王国編 /1
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遊戯の指先はわずかに震えていた。
決して畏れや恐怖心からではない。胸の内から大きく打ち付ける心臓の脈拍が、その指一本一本に巡る血管にまで鼓動させているのだ。
「(このカードは…運命の扉!)」
えも言われぬ闇色の中、たった二つ佇んだ遊戯と、その目の前にあるカードのドア。そのノブへと差し伸べた手に、遊戯はまだ震える指を見て戸惑った。
「(オレはまだ…怯えているのか?…オレは!)」
その手に重ねられたのは、見慣れた同じ手。振り返ればそこに、もう一人の自分、そして今まで支え合ってきた仲間たちが微笑んでいる。
…その中に、遊戯が心に留める赤い髪の彼女が居たのか。それは遊戯にしかわからない。
「(オレはもう負ける事を恐れる必要はない。オレにはみんながいつも一緒にいてくれる。もう一人のオレが…!そして名前…オレはお前に挑むという光を、必ず掴んでみせるぜ! この一枚のカードに道を閉ざされるか、光を得るか!)」
勝負!!!
***
ペガサスはあまりの衝撃に立ち上がって遊戯を見た。
「(なんと…遊戯ボーイ、…ユーはなんという男だ)」
***
「舞…、勝利のカードは、」
閉ざされかけた口元は、そのあと確かに笑った。
「すべて揃ったぜ!」
「!!!」
舞がなにかを言い淀む隙すら与えず、遊戯はそのカードを場に出した。
「魔法カード“カオスの儀式”!!!」
***
名前は舞より先にそのカードに強い反応をして身を乗り出した。
「カオスの儀式?!」
彼女はまだ千年アイテムの所持者以前に、自分が根っからのデュエリストであると自覚していないらしい。名前は自分の千年秤の反応よりも先に、自分の脳内でフィールドに並ぶ遊戯のモンスターの意味に意識を回していたのだ。
「光属性と闇属性の、レベル合計8…!!!」
***
「今、カオスの儀式によりレベル合計8となるモンスターを生贄に捧げる!」
カオス・ソルジャー降臨!
“カオス・ソルジャー”(攻/3000 守/2500)
「あ、…あれが伝説の、最強戦士!」
ただ呆然と立ち尽くす舞に、容赦なく攻撃宣言が振り下ろされる。
「カオス・ソルジャーの攻撃!カオスブレード!!!」
ハーピィズ・ペット・ドラゴンがあっけなく撃破され、舞にはもう三体のハーピィと同じ目でその光景を眺めるしかできなかった。
「私の…ハーピィズ・ペット・ドラゴンが…」
***
「す…すげぇ…あれが遊戯の切り札、最強の戦士…」
城之内もデュエリストとして、初めてお目にかかる最上級の戦士に感嘆をもらしていた。デュエルリングに満ちた圧倒的な威圧感に、上階の4人はただ立ち尽くして息を飲むことしかできない。
「なんて迫力だ…」
デュエルのことはよく分からないと公言する本田でさえ、その緊迫した空気やカオス・ソルジャーがまとう独特のオーラを感じている。
***
「(勝負は着きました。彼女のマインド、…闘いの炎が消えていくのがわかりマ〜ス。)」
ペガサスは満足していた。しかしそれでも、手立てのない中にあっても立ち向かおうとする意思が舞の中に見られないことを、少しばかり残念そうにしている。
舞はデスクに手をついて項垂れていた。己の犯したプレイング・ミスを悔いているのだ。
「(たった1ターンの差…。“カオス・ソルジャー”が出る前にこのカードをもう一枚出せていたら、私は負けなかった。もう私のデッキに、“カオス・ソルジャー”を倒せるカードはない…)」
舞はゆっくりと体を起こすと、そのデッキに手をやった。
「…! 舞さん、」
「あれは、サレンダーカード。」
