/ Battle Ship side
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《ブラック・マジシャン》(★7・闇・攻/ 2500)
「ぐ……!」
完全に状況をひっくり返した名前に、リシドが顔色を変えた。《一時休戦》の効果でこのターンの戦闘ダメージは無かったものの、その効果は次の自分のターンの終わりまで続く。つまり、たとえ名前のライフが残りたったの900だったとしても、次のターンで攻撃や効果ダメージで削り切ることはできず、むしろ《一時休戦》の効果が切れる名前のターンで一斉に攻撃される方の心配をする必要があるのだ。
しかも名前の手札は、全てが魔導書の魔法カードだとしても8枚。それも、ランダムなドローではなく名前自身が選んで手札に加えた8枚である以上、間違いなく次の自分のターンが回ってきた時点で決着をつけるつもりであることは間違いない。
『(リシド、あまり失望させてくれるなよ?)』
「(……! マリク様)」
冷たい汗が背中を這う。だがまだ完全に運命に見放されたわけではない。
「(ご心配は無用です、マリク様。まだ私には手が残されております)」
《一時休戦》の効果でドローした1枚のカード。名前の逆転はあの《一時休戦》のドローカードから始まった。だが私のさらなる逆転も、そのドローカードから始まる……!
名前もリシドに引かせた1枚のカードを警戒していた。
魔導書で構築された名前のデッキは確かに明確な弱点がある。それを補うためのカードが多く採用されている分だけ、タイミングを外せば無用の長物と化すものも増えるのだ。だが彼のデッキは違う。これまでのターン、明確なプレイングルートが定められていた。間違いなく無駄のない動きが出来るよう限界まで精査されている。
……つまりあの1枚のドローでさえ、確実に状況をひっくり返してくるだけの脅威を秘めているということ。
ちらりと手札へ目を落とす。
相手に手札に加えたカードが全て魔法カードだと知られるディスアドバンテージがあったとしても、ターン中に自他問わず発動した魔法カードの数だけデッキから選んで手札にできる価値は大きい。
「(ターンの終わりに、手札は最大7枚までしか持てない。ならば……)」
エンドフェイズでできることをして、なるべく手札を減らす。8枚の手札から名前はカードを引き抜いた。
「私はカードを2枚伏る。(手札8→6)
さらに永続魔法《魔導書廊エトワール》発動! このカードは『魔導書と名のつく魔法カード』が発動するたびにカウンターをひとつ置き、自軍の魔法使い族の攻撃力をそのカウンター1つにつき100ポイントアップさせる。(手札6→5)
私はフィールド魔法《魔導書院ラメイソン》を発動!(手札5→4)」
リシドの背後に聳える《王家の神殿》、それと対峙するように白い塔が聳え立つ。同時に《魔導書廊エトワール》の星がひとつ輝き、カウンターが置かれた。
《魔導書廊エトワール》(counter/ 1)
《魔導書士バテル》(攻/ 500→600)
《魔導法士ジュノン》(攻/ 2500→2600)
《ブラック・マジシャン》(攻/ 2500→2600)
「私はこれでターンエンドよ」
名前(手札 4/ LP: 900)
「手札を減らし、手札制限を免れたか。だが伏せたカードは『魔導書と名のつく魔法カード』。想像に易い……
いくぞ! 私のターン、ドロー!」(手札 1→2)
構える指が軋む。警戒する名前の視線にリシドが顔を上げると、すぐ静かに目を伏せた。
「私はカードを伏せる」(手札2→1)
「……」
今のドローフェイズで引いたカードをそのまま伏せたのを名前は見逃したりしない。むしろ、リシドがわざとそうしたようにさえ受け取れた。
「たった1枚のカードからそこまで場を持ち直したタクティクス、なによりお前とデッキ、そしてモンスターを尊重する信頼関係に、デュエリストとしてのプライドを見た」
「(この人、……本当にマリクなの?)」
凛として堂々とした物腰、なによりその正々した言葉の端々に、名前の中の“マリクのイメージ”が揺らぐ。それは名前だけではない。外野で見ていた遊戯もまた、同じ疑念を抱いている。
「……それがお前がたった1枚のカードで引き寄せた運だったのなら、私はさらに上を行く!!!」
