/ Domino City side
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「ターンごとにスライムトークンを誕生させ、3体揃ったところでオシリス召喚の生け贄にするつもりだろうが、やっぱり浅いぜ! 戦略がな!
オレのフィールドに出ているバスター・ブレイダーの攻撃力は2600。お前のスライムトークンの攻撃力はたったの500だ。あと3ターンどころか、2ターンでお前は終わりだ!」
人形のフィールドには増殖炉の効果で生み出されたスライムトークンが放置されている。攻撃表示で特殊召喚されたため、マリクはトークンを守備表示に変更できなかったのだ。
「いくぜ! バスター・ブレイダーで、スライムトークンを攻撃!」
「『リバースカードオープン』」
そんなの分かり切っていると言わんばかりにマリクはカードを開けた。
「『永続
バスター・ブレイダーの攻撃がスライムトークンに振り下ろされる瞬間、リバイバル・スライムが飛び込んできて身代わりに破壊された。だがリバイバル・スライム自身の効果で、またすぐに再生召喚される。
「『ディフェンド・スライムは、モンスターのいかなる攻撃も場のスライムが身代わりになるカード。……僕がなんの手も打ってなかったと思ったか?
スライムトークンを狙われると僕のライフが大幅に削られることくらい、当然分かっていたさ』」
「チッ」
「『さぁ、僕のターンだ』」
人形の口からマリクの声でターン宣言が行われる。同時に2体目のスライムトークンが特殊召喚された。
「『次の僕のターンで、いよいよ神が降臨する。フフフ、そのための特等席を貴様に用意してやるよ…… このカードでな!』」
人形がドローしたカードをそのままディスクに差し込んだ。魔法カードが場に出され、その絵柄からなんのカードか察するより先に、遊戯を冷い檻が囲う。
「『
「くっ……!」
檻に囚われた遊戯を見て、マリクは幾分か気が清々する。だが足りない…… もっと苦しめなければ気が済まないと心が騒めく。
「『悪夢の鉄檻は、お互いに2ターンの
「(この余裕……! 間違いない。ヤツの手札には既に神のカードがある。オシリスを召喚される……!)」
遊戯の額に汗がにじむ。焦りを見せ始めた遊戯をいたぶるように、マリクは人形の口を通して続けた。
「『檻の中でしっかりと見ててくれよ? オシリスの天空竜が召喚される瞬間をね!』」
***
「フフフ、
クルーザーの船首で手を振り上げるマリクを、リシドが影から見守っていた。強い潮風がフードを拐い、顔に刻んだ《
強い冷たい風はリシドに、覚えているはずもない記憶の断片を思い出させた。夜の帳、月だけが照らす荒れ野、……目もはっきりと開いていなかった赤ん坊の自分に、強烈に刻み込まれたものがひとつだけある。それこそ冷たい闇の世界に放り出された事で初めて知ったもの。
自分は暖かい場所にいた。
マリクの眼前に迫る童実野町へと目を向ける。この胸の震えや痛みは、己の犯した罪の数々から来るものではない。マリクに取り憑いた復讐という執念、いずれ訪れる贖罪、その先に待つ破滅…… 背負うものが増えていく彼への慈愛が、ただ従う他ない己を罰する痛み。
そして予感していた。……自分の血の出自すら知らないリシドにとって、この予感が《墓守の一族》としての鋭い感性から来るものなのかはわからないが、それでも本能的に感じ取っていた。
───なにか、漠然と大きなものに出会うであろう事を。
若草色に輝く金色の瞳がのろのろと動かされ、またマリクの背中を捉えた。服の中に息を潜めた、墓守の系譜の刻印に。
***
「『どうだ? 鉄檻の中で自由を奪われた気分は。……屈辱? それとも絶望か? ───フフフ、
それが僕の背負わされた宿命! 墓守の一族のな!!!』」
「(オレはマリクの一族に何をしたのか……
オレを待つ皆んなのために。真のデュエリストとなって闘おうと誓い合った友のために。……相棒の命を守るために!
