恋の助けも主命とあらば
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/歌仙に夢中な主の場合
「歌仙の脱いだ着物をどうでも手に入れたい。」
「…」
「…」
「…は?」
素っ頓狂な内容が聞こえたんだが気の所為だったろうか。まさか主に限ってそんな…
「…やっぱだめだよね…」
マジだった。
酷く落ち込んだような顔をする主に長谷部は大慌てする。
「いえ、決して断るわけでは!…ただ、あの…せめてその…なにゆえ…」
主は抱きしめていた枕に顔を押し付けながら、バタリと横に倒れた。
「ン歌仙が…ッ 好きすぎて…ッ もうヤバいんです…!!!!」
枕を抱きしめて顔を埋めたまま布団の上をゴロゴロする主を、もはや無の境地に至った長谷部が見ている。
「かしぇんが!!!好きすぎて!!!ヤバいんだよォォォオ長谷部!!!」
普段の凜とした姿からは予想出来ない醜態を、主はまさしく “最も信頼している” 長谷部にだけ見せていた。
「歌仙がいい匂いするのつらい。せめて歌仙が一日中着たものに包まれて眠りたい。お香の匂いだけじゃなくてちゃんと歌仙の汗が染みたやつ。ねえ長谷部お願い私のわがままと思ってお願い長谷部!私もうずっとムラムラして眠れないの!!!」
枕から顔を上げ血走った涙目を長谷部に向けると、主は貞子よろしくズルズルと這い寄って、「はせべぇ、はせべぇえ…」と長谷部に縋り付く。
長谷部は心底主と自分を哀れんでいた。
そして、自分の犠牲で主が幸せにご就寝あそばすならばと、その大役を引き受けたのだった。
***
「(主の安眠が、俺の働きぶり次第に掛かっている…!なんとしても歌仙の服を手に入れなければ!!!)」
長谷部は一計を案じ、主には 主にしか出来ない役割を頼み込んだ。
***
その日、政府からの事案対処命令、という事にして…主は心を鬼にして歌仙率いる部隊を周回させた。
その第1部隊は、問題の歌仙を隊長として
へし切長谷部
蛍丸
江雪左文字
薬研藤四郎 極
五虎退 極
という編成。
名付けて『誰にも絶対怪我させないぞ隊』。
そして阿津賀志山あたりを周回させた。
夕方、第1部隊は疲れもほどほどに汗だくで帰ってきた。
よほど心が痛んでいたのか、目に涙をいっぱい溜め込んだ主が裸足で飛び出して来て出迎えた。
「みんなごめんねぇええ疲れたよね本当頑張ってくれてありがとうみんな愛してるありがとう本当ごめん」
そして蛍丸、薬研、五虎退をまとめて抱きしめグリグリと頬擦りをする。なんやかんや全員を愛してやまないのだと、長谷部は微笑ましく見ていた。
ちびっこ達の抱擁が一通り終わる頃、江雪は黙って腕を広げて待っていた。
主がギュッと抱きしめると、江雪に桜が舞う。
そして主は、意を決して歌仙に振り向く。
「歌仙…♡」
しかし主の腕は、サッと避ける歌仙を捕まえる事は出来なかった。
「すまない主、僕は今 汗の匂いが…。これではあまり雅ではない。」
主が変な事を言いだす前に、長谷部がバッと歌仙の肩を掴んだ。
「歌仙!風呂へ行こう!着物も変えた方がいいだろう!な!その後主から抱擁してもらえ!な!」
長谷部は殺気と嫉妬と主命遂行への責務が入り混じる ギラギラした目で詰め寄る。…歌仙はなぜか身の危険すら感じた。
「は?…え、あぁ…。風呂には賛成するが、わざわざそのあと主に抱擁されるのは流石に…
「主!報告は後ほどお持ちします!お部屋でお待ち下さい!行くぞ歌仙!!!」
…お、おい!あまり引っ張らないでくれ!」
長谷部は風呂場に、自分と歌仙の内服を用意してから出陣していた。
そして脱衣場に歌仙を放り込む。
「用意がいいのは有難いが…長谷部君、どうしたと言うんだい。少し乱暴ではないか?あまり感心しないなぁ。」
ぶつぶつと文句を言う歌仙に対して、もう長谷部は「はやく脱げ」としか思わない。歌仙はそんな大それた事を企まれているとはつゆ知らず。真剣な長谷部の目に別のなにかを察したのか、フッと笑って帯を解き始めた。
「まぁ、たまには裸の付き合いというのも悪くはない。何か悩みでもあるのかい? 僕でよければ、話しを聞くくらいはしよう。」
「(すまない歌仙。俺の悩みの元凶はお前だ。)」
