「さあ、デッキの1番上のカードをめくりな！」
「フン…こんな運試し…」
　名前は吐き掛けた悪態をグッと堪えてカードを捲った。内心「どうか魔導シリーズのカードが出る」事を切に祈って。

　だがその祈りは崩れ去り、そして遊戯に決定的な猜疑心を与えた。

　魔法カード“復活の福音”

「（“復活の福音”…！やはり名前のデッキは…組み直されている！！！）」
　たった一枚の開示が“ドラゴン族”専用サポートカードという運の悪さ──いや、ここでは遊戯の運の良さと言うべきか──に、名前は内心舌打ちをした。

「モンスターカードじゃなくて残念だったわね。これで私の手札が増えたわ。」
　あくまでも優勢を誇示する声が震える。遊戯に与えた大きな猜疑心に、デッキの構築は間違いなく見抜かれたと察知してはいたが、たったそれだけで勝てるほどの弱点ではない。
　名前が震えている理由は別にあった──海馬のカードを、自らのデッキに組み込んだという名前自身の感情の表れの方に、急に恥ずかしくなったのだ。



「さぁ、これで終わりならエンド宣言が足りないわよ。」

「く…!ターンエンドだ」
「私のターン!」
　名前はドローしたカードを見ると、フ…と笑ってフィールドに出す。

「魔法カード“使者蘇生”！私は墓地に眠る“魔導法士ジュノン”を復活させる!!!」

　魔導法士ジュノン（攻/2500 守/2100）

　名前のデッキのエース魔導士の復活に、遊戯がグッと歯をくいしばる。お互いにそろそろ手を出し尽くしているのは間違いなかった。これ以上の闘いは、最早どちらの信念が強く、デッキを信じる事ができるかに掛かっている。

「名前、…オレもお前も、互いにエースモンスターは出し尽くしている。そろそろ決着の時だと思うからこそ、オレは今お前に言っておきたい事がある。」

「…？」

「オレは、爺さんだけじゃない…海馬兄弟も救うつもりだ。」

　名前の額が熱くなる。両手に力が入り、手札からカード同士が軋む音すら上がった。
「…まるで、私の負けが決まったような口ぶりね。」
「違う！オレたちは互いに、本当の意味で戦う理由は無いはずだ！だから名前、今こそ約束して欲しい。…オレがもしペガサスと闘う時は海馬兄弟も助けると約束する。そして名前、お前がペガサスと闘う時は、爺さんも助けて欲しい。」

「…」

　名前はゆっくりと目を閉じて心を落ち着かせると、息を吸ってから目を開けた。
「私だって、最初からそのつもりよ。」

「…わかっている。だから、…そんなに、1人で背負いこまないでほしいんだ。」

　名前の眉の端が僅かに動く。
「オレは、お前がオレたちの仲間だと思っている。全部とは言わない…だが少しでもいい、少しはオレの事も信用して…重荷を一緒に背負わせて欲しいんだ。」

「デュエルに」

「…！」

「デュエルに勝ってから、少しは聞いてあげるわ。…私は今まで勝ち続けてきた。勝ち続け、クイーンの座を手にしてから、私は孤独だった。遊戯、あなたがこの椅子を私から奪えたら、…私をひとりのデュエリストにしてくれたら、その時こそ、私たちは本当の仲間になれるわ。」

　名前はゆっくりと微笑む。情熱的でいて冷たく、クイーンの仮面でもあり、また本当に寂しそうに。その少女にどうしても惹かれる…遊戯の心は完全に掻き乱された。

　名前もまた心が騒めいていた。口から出た言葉で、やっと自分の孤独…クイーンの座への畏れに気付いたのだ。そして、…心のどこかで、一度の敗北すら願っていた事に。

　しかしこのデュエルではない、と名前は自分に言い聞かせる。たとえ遊戯の「海馬兄弟をも助ける」と言うのが本心だとしても、名前にとって「海馬を自らが救うこと」こそが何よりの願いである。

　だって海馬は…海馬ならば、