/ Battle Ship side
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「そう、───
「(これがバクラのオカルト戦術!!!)」
バクラのフィールドには《ウィジャ盤》によって“D”、“E”の文字が並んでいる。例えライフポイントが残っていても、あと3文字が出れば遊戯は負ける。
「(この死の呪縛から逃れる術はあるのか……?!)」
「せいぜい足掻きな……キサマに残されたのは3ターンだ!!!」
遊戯(LP:2000)
バクラ(LP:2450)
怨霊を遊戯のモンスターに隠れ潜ませ、その攻撃力分のダメージを遊戯に与え、バクラはその分ライフを回復する。さらに永続魔法《暗黒の扉》によって、遊戯は1ターンに1度しか攻撃することができない。
バクラはモンスターを召喚するものの、フィールド魔法《ダーク・サンクチュアリ》の維持コストに捧げた。しかし壁モンスターがいないことは、この状況において決して不利というわけではない。現に、バクラは堂々として丸越しを演じている。
「(このターン、……またどちらのモンスターに怨霊が憑依したのかはわからない)」
チラリと真ん中のクリボーに目を向けた。
「(まずクリボーではない。ヤツもコイツが攻撃モンスターでないことくらい分かっているはず)」
《
「《ビッグ・シールド・ガードナー》を守備表示!」
《ビッグ・シールド・ガードナー》(★4・守/2800)
「おじけづいたか遊戯! 守ってばかりじゃ勝てねぇぜ?!」
獏良の煽るような態度にも遊戯はグッと唇を噛む。バクラの言うとおり、遊戯に残されたターンはあと僅か。
「(これは賭けだ!!!)」
振り上げられた手は
「《
「(フフッ、さすが鋭い勘をしている。───だが、オレ様は常にキサマの先を行くぜ!!!)」
獏良の目が見開かれた。そしてリバースしたカードで、遊戯はさらに追い詰められる。
「
コイツは攻撃表示のモンスターに憑依し沈黙させ、プレイヤーの攻撃命令を他のモンスターに移し替えるのさ!!!」
つまり、せっかく怨霊が憑依していない方のモンスターを当てても、遊戯の攻撃命令は怨霊が憑依しているモンスターに強要される。
「スピリット・バーン!!!」
「うあっ!!!」
遊戯(LP:750)
バクラ(LP:3400)
「ハハハハハ!!! オレ様のオカルトコンボは完璧だ! 破れはしないぜ!」
***
千年秤が軋む。その僅かな音にもリシドの心は震えた。……あの女はこんな音にも日々平静としていられたのかと、黙していた目を開けた。上では千年アイテムの所有者同士が闘っている。
「マリク」という役を負って千年ロッドのレプリカを手にしていた己も、ついに千年秤を手に入れてその「千年アイテムの所有者」という枠組みに列せられた。───マリクが生まれる前から、リシドはマリクの影。それが今や同じ列にあるというのに、その心はまだ満たされないまま。
まだ20余年の人生で一体何を得られたかなど、もう考えなくなって久しい。初めて外の世界へ出たあの日から、リシドは心を砂漠に埋めてマリクに付き従った。目を閉じ、耳を塞いで、自分の人生の目的をすり替えたのだ。
顔を上げるが、窓に写る自分は目深くフードを被っていて顔が見えない。自分の真実はどこにもない。あの渇れ井戸に何も持たない赤ん坊の肉体だけを置いていくだけで、私を捨てた人は真実の一つも添えてはくれなかった。
幼い子供は母体内の記憶があるという。やがて増え続ける記憶の引き出しにそれは埋もれて、言葉が喋れる頃には忘れてしまうのだと。だがリシドは違った。血の繋がった者が居ない孤独の中で、朧げにある母胎の記憶は唯一の救い。「暖かい場所にいた」それだけを孤独の支えにして生きてきた。
それが同時に、捨てられた瞬間の冷ややかな夜をも焼き付けていると知りながら。
千年秤を手に立ち上がると、ドアへ向かいながら腰のベルトにそれを差し込んだ。ロックを解除して自動ドアが開かれる。足元に落ちている影が目に入った。
息を飲んで顔を上げると、何年振りかもわからない真剣な眼差しがリシドに突き立てられる。
「やはりあなたも来ていたのですね、……リシド」
それだけ言うとイシズは目を伏せた。数年振りのまともな再会だと言うのに、イシズは決してリシドをそれ以上直視しようとはしない。リシドもどう返答すべきかさえ考えられずに、ただ俯くイシズのまぶたを眺めることしかできなかった。
***
「バクラ! これでキサマのオカルトコンボを破壊する!」
《力の集約》と《悪魔払い》により、遊戯のフィールドを彷徨っていた怨霊《スピリット・バーン》の効果は打ち崩された。さらに
「《ダーク。ネクロフィア》が蘇生したことで《ダーク・サンクチュアリ》の発動条件は揃わなくなった。これでお前のデュエルディスクに置くことのできる魔法、
「(オレの空きスロットはあとひとつ……!)」
「
さらに遊戯は《ダーク・ネクロフィア》でバクラにダイレクト・アタックをした。攻撃力2200、その数値だけライフが削られる。
バクラ(LP:1200)
「くっ……!」
ウィジャ盤に4文字目の“T”が示される。だがこれでバクラのスロットは全て埋まった。遊戯の言うとおり、このターンで《暗黒の扉》を除去しなければ5文字全てを揃えることができない。しかしどちらにせよ次の攻撃でライフは尽きる。
バクラの“詰み”だ。
「(そんなバカな……!!!)」
───『意外とあっけなかったな』
心の影から、宿主に寄生していたマリクが顔を出す。
「(黙れ、ブチ殺すぞ)」
『まあ、まだ手は残されてるかもしれないがね』
「(うるせぇ!!! テメェの助言なんざ必要ねぇ! とっとと消えな)」
バクラは遊戯に視線を戻す。このドローで形勢を逆転する以外に手はない。バクラは汗ばむ指先でデッキに触れた。
***
───『リシド』
千年秤が軋む。リシドはイシズを横切って部屋を後にした。廊下を行くその背中に、イシズは意を決したように顔を上げる。
「リシド」
イシズの呼びかけにリシドは足を止めた。だが振り返りはしないだろうと、イシズにもそれは分かっている。それでも言葉は聞き続けてくれると信じて、イシズは手を握り締めた。
「我が一族も、最早その血を引く者は
千年秤の軋む金属音は、イシズにも聞こえている。だがこれがリシドの揺れ動く心の機微か、それともイシズの罪深さによるものかは、その所有者たるリシドにすら分からない。
「私に言いたかったのは、それだけですか」
「……」
は、と短く息を飲んだイシズに、リシドは僅かに奥歯を噛む。
「私はあなた方が生まれる前から、あなた方の“しもべ”でした。しかしマリク様は───」
───『ごめんよ、兄さん』
「……マリク様だけは、違ったのです」
それだけ言うと、リシドはまた歩みを進めた。もう二度と立ち止まってイシズに耳を傾けることはない。マリクに付き従うことがどんなに辛く険しい道であったとしても、それをマリク1人に歩ませる心の痛みに比べたら、リシドには大したことではなくなるのだ。
たとえこの身が引き裂かれようとも、そして、自分の本当の願いを打ち捨ててまでも。
「……リシド」
エレベーターホールへと消えていくその背中を、イシズは追いかけることができなかった。