静かに目を閉じてデッキに手を置いた舞に、遊戯と名前、そして獏良がその意思を汲み取って目を離さない。
「舞…」
城之内も初めて見るのだろう。少し戸惑った様子で、ただ舞の内心を思って黙りこくる。
「えっ、何?どうしたの?」
杏子が純粋にその空気感を不審に思って3人を見回すのに、獏良が応えた。
「サレンダーカード…デッキの上に手を乗せるのは、降参したという合図なんだ。」
「…そんな、舞さん…」
「次のターンで、ハーピィが傷つけられるのは見たくないわ。私の負けよ、遊戯。」
舞がそれだけ言うと、カードを手にして踵を返しした。その背中に、遊戯の声がかけられる。
「舞…ありがとう!」
「(遊戯…!)」
「オレはこのデュエル、…お前のおかげで見失いかけていたものに気付いた。…見えるけど、見えないもの。」
「この世に完全無欠のデュエリストなんていないわ。…本当は自分の弱さが見えているのに、目を背けようとする。そう、見えるけど見えないふり…。目を背ける事こそ心の弱さだと気づかずに。」
舞は背を向けたまま、つぶやくように言った。今の自分に言い聞かせるかのように。だが次に口から出た言葉は、確かに自分より高みにいるデュエリストである遊戯そのものに向けられたものだった。
「遊戯、負けには2通りあるのよ。全てが終わる負け方、最後に勝つ負け方。私はこの負けによってさらに強くなる自信があるわ。」
舞はようやく振り向いて、デュエルリングの向こうに立つ遊戯を見た。
「そして最後に、夢を掴む!!!」
舞はウィンクして親指を立て、笑顔で去っていった。最後まで“年上のイイ女”というイメージを覆さなかったのだ。なによりそのイイ女っぷりに救われたのが遊戯だった。仲間として過ごしてきた舞を降参させたという思いも無くなり、晴れやかな顔で見送る。
ただどこか暗い顔をしていたのは、名前だけだった。
「(全てが終わる、負け方…)」
決して畏れや恐怖心からではない。胸の内から大きく打ち付ける心臓の脈拍が、その指一本一本に巡る血管にまで鼓動させているのだ。
「(このカードは…運命の扉!)」
えも言われぬ闇色の中、たった二つ佇んだ遊戯と、その目の前にあるカードのドア。そのノブへと差し伸べた手に、遊戯はまだ震える指を見て戸惑った。
「(オレはまだ…怯えているのか?…オレは!)」
その手に重ねられたのは、見慣れた同じ手。振り返ればそこに、もう一人の自分、そして今まで支え合ってきた仲間たちが微笑んでいる。
…その中に、遊戯が心に留める赤い髪の彼女が居たのか。それは遊戯にしかわからない。
「(オレはもう負ける事を恐れる必要はない。オレにはみんながいつも一緒にいてくれる。もう一人のオレが…!そして名前…オレはお前に挑むという光を、必ず掴んでみせるぜ! この一枚のカードに道を閉ざされるか、光を得るか!)」
勝負!!!
***
ペガサスはあまりの衝撃に立ち上がって遊戯を見た。
「(なんと…遊戯ボーイ、…ユーはなんという男だ)」
***
「舞…、勝利のカードは、」
閉ざされかけた口元は、そのあと確かに笑った。
「すべて揃ったぜ!」
「!!!」
舞がなにかを言い淀む隙すら与えず、遊戯はそのカードを場に出した。
「魔法カード“カオスの儀式”!!!」
***
名前は舞より先にそのカードに強い反応をして身を乗り出した。
「カオスの儀式?!」
彼女はまだ千年アイテムの所持者以前に、自分が根っからのデュエリストであると自覚していないらしい。名前は自分の千年秤の反応よりも先に、自分の脳内でフィールドに並ぶ遊戯のモンスターの意味に意識を回していたのだ。
「光属性と闇属性の、レベル合計8…!!!」
***
「今、カオスの儀式によりレベル合計8となるモンスターを生贄に捧げる!」
カオス・ソルジャー降臨!
