/ Domino City side
名前変換
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タクシーのドアが閉められ、開けた窓から双六と城之内が顔を合わせた。
「獏良君はワシに任せておけ」
「頼んだぜ、じいさん!」
***
双六と獏良に向けて屈む3人は、タクシーの陰になってしまっていた。それに気付かない遊戯と海馬が反対車線の歩道を歩き去ってしまう。
「確かにこの中なんだな?」
童実野水族館のエントランスゲートを前に、遊戯はもう一度海馬に目を向けた。
「ああ。我が社のサテライトサーチ・システムが、お前のお友達のデュエルをこの地点で観測した。」
それを聞き終えたか否か分からない内に遊戯は駆け出す。その背中を追いもせず、海馬は小馬鹿にしたように鼻で笑った。
「フン…… 馬の骨一本探すのに、それほど夢中になるとは」
***
「ありがとう、えっと……」
「そういえば、まだ名前も聞いてなかったわ」
手を伸ばした城之内に、杏子が目の前の少年に笑いかける。
「僕はナム。よろしく」
マリクは“ナム”と名乗った。城之内と杏子もそれぞれに名乗る中で、マリクは差し出された城之内の手を握る。
「本当にありがとう」
「そんな…… 当たり前のことをしただけで」
照れたように頭を掻くマリクの腕のデュエルディスクに、城之内が目敏く反応した。
「お前もデュエリストなんだな?」
「えぇ、……とは言っても、実力はそれほどでも。僕と闘おうなんて言わないでくださいね」
「へへん、残念だけど、オレは既に予選抜けを果たしちまってよ」
「ええ! すごいなぁ、強いんですね。」
持ち上げられて調子を良くした城之内が「まぁ、それほどでもあるけどよぉ!」と踏ん反り返る。杏子はそれに苦笑いするしかできないが、マリクの人の良さそうな笑顔に2人は打ち解け始めていた。
「僕たちもう、仲間みたいですね」
「うん!」
「そうだな。行こうぜ、ナム!」
「あ、はい」
背を向けて街の方へ歩き出す2人。その背中に向けていたマリクの目の色は変わっていた。
「(仲間か……)」
『(マリク様)』
千年ロッドの力で操るグールズの1人から、心への呼びかけが掛かる。マリクは鋭い目を閉じた。
『(海馬瀬人の持つオベリスクの巨神兵、確認したかんな。)』
『(リシド様も苗字名前を捕らえたと伝言が。)』
街の雑踏を見下ろす2つの視界がマリクの脳裏に伝わってくる。大男と小男の2人のレアハンターが、水族館のエントランス前に立つ海馬の背中を遠くから監視していた。
「(そうか。……海馬という男、なぜアイツがオベリスクを自在に操れるのか。神のカードは、三千年前の王家に関わる人間からのみ使う相手を選んでいると思っていた。……つまりそれだけ、誰にでも使えるわけではない。)」
『(オベリスクを奪い返してしまえば、そんな疑問も無用のものに)』
「(フッ…… 取り返せるのか? オベリスクの巨神兵、そして遊戯に奪われたオシリスの天空竜を)」
『(無論。マリク様に用意して頂いた、神封じのデッキを使えば……!)』
「(いいだろう、貴様らの出陣だ。ただし簡単に殺すなよ?
マリクは顔を上げて、前を歩く城之内と杏子に目を光らせた。
「(レアハンターの腕を信用しないワケじゃないが…… 僕は用心深いんでね。万が一のためにコイツらも───)」
吊り上げていた唇を緩めて、マリクはまた人の良さそうな笑顔を取り繕った。
「ねぇ城之内、いきなりで厚かましいけど、デュエルのアドバイスとかしてもらえないかな?」
「おぅ! いいぜ」
「僕もまだ決勝トーナメントを諦めたくないし」
「まだまだチャンスはあるさ」
笑うマリク、安請け合いをする城之内……それぞれの背後に、グールズの手下たちが歩み寄っていた。
***
「城之内君!」
駆け込んだ先、イルカやシャチのショープールからは、大きな水飛沫が上がった。歓声が上がる客席、プール内の舞台、どこを見渡してもデュエルディスクを付けた人間すら見つけることができない。
遊戯は不安に騒めく胸を落ち着かせながら、もう一度よくあたりを見回した。
「(城之内君…… 杏子や本田君も一緒なのか? みんな、どこにいるんだ)」
プールではまたイルカが大きく跳ね、飼育員の投げたボールを打ち返す。着水の瞬間、また水飛沫を上げて豪快な音が客席に響き渡る。
***
しかし水とは違い、コンクリートは城之内を受け入れなかった。
「城之内!」
「城之内君! お前ら何するんだ!」
背後に立ったグールズの男3人に取り囲まれ、城之内は顔を殴られて倒れ込んだ。マリクも後ろから男に捕まり、羽交い締めにされる。
「お前たち、グールズか!? 城之内君のレアカードを狙ってるんだな?」
喚くマリクを黙らせるように男の1人が腹に拳を打ち込む。そのまま顔にも入れられ、倒れ込んだマリクを3人が取り囲んで足蹴にし始めた。
「わ! うぐッ あ、杏子ちゃん、城之内君……! はやく逃げるんだ!」
「ナム君!」
動けずに足が竦んだ杏子の後ろで、倒されていた城之内が「だぁ───!」と声を上げて立ち上がった。
「やめろテメェら! よくもオレの仲間を!」
マリクを取り囲んでいた男たちの振り向き様を、城之内は思い切り殴り飛ばす。
「この前の闇討ちとあわせて!」
右ストレートを打ち込み、
「お返しさせてもらうぜ!」
もう1人にはアッパーをかます。
「どうだい!」
2人を沈めた城之内に、杏子の悲鳴が降り掛かった。振り向くと、残った1人の男が杏子の首に腕を回し捕らえている。
「くっ……! 汚ねぇぞ! 杏子を離せ!」
城之内の後ろで、倒れていた2人が立ち上がった。顔を殴られ、今度はレバーブローを食らって完全に落とされる。
「城之内、ナム君……!」
捕らえられ、杏子は城之内が沈む様を見せつけられた。グッと絞められる首に呻き声を上げたところで、杏子の鞄からは携帯の着信音が響き渡る。
「あ……!」
男の1人は遠慮なくその音の発信源を取り出した。「非通知着信」の電子表示に、男は《通話》を押して耳に当てる。
『もしもし、杏子?』
「(……! 遊戯!)」
『もしもし? もしも───』
男は携帯を地面に落として踏み割った。杏子はそれを黙って見ていることしかできない。
「(遊戯……、助けて!)」