王国編 /1
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名前は先ほどの草原のデュエルリングから、さほど遠くない森の木陰に座り、ぼんやりと風に吹かれる木の葉や、草花達を見ていた。
カードの心…、遊戯は海馬とモクバにそれを伝えようと頑張っていた。実際、名前のブラック・マジシャンを見て海馬も何か感じ取ってる。
「(でも、どうしてブラック・マジシャンが意志を持って私の前に現れるのか…私にも、まだわからない…)」
そもそも、魔導書を持った魔導士達は、デュエルモンスターズを始める前から名前には見えていた。
最初は、幽霊が見えるのだと思っていた。7歳で千年秤を預かったのだってそう。もう何が起きても名前にとっては日常に過ぎなかったのである。それこそ幼い頃には良い遊び相手であり、保護者のようなモノだった。
しかしデュエルモンスターズを始めるに至って、不思議と手の内に集まったのは、その魔導士達が描かれたカードだったのだ。
驚いたものの、不思議とこの慣れ親しんだ魔導士達の扱いに疑問など持つ間もなく、そこから先はデュエリスト・クイーン、魔導書の女帝への道だった。
大会の連続優勝記録を海馬から奪った頃、ペガサスから贈られたカード…それこそがブラック・マジシャンだった。
ーーーブラック・マジシャンは、世界にもう一枚存在しマース。このブラック・マジシャンは魂の器に過ぎまセーン。このモンスターだけは魂を別のカードに宿しているのデース。
自分の魂が、このブラック・マジシャンに異常なまでの執着心を抱いた事に戸惑いを隠せなかった。ジュノンやテンペルのように姿を現すこの魔術師は、まるで恋人のように愛おしい眼差しで私を守ってくれた。もう一枚のブラック・マジシャンのカードを手に入れれば、ブラック・マジシャンは完全体となる…。
グローブにはスターチップを5個着けている。だがこれはフェイクで、これとさらに10個のチップを 既に他のデュエリスト達から奪い、ポケットにしまってある。
彼女に挑むデュエリストは少なくなかったが、無惨にも散っていった。彼女の役目は、…プレイヤー・キラー。この大会の不要なデュエリストを早々に片付ける事。
ーーーこの大会に選ばれ、真に王国でのデュエルリングに立つ事を許されているのは遊戯、海馬、そして彼女である。それ以外の弱者など、大会という名の目くらましに過ぎない。バトルロワイヤル形式ならば邪魔者を早々に片付けるのは簡単である。
そう、名前はあの時から、この役目をペガサスから負われていたのだ。
そこで、名前は同じ千年アイテムの所有者である武藤遊戯の存在を知る。
「(魔導書のコンボを破られたのは初めてだった…。遊戯、たしかに強い。彼ならペガサスに…。)」
だが名前は、どちらの味方につく事にも考えあぐねていた。ペガサスには、ブラック・マジシャンについて、そして千年秤について弱みを握られている。
さらにはペガサスの知る事をなるべく聞き出したい事も…。
しかし一方でその残忍なやり方や卑怯な手口には嫌悪感しか抱かない。できるなら、遊戯達に加担してペガサスの野望を打ち砕く事も…。
何よりも海馬が心配だった。なぜかわからないが、彼の事がどこか心に引っかかった。
このまま城に乗り込んでもいいが、おそらく海馬がこの島にくる筈。
「(海馬瀬人…、セト…)」
胸がじんわりと熱くなる。
名前は空を見上げ、同じ青い瞳を持つ涼しげな目元の青年を思い浮かべる。風で髪が靡いて視界に自分の赤い髪が掛かる。
まさにその混合色のような、名前の紫色の瞳がゆっくりと白い雲のラインに沿って動かされた。
ふわりと芳香が漂い、胸が暖かくなる。視線を向けずとも、名前にはどの魔術師が現れたか解っていた。
「…これでよかったのかしら。私は、…目的のために、手段を間違えているの。そう思ってる。」
深い緑色のドレスを身にまとった妙齢の女性が、ふんわりと優しい顔で名前を見て、しずかに寄り添う。両親の愛情を知らない名前にとって、システィは母親のような存在であった。心が揺れ動き、不安に苛まれたとき、彼女はこうして現れては静かに寄り添い、その道を正す役割のように安心をあたえてくれる。
