王国編 /1
名前変換
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「(倒しても攻撃力がアップして蘇る不死身のゾンビモンスター…そんな相手にどう闘えばいいんだ?!)」
城之内は墓場フィールドに並ぶゴースト骨塚のアンデット族モンスター達に戦々恐々としていた。追い討ちを掛けるように、骨塚の後ろには元全米チャンプであるバンデット・キースがデュエルのアドバイスをしている。
「(クソッ、卑怯な手ばっか使いやがって…!)」
城之内はキースの視線を気にしながら、手札と自分のフィールドを交互に見ていた。
「俺は断じて負け犬なんかじゃねぇ!静香のためにも負けられねぇんだ…! 」
城之内は決して諦めなかった。自分のデッキを信じて、カードをドローする。
「! よし、勝つぞ…!自分を信じて、このカードに掛ける!」
“時の魔術師”!
このカードは何度も奇跡を起こして俺に勝利をもたらしてくれた! 不死身のゾンビ軍団も、“時の魔術師”の『タイムマジック』なら…!!!
キースは予想だにしていなかったレアカードの登場に動揺を見せた。
「マズイぜ…時の魔術師のタイムマジックが当たったら、ゾンビ軍団が全滅する可能性がある!」
骨塚はキースの言葉に驚いて振り向いた。
「あ、兄貴…」
「タイムルーレット!」
城之内は意を決して時の魔術師の効果を発動する。
キースのサングラスには、焦りを隠せない骨塚の情け無い姿が映っている。
「ビビるな。タイムルーレットが当たる確率は1/2だ。コイツは運任せの勝負だ。テメェの運でハズレを呼び込むんだな。」
「えぇ〜?!」
何の解決策も無いと言わんばかりのキースに、骨塚は時の魔術師のルーレットを見上げて、ただ祈るだけであった。
しかし、城之内の起死回生を願うルーレットは外れてしまった。
…そのハズレは、城之内のフィールドのモンスターの自滅。
「ま、待って!行かないでくれ〜!!!」
さらに場から消えたモンスターの攻撃力の半分が、城之内のライフから削られる。
骨塚とキースは、安心したのか笑ってそれを見ていた。
「ハハハ、こりゃいいゾ〜。勝手に自滅しやがったゾ〜。」
「タイムルーレットに外れると、こんなダメージがあるなんて…!」
城之内は初めてのハズレに加え、予想外のダメージ、更には自分のフィールドの建て直しと次々と負の連鎖が掛かる。
「もう俺に手はないのか…!」
城之内は守備表示でモンスターを出す防戦に入るしかなかった。
***
遊戯達は、城之内を探して洞窟に入っていったが、様々なトラップに足止めをされたり、または迷い込まされたりと、その進捗は芳しくないものであった。
「ペガサスのヤロぉ〜〜〜!!!」
本田は“おちょくり”とも言えるそれらの仕掛けに、ペガサスへの苛立ちを募らせる。
だが人の気配や声を感じ、遊戯達は先を急いだ。
***
骨塚は“パンプキング”を召喚し、さらに特殊効果で場のゾンビ軍団の攻撃力を ターン毎に10%ずつアップさせ、それに伴ってモンスター達の巨大化もさせていった。
城之内はモンスターの守備表示で耐えるしかない状況に追い込まれ、どんどんカードを消費していく。
「クソ…!俺に勝ち目はないのか…!」
「城之内くん!!!」
城之内はハッとして振り返る。
そこには声を掛けた遊戯と、本田、獏良、杏子が立っていた。
「遊戯!みんなも…!」
城之内の顔が明るくなる。
しかしキースが思わぬ外野の登場に舌打ちした。
「城之内!お前いったい何でこんな所でデュエルしてんだ?」
「したくて してんじゃねえ!コイツらが汚ねえ手口で俺をココに引き摺り込みやがったんだ!」
城之内は遊戯から本田に顔を向け、キース達を指差す。
「こんなデュエル無効よ!」
杏子がキース達に食って掛かるが、キースは涼しい顔をして鼻で笑うだけである。
「待ちな!デュエルリンクから降りたら試合放棄と見なしてスターチップはいただくぜ?」
「クソ〜〜」
いずれにせよ城之内はフィールド上でも追い詰められていた。
「続けろ!城之内。こんなヤツらに負けんじゃねぇ。お前には守るべきもんがあるだろ!」
本田は城之内に、黄色いパスケースを投げ渡した。城之内がそれを開いて見ると、妹の静香が写真の中でこちらに笑いかけている。
