り+ハーレム後宮の存在も可能だし、セトはセトでナイル川とセックスをさせられるという謎儀式が待ってるしヒロインと子供作れないと結構立場危ういし、ヒロインはヒロインでマハードと結ばれてる場合じゃないしマハード誅殺必至だしで、本当とんでもねぇ事になってるからね。古代エジプトはすごいよ!)

 (ちなみに女子割礼もあったそうです。尿道を確保してあとは縫い閉じられ、結婚初夜に相手が切り開いたらしいです。マハード……痛がる王女にマハードの方が泣きながら鋏握るんだろうね……流石にボツ……個人で想像してお楽しみ下さい……ていうかセトのためにまた縫い閉じられる可能性大……ヒロインがボロボロになる……)

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