マントを軽く畳んだ歌仙に、長谷部はすかさず空の洗濯籠を差し出した。
「歌仙、服が汚れているだろう。これにまとめた方がいい。」
気の利く長谷部に、歌仙は何の疑いもなくその籠を受け取る。
「おや、すまない。助かるよ。」
***
そして歌仙と長谷部は、それぞれ(見事な)裸体に手拭い一枚を巻いて風呂場に入っていった。
そして洗い場の椅子に座って歌仙が髪に湯を被ったところで、長谷部は立ち上がる。
「すまないが忘れ物をした。先に洗いを済ませていてくれ。」
「?、あぁ。」
歌仙は頭を膝の方へ下げたままこちらを見ることは出来ない。…長谷部はあらかじめ、歌仙が洗髪にどれくらいの時間を掛けているか平均値を出していた。
「(すまない歌仙、これも主命だ。)」
長谷部は脱衣場に出ると濡れた身体もそのままに、歌仙の洗濯籠を、着替えの入った籠共々床下へ隠した。
そして怪しまれぬよう自分の洗濯籠の中身を洗濯機へ放り込むと、服が傷むのも厭わず適当にスイッチを入れる。
そしてそのへんにある適当な洗顔ソープを持って、涼しい顔で風呂場へ戻っていった。
洗い場の歌仙は、ちょうどトリートメントを流しており、恐らく一度も顔を上げられていない。
「(うむ、時間通り。…気付かれてはないな。)」
主命とあらばこうまで冷徹になれるのかと、長谷部自身恐ろしく思っていた。
本当の気持ちを言うならば、歌仙を含め どの刀剣にも人間の男にも、最愛の主を渡したくはなかった。
だが主が 心底恋に傷ついた悲しい目で自分にすがって来た時、忠臣長谷部として主命を果たす役割のため自分をも押し切って捨てさせたのだ。
後は静かに事が運ぶ事を、長谷部は目を閉じて待つだけである。
***
「…あれ、着替えが…」
湯上りに 身体を拭いながら脱衣場へ戻った歌仙は、自分の着るものがなくなっている事にすぐ気がついた。
「俺も、着替えはあるが…洗濯籠が無い。」
歌仙はすぐに、回っている洗濯機を覗き込む。
「あぁ、きっと誰かが洗濯に出してくれたんだね。これ、長谷部君の服だろう。」
余計な演技をせずとも、自分から動いてくれる歌仙に長谷部は内心笑いが隠せない。
「…しかし参ったなぁ。きっと僕の着替えもこの中のようだし」
「俺の着替えは無事だった事だ。俺が着替えを持って来てやろう。」
長谷部はいつものジャージに袖を通し、身を整える。
「今日はだいぶ動いたんだ。まぁ少しの湯冷ましと思って待っていてくれ。湯当たりしてはいけないからな。」
「すまないね。」
長谷部は風呂場から出るなり『掃除中』の立て札を掛けてその場を後にした。そして少し行った所で廊下を走り抜け、主の部屋へ押し入った。
「主!歌仙の着物を手に入れました!」
障子の乾木がスターーンと気持ちのいい音を立てて開け放たれると、そこには水を得た魚のような顔をした主が待っていて下さった。
「ありがとう長谷部!!!嬉しい…ほんとありがとう…!!!」
この顔を見ただけで、長谷部は感極まりそうになってしまう。
だが、長谷部の計略はこれで終わりではなかった。
「しかし主、俺は歌仙の目があったゆえ歌仙の着物は脱衣場に隠した状態にあります。念のため『掃除中』の札を掛けましたので、人払いは済んでおります。」
「わかった今行く。」
皆まで言わずとも主は立ち上がって足早に風呂場へ駆けて行く。
長谷部も着いて行きはしたが、隙を見て静かに離れると隠れて風呂場へ入っていく主の姿を覗き見た。
主は立て札を避けて風呂場の襖を開けて入っていくと、何の躊躇もなく脱衣場への中扉を開け放った。
***
長谷部は主の部屋の前で、かれこれ3時間は正座をさせられていた。
いや、一応はお褒め頂いた。
だが主は部屋に籠られ、追い掛けて襖を開ければ歌仙の洗濯籠の中に頭を突っ込んでおられた。
そして主は頭を突っ込んだまま、
「でもちょっと反省しよう。私も反省してる。」
と仰るので、主が自分から部屋をお出になるまで正座に耐えて待っていた。
歌仙はしばらく、顔を紅くしたり青くしたりと忙しかった。
厨の端で膝を抱えて動かない歌仙を見て、小夜はその横へ座り静かに歌仙から口を開くのを待った。
次の日にはもう変わりない本丸へ戻っていた。
…だが、歌仙と主の関係は明らかに変化を見せている。