「システィ、…私にはわからない。海馬瀬人、…こんなに胸が熱くなる。どうして…。ブラックマジシャンが私の運命にある人ではないの…? …教えてシャーディー、あなたが、私にそう告げたのに。」
千年秤のウジャト眼がきらりと光るが、風にその芳香を残して、システィは何かに気付いて目配せすると、彼女の体へ消えていった。
***
「名前ー!おーい!」
遠くから金髪の少年がかけてくるのを見ると、さっと立ち上がった。
「城之内」
「あー、あんま遠くに行ってなくてよかったぜ!」
「本田、…みんなまで」
「名前、頼む。モクバが連れ去られたんだ。モクバを取り返すために、ついて来てほしい。」
「遊戯。…ごめんなさい、それは、…断るわ。」
一同がえぇっとざわめく。
「ど、どうしてだよ! さっきはモクバに…」
本田が食って掛かると、遊戯が前に出て名前と向き合う。
「なにか訳があるようだな。」
「…ッ」
闇の人格の遊戯の、鋭いまでにひかる紫の目で見つめられると、自分の秘め事は全て見透かされている気分になる。いや、実際見透かされているのかもしれない。
「…わかったわ。」
***
「(なぜ遊戯はあそこまで闘えたのか…? 俺の力が 遊戯に劣っていたとは思えない。…考えられるのは、あの時、ヤツと俺の背負っていたものの違いか…)」
海馬は窓の外に海の広がる別邸にいた。
ジュラルミンケースを広げ、新しく何かを作らんとドライバなどを忙しなく手中に動かしているが、その思考は冷静に、そして熱く、デュエルの事に没頭している。
「(ヤツはじいさんにカードを託され、…カードの心を守ろうとたたかっていた…!)」
ふと視線を、目の前に立ちはだかる遊戯のイメージに合わせるが、またすぐ手元に戻す。
「(この新しいシステムは、システム自体に スーパーコンピュータ並みの機能が組み込まれているから、いつ どこでもデュエルが可能だ。)」
小型で円形の 新しいデュエル用装置を海馬は開発し、黙々と試作品を製作していた。
円盤型の白い本体に赤い縁取りが塗られ、十字にカードリーダーが取り付けられたその装置は2機用意され、完成が近いことを伺わせる。
「(これが完成すれば、少なくとも遊戯と対等の場で闘える…)
…!」
海馬は手を止め、背後の扉に気配を感じると、その試作品をジュラルミンケースに入れて立ち上がる。
ーーー
「動くな!!!」
ドアが突然破られ 2人の黒服の男が侵入すると 銃を海馬へ向けた。
「海馬瀬人、我々と一緒に来てもらう。」
海馬はほんの少し口の端を上げて振り返り、2人と向き合った。
「わかった。イヤだと言っても、聞いてはくれないんだろ?」
「フン…やけに聞き分けがいいじゃないか。」
片方の1人が笑うと、海馬は先程まで座っていた椅子を2人に向けて蹴り上げた。
「うわ!!」
「クソッ」
発泡されるが、ジュラルミンケースで防ぐと そのまま窓を破って海馬は崖に飛び出した。
「なに?!」
2人が壊された窓から覗くと、下は断崖絶壁に激しく波が打ち付けるのが目に入った。
「チッ…自分から…。」
「監禁する手間が省けたぜ。」
2人が振り返り部屋を見渡すと、パソコンの前に積まれたデュエルモンスターズのカードの束が目に入る。
1人がそれに手を伸ばして山の上の一枚をめくると、そのカードには青眼の白龍が描かれていた…。
***
「はなせ!はなせよこの!」
一時間後、先ほどのデュエルリングにモクバの声が響く。
「モクバ! モクバを放すんだ!」
闇の人格の遊戯を筆頭に三人が歩み寄ると、黒服の男はモクバを抱えたまま向き直る。
「ふふふ…デュエルに勝ったら考えてやる。」
「デュエルの相手は!?」
「ふふ、もう待っている。…見ろ!」
「「「「「!!!!」」」」」
そこには、どこか見慣れた制服の青年が立っていた。
「海馬!!!!」
「兄さま!!!」
「ど、どうして海馬がここに…」
「おっと、これはこれは。マジシャンズ・クイーン。貴様にはいろいろと聞きたい事がある。モクバの命が惜しかったら、そこでおとなしくしているんだな。」
「く…」
「ははははは! 遊戯、これから貴様は、海馬瀬人と戦うのだ!…海馬瀬人の亡霊とな。」