「そんな大事なもん、落としてんじゃねぇよ。」
「本田…」
本田が笑うと、城之内は再度その闘志を持って笑い返した。
***
「ブラックマジシャンの攻撃、ブラック・マジック!」
「くそ〜〜、ちぇッ!」
名前は残っていたデュエリストに勝負を挑まれ、足を止めていた。しかしその少年を早々に破ると、デュエルリンクから降りて賭けていたスターチップ2個を受け取る。
「やっぱり強いんだね。さすがクイーンだよ。」
少年が名前にそう笑いかけるが、その笑いはすこし暗い。少年のグローブにはスターチップが3個しかついていなかった。この時間では、もう10個集めて決勝へ進むにはほぼ不可能である。
「あなた、どうして私に挑んだの?」
名前は淡々とした顔で少年に向き合う。
「だって日本チャンプのクイーンと闘えるチャンスなんて、中々ないだろう? 」
少年のキラキラした目に少し圧倒されて、名前はつい片足が後ろに下がる。クイーンの重みとは何か。それに触れるような気がした。
名前は小さくため息をつくと、少年にしっかりと向き合って、デュエルを振り返り推測できる範囲でのアドバイスをした。
「…あなた、植物属性を主軸にしてたけど、防戦用の罠か魔法が足りてないわ。風属性が多いから、風属性のサポート魔法を入れて、同じ風属性のドラゴン族を入れれば全体的な攻撃力も上がると思うわよ。あと…」
少年は嬉しそうに手の中でデッキを広げながら、名前にあれこれと質問やアドバイスを求めた。
名前もつい楽しそうな顔でそれに応える。
「(そう、私、…元々このデュエルモンスターズが好きだったんだわ。…どうして忘れてたんだろう。)」
時間を忘れている訳ではないが、ただその時間が許す限り、名前はその小さなデュエリストの少年に向き合った。
そして少年から礼を言われ、名前は城へ向けて去っていった。
***
骨塚がついに“攻撃封じ”のカードを引き当てて、城之内はついに最期のギリギリの所まで追い詰められていた。“紅眼の黒龍”の召喚で“パンプキング”を破壊したものの、極限まで攻撃力を増して膨れ上がったゾンビ軍団にすぐに返り討ちにされてしまう。
「城之内くん!君のデッキには逆転できるカードが入っているはずだ!」
遊戯は城之内に声を掛ける。
「ほぅ、面白ぇなあ。」
それを聞いたキースは、不敵に笑う。
「遊戯とかいったな。海馬を倒したそうだが、俺が組んだコンボは完璧だ。逆転なんて不可能だぜ!」
だが城之内は挫けず、遊戯と自分のデッキを信じた。遊戯に目をやると、お互いに頷く。
そしてついに“右手に盾を 左手に剣を”の魔法カードを引き当てた。
守備力が0のゾンビ軍団に対し、守備力が1000のアルティメーターがフィニッシャーとなって骨塚は敗れた。
「おっしゃー!」
「やったぜ遊戯!!!」
骨塚は敗れた事がまだ飲み込めないのか、青い顔でキースについて行った。
「オイ!行くぞテメェら!」
キースは3人を連れて去って行く。
だがそれを城之内が呼び止めた。
「テメェもデュエリストの端くれなら、次は正々堂々と勝負するんだな!」
だがキースは振り向きもせず、背を向けたまま笑う。
「ケッ、正々堂々だと?笑わせんな。いかに相手を陥れるかを競うのがカードゲームってもんよ。…要は勝てばいいのさ。どんな手を使ってでもな!」
「キース…、テメェは俺が必ず倒す!」
「ククク…果たしてオメェの腕で俺の相手になるかね。」
キースは高笑いしたまま洞窟の出口へと去って行った。
「さぁ、私達も早くこんな所から出ましょう!」
杏子がみんなを急かして、光の差し込む出口へと走る。だがその光は突然何かに遮断され、出口は塞がれてしまった。
「な、なんだ?!」
その外では、キースが骨塚ら3人を使って大きな岩を出口に押し込ませていた。
「ハハハハハ!これでヤツらは一生洞窟から出られねぇぜ!」
しかしそれだけに止まらず、キースは3人を腕力で倒してスターチップを奪う。丁度10個嵌ったグローブを見て満足げに笑い、そのままペガサス城へと去って行ってしまった。
***
「ちくしょー、全然ビクともしねぇ!」
城之内、本田、遊戯、獏良、そして女子である杏子までもが一緒になって、出口を塞いだ岩を押し出そうと奮闘していた。