長谷部はちょっと悲しい気持ちを押し殺しながら、今日も主のわがままを聞いていた。
「歌仙の脱いだ着物をどうでも手に入れたい。」
「…」
「…」
「…は?」
素っ頓狂な内容が聞こえたんだが気の所為だったろうか。まさか主に限ってそんな…
「…やっぱだめだよね…」
マジだった。
酷く落ち込んだような顔をする主に長谷部は大慌てする。
「いえ、決して断るわけでは!…ただ、あの…せめてその…なにゆえ…」
主は抱きしめていた枕に顔を押し付けながら、バタリと横に倒れた。
「ン歌仙が…ッ 好きすぎて…ッ もうヤバいんです…!!!!」
枕を抱きしめて顔を埋めたまま布団の上をゴロゴロする主を、もはや無の境地に至った長谷部が見ている。
「かしぇんが!!!好きすぎて!!!ヤバいんだよォォォオ長谷部!!!」
普段の凜とした姿からは予想出来ない醜態を、主はまさしく “最も信頼している” 長谷部にだけ見せていた。
「歌仙がいい匂いするのつらい。せめて歌仙が一日中着たものに包まれて眠りたい。お香の匂いだけじゃなくてちゃんと歌仙の汗が染みたやつ。ねえ長谷部お願い私のわがままと思ってお願い長谷部!私もうずっとムラムラして眠れないの!!!」
枕から顔を上げ血走った涙目を長谷部に向けると、主は貞子よろしくズルズルと這い寄って、「はせべぇ、はせべぇえ…」と長谷部に縋り付く。
長谷部は心底主と自分を哀れんでいた。
そして、自分の犠牲で主が幸せにご就寝あそばすならばと、その大役を引き受けたのだった。
***
「(主の安眠が、俺の働きぶり次第に掛かっている…!なんとしても歌仙の服を手に入れなければ!!!)」
長谷部は一計を案じ、主には 主にしか出来ない役割を頼み込んだ。
***
その日、政府からの事案対処命令、という事にして…主は心を鬼にして歌仙率いる部隊を周回させた。
その第1部隊は、問題の歌仙を隊長として
へし切長谷部
蛍丸
江雪左文字
薬研藤四郎 極
五虎退 極
という編成。
名付けて『誰にも絶対怪我させないぞ隊』。
そして阿津賀志山あたりを周回させた。
夕方、第1部隊は疲れもほどほどに汗だくで帰ってきた。
よほど心が痛んでいたのか、目に涙をいっぱい溜め込んだ主が裸足で飛び出して来て出迎えた。
「みんなごめんねぇええ疲れたよね本当頑張ってくれてありがとうみんな愛してるありがとう本当ごめん」
そして蛍丸、薬研、五虎退をまとめて抱きしめグリグリと頬擦りをする。なんやかんや全員を愛してやまないのだと、長谷部は微笑ましく見ていた。
ちびっこ達の抱擁が一通り終わる頃、江雪は黙って腕を広げて待っていた。
主がギュッと抱きしめると、江雪に桜が舞う。
そして主は、意を決して歌仙に振り向く。
「歌仙…♡」
しかし主の腕は、サッと避ける歌仙を捕まえる事は出来なかった。
「すまない主、僕は今 汗の匂いが…。これではあまり雅ではない。」
主が変な事を言いだす前に、長谷部がバッと歌仙の肩を掴んだ。
「歌仙!風呂へ行こう!着物も変えた方がいいだろう!な!その後主から抱擁してもらえ!な!」
長谷部は殺気と嫉妬と主命遂行への責務が入り混じる ギラギラした目で詰め寄る。…歌仙はなぜか身の危険すら感じた。
「は?…え、あぁ…。風呂には賛成するが、わざわざそのあと主に抱擁されるのは流石に…
「主!報告は後ほどお持ちします!お部屋でお待ち下さい!行くぞ歌仙!!!」
…お、おい!あまり引っ張らないでくれ!」
長谷部は風呂場に、自分と歌仙の内服を用意してから出陣していた。
そして脱衣場に歌仙を放り込む。
「用意がいいのは有難いが…長谷部君、どうしたと言うんだい。少し乱暴ではないか?あまり感心しないなぁ。」
ぶつぶつと文句を言う歌仙に対して、もう長谷部は「はやく脱げ」としか思わない。歌仙はそんな大それた事を企まれているとはつゆ知らず。真剣な長谷部の目に別のなにかを察したのか、フッと笑って帯を解き始めた。
「まぁ、たまには裸の付き合いというのも悪くはない。何か悩みでもあるのかい? 僕でよければ、話しを聞くくらいはしよう。」
「(すまない歌仙。俺の悩みの元凶はお前だ。)」
マントを軽く畳んだ歌仙に、長谷部はすかさず空の洗濯籠を差し出した。