「どういう事だ!」
猿渡に腕を掴まれたままのモクバが、信じられないといった面持ちで詰め寄るが、猿渡の態度は変わらない。
「行った通りさ。海馬瀬人は、既にこの世にいない!」
「!!!!!」
名前があきらかに動揺する。
「嘘だ!兄さまは死んでなんかいない!!!!」
モクバが声を上げて抗議するが、男は無情なまでに得意げに言葉を続ける。
「嘘ではない。ヤツは武藤遊戯と苗字名前を恨んで死んだ。いま、あそこに立っているのは海馬の亡霊なのだ。」
「バカな」
「さぁどうする遊戯。戦うのか、戦わないのか?!」
遊戯は海馬の亡霊と言うデュエリストを一瞥すると、拳を握りしめて男に向き直る。
「いいだろう、あのまやかしの正体、俺が暴いてみせるぜ!」
「待って」
しかしそれを制し、名前が険しい顔で歩み寄ると、遊戯の横に立つ。
「このデュエル、私が戦う。」
「ほぉう?」
「名前!」
「遊戯、私も海馬とは戦って勝った事がある。…仮に私と遊戯を恨んで死んだなら、私も戦う義理があるわ。それに…海馬瀬人本人ならば、私には確かめなくては行けない事がある。」
紫色の瞳が海馬の亡霊を捉える。
胸のざわめきがないとは言えない。だが、自分の気持ちとの戦いでもなるであろうこのデュエルは、挑まなくてはなら無い気がした。
「…いいだろう!」
***
「海馬瀬人が死んだ?」
モニタリングしていたペガサスが、控えに立つクロケッツへ問いかける。
「はい。そのように聞いております。」
「oh~、no~。それはとても不幸な事デ~ス。…それで あんなニセ物を?」
ワイングラスを回しながら、ペガサスはモニタに映る映像から目を離さない。
「お気に召しませんか?」
「…やれやれ、まぁいいでしょう。余興として見物させてもらいましょう。」
クロケッツは少し腰を屈めてペガサスと距離を縮める。
「失礼ながら、これは単なる余興では…」
ペガサスはそれを一笑して跳ね除けた。
「クイーンは必ず海馬がニセ物だと、すぐに気付きマ~ス。たとえ遊戯ボーイが相手だとしてもね…。2人は必ず私の所にやってきマ~ス。」
ワインを一口飲むと、またペガサスは笑う。
「そしてこの私の手で 葬り去られるのデ~ス!」
カードの心…、遊戯は海馬とモクバにそれを伝えようと頑張っていた。実際、名前のブラック・マジシャンを見て海馬も何か感じ取ってる。
「(でも、どうしてブラック・マジシャンが意志を持って私の前に現れるのか…私にも、まだわからない…)」
そもそも、魔導書を持った魔導士達は、デュエルモンスターズを始める前から名前には見えていた。
最初は、幽霊が見えるのだと思っていた。7歳で千年秤を預かったのだってそう。もう何が起きても名前にとっては日常に過ぎなかったのである。それこそ幼い頃には良い遊び相手であり、保護者のようなモノだった。
しかしデュエルモンスターズを始めるに至って、不思議と手の内に集まったのは、その魔導士達が描かれたカードだったのだ。
驚いたものの、不思議とこの慣れ親しんだ魔導士達の扱いに疑問など持つ間もなく、そこから先はデュエリスト・クイーン、魔導書の女帝への道だった。
大会の連続優勝記録を海馬から奪った頃、ペガサスから贈られたカード…それこそがブラック・マジシャンだった。
ーーーブラック・マジシャンは、世界にもう一枚存在しマース。このブラック・マジシャンは魂の器に過ぎまセーン。このモンスターだけは魂を別のカードに宿しているのデース。
自分の魂が、このブラック・マジシャンに異常なまでの執着心を抱いた事に戸惑いを隠せなかった。ジュノンやテンペルのように姿を現すこの魔術師は、まるで恋人のように愛おしい眼差しで私を守ってくれた。もう一枚のブラック・マジシャンのカードを手に入れれば、ブラック・マジシャンは完全体となる…。
グローブにはスターチップを5個着けている。だがこれはフェイクで、これとさらに10個のチップを 既に他のデュエリスト達から奪い、ポケットにしまってある。
彼女に挑むデュエリストは少なくなかったが、無惨にも散っていった。彼女の役目は、…プレイヤー・キラー。この大会の不要なデュエリストを早々に片付ける事。
