/ Domino City side
名前変換
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イシズに上げた杖を、ブラック・マジシャンの手が振り下ろすのを躊躇った。身構えていた腕から顔を上げると、ブラック・マジシャンの目が確かにイシズと交わる。
「───ッ」
「……!」
とてつも無い痛みに襲われたのは、攻撃命令を出した名前の方だった。自軍のモンスター、僕 であるはずのブラック・マジシャンが、事ここに至って腕を振り上げたままイシズの目を見て固まり、とどめを刺せずにいる。
「なぜ」とか「どうして」なんて口にするより先に、脳裏に霞む何かしらの幻影が名前に囁こうとした。だが今は振り払うように骨が軋むほど切歯して、フィールドに残る魔導士の名を叫ぶ。
「───魔導教士システィ!!!」
ブラック・マジシャンがハッと振り返りそうになった時には、もうその横でシスティがイシズに迫り腕を振り上げていた。
「アァッ!」
イシズ(LP:0)
衝撃でドッと倒れ込むイシズに見せたブラック・マジシャンの狼狽たような顔は、名前の心に冷や水を浴びせかける。攻撃して早々に名前の前に戻った《魔導教士システィ》に反して、ソリッドビジョンが消えるまで、ブラック・マジシャンはイシズから名前の方へ振り返りさえしなかった。
名前の勝利にモクバや城之内、舞が駆け寄るが、前髪で目元が見えない名前の異変に気がついたのは少し遅れて駆け寄った遊戯と、背後で腕を組んで見ていた海馬だけ。「やったわね名前!」「流石だぜ!」と口々に告げられる賛辞も、名前にとっては空虚でしか無い。
「(ブラック・マジシャンが、主人 の攻撃命令に、……従わなかった)」
呆然と立ち尽くして、ソリッドビジョンが消えてもなおブラック・マジシャンが居た場所を眺めた。その向こうでイシズが立ち上がり、裾についた土を払う。
「……」
「……」
どちらも何も言わずに、まるで示し合わせていたかのように足を踏み出して歩み寄る。同じだけ歩いたところで立ち止まり、ここへ来て初めて至近距離で向かい合った。
「……見事でした。私 の負けです」
「そう。……その割に、あまり納得してなさそうね」
「いいえ、デュエルの勝敗こそが全て。どうぞお受け取りください」
イシズが差し出した2枚のパズルカードに手を伸ばす。妙なデジャヴ感がジワジワと喉を締め、黄金色の記憶の断片が頭蓋骨の中で砕けては輝き、針で突いたような痛みが目の奥で言葉を囁く。
さぁ時間だ、私と向き合え、と。
「千年タウクですら見通すことの出来なかった未来は、貴女が勝ち得ました。……私 の役目はここまでです。弟に宿る驚異は、貴女や名もなき王 に降り掛かるでしょう」
名前は6枚になったパズルカードを片手で広げる。決勝の舞台を知るための手掛かりではなく、決勝トーナメントに出場するための権利としてのカードにため息をつけば、小走りで駆け寄って来た遊戯がすぐ隣に立つ。イシズも名前から遊戯に視線をやって、すぐに目を伏せた。
「私 が勝ち進んだとしても、弟を……マリクを止められる確証はありませんでした。千年タウクは、あなた達王家の人間の魂が勝ち進む未来を、本当は予見して、あえて私 に隠していたのかもしれません」
「イシズさん、マリクに宿る脅威って何のこと? まさか千年パズルや千年リングのように、闇の人格が……?」
表の人格の遊戯の問いに、イシズは顔を上げなかった。名前も遊戯も、それが答えなのだと悟る。
「(闇の人格……)」
名前はふと目を細め、自分の手を見つめた。
そんなもの、自分にあるはずがない。千年秤を手にして10年、そんな断片すら感じずに生きてきた。それなのに、千年秤を手放した途端に溢れ出た、霞んだ記憶の数々は説明がつかないでいる。
───『私に血を与えたのはあなたの意思だったでしょ?』
千年秤ではなく、千年ロッドを手にした私の姿をした彼女。あれは夢じゃなかった。ブラック・マジシャンが彼女を引き止めていなかったら、私は夢に殺されていただろうか。
「───、」
ブラック・マジシャン、その名に前髪を掻き上げて眉間を押さえる。
イシズに手を上げるのを躊躇った理由なんか知りたくもないし、思い出したくもない。
「名前?」
心配そうに顔を覗き込む遊戯に、名前はすぐ顔を上げて「大丈夫よ」と微笑む。イシズはただじっと名前の様子を見ているだけで、沈黙を貫いた。
少し離れた背後で、海馬が鼻で笑うのが聞こえる。振り返るつもりなどなかったが、声を上げるタイミングを見計らっていたらしい磯野の声に、名前も遊戯も振り返らざるを得なかった。
「デュエリストの皆さん、ここで発表があります」
「……!」
その場に居た全員が磯野と河豚田の2人の黒服に注目する。
「皆さんは予選を勝ち抜き、トーナメントの行われる場所であるこの童実野スタジアムに集結したわけですが、決勝戦の行われる場所はここではありません」
「まもなく真のステージが、我々の前に姿を現すでしょう」
「真のステージ?」
遊戯が反復する声の向こうから、空気を振るわせる巨体がスタジアムの壁を超えてデュエリスト達を見下ろした。スタジアム中のスポットライトがその腹を照らし、飛行船はゆったりと遊戯達の真上で止まる。