“カオス・ソルジャー”(攻/3000 守/2500)
「あ、…あれが伝説の、最強戦士!」
ただ呆然と立ち尽くす舞に、容赦なく攻撃宣言が振り下ろされる。
「カオス・ソルジャーの攻撃!カオスブレード!!!」
ハーピィズ・ペット・ドラゴンがあっけなく撃破され、舞にはもう三体のハーピィと同じ目でその光景を眺めるしかできなかった。
「私の…ハーピィズ・ペット・ドラゴンが…」
***
「す…すげぇ…あれが遊戯の切り札、最強の戦士…」
城之内もデュエリストとして、初めてお目にかかる最上級の戦士に感嘆をもらしていた。デュエルリングに満ちた圧倒的な威圧感に、上階の4人はただ立ち尽くして息を飲むことしかできない。
「なんて迫力だ…」
デュエルのことはよく分からないと公言する本田でさえ、その緊迫した空気やカオス・ソルジャーがまとう独特のオーラを感じている。
***
「(勝負は着きました。彼女のマインド、…闘いの炎が消えていくのがわかりマ〜ス。)」
ペガサスは満足していた。しかしそれでも、手立てのない中にあっても立ち向かおうとする意思が舞の中に見られないことを、少しばかり残念そうにしている。
舞はデスクに手をついて項垂れていた。己の犯したプレイング・ミスを悔いているのだ。
「(たった1ターンの差…。“カオス・ソルジャー”が出る前にこのカードをもう一枚出せていたら、私は負けなかった。もう私のデッキに、“カオス・ソルジャー”を倒せるカードはない…)」
舞はゆっくりと体を起こすと、そのデッキに手をやった。
「…! 舞さん、」
「あれは、サレンダーカード。」
静かに目を閉じてデッキに手を置いた舞に、遊戯と名前、そして獏良がその意思を汲み取って目を離さない。
「舞…」
城之内も初めて見るのだろう。少し戸惑った様子で、ただ舞の内心を思って黙りこくる。
「えっ、何?どうしたの?」
杏子が純粋にその空気感を不審に思って3人を見回すのに、獏良が応えた。
「サレンダーカード…デッキの上に手を乗せるのは、降参したという合図なんだ。」
「…そんな、舞さん…」
「次のターンで、ハーピィが傷つけられるのは見たくないわ。私の負けよ、遊戯。」
舞がそれだけ言うと、カードを手にして踵を返しした。その背中に、遊戯の声がかけられる。
「舞…ありがとう!」
「(遊戯…!)」
「オレはこのデュエル、…お前のおかげで見失いかけていたものに気付いた。…見えるけど、見えないもの。」
「この世に完全無欠のデュエリストなんていないわ。…本当は自分の弱さが見えているのに、目を背けようとする。そう、見えるけど見えないふり…。目を背ける事こそ心の弱さだと気づかずに。」
舞は背を向けたまま、つぶやくように言った。今の自分に言い聞かせるかのように。だが次に口から出た言葉は、確かに自分より高みにいるデュエリストである遊戯そのものに向けられたものだった。
「遊戯、負けには2通りあるのよ。全てが終わる負け方、最後に勝つ負け方。私はこの負けによってさらに強くなる自信があるわ。」
舞はようやく振り向いて、デュエルリングの向こうに立つ遊戯を見た。
「そして最後に、夢を掴む!!!」
舞はウィンクして親指を立て、笑顔で去っていった。最後まで“年上のイイ女”というイメージを覆さなかったのだ。なによりそのイイ女っぷりに救われたのが遊戯だった。仲間として過ごしてきた舞を降参させたという思いも無くなり、晴れやかな顔で見送る。
ただどこか暗い顔をしていたのは、名前だけだった。
「(全てが終わる、負け方…)」