ーーーこの大会に選ばれ、真に王国でのデュエルリングに立つ事を許されているのは遊戯、海馬、そして彼女である。それ以外の弱者など、大会という名の目くらましに過ぎない。バトルロワイヤル形式ならば邪魔者を早々に片付けるのは簡単である。
そう、名前はあの時から、この役目をペガサスから負われていたのだ。
そこで、名前は同じ千年アイテムの所有者である武藤遊戯の存在を知る。
「(魔導書のコンボを破られたのは初めてだった…。遊戯、たしかに強い。彼ならペガサスに…。)」
だが名前は、どちらの味方につく事にも考えあぐねていた。ペガサスには、ブラック・マジシャンについて、そして千年秤について弱みを握られている。
さらにはペガサスの知る事をなるべく聞き出したい事も…。
しかし一方でその残忍なやり方や卑怯な手口には嫌悪感しか抱かない。できるなら、遊戯達に加担してペガサスの野望を打ち砕く事も…。
何よりも海馬が心配だった。なぜかわからないが、彼の事がどこか心に引っかかった。
このまま城に乗り込んでもいいが、おそらく海馬がこの島にくる筈。
「(海馬瀬人…、セト…)」
胸がじんわりと熱くなる。
名前は空を見上げ、同じ青い瞳を持つ涼しげな目元の青年を思い浮かべる。風で髪が靡いて視界に自分の赤い髪が掛かる。
まさにその混合色のような、名前の紫色の瞳がゆっくりと白い雲のラインに沿って動かされた。
ふわりと芳香が漂い、胸が暖かくなる。視線を向けずとも、名前にはどの魔術師が現れたか解っていた。
「…これでよかったのかしら。私は、…目的のために、手段を間違えているの。そう思ってる。」
深い緑色のドレスを身にまとった妙齢の女性が、ふんわりと優しい顔で名前を見て、しずかに寄り添う。両親の愛情を知らない名前にとって、システィは母親のような存在であった。心が揺れ動き、不安に苛まれたとき、彼女はこうして現れては静かに寄り添い、その道を正す役割のように安心をあたえてくれる。
「システィ、…私にはわからない。海馬瀬人、…こんなに胸が熱くなる。どうして…。ブラックマジシャンが私の運命にある人ではないの…? …教えてシャーディー、あなたが、私にそう告げたのに。」
千年秤のウジャト眼がきらりと光るが、風にその芳香を残して、システィは何かに気付いて目配せすると、彼女の体へ消えていった。
***
「名前ー!おーい!」
遠くから金髪の少年がかけてくるのを見ると、さっと立ち上がった。
「城之内」
「あー、あんま遠くに行ってなくてよかったぜ!」
「本田、…みんなまで」
「名前、頼む。モクバが連れ去られたんだ。モクバを取り返すために、ついて来てほしい。」
「遊戯。…ごめんなさい、それは、…断るわ。」
一同がえぇっとざわめく。
「ど、どうしてだよ! さっきはモクバに…」
本田が食って掛かると、遊戯が前に出て名前と向き合う。
「なにか訳があるようだな。」
「…ッ」
闇の人格の遊戯の、鋭いまでにひかる紫の目で見つめられると、自分の秘め事は全て見透かされている気分になる。いや、実際見透かされているのかもしれない。
「…わかったわ。」
***
「(なぜ遊戯はあそこまで闘えたのか…? 俺の力が 遊戯に劣っていたとは思えない。…考えられるのは、あの時、ヤツと俺の背負っていたものの違いか…)」
海馬は窓の外に海の広がる別邸にいた。
ジュラルミンケースを広げ、新しく何かを作らんとドライバなどを忙しなく手中に動かしているが、その思考は冷静に、そして熱く、デュエルの事に没頭している。
「(ヤツはじいさんにカードを託され、…カードの心を守ろうとたたかっていた…!)」
ふと視線を、目の前に立ちはだかる遊戯のイメージに合わせるが、またすぐ手元に戻す。
「(この新しいシステムは、システム自体に スーパーコンピュータ並みの機能が組み込まれているから、いつ どこでもデュエルが可能だ。)」
小型で円形の 新しいデュエル用装置を海馬は開発し、黙々と試作品を製作していた。
円盤型の白い本体に赤い縁取りが塗られ、十字にカードリーダーが取り付けられたその装置は2機用意され、完成が近いことを伺わせる。
「(これが完成すれば、少なくとも遊戯と対等の場で闘える…)