しかし城之内がつい口をついて出したように、その岩はズレさえしない。
「完全に閉じ込められたぜ!」
「どうなるの?アタシ達…」
本田や杏子が口々にその不安を漏らす。
「ちくしょー!出せ!出しやがれキースー!!!」
城之内の叫びも、岩の向こうに倒れた骨塚、佐竹、高井戸の3人にすら聞こえてはなかった。
***
ペガサス城の地下牢では、両足を鎖に繋がれて自由を制限されたモクバが項垂れていた。
ただその胸にあるのは、兄である海馬の事だけである。
「(兄様…。心配しないで。オレなら大丈夫だよ…。どんな時だって、兄様はオレを守ってくれたんだ…。)」
首に掛けられたカード型のペンダントを開けると、そこには幼い頃の海馬の写真が、モクバに目を向けて笑いかけている。
「(兄様がいれば、オレはどんな時でもすごく楽しかったんだ。…どんな時でも…。)」
手の中でペンダントを握り締め、グッと涙を堪える。
「兄様…、会いたいよ兄様…!」
***
「こりゃ他の出口を探すしかねぇな。」
本田は大岩を押すのに疲れて、額に滲んだ汗を拭いながら皆に向いた。
「そんな!他の出口なんてどうやって探すのよ」
杏子がそれに対して不安を口にする。皆が口々に話し合う中、獏良はふと自分の胸に下げられた千年リングを手にして、洞窟の奥へ少し進んだ。
「獏良くん?」
「みんな、ペガサスの城はたぶんこっちだよ。」
手にした千年リングの針が、一本光ってその洞窟の奥へ奥へと反応を示しているのを遊戯は目にした。
***
「フフフフフ…」
ペガサスは相変わらず赤ワインを片手にモニタリングしていた。モニターは地下を恐る恐る進んで行く遊戯達一行を映し出している。
画面が切り替わり、地下牢のモクバや、ペガサス城に向かう名前の姿すらモニタリングされている。
「フッ」
ペガサスはまた一口、それらが肴だと言わんばかりにその手にしたワインに口にした。
***
「…」
名前は先程から、何か人の気配を感じていた。
「…テンペル。」
胸から光が溢れると、魔術師の1人、テンペルが現れる。名前は何も言わず頷いてみせると、テンペルはすぐに気配のする方へ消えて行った。
名前は足を止めて膝をつくと、目を閉じてテンペルの見る視界を共有してそれに集中した。
「…あれは、」
見覚えのある青いコートを翻し、ジュラルミンケースを手に下げた男が歩く後ろ姿を捉えると、名前はすぐに立ち上がって馳けた。
***
「おい獏良、ホントにこっちでいいのかよ」
城之内や本田、杏子は、獏良の持つ千年リングに半信半疑である。だが遊戯だけはその獏良の歩みに確信を持って付き随う。
「おい、道がだんだん狭くなってねぇか?」
「なんか壁の形も変よねぇ。さっきまではゴツゴツしてたのに、いつの間にこんな…」
本田や杏子の言う通り、自然にできた岩肌の壁から、石を積み上げて均整の取られた石段の壁へと変わっていた。さらには細い道がいくつも交わり、彼らの不安を重くしていく。だが獏良の千年リングは正確にその道筋を示し続けた。
「こりゃ明らかに作られたもんだぜ。」
城之内が見渡しながらそう呟くと、遊戯も一抹の不安を抱いて見渡した。
「しかも、まるでこれは…迷路だよ。」
「出口はこっちだよ。」
獏良はリングの示すまま歩みを進めると、ついに光が溢れる場所へ行き着いた。
だがそこは外ではなく、開けたスペースに少し様式の違うデュエルリンクが設けられた場所であった。
「なんだ?この部屋は。」
城之内が一歩入るや否や、2人の男が現れてその行く先を塞いだ。
「我ら」
「地下迷宮の番人!」
「「迷宮兄弟!!」」
城之内は墓場フィールドに並ぶゴースト骨塚のアンデット族モンスター達に戦々恐々としていた。追い討ちを掛けるように、骨塚の後ろには元全米チャンプであるバンデット・キースがデュエルのアドバイスをしている。
「(クソッ、卑怯な手ばっか使いやがって…!)」
城之内はキースの視線を気にしながら、手札と自分のフィールドを交互に見ていた。
「俺は断じて負け犬なんかじゃねぇ!静香のためにも負けられねぇんだ…! 」
城之内は決して諦めなかった。自分のデッキを信じて、カードをドローする。
「! よし、勝つぞ…!自分を信じて、このカードに掛ける!」
“時の魔術師”!