「歌仙、服が汚れているだろう。これにまとめた方がいい。」
気の利く長谷部に、歌仙は何の疑いもなくその籠を受け取る。
「おや、すまない。助かるよ。」
***
そして歌仙と長谷部は、それぞれ(見事な)裸体に手拭い一枚を巻いて風呂場に入っていった。
そして洗い場の椅子に座って歌仙が髪に湯を被ったところで、長谷部は立ち上がる。
「すまないが忘れ物をした。先に洗いを済ませていてくれ。」
「?、あぁ。」
歌仙は頭を膝の方へ下げたままこちらを見ることは出来ない。…長谷部はあらかじめ、歌仙が洗髪にどれくらいの時間を掛けているか平均値を出していた。
「(すまない歌仙、これも主命だ。)」
長谷部は脱衣場に出ると濡れた身体もそのままに、歌仙の洗濯籠を、着替えの入った籠共々床下へ隠した。
そして怪しまれぬよう自分の洗濯籠の中身を洗濯機へ放り込むと、服が傷むのも厭わず適当にスイッチを入れる。
そしてそのへんにある適当な洗顔ソープを持って、涼しい顔で風呂場へ戻っていった。
洗い場の歌仙は、ちょうどトリートメントを流しており、恐らく一度も顔を上げられていない。
「(うむ、時間通り。…気付かれてはないな。)」
主命とあらばこうまで冷徹になれるのかと、長谷部自身恐ろしく思っていた。
本当の気持ちを言うならば、歌仙を含め どの刀剣にも人間の男にも、最愛の主を渡したくはなかった。
だが主が 心底恋に傷ついた悲しい目で自分にすがって来た時、忠臣長谷部として主命を果たす役割のため自分をも押し切って捨てさせたのだ。
後は静かに事が運ぶ事を、長谷部は目を閉じて待つだけである。
***
「…あれ、着替えが…」
湯上りに 身体を拭いながら脱衣場へ戻った歌仙は、自分の着るものがなくなっている事にすぐ気がついた。
「俺も、着替えはあるが…洗濯籠が無い。」
歌仙はすぐに、回っている洗濯機を覗き込む。
「あぁ、きっと誰かが洗濯に出してくれたんだね。これ、長谷部君の服だろう。」
余計な演技をせずとも、自分から動いてくれる歌仙に長谷部は内心笑いが隠せない。
「…しかし参ったなぁ。きっと僕の着替えもこの中のようだし」
「俺の着替えは無事だった事だ。俺が着替えを持って来てやろう。」
長谷部はいつものジャージに袖を通し、身を整える。
「今日はだいぶ動いたんだ。まぁ少しの湯冷ましと思って待っていてくれ。湯当たりしてはいけないからな。」
「すまないね。」
長谷部は風呂場から出るなり『掃除中』の立て札を掛けてその場を後にした。そして少し行った所で廊下を走り抜け、主の部屋へ押し入った。
「主!歌仙の着物を手に入れました!」
障子の乾木がスターーンと気持ちのいい音を立てて開け放たれると、そこには水を得た魚のような顔をした主が待っていて下さった。
「ありがとう長谷部!!!嬉しい…ほんとありがとう…!!!」
この顔を見ただけで、長谷部は感極まりそうになってしまう。
だが、長谷部の計略はこれで終わりではなかった。
「しかし主、俺は歌仙の目があったゆえ歌仙の着物は脱衣場に隠した状態にあります。念のため『掃除中』の札を掛けましたので、人払いは済んでおります。」
「わかった今行く。」
皆まで言わずとも主は立ち上がって足早に風呂場へ駆けて行く。
長谷部も着いて行きはしたが、隙を見て静かに離れると隠れて風呂場へ入っていく主の姿を覗き見た。
主は立て札を避けて風呂場の襖を開けて入っていくと、何の躊躇もなく脱衣場への中扉を開け放った。
***
長谷部は主の部屋の前で、かれこれ3時間は正座をさせられていた。
いや、一応はお褒め頂いた。
だが主は部屋に籠られ、追い掛けて襖を開ければ歌仙の洗濯籠の中に頭を突っ込んでおられた。
そして主は頭を突っ込んだまま、
「でもちょっと反省しよう。私も反省してる。」
と仰るので、主が自分から部屋をお出になるまで正座に耐えて待っていた。
歌仙はしばらく、顔を紅くしたり青くしたりと忙しかった。
厨の端で膝を抱えて動かない歌仙を見て、小夜はその横へ座り静かに歌仙から口を開くのを待った。
次の日にはもう変わりない本丸へ戻っていた。
…だが、歌仙と主の関係は明らかに変化を見せている。
長谷部はちょっと悲しい気持ちを押し殺しながら、今日も主のわがままを聞いていた。