「……!」
「
「この状況で《天よりの宝札》……?! ……! そんな、そのカードは───」
伏せたのはドローフェイズで引いたもの。つまり、リシドのその《天よりの宝札》は《一時休戦》の効果ドローで引いていた。対峙する相手は全てにおいて強者、……運までも。
「(だから先にカードを伏せた……!)」
グッと手を握るのも束の間、リシドがデッキに手を向ける。その手札はゼロ。この6枚ドローは圧倒的に彼の有利。
「(ライフの差はまだ埋まっていない。でもここで何を仕掛けて来ようと、《一時休戦》の効果がある限りこのターンは凌げる。……1ターンでブラック・マジシャンやジュノンを破壊できる攻撃力のモンスターを呼ぶ可能性も低い。……ジュノンさえ残せれば、マリクのフィールドからカードを1枚破壊できる。そして私が伏せたのは《トーラの魔導書》と《ゲーテの魔導書》。たとえ
「さぁ、お前の手札は4枚。よって、2枚ドローするがいい」
「くっ……!」
名前(手札 4→6/ LP:900)
リシド(手札 0→6/ LP:6500)
ドローしたカードの軌跡が2人の手から伸びる。対峙するリシドの挙動に目を凝らしてからドローしたカードに目をやると、名前のまぶたが僅かに揺れた。
「(これは……!)」
リシドもまたドローした6枚を見渡して、沈黙のうちにも僅かに目を細める。そしてマリクに目配せすると、すぐに名前へと視線を向けた。
「お前が発動した《一時休戦》の効果は、私のターンの終わりまで。このいかなるダメージも与えられぬ状況、……これがもし私とお前の立場が逆であったら、お前は何をする?」
「……」
「おそらく今考えている事は私と同じだろう。だがそのために必要なカードをその時に引けるか─── これがその実力の差だ!
「───ッ!」
名前のフィールドに光の十字架が突き立てられる。動きを封じられたブラック・マジシャン、魔導法士ジュノン、魔導書士バテルの3体と、名前の背後に聳えるフィールド魔法・魔導書院ラメイソンの白い塔までもが完全に囲まれた。
「……」
「まさか、このタイミングで……」
同じデュエリストであるからこそ、このゲーム展開がどれほどのものか、舞も遊戯も理解していた。マリク(リシド)の、“頂点に到達している”と言っても過言ではないドローセンスに、舞は身震いすら覚える。
「遊戯、このターンでの《光の護封剣》は、今の名前の勢いを殺すだけじゃない。……名前はおそらく、このターンまでのダメージを打ち消して、この次の自分のターンで仕留める算段だった。でもマリクは、その戦法をそっくりそのまま返したのよ。アイツなら3ターンの間に場を再構築するだけじゃ済まさないわ。光の護封剣が切れたとき、きっと名前を仕留めるつもりよ」
「奴は、……マリクは今までのデュエリストとは圧倒的に違う。神のカード無しでも、あの男は間違いなく最強レベル」
腕を組んだまま険しい目を凝らす遊戯の横に、表の人格の遊戯がフィールドを見上げた。すぐにそれに気が付いた闇人格の方の遊戯が目だけ向けると、表の人格の遊戯は名前やマリク(リシド)を見上げたまま呟く。
『マリク……彼は本当に、あのマリクなの?』
「(相棒も気付いていたか。……奴のプレイングは、マリクが実際に操っていた“人形”とのデュエルや、マリクが干渉した城之内君とのデュエルとは全く違う)」
脳裏に残る譜面を辿るが、その違和感は歴然としたものだった。しかし表の方の遊戯は、小さく首を振る。
『ううん、それだけじゃないよ。……たぶん、それは闘ってる名前に1番よく見えてる』
「(……!)」
この局面において、名前の口端は笑みを隠し切れていなかった。対峙するリシドも寂として構えてはいるが、その全身から迸るオーラは鋭くも柔らかい。それが何を意味しているのか遊戯は…… 特に海馬には身に覚えがある。
「(名前、……貴様も見つけたか。己の目指す
「アイツら、……」
城之内だけでなく、その場の者はみな、張り詰めた緊張感の中に満ちた独特の空気を2人の表情から感じ取っていた。
「あれは闘う者同士が、互いにデュエリストのプライドを認め合ったもの。名前はもう受けた屈辱や千年秤を賭けた報復から離れ、互いに闘いの場で巡り合えたことを喜んでいるんだ……」