このカードは何度も奇跡を起こして俺に勝利をもたらしてくれた! 不死身のゾンビ軍団も、“時の魔術師”の『タイムマジック』なら…!!!
キースは予想だにしていなかったレアカードの登場に動揺を見せた。
「マズイぜ…時の魔術師のタイムマジックが当たったら、ゾンビ軍団が全滅する可能性がある!」
骨塚はキースの言葉に驚いて振り向いた。
「あ、兄貴…」
「タイムルーレット!」
城之内は意を決して時の魔術師の効果を発動する。
キースのサングラスには、焦りを隠せない骨塚の情け無い姿が映っている。
「ビビるな。タイムルーレットが当たる確率は1/2だ。コイツは運任せの勝負だ。テメェの運でハズレを呼び込むんだな。」
「えぇ〜?!」
何の解決策も無いと言わんばかりのキースに、骨塚は時の魔術師のルーレットを見上げて、ただ祈るだけであった。
しかし、城之内の起死回生を願うルーレットは外れてしまった。
…そのハズレは、城之内のフィールドのモンスターの自滅。
「ま、待って!行かないでくれ〜!!!」
さらに場から消えたモンスターの攻撃力の半分が、城之内のライフから削られる。
骨塚とキースは、安心したのか笑ってそれを見ていた。
「ハハハ、こりゃいいゾ〜。勝手に自滅しやがったゾ〜。」
「タイムルーレットに外れると、こんなダメージがあるなんて…!」
城之内は初めてのハズレに加え、予想外のダメージ、更には自分のフィールドの建て直しと次々と負の連鎖が掛かる。
「もう俺に手はないのか…!」
城之内は守備表示でモンスターを出す防戦に入るしかなかった。
***
遊戯達は、城之内を探して洞窟に入っていったが、様々なトラップに足止めをされたり、または迷い込まされたりと、その進捗は芳しくないものであった。
「ペガサスのヤロぉ〜〜〜!!!」
本田は“おちょくり”とも言えるそれらの仕掛けに、ペガサスへの苛立ちを募らせる。
だが人の気配や声を感じ、遊戯達は先を急いだ。
***
骨塚は“パンプキング”を召喚し、さらに特殊効果で場のゾンビ軍団の攻撃力を ターン毎に10%ずつアップさせ、それに伴ってモンスター達の巨大化もさせていった。
城之内はモンスターの守備表示で耐えるしかない状況に追い込まれ、どんどんカードを消費していく。
「クソ…!俺に勝ち目はないのか…!」
「城之内くん!!!」
城之内はハッとして振り返る。
そこには声を掛けた遊戯と、本田、獏良、杏子が立っていた。
「遊戯!みんなも…!」
城之内の顔が明るくなる。
しかしキースが思わぬ外野の登場に舌打ちした。
「城之内!お前いったい何でこんな所でデュエルしてんだ?」
「したくて してんじゃねえ!コイツらが汚ねえ手口で俺をココに引き摺り込みやがったんだ!」
城之内は遊戯から本田に顔を向け、キース達を指差す。
「こんなデュエル無効よ!」
杏子がキース達に食って掛かるが、キースは涼しい顔をして鼻で笑うだけである。
「待ちな!デュエルリンクから降りたら試合放棄と見なしてスターチップはいただくぜ?」
「クソ〜〜」
いずれにせよ城之内はフィールド上でも追い詰められていた。
「続けろ!城之内。こんなヤツらに負けんじゃねぇ。お前には守るべきもんがあるだろ!」
本田は城之内に、黄色いパスケースを投げ渡した。城之内がそれを開いて見ると、妹の静香が写真の中でこちらに笑いかけている。
「そんな大事なもん、落としてんじゃねぇよ。」
「本田…」
本田が笑うと、城之内は再度その闘志を持って笑い返した。
***
「ブラックマジシャンの攻撃、ブラック・マジック!」
「くそ〜〜、ちぇッ!」
名前は残っていたデュエリストに勝負を挑まれ、足を止めていた。しかしその少年を早々に破ると、デュエルリンクから降りて賭けていたスターチップ2個を受け取る。
