/ Domino City side
名前変換
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遊戯のその姿に名前が重なり、肩が跳ねた。その思考を掻き消すために、海馬は顔を背けてブルーアイズとその向こうに対峙する2人の仮面の男達を睨みつける。
「(結束とは名ばかり。オレは遊戯の手の上で踊らされていたということではないか)」
自身の中に怒りを滾らせてこそデュエルで力を発揮できる。元来のその性分のためだけに海馬はそう考えを修正してしまう。自分に必要なのはそれだけだと、海馬はフフ、と不適に笑った。
「ターン終了だ!」
「くぅ……!」
闇の仮面が焦りを見せる。今度は光と闇の仮面のフィールドに壁モンスターが居ないという事態に陥っていた。光の仮面も、次のブルーアイズの攻撃を受けるわけにはいかないと分かっていた。
「俺のターン! モンスター1体を裏守備表示で出すかんな。……さらに、リバースカード2枚をセットして、このターン終了だ」
「(リバースカード……)」
遊戯が伏せられたカードを注視する。光の仮面が伏せたのは、防御ではなくブルーアイズを仕留める為のもの。
「さぁ遊戯、お前のターンだ! 忘れるな、呪魂の仮面と魔力吸収の仮面の呪いによって、お前のライフは1000ポイント削られるかんな!」
遊戯(LP:1500)
「オレのターン」
ドローしたカードを遊戯がスッと眺めてから手札に加える。手札抹殺により手札の入れ替えで、遊戯にも召喚できるモンスターが手札に集まっていた。
それより、光の仮面が伏せたカードにも対抗策を講じはじめる。
「よし、……カードを1枚伏せ、さらに《
光の仮面の守備モンスターを攻撃!」
「(えぇい! 俺のリバースカードはこんな雑魚には使えない……!)」
標的はあくまでブルーアイズ。光の仮面は甘んじてこの攻撃を受けるしかなかった。裏守備で出していた《メルキド》が撃破される。
「ターン終了だ」
「くっ……」
『相棒』
またもや丸裸にされた光の仮面の耳に、隠したインカムから闇の仮面の声が囁かれた。
『あの厄介なブルーアイズを倒さねば、我々が足元の心配をすることになるぞ』
『安心しな相棒…… ブルーアイズは倒せる。とにかくお前の手札にあるモンスターカードで、ブルーアイズに攻撃を仕掛けるんだ』
闇の仮面がソロソロと背後に仕掛けた、ライフカウンター付きの爆弾に目を向ける。
『……わかった』
***
所々の隙間から光が漏れ、それが部屋の暗さを一層強調していた。簡素なパイプ椅子へ雁字搦めに縛られた城之内が、近付いてくる足音に痛む頬を抱えた顔を上げる。
城之内の見上げた先、そこにはフードを目深く被ったリシドが立っていた。闇の仮面色に溶け込むそのフードと、描かれたウジャド眼の紋章には見覚えがあった。
「テメェ、グールズだろ。狙いはなんだ?!」
「世の中には、知らない方が良いこともある。お前には理解できないこともな」
「上等だ。大概、遊戯の持ってるレアカードあたりが狙いだろうけどな…… オレを人質にしたってムダだぜ。一流のデュエリストってヤツはそんな事じゃ手加減はしねぇ。無論遊戯もな!」
リシドは強がる城之内に、千年秤を突き付けた。
「うっ……、そ、それは……!」
城之内の顔色が変わる。名前が持っていた千年秤を前にして、名前にも何かあったと知らしめるつもりかと顔をしかめた。
「テメェ、名前にもなんかしたのか? おい、何のマネだ!」
リシドは目を閉じて集中する。千年秤の持つ闇の力が、手を通してジワジワと侵食してきているのを感じる。
騒ぐ城之内の声はもうリシドには聞こえなかった。
まるで生き物のように、千年秤からの脈動と熱を感じる。皮膚を溶かして一体になったような気持ちだった。千年秤の根幹とリシドの心臓を血管で繋げ、チューニングでもするかのように己の魂と千年秤とか共鳴をし始める。
リシドと同調し始めた千年秤のウジャド眼が大きく光りを放った。
その光の中で、リシドは確かに目を見開く。だが視界にあるのは乱雑とした暗い部屋などではない。真っ暗な藍色の闇、……それもリシドの知る暗闇ではない。例えるならば暖かい風の吹く夜の帳の色、そこに刺す薄紅色の月の光、震える体─── まるで母親が胎動を慈しむかのように、千年秤の光はその震えるリシドを包み込む。
「おい、オレをどうしようって───」
騒いでいた城之内に、雷に打たれたような衝撃が走った。
その背後に密かに立つマリクが、千年秤がリシドを受け入れた瞬間を目にして満足そうに笑っている。そして目を閉じると、いま千年秤の闇の力を受け入れた。
「(千年秤よ、私に従え───!)」
「うっ……!」
城之内がガクリと頭を下げた。その目は暗く淀み、顔には大きな影が差す。
マリクも体に大きな衝撃を感じはしたが、千年ロッドによって城之内ほどのダメージを受けてはいない。それどころか、心の底から満足したように千年秤を手にしたリシドを見上げた。
「千年秤は……リシド、お前を受け入れた。これでお前も正統な墓守の一族!」
「……マ、マリク様、……私は───」
自分がしっかりと握る千年秤、頭を擡げて静かになった城之内、そして不敵に笑うマリク…… 呆然と立つリシドは、何が起きたのかまだ理解し得ていなかった。
ただひとつ分かるのは、千年秤がリシドを受け入れたということ。まだドキドキと心臓が昂っている。
千年秤の知られざる能力を解放したのは、リシドだった。
「フフフ……千年秤の能力は、罪を秤る事だけではない。隠された能力……それは両の杯に乗せられたものを融合させること。やはり冥界の石盤に記された通りだった。
あの女が持っていても何の能力も引き出せなかった千年秤。それをリシド、真に目覚めさせたお前が新たなる千年秤の持ち主となったのだ!」
「(私が─── 千年秤の、所有者……)」
リシドは手にしていた千年秤をもう一度見た。その中央のウジャド眼を覗き込む。黄金色の鏡面に映っているのは、紛れもなく自分の姿。
「感じるよ…… 千年秤は僕の怒り、憎しみという復讐心を、城之内の心に融合させた。次に城之内が目覚めたとき、僕の新たなる人形が出来上がる!」