…!」
海馬は手を止め、背後の扉に気配を感じると、その試作品をジュラルミンケースに入れて立ち上がる。
ーーー
「動くな!!!」
ドアが突然破られ 2人の黒服の男が侵入すると 銃を海馬へ向けた。
「海馬瀬人、我々と一緒に来てもらう。」
海馬はほんの少し口の端を上げて振り返り、2人と向き合った。
「わかった。イヤだと言っても、聞いてはくれないんだろ?」
「フン…やけに聞き分けがいいじゃないか。」
片方の1人が笑うと、海馬は先程まで座っていた椅子を2人に向けて蹴り上げた。
「うわ!!」
「クソッ」
発泡されるが、ジュラルミンケースで防ぐと そのまま窓を破って海馬は崖に飛び出した。
「なに?!」
2人が壊された窓から覗くと、下は断崖絶壁に激しく波が打ち付けるのが目に入った。
「チッ…自分から…。」
「監禁する手間が省けたぜ。」
2人が振り返り部屋を見渡すと、パソコンの前に積まれたデュエルモンスターズのカードの束が目に入る。
1人がそれに手を伸ばして山の上の一枚をめくると、そのカードには青眼の白龍が描かれていた…。
***
「はなせ!はなせよこの!」
一時間後、先ほどのデュエルリングにモクバの声が響く。
「モクバ! モクバを放すんだ!」
闇の人格の遊戯を筆頭に三人が歩み寄ると、黒服の男はモクバを抱えたまま向き直る。
「ふふふ…デュエルに勝ったら考えてやる。」
「デュエルの相手は!?」
「ふふ、もう待っている。…見ろ!」
「「「「「!!!!」」」」」
そこには、どこか見慣れた制服の青年が立っていた。
「海馬!!!!」
「兄さま!!!」
「ど、どうして海馬がここに…」
「おっと、これはこれは。マジシャンズ・クイーン。貴様にはいろいろと聞きたい事がある。モクバの命が惜しかったら、そこでおとなしくしているんだな。」
「く…」
「ははははは! 遊戯、これから貴様は、海馬瀬人と戦うのだ!…海馬瀬人の亡霊とな。」
「どういう事だ!」
猿渡に腕を掴まれたままのモクバが、信じられないといった面持ちで詰め寄るが、猿渡の態度は変わらない。
「行った通りさ。海馬瀬人は、既にこの世にいない!」
「!!!!!」
名前があきらかに動揺する。
「嘘だ!兄さまは死んでなんかいない!!!!」
モクバが声を上げて抗議するが、男は無情なまでに得意げに言葉を続ける。
「嘘ではない。ヤツは武藤遊戯と苗字名前を恨んで死んだ。いま、あそこに立っているのは海馬の亡霊なのだ。」
「バカな」
「さぁどうする遊戯。戦うのか、戦わないのか?!」
遊戯は海馬の亡霊と言うデュエリストを一瞥すると、拳を握りしめて男に向き直る。
「いいだろう、あのまやかしの正体、俺が暴いてみせるぜ!」
「待って」
しかしそれを制し、名前が険しい顔で歩み寄ると、遊戯の横に立つ。
「このデュエル、私が戦う。」
「ほぉう?」
「名前!」
「遊戯、私も海馬とは戦って勝った事がある。…仮に私と遊戯を恨んで死んだなら、私も戦う義理があるわ。それに…海馬瀬人本人ならば、私には確かめなくては行けない事がある。」
紫色の瞳が海馬の亡霊を捉える。
胸のざわめきがないとは言えない。だが、自分の気持ちとの戦いでもなるであろうこのデュエルは、挑まなくてはなら無い気がした。
「…いいだろう!」
***
「海馬瀬人が死んだ?」
モニタリングしていたペガサスが、控えに立つクロケッツへ問いかける。
「はい。そのように聞いております。」
「oh~、no~。それはとても不幸な事デ~ス。…それで あんなニセ物を?」
ワイングラスを回しながら、ペガサスはモニタに映る映像から目を離さない。
「お気に召しませんか?」
「…やれやれ、まぁいいでしょう。余興として見物させてもらいましょう。」
クロケッツは少し腰を屈めてペガサスと距離を縮める。
「失礼ながら、これは単なる余興では…」
ペガサスはそれを一笑して跳ね除けた。
「クイーンは必ず海馬がニセ物だと、すぐに気付きマ~ス。たとえ遊戯ボーイが相手だとしてもね…。2人は必ず私の所にやってきマ~ス。」
ワインを一口飲むと、またペガサスは笑う。
「そしてこの私の手で 葬り去られるのデ~ス!」