「やっぱり強いんだね。さすがクイーンだよ。」
少年が名前にそう笑いかけるが、その笑いはすこし暗い。少年のグローブにはスターチップが3個しかついていなかった。この時間では、もう10個集めて決勝へ進むにはほぼ不可能である。
「あなた、どうして私に挑んだの?」
名前は淡々とした顔で少年に向き合う。
「だって日本チャンプのクイーンと闘えるチャンスなんて、中々ないだろう? 」
少年のキラキラした目に少し圧倒されて、名前はつい片足が後ろに下がる。クイーンの重みとは何か。それに触れるような気がした。
名前は小さくため息をつくと、少年にしっかりと向き合って、デュエルを振り返り推測できる範囲でのアドバイスをした。
「…あなた、植物属性を主軸にしてたけど、防戦用の罠か魔法が足りてないわ。風属性が多いから、風属性のサポート魔法を入れて、同じ風属性のドラゴン族を入れれば全体的な攻撃力も上がると思うわよ。あと…」
少年は嬉しそうに手の中でデッキを広げながら、名前にあれこれと質問やアドバイスを求めた。
名前もつい楽しそうな顔でそれに応える。
「(そう、私、…元々このデュエルモンスターズが好きだったんだわ。…どうして忘れてたんだろう。)」
時間を忘れている訳ではないが、ただその時間が許す限り、名前はその小さなデュエリストの少年に向き合った。
そして少年から礼を言われ、名前は城へ向けて去っていった。
***
骨塚がついに“攻撃封じ”のカードを引き当てて、城之内はついに最期のギリギリの所まで追い詰められていた。“紅眼の黒龍”の召喚で“パンプキング”を破壊したものの、極限まで攻撃力を増して膨れ上がったゾンビ軍団にすぐに返り討ちにされてしまう。
「城之内くん!君のデッキには逆転できるカードが入っているはずだ!」
遊戯は城之内に声を掛ける。
「ほぅ、面白ぇなあ。」
それを聞いたキースは、不敵に笑う。
「遊戯とかいったな。海馬を倒したそうだが、俺が組んだコンボは完璧だ。逆転なんて不可能だぜ!」
だが城之内は挫けず、遊戯と自分のデッキを信じた。遊戯に目をやると、お互いに頷く。
そしてついに“右手に盾を 左手に剣を”の魔法カードを引き当てた。
守備力が0のゾンビ軍団に対し、守備力が1000のアルティメーターがフィニッシャーとなって骨塚は敗れた。
「おっしゃー!」
「やったぜ遊戯!!!」
骨塚は敗れた事がまだ飲み込めないのか、青い顔でキースについて行った。
「オイ!行くぞテメェら!」
キースは3人を連れて去って行く。
だがそれを城之内が呼び止めた。
「テメェもデュエリストの端くれなら、次は正々堂々と勝負するんだな!」
だがキースは振り向きもせず、背を向けたまま笑う。
「ケッ、正々堂々だと?笑わせんな。いかに相手を陥れるかを競うのがカードゲームってもんよ。…要は勝てばいいのさ。どんな手を使ってでもな!」
「キース…、テメェは俺が必ず倒す!」
「ククク…果たしてオメェの腕で俺の相手になるかね。」
キースは高笑いしたまま洞窟の出口へと去って行った。
「さぁ、私達も早くこんな所から出ましょう!」
杏子がみんなを急かして、光の差し込む出口へと走る。だがその光は突然何かに遮断され、出口は塞がれてしまった。
「な、なんだ?!」
その外では、キースが骨塚ら3人を使って大きな岩を出口に押し込ませていた。
「ハハハハハ!これでヤツらは一生洞窟から出られねぇぜ!」
しかしそれだけに止まらず、キースは3人を腕力で倒してスターチップを奪う。丁度10個嵌ったグローブを見て満足げに笑い、そのままペガサス城へと去って行ってしまった。
***
「ちくしょー、全然ビクともしねぇ!」