「すっげ〜!」と感嘆を上げるしかできない本田とは反対に、遊戯や城之内、名前も「まさか」という思いが先行していた。
「飛行船……?!」
「あれがトーナメントの舞台?」
城之内と遊戯の声に、実行委員長であるモクバだけが意気揚々と笑った。
「そうさ、名付けて《バトルシップ》! 決勝トーナメントは高度1,000メートル上空!」
「───ッ」
「……!」
とてつも無い痛みに襲われたのは、攻撃命令を出した名前の方だった。自軍のモンスター、
「なぜ」とか「どうして」なんて口にするより先に、脳裏に霞む何かしらの幻影が名前に囁こうとした。だが今は振り払うように骨が軋むほど切歯して、フィールドに残る魔導士の名を叫ぶ。
「───魔導教士システィ!!!」
ブラック・マジシャンがハッと振り返りそうになった時には、もうその横でシスティがイシズに迫り腕を振り上げていた。
「アァッ!」
イシズ(LP:0)
衝撃でドッと倒れ込むイシズに見せたブラック・マジシャンの狼狽たような顔は、名前の心に冷や水を浴びせかける。攻撃して早々に名前の前に戻った《魔導教士システィ》に反して、ソリッドビジョンが消えるまで、ブラック・マジシャンはイシズから名前の方へ振り返りさえしなかった。
名前の勝利にモクバや城之内、舞が駆け寄るが、前髪で目元が見えない名前の異変に気がついたのは少し遅れて駆け寄った遊戯と、背後で腕を組んで見ていた海馬だけ。「やったわね名前!」「流石だぜ!」と口々に告げられる賛辞も、名前にとっては空虚でしか無い。
「(ブラック・マジシャンが、
呆然と立ち尽くして、ソリッドビジョンが消えてもなおブラック・マジシャンが居た場所を眺めた。その向こうでイシズが立ち上がり、裾についた土を払う。
「……」
「……」
どちらも何も言わずに、まるで示し合わせていたかのように足を踏み出して歩み寄る。同じだけ歩いたところで立ち止まり、ここへ来て初めて至近距離で向かい合った。
「……見事でした。
「そう。……その割に、あまり納得してなさそうね」
「いいえ、デュエルの勝敗こそが全て。どうぞお受け取りください」
イシズが差し出した2枚のパズルカードに手を伸ばす。妙なデジャヴ感がジワジワと喉を締め、黄金色の記憶の断片が頭蓋骨の中で砕けては輝き、針で突いたような痛みが目の奥で言葉を囁く。
さぁ時間だ、私と向き合え、と。
「千年タウクですら見通すことの出来なかった未来は、貴女が勝ち得ました。……
名前は6枚になったパズルカードを片手で広げる。決勝の舞台を知るための手掛かりではなく、決勝トーナメントに出場するための権利としてのカードにため息をつけば、小走りで駆け寄って来た遊戯がすぐ隣に立つ。イシズも名前から遊戯に視線をやって、すぐに目を伏せた。
「
「イシズさん、マリクに宿る脅威って何のこと? まさか千年パズルや千年リングのように、闇の人格が……?」
表の人格の遊戯の問いに、イシズは顔を上げなかった。名前も遊戯も、それが答えなのだと悟る。
「(闇の人格……)」
名前はふと目を細め、自分の手を見つめた。
そんなもの、自分にあるはずがない。千年秤を手にして10年、そんな断片すら感じずに生きてきた。それなのに、千年秤を手放した途端に溢れ出た、霞んだ記憶の数々は説明がつかないでいる。
───『私に血を与えたのはあなたの意思だったでしょ?』
千年秤ではなく、千年ロッドを手にした私の姿をした彼女。あれは夢じゃなかった。ブラック・マジシャンが彼女を引き止めていなかったら、私は夢に殺されていただろうか。
「───、」
ブラック・マジシャン、その名に前髪を掻き上げて眉間を押さえる。
イシズに手を上げるのを躊躇った理由なんか知りたくもないし、思い出したくもない。
「名前?」
心配そうに顔を覗き込む遊戯に、名前はすぐ顔を上げて「大丈夫よ」と微笑む。イシズはただじっと名前の様子を見ているだけで、沈黙を貫いた。
少し離れた背後で、海馬が鼻で笑うのが聞こえる。振り返るつもりなどなかったが、声を上げるタイミングを見計らっていたらしい磯野の声に、名前も遊戯も振り返らざるを得なかった。
「デュエリストの皆さん、ここで発表があります」
「……!」
その場に居た全員が磯野と河豚田の2人の黒服に注目する。
「皆さんは予選を勝ち抜き、トーナメントの行われる場所であるこの童実野スタジアムに集結したわけですが、決勝戦の行われる場所はここではありません」
「まもなく真のステージが、我々の前に姿を現すでしょう」
「真のステージ?」
遊戯が反復する声の向こうから、空気を振るわせる巨体がスタジアムの壁を超えてデュエリスト達を見下ろした。スタジアム中のスポットライトがその腹を照らし、飛行船はゆったりと遊戯達の真上で止まる。
「すっげ〜!」と感嘆を上げるしかできない本田とは反対に、遊戯や城之内、名前も「まさか」という思いが先行していた。
「飛行船……?!」
「あれがトーナメントの舞台?」
城之内と遊戯の声に、実行委員長であるモクバだけが意気揚々と笑った。
「そうさ、名付けて《バトルシップ》! 決勝トーナメントは高度1,000メートル上空!」