そして、オレ自身の記憶を取り戻すために!)」
遊戯は自分のターン、ドローフェイズだけで終了した。そしてマリクのターン、ついにその時が訪れる。
3体目のスライムトークンが召喚され、生け贄が揃った。
「『見るがいい…… これが神だ!』」
空に暗雲が立ちこめ、黄金の光がそれを裂いた。とてつもない雷鳴と共に光が満ち、モンスター増殖炉と3体のスライムトークンが跡形もなく吹き飛ばされ、破壊される。
空の一点が大きく空を落とした。青白い光に包まれた遊戯が見たもの─── 赤と黒の長い肢体、大きな爪、雷を纏ったとてつもないおおきな力の権化を、その檻に守られた中で見ていた。
「『オシリス、降臨!!!』」
マリクの声に従うように、その神、オシリスの天空竜が咆哮を上げた。
***
「じぃさんよぉ、もう気が済んだか?」
いい加減痺れを切らした城之内が双六を覗き込む。
「大会が終わったら、また見せてあげるから」
「そ、そうかのぅ……」
デッキケースに仕舞われていく名前のデッキを目で追うが、これ以上時間を取らせるわけにもいかないと双六は頭を振って気を引き締めた。
「名前ちゃん、約束じゃぞ」
「はいはい」
本当にコレクターなんだなぁ…… 強奪しないだけレアハンターよりも可愛らしいものだが。名前はため息混じりに立ち上がると、城之内に向き直った。
「───ッ」
突然ゾク……ッと何かが名前に走った。体の中心を引っ張られるような、息が止まるほどの違和感。同じ反応があったのか、千年秤も静かに震えている。
「(……遊戯?)」
チクリと針で突いたような痛みが胸に襲い掛かった。痣のあたりに手をやるが、痛みが引く気配はない。
「名前?」
顔色を悪くした名前に城之内が違和感を覚える。
「おぉ、どうしたんじゃ、顔が真っ青じゃぞい」
城之内の様子に双六も名前を覗き込めば、急に顔色を変えた名前に心配そうな声を上げた。
「あ、だ、大丈夫よ。ちょっと立ち眩みしちゃったみたい……」
なんとかやり過ごして平静を装う。「そうか?」と首を傾げる双六に微笑んで礼を言いながら、名前は千年秤を撫でた。
オベリスクの巨神兵に見せた千年秤の反応と同じものを感じる。でも2度目に見たときは無反応だった。……じゃあ、この反応は?
千年リングのように方向までは探知できないのが、少しばかりもどかしい。かといって城之内や双六、本田に言ったところで……
名前はチラリと杏子に目を向ける。
「?」
「……」
……やっぱり、目を見ただけで分かってくれるのは遊戯だけらしい。残念そうに顔を伏せた名前に、杏子も首を傾げた。いや、たぶんちゃんと面と向かって話さなきゃいけないんだろうけど。
でも騒ぎを起こしたくはなかった。出来る事なら、千年アイテムや神のカードと無関係な彼らを巻き込みたくはない。それに、話したところで理解してくれるのかさえ、名前にはまだ判断できなかった。
「平気よ、ちょっと貧血気味なだけだから」
それらしい事を言って誤魔化す。
「もう、名前も女の子なんだから無理しちゃダメよ」
杏子がそう言うなり、「アンタ達ももっと労ってあげなさいよ!」と城之内や本田に眉をしかめた。
苦笑いしてそれを眺めたあと、名前は漠然と街の向こうへと目を向ける。
「おじいさんにカードを見せてあげた事だし、私はこのへんで行かせてもらうわ」
「お、おう」
唐突な申し出に城之内が生返事をすると、すぐに背筋を伸ばして今度はちゃんと名前に向き合った。
「次に会うのは、決勝トーナメントだな」
「そうね」
どちらともなく、互いに拳を軽くぶつけ合う。
「お互い4枚ずつ揃えたけど、油断して足元救われないようにね」
***
「(オレの体の自由が利かないのはこの鉄檻のせいだけじゃない。オシリスから迸る凄まじいオーラに、いまだかつて無い戦慄を感じているからだ……!)」
鉄檻越しに大口を開けて咆哮を上げるオシリスの天空竜。遊戯はその風圧で既に折れそうな膝を必死に奮い立たせていた。
「この天地をも揺るがす幻神獣を、倒す手段はあるのか……?!」
「『無い!!!
オシリスを倒す方法などないね。オシリスの無限の攻撃力の前では、どんなデュエリストも無力と化す!
「無限のパワー……だと?!」
動揺と言うよりも本当に理解が追いついてないような顔をする遊戯に、マリクは最早小動物を哀れむかのような声色で笑った。
「『オシリスの天空竜の攻撃力は、手札の枚数×1000ポイント。今、手元には2枚のカードがある。つまりオシリスの攻撃力は2000ポイントという事だ』」
「手札によって攻撃力が決定するだと?!」
「『そう…… だからこうするれば…… 魔法カード《強欲な壺》。デッキからカードを2枚ドローする。これで手札は3枚。つまり、オシリスの攻撃力は、3000ポイントになった!』」
「くっ…… ということは、次のターンで4000。デュエルモンスターズでは、エンドフェイズに持てる手札は6枚まで。つまりオレのターンでの、オシリスの攻撃力は最大6000!」
『(最大6000? ……フフフ、甘いな。僕は無原のパワーと言ったんだ)」
マリクは人形の手にある手札に目を向けさせた。自分の思うままに指がカードを広げて見せる。その中に揃った完璧なコンボ……マリクは笑いを抑えることができない。
そしてオシリスの天空竜に秘められた、恐るべき更なる能力…… 次の遊戯のターン終了後に、遊戯を守っていた鉄檻は消える。その瞬間、オシリスの力は遊戯を襲う。
「『さぁ、貴様のターンだ!』」