城之内、本田、遊戯、獏良、そして女子である杏子までもが一緒になって、出口を塞いだ岩を押し出そうと奮闘していた。
しかし城之内がつい口をついて出したように、その岩はズレさえしない。
「完全に閉じ込められたぜ!」
「どうなるの?アタシ達…」
本田や杏子が口々にその不安を漏らす。
「ちくしょー!出せ!出しやがれキースー!!!」
城之内の叫びも、岩の向こうに倒れた骨塚、佐竹、高井戸の3人にすら聞こえてはなかった。
***
ペガサス城の地下牢では、両足を鎖に繋がれて自由を制限されたモクバが項垂れていた。
ただその胸にあるのは、兄である海馬の事だけである。
「(兄様…。心配しないで。オレなら大丈夫だよ…。どんな時だって、兄様はオレを守ってくれたんだ…。)」
首に掛けられたカード型のペンダントを開けると、そこには幼い頃の海馬の写真が、モクバに目を向けて笑いかけている。
「(兄様がいれば、オレはどんな時でもすごく楽しかったんだ。…どんな時でも…。)」
手の中でペンダントを握り締め、グッと涙を堪える。
「兄様…、会いたいよ兄様…!」
***
「こりゃ他の出口を探すしかねぇな。」
本田は大岩を押すのに疲れて、額に滲んだ汗を拭いながら皆に向いた。
「そんな!他の出口なんてどうやって探すのよ」
杏子がそれに対して不安を口にする。皆が口々に話し合う中、獏良はふと自分の胸に下げられた千年リングを手にして、洞窟の奥へ少し進んだ。
「獏良くん?」
「みんな、ペガサスの城はたぶんこっちだよ。」
手にした千年リングの針が、一本光ってその洞窟の奥へ奥へと反応を示しているのを遊戯は目にした。
***
「フフフフフ…」
ペガサスは相変わらず赤ワインを片手にモニタリングしていた。モニターは地下を恐る恐る進んで行く遊戯達一行を映し出している。
画面が切り替わり、地下牢のモクバや、ペガサス城に向かう名前の姿すらモニタリングされている。
「フッ」
ペガサスはまた一口、それらが肴だと言わんばかりにその手にしたワインに口にした。
***
「…」
名前は先程から、何か人の気配を感じていた。
「…テンペル。」
胸から光が溢れると、魔術師の1人、テンペルが現れる。名前は何も言わず頷いてみせると、テンペルはすぐに気配のする方へ消えて行った。
名前は足を止めて膝をつくと、目を閉じてテンペルの見る視界を共有してそれに集中した。
「…あれは、」
見覚えのある青いコートを翻し、ジュラルミンケースを手に下げた男が歩く後ろ姿を捉えると、名前はすぐに立ち上がって馳けた。
***
「おい獏良、ホントにこっちでいいのかよ」
城之内や本田、杏子は、獏良の持つ千年リングに半信半疑である。だが遊戯だけはその獏良の歩みに確信を持って付き随う。
「おい、道がだんだん狭くなってねぇか?」
「なんか壁の形も変よねぇ。さっきまではゴツゴツしてたのに、いつの間にこんな…」
本田や杏子の言う通り、自然にできた岩肌の壁から、石を積み上げて均整の取られた石段の壁へと変わっていた。さらには細い道がいくつも交わり、彼らの不安を重くしていく。だが獏良の千年リングは正確にその道筋を示し続けた。
「こりゃ明らかに作られたもんだぜ。」
城之内が見渡しながらそう呟くと、遊戯も一抹の不安を抱いて見渡した。
「しかも、まるでこれは…迷路だよ。」
「出口はこっちだよ。」
獏良はリングの示すまま歩みを進めると、ついに光が溢れる場所へ行き着いた。
だがそこは外ではなく、開けたスペースに少し様式の違うデュエルリンクが設けられた場所であった。
「なんだ?この部屋は。」
城之内が一歩入るや否や、2人の男が現れてその行く先を塞いだ。
「我ら」
「地下迷宮の番人!」
「「迷宮兄弟!!」」