/ Domino City side
名前変換
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「静香、やっと今、お前に言えることがある」
城之内は振り返って静香をまっすぐに見た。そのすぐ後ろに居る舞にも視界に捉えながら。
「オレを見てろ。お前がくれた勇気で、オレは必ず栄光を勝ち取ってみせるぜ」
「うん!」
大きく頷く静香の肩に絡む腕がある。割り込むように静香から城之内を引き剥がした舞が悪戯っぽく笑う。
「でもね静香ちゃん、現実は時に残酷な場面を映し出すわ。それをよ〜く心に留めおいてね? 例えばアタシが、愛しのお兄ちゃんを軽〜くいなしちゃっても……目を背けちゃダメよ?」
「あん?! なんだと舞! オレだって負けねぇぞ!」
背後で喚く城之内に構うでもなく、舞は遊戯にも視線を向けた。
「まっ、この際だから言っておくけど…… 遊戯。アタシもう、デュエリストキングダムの時とは違うわ。トーナメントでアタシと当たったその時は、甘く見ないことね」
「舞さん……」
「遊戯、オレもこのトーナメントで、お前と戦う誓いを忘れちゃいない。今度は真のデュエリストとして、正々堂々と戦ってくれ!」
「……! うん」
遊戯は大きく頷いた。
***
「それで、どこ行くつもり?」
ヘリに押し込まれたと思えば、ベルトを締められてヘッドセットを投げ付けられて。……もうどうにでもして下さいと言わんばかりに、名前は腕を組んで隣に座る海馬を睨みつけた。それでも行先くらいは教えてくれたっていいだろう。海馬を挟んだ向こう側にはモクバがソワソワしている。
「決まっている。6枚のパズルカードが示す場所…… 決勝トーナメントの会場だ」
「降りる」
「待て」
遥か上空だと言うのに扉へ手をかけた名前の肩を掴み、海馬は「おとなしくしてろ」とシートに引き戻した。
「私はパズルカード4枚しか持ってないの! 会場に連れてかれたって私は───」
「出なくていい」
「───……は?」
目を丸くして海馬を見ていたと思えば、力をなくしたように腕を下ろす。モクバは名前のなんとも言えない青ざめた顔と、ただ腕を組んで前髪に目元を隠すだけの兄の顔を交互に見やった。
「……それ、どういう意味?」
重苦しい空気を先に割ったのは名前だった。当たり前だろう。海馬の一言で予選落ちが決められてしまうなど、デュエリストとしての名前が納得するわけもない。
「元々この大会は、オレがあのイシズという女からの依頼で開いたものだ。グールズの連中を炙り出して殲滅し、……そしてオレが、3枚の神のカードを集めるためにな。だがグールズの総帥、マリクは遊戯だけでなく、貴様とオレの命も狙っていた」
「……」
つい先程までさせられていた死のデュエル。僅かに揺れた名前の肩に海馬が目を向けると、小さく息をついてから正面に向き直った。
「貴様は神のカードを持っていない。決勝トーナメントにおいて仮に準決勝まで残れたとして、神のカードを持たない貴様は間違いなく瞬殺される」
「……喧嘩売ってんの?」
「だが事実だ」
カッと来た名前が海馬の胸ぐらを掴んで引き寄せた。だが力で敵うはずもなく、すぐにその腕を捕らえられて剥がされる。
「〜〜〜ッ、それで敵前逃亡しろって言うの?! この私に!」
「……」
「さっき逃げるなって言ったのはあなたじゃない! バトルシティが終わるまではデュエリストとして、敵同士だって───」
バンッという衝撃音と共にヘリが一度大きく揺れる。
今度は名前が襟刳を掴まれヘリの窓に押さえつけられた。ホバリングの振動に合わせてビリビリと痛む肩と背中に顰めた顔で、首を押さえ込む腕越しに海馬を睨む。
「に、兄様……」
なんとか諌めようと震えるモクバの声にも反応せず、海馬の鋭い目が名前の目を突き刺す。
「……オレの前で、これ以上危険なことをするなと言っているんだ」
「……!」
細められた目に心臓が高鳴る。喉を鳴らして息を飲んだ名前を、海馬はゆっくりと解放した。そのまま名前の左腕を引き寄せると、海馬の指がデュエルディスクを名前の腕から取り外した。
「……あ、」
***
宇宙船が飛び交う宇宙に、子供の頃に欲しがったようなおもちゃが散乱する部屋。次々とそれらのイメージの扉を開け放った先─── 闇の人格である獏良が住み着き、行き来する宿主の獏良の純真な心の部屋の隅。
深淵の何もない部屋にたどり着いたところで、獏良はマリクを見つけ出した。
『───おやおや、とうとう見つかったか』
マリクと獏良が睨み合い、千年ロッドと千年リングが対峙する。
『キサマ、なぜオレ様の宿主の中に?』
その問いにマリクは鼻で笑う以外の返事をしなかった。その様子に獏良が目を細める。脳裏に思い出すのは、怪我を負わせた体に宿主の精神を放り出し、城之内達との接触のためにマリクに預けた時のこと。
『そうか─── あの時か』
『ご名答』
マリクがだらりと下ろした腕に持つ千年ロッド。ただの金属であるはずのそのウジャド眼の瞳孔は、まるで意志があるようにしっかりと獏良を見ていた。
『表の獏良には僕の意思を埋め込んでおいた』
『ケッ、……油断も隙もありゃしねぇな』
まぁ今はされよりも─── 獏良は苛立ちに蓋をするように堪えて腕を組む。
『キサマ、約束はどうした。遊戯を仕留めるのに協力したら…… その千年ロッドをオレ様に渡すはずだぞ』
『フッ…… それが少々予定が変わったんだ。遊戯と僕は決勝トーナメントに進むことになった』
『なに?!』
マリクは見せびらかすように千年ロッドを持ち上げて眺める。
『どうしても千年ロッドが欲しいなら、お前も自力で決勝戦に来るんだね』
だがマリクの思惑に反して、獏良は高笑いを上げた。
『要はただ失敗しただけじゃねぇか』
そう言い放つ獏良に、マリクの顔が険しくなる。
『偉そうなことをほざいてた割に、だらしねぇ話だな』
『……ぐっ、な、なんとでも言うがいいよ!』
取り乱しかける自分を抑えて、マリクは小さく咳払いをした。獏良はまだ、もうひとつの千年アイテムの行方を知らない。フッと鼻で笑うマリクに、獏良は怪訝な顔を向ける。
『それより、千年アイテムを集めていると言ってたね? ……あの女が持っていた千年秤、実は僕の配下の男にその所有権が移ったんだ』
『……! な、なんだと』
『フフフ…… もう少し僕に協力してくれるなら、千年秤も貴様にくれてやるさ。それまでにパズルカードをなんとかできるならね』
舌打ちをする獏良を嘲笑うように、マリクはゆっくりと姿を背景に溶かし始めた。
『もうすぐ決勝戦が始まる。もう少しこいつの中にいさせてもらうよ……』
獏良の宿主の心に溶けて消えていったマリクに、獏良が目を細めた。
『チッ…… あのガキ、余計なことしやがって』
忌々しいと舌打ちをする。
『(千年秤の所有者が名前から変わっただと? ……だが、女の心の部屋に忍び込ませたオレ様の寄生体は何も感じ取らなかった。どういうことだ……)』
───獏良君
『……!』
───獏良君、おい獏良君!
呼びかけに振り返る。どうやら双六が自分を揺り起こしているらしい。獏良は素直に目を閉じて、精神の部屋から抜け出した。